体験から移住へ。インスピレーションで感じた町の良さ。セカンドライフは新しい出会いがある町

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北海道浦河町は、北部に日高山脈の広大な自然、南部は太平洋に面する美しい町。町内には牧場が多くサラブレッド観光と乗馬の町としても有名です。東京都から浦河町に2016年3月に移住をした林直樹さん・史子さんご夫婦は、乗馬やスキーなどの趣味を楽しみ、地域の活動にも積極的に参加し、充実した毎日を送っています。移住を決めた経緯や移住後の生活、浦河町の魅力についてお二人に話を伺いました

良い人生だったと言える生き方を探して

青空の下に広がる港

ご主人の直樹さんは函館市生まれ。子どもの頃はお父様の仕事の関係で小樽や札幌、網走に住んでいましたが、高校卒業を機に親元から離れてみたいと思い、東京の大学に進学しました。大学卒業後はアパレル業界に就職し、デベロッパーとして忙しい毎日を送っていました。上京以降は北海道に戻ることも無かったそうです。

その頃、同じくアパレル業界でメーカーを経営していた奥様の史子さんと出会います。
「ちょうどバブルがはじけた時に、主人は人事の仕事で何十人もの社員をリストラする立場だったんです。朝から晩まで働いて、精神的にも肉体的にもガタガタになって帰って来る姿を何度も見ていました。途中転勤があり神戸に住んでいたのですが、主人は東京の会議に出席するために、夜行で東京に向かって会議が終わるとそのまま神戸に戻るという生活もしていました。」(史子さん)

そんな過酷な毎日を送る直樹さんに、史子さんはこう切り出したと言います。
「今のままの生活では、自分の人生を後で振り返った時に、良い人生だった、とは言えないのでは?もっと人間味のある仕事に変えてみたら?」 直樹さんの体を心配して出た言葉でした。

史子さんの助言もありアパレルの会社を退職した直樹さん。その後異業種のリフォームの会社に転職し、さらにその後は介護の世界へ転職を試みます。
「新聞の広告で特別支援学校の介護の仕事を見つけました。未経験の職業でしたが応募してみたところ、今までの仕事とは全く違い、目標やノルマがあるのではなく生身の人間のお世話をするというとても興味深い仕事でした。本音で向きあわないと出来ない厳しい仕事に、私の気持ちがピタッとはまりましたね。それから介護の仕事は10年以上続けました。」

史子さんもその変化を感じていたようです。
「主人は天職だって言っていました。大変な仕事でしたが、愚痴をこぼすこともなく生き生きと働いていました。」

 

二度の震災の経験が生き方を考え直すきっかけに

大自然が魅力の浦河町
▲大自然が魅力の浦河町

この頃、史子さんも多忙な日々を送っていましたが、直樹さんの仕事の関係で一緒に神戸から東京に戻ることになります。そしてその直後に阪神・淡路大震災が起こりました。
「神戸には13年住んでいましたので知り合いがたくさんいて。みんな被災しました。私は、新幹線が復旧するのを待って神戸に向かったのですが、現地は地割れがすごくビルも傾いていて大変な状態でした。そして私自身が被災した知人のために何もできずとても悔しかったことを今でも覚えています。」

その後も東京で仕事を続けていた史子さんでしたが、2011年に東日本大震災が起こりました。

「2度の震災を目の当たりにして、多くの人が自分の生き方を考え直したと思います。私も、アパレル一本でずっと頑張ってきたけど、辞めよう!人の為に何かできるようなことをしなくては!と強く思いました。」

史子さんはアパレルの仕事と並行して、介護ヘルパーの学校へ通い始めます。そして介護の資格を取得した後、退職して介護ヘルパーとして働き始めました。

「今とは違う生き方ができる所に行きたいなあと思うようになったのが、その頃ですね。」そう当時を振り返る史子さん。そして介護ヘルパーとして働いて約3年、気持ちの変化を直樹さんに伝えました。

「北海道かどこかに移住をして、違う暮らしをしたい、違った人生を送りたいと思い、主人に話したんです。二人ともおかげさまで元気でしたし。主人は驚いていましたよ。本気で言ってるの!?って。都会育ちの私が北海道で暮らせるわけないって思ったんじゃないかしら(笑)。でも私は今からじゃないとできないこともあるのでは?と思い、移住を決断しました。」

 

体験から移住へ。インスピレーションで感じた町の良さ

壮大に広がる桜並木

旅行が趣味で日本中ほとんどの土地を旅した経験がある林さんご夫婦。更に直樹さんは、各都道府県の市町村のパンフレットを集めて見るのも好きだったため、いろいろな地域の特色などに精通していたそうです。
「私もいずれ都会生活は嫌になるだろうな、と思っていました。移住するなら、すごく遠い田舎に行きたい。それにTシャツ一枚で過ごせるような暖かい南の方が漠然といいなあと思っていました。でも妻が向こうは嫌だって(笑)」(直樹さん)
「だって台風が来るでしょう?」(史子さん)
「どこだって台風は来るよ(笑)。でも、北海道で冬を越すとなったら妻はきっとギブアップするだろうと、内心そう期待して(笑)、北海道に移住することを考えてみようと思いました。」(直樹さん)

浦河町に林さんご夫婦が初めて訪れたのは、直樹さんが集めていたパンフレットの中にNPO発行の「北海道暮らしガイドブック」があり、体験移住を募集していたのがきっかけです。

「最初は私一人で北海道内の移住先を探していました。比較的温暖な気候の八雲町や森町、土地勘のある小樽なども選択肢の一つでした。」(直樹さん)

しかしながら降雪などの気象条件、町の雰囲気など希望に合う移住先はなかなか見つからなかったそうです。そんな時に体験移住の募集を見つけ、浦河町を初めて訪れました。

広大な牧場でのびのびと育った馬

「日高道を浦河町に向かって車で走ると、海と牧場が延々と続く景色。ところが浦河町に入ると途端にメルヘンっぽい風景が目に飛び込み、良い雰囲気の町だなあと思いました。それでいきなり浦河町役場に飛び込んで行って、こんな年寄りですけど移住しても大丈夫ですか?って聞きました(笑)。そしたら、どうぞどうぞとあっさり受け入れてもらえて。」

その後史子さんを連れて二人で10日間の浦河町での体験移住「うらかわ生活体験事業」に参加。史子さんも一目見て浦河町を気に入ったそうです。
「最初からとても印象が良かったですね。朝起きて空気が良いし、暮らしてみて違和感がなかったのを覚えています。知らない所に来たという感じがしなかったですね。」(史子さん)

さらに町の人の良さ、役場の方々のとても親切な対応もあり、すっかり浦河町の暮らしを気に入った林さんご夫婦は、1年半後に今度は2ヶ月間の「うらかわ生活体験事業」に参加しました。既に浦河への移住を決意していたお二人は、この滞在時に家探しも並行して行いました。最初は条件に合う物件になかなか巡り会えなかったそうですが、「体験移住で知り合った地元の人に、今の家を紹介して頂きました。広さも丁度良かったですし、ここに住みたいと思いました。」(史子さん)

2度目の移住体験が終わり東京に戻った林さんご夫婦は、早速引越しの準備に取り掛かりました。東京の家にあった家具は、新しい家のサイズに合ったものだけを残して他は処分。たくさんあった洋服も3分の2は処分したそうです。

夏の牧場は青々として気持ちがいい
▲夏の牧場は青々として気持ちがいい

 

地域の人の温かさが繋ぐ新しい出会い

こうして2016年3月に浦河町に移住した林さんご夫婦。移住後の暮らしは初めての経験や珍しい出来事でいっぱいだったそうです。
「屋根に積もった雪がドン!って落ちる音や、キツネやきじを見かけたり、ほおずきの実をカラスに食べられてしまったり、初めて経験することばかりでした。それに畑を始めて、物置の中に鍬が増えていったり雪かきの道具が増えていったりするのも初めての体験でしたね。」(史子さん)
もともと北海道出身の直樹さんにとっても、「地元の人との交流で食べ物などを頂ける機会がとても多いですね。東京にいる時のようにお金があまりかからなくなったのには驚きました」と新鮮だったようです。

「畑の土を起こしていると、これを植えなさい、これを食べなさい、とご近所の方が声をかけて下さるんです。先日は、食べきれない程のわらびをいただいて、どう調理しようって頭を悩ませました(笑)。次々とみなさんがおすそわけを持ってきて下さるのが、とても嬉しいです。頂いた物は調理をして、地域のみなさんにお返しさせて頂いています。そうすると地元の調理法と違うので、また新しい話題や繋がりができるんですよ。あの人のこれ美味しいよ!とか。お互いの文化の交流にもなって楽しいですね。」(史子さん)

東京から浦河町に移住して1年。林さんご夫婦は、美しい浦河の自然の中で乗馬やパークゴルフ、歩くスキーを思いっきり楽しみ、一方でボランティア活動にも参加して町の人たちとの交流を深めながら、とても充実した毎日を送っています。
「地域の『ひょっとこ踊り』の会に参加しています。そこではお年寄りの施設の慰問を行っていまして、みなさんにとても喜んで頂いています。これからもずっと続けていきたいと思います。」そう話す史子さんは、この活動から生まれる人との繋がりも移住生活に楽しみをプラスしてくれると言います。

浦河町の綺麗に整備された道路

浦河町の生活を楽しむ林さんご夫婦に、移住して大変だったこともお聞きしてみました。
「北海道は寒い地域ですので、暖房費がある程度はかかってしまいますね。また必需品の車は夏タイヤと冬タイヤを用意しないといけないですし、海沿いの地域では潮風で建物が傷みやすいんです。そういった部分でコストがかかる、というのはありますね」(直樹さん)
一方、「町で唯一の本屋さんが閉店してしまうのが残念」と史子さん。「でもそれ以外の苦労は今は特にないですね。」

 

あまり構えすぎず、地域に溶け込むことが大事

これから移住を考えている人へ、お二人からアドバイスを頂きました。
「短期移住の場合は、行政が様々な情報やイベントを提供してくれる場合が多いので、それを利用して情報収集をするのが良いと思います。移住者同士のイベントなど積極的に参加するのがオススメです。しかし長期移住や永住となると全く別で、交流するのは移住者同士ではなく地域の人になります。例えば地域の風習やしきたりに関しても、移住者同士では答えが出ないので近所の人に頼ることになります。そのためにも普段から地元の人と接して良い関係を築いておくことが大切なんです。」(直樹さん)

「私は『ひょっとこ踊り』のおかげで地元の人とも知り合うきっかけができました。その地域にずっと住んでいる人と仲良くなるのは大切だと思います。自分から人の輪に入って行こうという姿勢は大事ですが、あまり深入りしすぎないのも重要だと思います。移住後の夢のような生活ばかりを想像するのではなく、もう一回違う人生を歩むくらいの気持ちで来ると良いと思いますよ。」(史子さん)

 

澄んだ空気。北海道の原風景に出会える町

海に落ちてゆく夕焼け

最後に浦河町の魅力についてお二人に伺いました。
「浦河は風が北から吹くと牧場の香り、南から吹くと潮の香りがする自然がいっぱいの町です。毎年花粉症に悩まされていたのですが、ここに来てからそれが無くなったんです。あと風邪をひかなくなりました。都会の空気とは全然違うんだなあと思います。」(直樹さん) 「浦河は人も町も観光化されていない昔の北海道の原風景を見ることができるのが魅力だと思います。」(史子さん)

初めての北海道の冬を越えて、充実した日々を歩むお二人。いつだって新しい人生はスタートできるのかもしれません。

林さんご夫妻

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取材先

林 直樹・史子(はやしなおき・ふみこ)さん

直樹さんは北海道出身。史子さんは北海道在住の経験が無かったが、その史子さんたっての希望で北海道へ移住を決断。様々な地域をめぐる中、体験移住時に地域の方々の親切さに触れることができたこと、適度な規模の町である浦河町へ移住を決意。移住後は、地域のコミュニティ活動やボランティア活動にも積極的に参加し、日々生活を楽しんでいる。

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