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2016年9月15日 清水美由紀

長野県信濃町「自然と共にあることを楽しみ、手造りにこだわる」 高橋助作酒造店 5代目 高橋邦芳さん

長野県北部地域に位置する、信濃町。ナウマン象の化石が発掘されたことでも有名な野尻湖や、黒姫高原や斑尾高原などを有し、自然豊かな町です。

この地で1875(明治8)年に創業した「高橋助作酒造店」の5代目 高橋 邦芳さんに、信濃町で作る日本酒へのこだわりや、信濃町での暮らしについてお伺いしました。

日本酒に適した水が湧く地 信濃町で創業

戸隠山・斑尾山・飯綱山・黒姫山・妙高山からなる北信五岳に囲まれた長野県信濃町。豊かな自然、環境に恵まれているこの地では古くから酒造りが行われてきたが、現在は「高橋助作酒造店」が信濃町で唯一の酒造である。今回は、140年以上に渡り日本酒を仕込んでいる「高橋助作酒造店」5代目 高橋邦芳さんへ、日本酒造りのこだわりをうかがった。

高橋さん

「1875(明治8)年、創業当時から現在まで、信濃町では清らかな水が湧き続けています。ここの湧水は、酵母の増殖に適していて、日本酒造りに向いている水なんです。この上質で貴重な水があったからか、創業当初は信濃町にも8軒くらい造り酒屋があり酒処として有名だったそうです。その頃は長野市の北にあるので、北山酒と呼ばれていました。」

140年以上の歴史がある高橋助作酒造店

「創業以来、麹にもこだわってきました。戦時中などはお米の足りない時期もあったんですが、現在でも酵素剤は使わず、自分たちの手造り麹のみでお酒を造り続けています。最近、丁寧に造られた味がするとおっしゃっていただくことがあるのですが、手造りの良さを感じていただけてるのかなと思っています。日本酒本来の味というものを感じていただければうれしいですね。」

 

身近な土地の素材を使うことで、特別なお酒をつくりたい

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長野県産のお米を使用し、手造りにこだわって造られた「高橋助作酒造店」代表銘柄である「松尾」は、芳醇でコクがある。それは信濃町の気候風土によるところが多いのだという。
「信濃町の冬の寒さが日本酒には向いているんです。低温で発酵することで、キメの細かいお酒になりますからね。」

また最近では、信濃町の荒瀬原地区で栽培されたお米や、戸隠の水を使用したものなど、地元の資源を活用した日本酒づくりに取り組んでいるという。
「信濃町や戸隠など、できるだけ身近な場所で手に入る材料で造りたいなと思っているんです。その方が個性のある面白い特別なものができるんじゃないかと。地域でできるお米がどんなお米で、それをどんな風にしたらおいしくなるのかというのを試行錯誤しながら酒造りをしています。」

信乃大地

また、日本酒を使用したカクテルにも力を注いでおり、日本酒をヨーグルトで割った「信乃大地(しなのだいち)」は人気商品だ。
「黒姫高原牧場など近隣にいくつか牧場があり、美味しい牛乳とヨーグルトが手に入ります。それらを使ったお酒ができないかなということで造ったお酒が、信乃大地です。」
真っ白なボトルに真っ白なお酒、まるで雪の季節の信濃町のようだ。

 

雪は、田畑を潤す大切な存在

信濃町での暮らしについて話すとき、頻繁に雪の話題が上る。高橋さんも幼少時代の思い出を話してくれた。

日本酒がずらりと並ぶ

「この辺りでは、江戸時代の俳人、小林一茶 生誕の地ということで、11月19日の命日には一茶忌が行われるのですが、その頃になるとみぞれが降ったり初雪が降り、冬が来たなと思います。12月に入ると、小学校の体育の授業でスキーをするのですが、冬休み前には家にスキー板を持ち帰らなくてはいけないんです。学校の先生には危ないからいけないと言われていたんですけど、子どもにとってスキー板を持って歩くのは重たかったので、スキー板に乗って帰ったりしていました。信濃町では、雪が生活の一部なんです。雪というのは山に水の貯金をしてくれるもので、春になれば雪解け水で田植えもできるし、野尻湖の湧水にもなるし、田畑も盆地も潤してくれるものなんです。2015~2016年の冬は雪降ろしが必要ないくらい雪の少ない年だったのですが、それでは少ない感じがします。」

 

昔から伝わる、日本人のベースにあるものを感じてほしい

ここで日本酒が造られている

「高橋助作酒造店」は、2016年9月18日(日)~19日(月)に開催されるツアー、信濃町的リモートワーク「シナリーモ」で酒造見学と稲刈り体験にご協力いただく予定となっている。稲刈り体験では、日本酒造りに使用する酒米を栽培している農家の田んぼにお邪魔して、鎌を使用し刈り入れを体験することができる。

「江戸時代から伝わるこの地域の盆踊りの歌には、『古間(高橋助作酒造店のある地区名)は、酒と鎌とで名が高い』とあるくらい、お酒造りと鍛冶が盛んだったんですよね。約450年前、川中島合戦の頃からの刀鍛冶が、この辺りの鍛冶屋さんのルーツのようです。」

高橋さん

日本酒が日本でつくられるようになった経緯については諸説あると前置きをして、高橋さんは話を続けた。

「日本の言い伝えでは神様にご飯をお供えしておいたところコウジカビが生えて、そこから麹を使ったお酒造りが試行錯誤されたとあります。お神酒といえば日本酒ですよね。収穫した穀物からお酒を造って奉納して神事を行う、そしてみんなで祝い願う。宗教というより、日本人が大切にしてきた暮らし方だと思うんですよね。日々の暮らしの中で、八百万の神のようなことというか、自然と共にあることを楽しめたらいいなという気がします。今回のツアーでも、体験を通して日本人のベースにあるものを感じてもらえたらと思います。」

歴史、自然の循環。全ては、連綿と連なる様々なものごとの一部なのだと教えてくれた高橋さんは、日本酒という切り口で、自然と共に生きることの面白味を伝えてくれた。

取材先

株式会社 高橋助作酒造店

住所:長野県上水内郡信濃町古間856-1

http://www.matsuwo.co.jp/index.html

清水美由紀
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清水美由紀

清水美由紀フォトグラファー。自然豊かな松本で生まれ育ち、刻々と表情を変える光や季節の変化に魅せられる。物語を感じさせる情感ある写真のスタイルを得意とし、ライフスタイル系の媒体での撮影に加え、執筆やスタイリングも手がける。身近にあったクラフトに興味を持ち、全国の民芸を訪ねたzine「日日工芸」を制作。自分もまわりも環境にとっても齟齬のないヘルシーな暮らしを心がけている。

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 「風土」という言葉には、地形などの自然環境と、 文化・風習などの社会環境の両方が含まれます。 人々はその風土に根ざした生活を営み、 それぞれの地域に独自の文化や歴史を刻んでいます。

 過疎が進む中で、すべての風土を守り、 残していくことは不可能であり 時とともに消えていく風土もあるでしょう。 その一方で、外から移住してその土地に根付き、 風土を受け継ぎ、新しくつくっていく動きもあります。

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