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東京のイタリアンコックから、和歌山の秘境・龍神での起業へ。転身のきっかけと、バックアップとは

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和歌山県田辺市龍神村、市街地からも遠く離れた山間部の集落にある「アトリエ龍神の家」。2016年4月、金丸知弘さんは奥様、娘さんの家族3人で東京からこの地へ移住してきました。同年12月には食品加工業を起業し、自宅に工房兼カフェスペースをオープンさせたばかり。東京ではイタリアンレストランでコックとして働いていた金丸さんが、和歌山県に移り住み新しく仕事を始めるまでの移住ストーリーを伺いました。

interview for:食品加工販売「CONSERVA」オーナー / 金丸 知弘(かなまるともひろ)
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起業したいから相応しい場所に住む。はっきりしていた移住の目的

「アトリエ龍神の家」は和歌山県田辺市の市街地から車で約1時間、名湯として知られる龍神温泉から約40分かかる山あいの場所に突然現れる6棟からなるお洒落で個性的な住宅です。紀州の地元木材の利用と山村定住を目的として、龍神村(当時)が建てたアトリエ付き木造住宅が「アトリエ龍神の家」。東京で暮らしていた金丸さんがこの地に移住したきっかけをお聞きしました。

「アトリエ龍神の家」の外観▲「アトリエ龍神の家」は全6棟の木造住宅。映像作家やエアブラシアーティストなど個性的な人々が集う

「食品加工を中心とした事業を始めたい、起業をしたいという思いをずっと持っていましたので、そのために地方に住むということは以前から決めていました。加工食品用の食材の多くは地方の産地から仕入れますし、水や光熱費、家賃のことを考えても東京で仕事を続けるつもりはありませんでした。東京駅にあるリストランテでコックとして働きながら、移住先の候補地を探したり、移住セミナーに参加したりと、情報を集めていました。」

紀州材がふんだんに使用されている居住スペース▲2階にある居住スペースには紀州材がふんだんに使われている

 

徳之島で田舎暮らしに慣れ、日本一周自転車旅行も体験

東京都世田谷区で生まれた金丸知弘さんは、中学1年生の時に鹿児島県徳之島に家族で移住した経験をお持ちです。お父様は食環境ジャーナリスト、食総合プロデュサーとして幅広く活躍されている金丸弘美さん。徳之島への移住もお父様が取材で訪ねたのが縁だったそう。

「父が取材で行き、いいところだから家族で住もうということになったんです。私は中学1年生で、最初は嫌と言ったんですが、テレビゲームを買ってくれたら行くよ、そう言っていたら本当に移住することになりました。でも父は仕事で各地を飛び回りほとんど徳之島にはいなかった(笑)。徳之島での経験もあって田舎暮らしの魅力は知っていました。」

椿山ダム▲椿山ダムのダム湖にも近い山間部に「アトリエ龍神の家」はある

その後金丸さんは東京に戻り、代官山のイタリアンレストランで働きながら料理を学び、本場イタリアにも留学しました。21歳の時には日本のことをもっと知ろうと思い、自転車で日本一周を敢行。日本各地の食文化を実体験するとともに、直売所や農家、漁港、加工所、道の駅などを見てまわったそうです。地方と都会との違いを体感し、地方の魅力を知ることが出来た貴重な体験だったそう。

自分のやりたい仕事をするために、食材が豊富な地方で暮らす。金丸さんにとって「移住」とは、とても自然なことだったのです。

ジャムとベーグルとイタリアの炭酸飲料▲ベーグル、ジャム。かわいいボトルはイタリアの炭酸飲料で、輸入販売も行っている

 

機会を探し続けていたから、チャンスと巡りあえた

移住計画が具体的に動き出したのは2015年の春。有楽町にある「NPOふるさと回帰支援センター」で開催された和歌山県主催の田舎暮らしセミナーに参加したことがきっかけでした。

「和歌山県の先輩移住者として講演されていたのが中島さん。現在「アトリエ龍神の家」の隣人としてもお世話になっている方で、東京のテレビ局でディレクターをしていた経験を持つ映像作家さんでした。また、同じセミナーで田辺市役所の移住促進担当をされている坂本さんとも親しくなりました。このお二人に出会えたことで、移住と起業計画が一気に動きだしたのです。」

偶然参加したセミナーをきっかけにして思ってもいなかったコトが起こりました。
先輩移住者の中島さんが携わったBS放送の「移住希望者ドキュメンタリー」番組で、金丸さんが移住先候補として和歌山県を訪ねる姿を取材・撮影することがとんとん拍子で決まっていったのです。

同年の6月には和歌山のいくつかの地域を撮影も兼ねて現地見学。IターンやUターンの先輩たちに話を聞いたり、地元料理店のシェフに食材の仕入事情を確認したり、住宅の下見に回ったりと、慌ただしい3日間を過ごしました。その様子は実際にテレビで放映されたそうです。

「その3日間のおかげで和歌山の食材事情がわかり、住宅の条件も具体的に絞り込まれてきたことで、移住できるかもしれない、という気持ちが強くなっていきました。それから妻や娘とも真剣に相談を始めたのです」と当時を思い返す金丸さん。

漠然と考えているだけでなく、実際にアクションを起こし、機会を探し続けていたことがチャンスと巡りあうことに繋がったのでしょう。

ジャムを塗る金丸さんと奥さん
▲地元の食材を中心としたジャムづくりの夢実現へ、奥様は理解者であり大切なパートナーでもある

 

和歌山県の移住支援制度を活用、空室の出現も背中を押してくれた

さらに移住を後押ししてくれる制度と、思わぬ出来事もありました。
ひとつは和歌山県が実施する「若年移住者暮らし奨励金」制度の対象となれたこと。仕事を辞めて県外から世帯全員で移住し、10年以上の定住意志を持つ、などいくつかの条件があるものの、最大で250万円の移住補助金制度を利用することができたのです。移住だけではなく、起業資金としても活用できることは、金丸さんにとって大きなバックアップとなりました。

もうひとつは「アトリエ龍神の家」に空室がでたこと。金丸さんが住んでいる小家地区は全6棟、10kmほど南の柳瀬地区では全3棟しかない公営住宅であり、家賃2万5000円と非常に恵まれた条件の物件であるだけに、なかなか空室が出なかったのです。当初は別の場所で民間賃貸住宅への移住を考えていた金丸さんにとっては、とてもラッキーな出来事となりました。

リビングダイニング▲広いバルコニーが設置された開放的な2階のリビングダイニング

 

食品加工所&カフェ「CONSERVA」をオープン!

「アトリエ龍神の家」は、1階部分がアトリエとして使用できるような設計になっています。ここにキッチンとカウンターを設置してお客様をお迎えできる空間に設え、2016年12月、念願の食品加工と販売を行うカフェ「CONSERVA」をオープンしました。
まずはパンや焼き菓子、ジャムといった食品販売を中心にスタートし、体制が整えばランチや食事を出すお店として本格的な活動を予定しています。また、ネット販売やアンテナショップでの販売も計画中。

ジャムの販売をしている1階のアトリエスペース
▲太い梁を活かした1階のアトリエスペース。奥にはジャムなど完成した加工食品をストックしている

実は、食品加工事業を考えていた金丸さんにとって、和歌山県は当初から有力な移住候補地でもあったそうです。有田みかんや南高梅の産地として知られる和歌山ですが、あまなつ、柚子、キウイ、いちご、イチジク、なし、ぶどう、そらまめなど、特産品は多岐にわたります。県内の有田、みなべ、龍神、印南といった地域で、少量多品種生産が行われていることを、21歳の時に自転車で日本一周した際にしっかりとリサーチしていました。

「有名な食材だけを使う、例えば和歌山ではみかんジャムばかりになってしまうと面白くないですよね。イタリアではタマネギやピーマンの野菜ジャムもあるし、肉料理やサラミにつけて食べたりします。違う組み合わせが10種類20種類あったら、どれを買ったらいいか迷うし楽しみが生まれる。それが私なりのやり方だと考えていますし、食材が豊富な和歌山だったら実現できると思いました。」

金丸さんはすでに、スイカやラズベリー、米にサツマイモといった地元の食材に加えてピスタチオやココアなど、さまざまな食材を煮詰めてつくるコンフェットゥーラの製造にトライしています。これからも旬の食材を使った商品がたくさん登場することでしょう。

ジャムの説明書
▲コンフェットゥーラとはイタリア語で、旬の果物や野菜を砂糖で煮詰めて作るジャムのようなもののこと

 

移住してわかった、田舎暮らしのメリット&デメリット

移住して感じるメリットとデメリットも伺ってみました。

「旬の食材が手に入ることは一番のメリットですね。周辺の地区は林業が中心で専業農家は少ないのですが、各家庭でさまざまな作物を育てています。しかも収穫量は半端じゃない。余ったからあげる、と届けてくれたのがダンボールに山盛りの柚子です(笑)。」

段ボールいっぱいの柚
▲地元の方から、ダンボール箱が破れそうなほど大量の柚子をいただいたそう

また、湧き水がとても綺麗で食材の洗浄に使用したり、夏場には娘さんが毎日のように川遊びを楽しんでいるとのこと。中学校まではスクールバスで約50分かかるけれど、アメリカのように家の前まで送り迎えしてくれるので安心だそうです。

一方、商店は市街地にしかないので、買い物は計画的に行う必要があります。また食品加工に使う特殊な食材や調味料はネット販売で取り寄せは出来るけれど、配送コストが高くなってしまうそうです。インターネット回線の敷設費用が約15万円かかったり、大手通信社でも携帯電波は圏外だったりと、通信事情は少し不便な面も。

しかし、メリットの方が大きいと金丸さん。「買い物はすべて車で行うので、持ち運びは東京よりも楽ですね。それに通信費は高いですが、光熱費など生活コストは東京よりも安いですし、東京へ行くときに使用する南紀白浜空港の駐車料金は無料で助かっています。」

conservaの看板

最後に移住を考える方へのアドバイスを伺いました。

「移住する前にやりたいことをはっきりさせ、仕事と住まいのことはしっかりと考えることが大切ですね。子どもがいる家族なら学校の児童数や通学事情など、地域情報をしっかり確認しておくことも必要です。近くにコンビニがあるか気になる、という人はもしかしたら考え直した方がいいかもしれません。田舎暮らしは不便なこともありますので、不便を家族みんなで楽しめる、そんな人なら大丈夫ですよ!」

金丸さん一家と中島さん一家▲交流のある中島家のみなさんと

また「アトリエ龍神の家」に暮らす人たちはそれぞれに個性的な技術や仕事を持ち、お互いの得意分野をいかして助け合うことも多いそう。移住のきっかけともなった中島さん一家とも家族ぐるみのお付き合いが続いていて、バーべーキューや飲み会を開くことも多々あるそう。こうした繋がりも金丸さんの暮らしが充実している理由のひとつかもしれません。

「まだ事業はスタートしたばかり。将来的にはゲストハウスを開くことが夢です」と話す金丸さん。
ご家族や、ご近所の仲間の皆さんのサポートがあれば、きっと夢ではなくなるはずですね。

金丸さんのお話を聞くと、きっかけやタイミングも移住の成功には大事な要素なのだと感じました。普段からしっかりと志を持ち、ブレずにチャンスを探し続けること。そうすればきっと夢はかなう、そんな印象を金丸さんの始まったばかりの夢「CONSERVA」から感じました。

conservaの看板を持つ金丸さんと奥さん

profile

食品加工販売「CONSERVA」オーナー / 金丸 知弘(かなまるともひろ)

東京都世田谷区出身。中学一年生の時に、家族と鹿児島県徳之島へ移住。その後東京へ戻り、イタリアンシェフの道へ。代官山や本場イタリアでの修業を経て、東京のリストランテで働く。2016年に「店を持つ」ために、奥さまのりささん、娘のちなさんとともに和歌山県田辺市に移住し、同年12月には食品加工販売「CONSERVA」をオープン。
CONSERVA HP:https://peraichi.com/landing_pages/view/conserva
CONSERVA Facebook:https://www.facebook.com/conserva.ryujin/

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