記事検索
HOME > つながる > 体験滞在 >
2014年6月9日 各務ゆか

『SATOYAMA EXPERIENCE』の、 「飛騨里山サイクリング」と「飛騨里山オフィス」

里山の暮らしがどんなものか気になっても、都会に住んでいるとそれを知る手段は少なく、里山での暮らしの実情を知るというのは難しいのではないでしょうか。
そういった方に向けて、里山の原風景を体験してもらおうという取り組みが、岐阜県飛騨市にある株式会社 美ら地球が手掛ける『SATOYAMA EXPERIENCE』という事業で行われています。

そのひとつが、「飛騨里山サイクリング」。山あいに田畑が広がる昔ながらの里山風景が残る飛騨地域でツアーガイドの先導のもとマウンテンバイクで巡るツアーです。 また、同社は「ひだ山村・民家活性化プロジェクト」という消えゆく古民家を守り継承していこうという取り組みも行い、全国から「飛騨民家のお手入れお助け隊」としてボランティアを募集。このプロジェクトから派生した事業として、空き家となった古民家を長期滞在者向けに貸し出す「飛騨里山オフィス」も行っています。

 

『SATOYAMA EXPERIENCE』が誕生した経緯

『SATOYAMA EXPERIENCE』は2014年(平成26年)3月に、元々、飛騨を拠点にガイドと一緒に農村を巡るツアーや古民家保全などを行ってきた株式会社 美ら地球が、さらに大きいカテゴライズで飛騨に受け継がれてきた「暮らし」を体験できる事業を展開するために始めたプロジェクトです。
「これまでは“飛騨里山サイクリング”というツアーだけに注目が行きがちだったのですが、文化プログラムや里山での滞在をデザインしたツアーなど他のプログラムにも目を向けてもらいたいと思って一元化したんです」と話すのは、美ら地球の広報・白石さん。自身もアメリカのアリゾナで木こりをしていたなど国内外さまざまな地域で暮らした経験を持つ国際派です。

その他ツアーガイドを担当するスタッフの方も海外滞在経験のある方が多く、日英2言語のwebサイト、英語のフライヤーなども充実させ、外国人観光客の呼び込みに成功していることもこのプロジェクトの大きな特徴です。

“日本の里山を旅して・里山を知る”というこれまでにはない視点を持った、『SATOYAMA EXPERIENCE』は、「飛騨里山サイクリング」「アート&カルチャー」「タウン&ビレッジウォーク」「ロングステイ」「カスタムツアー(※)」「里山マガジン」が主な事業。今回筆者は、「飛騨里山サイクリング」のツアーに参加させてもらい、「ロングステイ」のカテゴリーで使われている“里山オフィス”を見学させていただきました。

(※)英語サイトのみの提供

Webサイト
▲日英2言語のWebサイト『SATOYAMA EXPERIENCE』

飛騨古川の地でプロジェクトを行うワケ

飛騨古川のある飛騨市は、全国の他の過疎地域と同じように人口流出が続く地域。観光地として有名な高山市には足を運ぶ人は多いものの、飛騨古川までは足を運ばずに帰ってしまうというのが主流です。

「弊社代表の山田が縁あってこの地に来たとき、地元の方が人と人とのつながりを大事にする様子や、よその地域からの風を快く受け入れてくれる空気感があることに可能性を感じ、ここで何か取り組みをしたいと思ったと話していました。」と白石さん。

山田さんが、観光アドバイザーとして飛騨市の地に観光客がより長い時間滞在してもらう仕組みを作りにたずさわったことが、飛騨古川の地で事業を始めるきかっけだったといいます。

飛騨里山サイクリング
▲日本の原風景が残る風景をバックに行われる「飛騨里山サイクリング」。

「飛騨里山サイクリング」の“暮らしを旅するガイドツアー” というコピーに隠された想い

「飛騨里山サイクリングは当初、“飛騨のきれいな風景を見せる”というコンセプトで行われていました。しかし、何度もツアーを重ねるうちに、ただきれいな風景だけを見せていても、そういったものは結局お客様がガイドブックで見て回れてしまうものだということに気づいたんです。

例えば、瀬戸川の白壁土蔵などのスポットを紹介するのではなく、“なぜここに鯉が泳いでいるのか”“それに対して地元の人はどういう思いを持っているのか”などを説明することが重要であることに気づいたんです」と白石さんは言います。「郷土の風景を紹介するときには、その景色の中には暮らしている人の声が必ず隠れていて、ガイド自身が普段から町の人の声を拾うことが大事なんですよ」ともお話いただきました。

そういったスタンスで「飛騨里山サイクリング」事業を続けるうちに、自分たちのやりたいことが明確になり、3年目にして“暮らしを旅するガイドツアー”というキャッチコピーが生まれたということでした。

畑作業体験
▲飛騨里山サイクリングツアーのひとコマ。マウンテンバイクに乗って田園を旅するツアー客に地元の方が気軽に声を掛けてくれ、時には畑作業を体験させてもらえることもある。

ツアー・川
▲ツアーの醍醐味は、実際に飛騨古川に住み、自身が町の人と触れ合う様子を自転車に乗りながら伝えてくれるツアーガイドの話だ。

その場所が好きになる理由…それは “人”との出会い。それを体験できるのが「飛騨里山サイクリング」

実際にツアーに参加してみると、風景が美しいのはもちろんなのですが、最も印象に残ることは、自転車ですれ違う地元住民の方が、私たちに気軽に話しかけてくれることでした!訪れたのは5月中旬で田植えシーズンでしたが、家族総出で田植えをしている手を止めて「こんにちは」と微笑んでくださる姿がそこにはありました。

「飛騨里山サイクリング」のツアー客に対して温かい迎え入れがあるのは、ツアーガイドの方が自身も飛騨古川に住まいながら地域の方との交流を密にとっていらっしゃるからです。ツアーの途中で民家から出てきた女性が、ガイドの松尾さんに「今日お弁当作ったから、あなたのお昼ご飯にしなさいね」と紙袋を渡す場面がありました。見ていてとても微笑ましい光景でした。

ツアーはトリップアドバイザーで5つ星を獲得し、グッドデザイン賞を獲得しています。その理由はツアー行程もさることながら、ガイドさんが築き上げてきた地域との関係を自らの身を持ってツアー客に見せてくれるという部分も大きいのではないかと思いました。

お宅見学
▲道中、100年以上の古民家に住まわれているお宅を見学させてもらった様子。このように行く先々で地元の人の会話の機会があるのが楽しい。

松尾さん
▲ベテランツアーガイドの松尾さん。ご自身は東京出身だが、ニュージーランドでツアーガイド経験を積んだのち帰国されて、5年前に飛騨古川へ移住。地域の人に教えてもらいながら自宅の畑で野菜をつくるなどしているため、ツアー中地元の人に「畑にもうネギは植えたかね?」などと声を掛けられること多々。英語も堪能で、外国人からの支持も高い。

ツアー
▲ツアー客の半数以上は海外からのお客様だという。「こういう体験がしたかった!」と満足して帰っていかれる方が多い。

飛騨古川・古民家の現状を見直したところから始まった「飛騨里山オフィス」プロジェクト

『SATOYAMA EXPERIENCE』でもうひとつ注目したいプロジェクトが飛騨地域の古民家を1軒でも多く継承しようと取り組んでいる事業です。

2009年(平成21年度)から3年に渡って行った1,400軒の古民家調査をデータベース化し、空き家の現状を分析したところ、この地域の空き家は今後増え続ける一方で、今なんとかしないといけないという問題点が見えてきたと言います。

まずは、啓蒙活動として「飛騨民家のお手入れお助け隊」というボランティアを全国から募り、民家のお手入れを行う活動からスタートしたということでした。

 

2012年(平成24年)より、地元の建設会社である柳組とタッグを組んだ「飛騨里山オフィス」というプロジェクトも始まりました。古民家を滞在型リモートオフィスとして貸し出し、都心に勤める人々のサテライトオフィスとして有効活用しようという取り組みです。

その経緯を、里山オフィスを運営されている柳組の竹川さんに伺ったところ、「美ら地球代表の山田さんがアメリカでコンサルタントとして働いていたときに都市やリゾート、自然の中など場所を問わずに仕事をしていた経験があり、オフィスの場所は都心だけにとらわれる必要がないと感じたそうです。現在も都心と飛騨を行き来する山田さんの実体験として、この地がサテライトオフィスとして可能性を秘めた地域なのではないかと思い、その思いを実現させるべく始まったプロジェクトなんです」ということでした。

空き家になっている古民家は、人が住み手を加えないと一気に傷みます。実際に人に生活してもらうことが家の保存には最適であり、空き家の大家の方からも喜ばれているとのことで、面白い取り組みだと感じました。

数寄屋・末広の家
▲里山オフィス”として活用されている数寄屋・末広の家。飛騨古川の中でも、拘りぬいた材と技で匠の心意気を感じる家。

「末広の家」の玄関
▲現在「末広の家」「源七 げんしち」「白川郷オフィス」の3軒の古民家が貸し出しされている。(写真は「末広の家」の玄関)

仕事と遊びの線引きが難しい「飛騨里山オフィス」だが、逆にそれが魅力なのだ

お話を伺っていると、古民家に滞在される方は “自分で仕事を楽しくしたい”という思いを持って仕事をしていらっしゃる方が多いのではないかと感じました。

「利用客の方は、半分仕事、半分遊びという感覚でいらっしゃる方が多いですね。例えば、食品関係の仕事をされている方が滞在されたときは、飛騨という場所に魅力を感じて、生産者のところに足を運んで話を聞いたりとか、観光のような感じでこの地を歩き回ることで新しい人間関係ができたりして、次の仕事のステップにつながったとおっしゃっていました」と、竹川さん。仕事とプライベートがともすれば混同しがちな「里山オフィス」ですが、だからこそ強く没頭もできるし、実は得るものが大きいという面もあるのではないかと思いました。

竹川さんはさらに、「今後は、古民家に滞在された方同士や、滞在者と地元の人との接点づくりに挑戦したいです。またSATOYAMA EXPERIENCEも新しくなり外国の方が増えそうで楽しみです」と続けていました。そういった仕組みができれば、「里山オフィス」はさらにパワーアップすること間違いなしでしょう!

最後に

普段街中のカフェなどで電源を探し歩いて仕事をすることの多い筆者にとっても、「里山オフィス」はとても魅力的な場所に感じました。“面白いことをしよう”と考える人たちが飛騨古川にはたくさんいるのだとわかったことも大きいです。

美ら地球の方も、柳組の竹川さんも皆海外経験があり英語が堪能。それゆえ、サイクリングや里山オフィスには海外からの利用者も多いです。日本のみなら海外と繋がることができる場所という意味でも本当に魅力を感じました!ぜひ、また訪問させてください!

白石さん・竹川さん
▲お話を伺った、美ら地球広報・白石さん(左)と柳組の竹川さん。お二人とも東京というフィールドから飛騨古川に移住して生活している。

取材先

SATOYAMA EXPERIENCE

WEBサイト
http://satoyama-experience.com/jp/

各務ゆか
記事一覧へ
私が紹介しました

各務ゆか

各務ゆか1981年、岐阜県生まれ。東京・大阪・名古屋それぞれのエリアの出版社にて情報誌の編集・ライテイングに携わり、旅・食を中心に、常に新しい情報にアンテナを張ってきた。 現在は独立して岐阜県に戻り、大好きな「食」を中心に取材を続けている。地方に住みながらも首都圏の方とお仕事をする事が多く、手軽にリモートオフィス環境を揃える、在宅でも様々な人と繋がり仕事をしていくことなど、場所にとらわれない働き方を模索中。地方の面白いコト・モノを全国とつなげる発信役としてライターをしている。

人と風土の
物語を編む

 「風土」という言葉には、地形などの自然環境と、 文化・風習などの社会環境の両方が含まれます。 人々はその風土に根ざした生活を営み、 それぞれの地域に独自の文化や歴史を刻んでいます。

 過疎が進む中で、すべての風土を守り、 残していくことは不可能であり 時とともに消えていく風土もあるでしょう。 その一方で、外から移住してその土地に根付き、 風土を受け継ぎ、新しくつくっていく動きもあります。

人と風土の物語を編む