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2017年3月31日 大川 晶子

実践的な内容で暮らしを具体的にイメージ! 「長良川のほとりで生き方DIYツアー」イベントレポート

2017年3月18日・19日の1泊2日で、岐阜県関市・美濃市・郡上市の3市が主催する「長良川のほとりで生き方DIYツアー」が開催されました。
岐阜県の中央に位置し、名古屋市や岐阜市といった都市部からのアクセスが良好ながら、長良川の美しい水が町中に流れ自然豊かな関市・美濃市・郡上市。3市では2015年から移住定住促進事業を行っていて、人や文化といった魅力と触れ合うことで、移住を考えるきっかけにつながればと本ツアーは企画されました。

参加者は抽選で当選した16名。愛知県在住の方を中心に、子育て環境を探す小さな子ども連れから古民家に興味がある方、定年後の住まいを探す方まで、幅広い目的・世代の方が参加されました。
ツアーでは、住まい手を募集している空き家の見学や改修工事中の古民家訪問、移住した方との食事会など、実践的なプログラムを通じて、関市・美濃市・郡上市での暮らしをイメージしました!

1日目体験レポート

■10:30 郡上市の東部、和良町にある「和良おこし公民館」へ到着!

和良おこし公民館

一行を乗せたバスは、名古屋駅を出発して2時間弱で郡上市和良町内にある「和良おこし公民館」へ。2017年1月から開催された「古民家再生塾」で教材としてリフォームされた古民家で、町のオープンスペースとして活用されています。

和良おこし公民館
▲和良おこし協議会の加藤さん

平成の名水百選に選ばれた和良川が流れ、和良鮎や蛍、オオサンショウウオの生息地として知られる郡上市和良町。人口減少が問題となっていることから、持続する集落作りの一環として移住促進などを行う、和良おこし協議会の加藤さんから活動内容の説明がありました。
「移住の問題点として、空き家や物件の不足がありますが、聞き込みなどで情報を収集し、HPやFacebookにアップして紹介しています。移住後もフォローを続けることで、活動を始めた平成27年から28年では、10組19名が移住しました。地域の方と仲良くなって、集落の活動を一緒にして欲しいです。」
また、本ツアーのコーディネートをしてくれたNPO法人ORGANの吉田さんからは「現地の方と交流をして、何か掴んでいただければ」と参加者に向けてメッセージがありました。

 

■11:15 住み手募集中の古民家見学

古民家見学
▲古民家を見学

その後はバスで移動し、道の途中にある空き家を説明しながら、実際にどのような物件があるのか見学をしました。この日に見学したのは、「古民家再生塾」でリフォームし2017年4月以降貸し出される家や、土京(どきょう)地区の山あいにある家、鹿倉(かくら)地区の温泉スタンドが近くにある家、脇を清流が流れる家など、午後も合わせて計5軒。和良の空き家は、一律の金額で貸し出されているので、すでにリフォームされた家は移住お試し住宅として良さそうです。一方、手付かずの古民家は傷んでいる箇所が多いのが実情。地元の方は「手間は掛かる暮らしですけど、それを楽しめれば、のどかでいい所ですよ」と参加者にPRしていました。
またバス車内では、地域によって異なりますが、だいたい草刈りが年4回ほど、そしてお祭りや川掃除などが行われていることが説明されました。移住希望者に対して加藤さんは「定年退職してからのんびり暮らしたいという方が多いですけど、田舎は忙しいですよ」と説明しています。

 

■12:00~13:00 移住者の話を聞きながら昼食に鹿ソースカツ丼

和田さん夫妻
▲この春から和良町に完全移住する和田さん夫妻

「和良おこし公民館」に戻り、昼食に。愛知県から週に何回か和良町を訪れて家を直し、この春から完全移住する和田さん夫妻に移住について話を聞きながら、地元で獲れた鹿を使った鹿ソースカツ丼をいただきました。和良町には、猟友会の人がスーパーだった建物を活用して、解体から販売まで行う「ジビエ工房」があります。

鹿ソースカツ丼
▲鹿ソースカツ丼

和田さん夫妻は、和良おこし協議会が行う「田んぼオーナー制度」や「古民家再生塾」も利用したそう。移住後は就農予定で、郡上市では農業を始める人に対して給付金や技術指導、販路など総合的にサポートしているため、農業を始めやすいことを教えてくれました。
最後に和良おこし協議会・会長の池戸さんから「6月上旬頃からが一番いいシーズンで、蛍がイルミネーションのようにきれいです。ぜひまたいらしてください」と挨拶がありました。

 

■13:00~14:00 和良町内・空き家見学の続きと和田さんのご自宅訪問

和田さん宅

昼食後は和田さんのご自宅も見学させていただきました。
「築80年くらいの古民家を、町の古民家を得意とする大工さんに依頼して、古民家再生塾の先生に見てみてもらいながら自分たちでできるところは自分たちでやっています」と和田さん。お邪魔した際には、自分たちで暖炉周りのレンガを組んでいるところでした。古民家に興味がある参加者は、気になる点を和田さんに質問をし、参考にしていました。

 

■15:30~17:00 美濃市蕨生「美濃和っ紙ょいマルシェ2017」準備ワークショップ

ワークショップ@旧古田家住宅▲インク代表理事の中島さんと手漉き和紙職人の千田さん

続いては美濃市の蕨生(わらび)地区へ。きれいな水を生かして和紙の町として栄え、2014年には「本美濃紙」がユネスコ無形文化遺産に登録されました。蕨生地区にある、紙すきを体験できる「美濃和紙の里会館」の芝生広場では、2017年 4月23日(日)に、美濃市への移住者が中心となって企画されている「美濃和っ紙ょいマルシェ2017」が開催予定です。

和紙ワークショップ@旧古田家住宅
▲ワークショップの様子

築約90年の和紙問屋だった古民家を2年ほど前に改装し、交流の場となっている「旧古田家住宅」を会場に、ワークショップが行われました。和紙やマルシェについて説明をしてくださったのは、一般社団法人インク代表理事の中島さんと手漉き和紙職人の千田さん。参加者は、蒟蒻糊を和紙に塗って強くする「蒟蒻引き」を体験し、マルシェで設置される大きなテントやデコレーションの旗を作りました。
千田さんは各務原市から蕨生地区に移住し、マルシェの代表も務めています。「美濃市の中でも蕨地区は移住者が増えています」と千田さん。30代の子育て世代が多く、紙漉き職人だけでなく職種はバラバラだそう。
作業をしながら美濃市の暮らしについて、参加者と中島さん、千田さんが話していると「“草刈り”という言葉を今日はよく聞く」と参加者。中島さんが「やはり地域で暮らす上で重要ですね」と答えると、参加者は「やはり草刈りはやっていかなきゃいけないんですね」と心構えができたようでした。
皆さん黙々と塗ってあっという間に作業が終了! ずらりと和紙が並ぶ様子は圧巻でした。

 

■17:00~18:00 「うだつの上がる街並み」を散策

うだつの上がる街並み

美濃市役所の梅田さんの案内のもと、国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されている、「うだつの上がる街並み」を散策しました。
「街並みの中にUターン移住者がカフェを開いたりして、おしゃれなお店が増えています。お店をやりたいという方が多いですよ」と梅田さん。
街並みの中には移住者によるイタリアンがあり、訪れた翌日にオープン予定でした。美濃市では子育て世代を対象に木造の伝統的建築物の改修に対して奨励金を支給しているそうで、こちらのお店もその制度を利用していると教えてくださいました。

 

■18:30~20:00 「古民家宿 陽がほら」で夕食兼交流会

古民家宿 陽がほら
▲築およそ60年の古民家を改修した「古民家宿 陽がほら」

この日の最後は、美濃市の樋ヶ洞(ひがほら)地区にある築およそ60年の古民家を改修した古民家宿「陽がほら」で移住者の方と夕食を食べながらの交流会です。参加してくださったのは、ワークショップで指導していただいた千田さんファミリーと、フランスから移住した水墨画家のジビさんファミリー。ファンが多い「陽がほら」オリジナルカレーなどをいただきながら、美濃市との出会いや移住にあたって大変だったこと、美濃の住み心地などを伺いました。

「古民家宿 陽がほら」で夕食会
▲夕食を食べながらの交流会

「今は移住がブームになっていますが、昔からあったことです。蕨生に神事はありますがお祭りがなかったのでマルシェを企画しました。当初は反発もありましたが、よそ者がやることでこの地域にない文化が伝わりますし、都会と田舎、おじいちゃんと子ども、地元と移住者が混ざる場として、今では地元の人が理解してくれています」と千田さん。
最初に住む場所や近所との付き合いをどのようにしたか参加者から尋ねられると、千田さんから「入ってみるとわかる情報もあるので、まずその地域に入ってしまって、仲良くなるワンクッションが必要だと思います。しばらく暮らすといい家の情報が入ったりします」とアドバイスがありました。
交流会の最後にそれぞれのご家族から「いいところです」「まだ移住した感じがしません」と美濃市に移住した感想が発表されました。
この日、参加者の一部は「陽がほら」に泊まり、古民家の住み心地を体感しながら眠りにつきました。

 

2日目体験レポート

■9:00~11:00 美濃市蕨生・古民家リノベ体験

古民家レクチャー@旧古田家住宅
▲中島さんによる古民家レクチャー

2日目は、前日にもワークショップの会場となった「旧古田家住宅」で、中島さんによる古民家のレクチャーからスタート!
中島さんが代表理事を務める一般社団法人インクでは、空き家利活用を中心に、地域活性化の事業を行っています。「古民家は間取りをほぼ自由に変えられるのがいいところです」と中島さん。古民家とは、~約1950年に伝統在来工法で造られた建物を指します。リノベーションにより、耐震や断熱も今の基準に近づけることができるそうです。
中島さんは参加者に対して「古民家を探される場合、まずは市町村の移住窓口に行っていただき、それでも見つからない場合は街での聞き込みがオススメです。移住というと定住のイメージがありますが、気軽なイメージできてもらえれば」とアドバイスしていました。

家具解体の手伝い
▲家具解体をお手伝い

レクチャーの後は「旧古田家住宅」から数分歩いた場所にある遠藤さんのお宅にお邪魔し、使わない家具解体のお手伝いをしました。
2016年5月に、地域の方から元・助産院だったこの空き家を紹介され、8月から前の所有者と交渉を始め、じっくり時間を掛けて12月に鍵を貰うことになったという遠藤さん。蕨生地区に所縁がない遠藤さんは、地域のお年寄りの話を聞き書きしたフリーペーパーを発行していて、そのことが信用につながっているのではと言います。「空き家の交渉や地域に溶け込んだりするには、地域の人の協力なしではできません。それには信用してもらうことが一番大切じゃないかなと思います。」(遠藤さん)。
空き家は荷物がそのままだったので片付けから始めて、現在改修中。その現場をお邪魔させていただきました。遠藤さん宅は、週末に夫婦で処分や解体をしています。自分たちで時間を掛けて作業することで、どのような方法がこの土地にあっているか考えることも。今後さらに1年くらい掛けてリノベーションしていく予定だそう。参加者は古民家改修には手間暇を掛けないといけないということが体感できたのではないでしょうか。

 

■11:00〜12:00 吉田家住宅見学

和紙作り

次の訪問先である関市へ向かう途中、美濃市の街歩きをしました。市内に6ヶ所ある、紙漉き行程のうち塵取りをする「川屋」の中で最大の「勘兵衛さん川屋(市指定文化財)」や「美濃手すき和紙の家旧古田行三邸」を見学し、和紙づくりの歴史を街全体から感じ取りました。

 

■12:00~12:30 関市・善光寺参拝

善光寺
▲「関善光寺」の歴史を住職が説明

最後に訪れたのは、“刃物のまち”として有名な関市。『もしものハナシ』という関市のPR動画の他にも、板取地区にある「モネの池」や今回訪れた「関善光寺」の“五郎丸ポーズ”をした仏像と、話題がいっぱいです。
「関善光寺」では住職からお寺の歴史を伺った後、日本唯一の卍字型として有名な「戒壇巡り(胎内巡り)」を体験しました。

『ぶうめらん』の北村さんと関市役所の川合さん
▲北村さんと河合さん

関市の魅力を発信するフリーマガジン『ぶうめらん』を発行する特定非営利活動法人せき・まちづくりNPOぶうめらん代表の北村さんと、関市役所の河合さんから、関市の取り組みやグルメなどについて説明がありました。
「最近関市ではお寺が熱く、落語会や座禅会を行うなど、お寺を生かした取り組みが増えています。また、去年くらいから関市内の商店街の中で善光寺名物を作ろうという取り組みもあり、売り出しています」と北村さん。
関市は「うなぎのまち関市」としてもPRしていて、「関市民のほとんどが、日本で一番関市のうな丼が美味しいと思っているはずです(笑)。関市内でうな丼を提供しているのは50店舗以上にのぼります」と河合さんが関市民の“うな丼愛”を伝えてくれました。

 

■12:30~14:00 関市の街並みを散策

うな丼
▲香ばしく焼かれたうなぎが美味しそう

その後は、刃物ミュージアムや老舗の和菓子屋さんなどがある関市の街歩きをしながら、蕎麦やうな丼など各自昼食を取りました。関市とうなぎの歴史は古く、鎌倉時代に関に移り住んだ刀匠たちのスタミナ源やお客さんへのもてなしとして、うなぎやうな丼が重宝されたことに由来しているそう。香ばしく焼かれたうなぎにコクがありながらアッサリをとしたタレが絡まるうな丼、とてもおいしかったです!

 

■14:00~15:45 関市・千手院 座禅体験

先住院で座禅体験
▲千手院で座禅体験

本ツアーの最後は「曹洞宗 大慈山 千手院」での座禅体験。住職からポイントを説明していただいた後、それぞれ座禅を組んでいきました。宗派ごとにやり方が異なり、曹洞宗では壁に面して座禅を組みます。およそ20分の体験でしたが、あっという間に感じたり長く感じたり、その時間の感じ方は参加者で様々でした。

ツアー感想発表
▲ツアーの感想を発表

座禅を終えた後は、参加者一人ひとりがツアーを通じての感想を発表しました。
「古民家の再生のイメージが湧きませんでしたが、実際に体験できてよかったです」や「今回のツアーは一つひとつが実践的で、皆さんのパワーを感じました」など体験を通じて実りあるものになった方の他、「移住に対して少し甘く考えていましたが、深く体験することで時間や地域との関わりをじっくりしていかなきゃいけないなと思いました」や「遊びに行くのと、住んでいる人と話すのとは全然違いました」、「空き家は選びたい放題なのかなと思っていましたが、実際には改修に時間とお金が必要だなと実感しました」と、ツアーの前後で移住に対しての意識が変わったという方も多く見受けられました。
感想を聞いた吉田さんは「すぐに移住とはいかなくても、鵜飼や美濃和っ紙ょいマルシェなど、また訪れてもらったり、今回知り合った人とさらに仲良くなったりしてもらえれば」と参加者にメッセージを贈りました。

遊びに行くだけでは感じられなかった関市・美濃市・郡上市の魅力をたっぷり満喫できた2日間。参加者は3市との新たな関わりをイメージしながら家路に着きました。今後もツアーが開催される際は岐阜県移住体験web「Classca gifu(クラスカ ギフ)」などに掲載されるそうなので、チェックしてみてください。

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大川晶子

大川 晶子1986年、静岡県三島市生まれ。エディター・ライター。 京都工芸繊維大学工芸学部造形工学科(近代建築史専攻)を卒業し、住宅やインテリア雑誌の編集部を経てフリーランスとして活動しています。たくさんの人・もの・ことに触れてその魅力を伝えることで、一人でも多くの方の暮らしをより豊かなものにできたらと思っています。

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 「風土」という言葉には、地形などの自然環境と、 文化・風習などの社会環境の両方が含まれます。 人々はその風土に根ざした生活を営み、 それぞれの地域に独自の文化や歴史を刻んでいます。

 過疎が進む中で、すべての風土を守り、 残していくことは不可能であり 時とともに消えていく風土もあるでしょう。 その一方で、外から移住してその土地に根付き、 風土を受け継ぎ、新しくつくっていく動きもあります。

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