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2015年5月15日 遠山ひろし

移住悩みびとの旅 第2回:ひろし、やさと移住ツアーを開く。

どのようなコミュニティで生き、何をなりわいとし、どんな暮らしを手にしたいのか。移住の先の暮らしを、手にしたい未来を、一緒に考える。

移住をしようかどうか、悩みまくっているひろしが、各地に移住した友人を訪ねる旅に出て、「リアルな移住」を考える企画。
第2回目は、私が移住したいと考えている、茨城県石岡市八郷(やさと)で開催した、「やさと移住ツアー」をレポートします。

筑波山の麓に、自然豊かな里山に抱かれた 「やさと」と呼ばれる地区があります。三方を山に囲まれた独特の風土が織りなす人々の暮らし。 里山の豊かな暮らしと、昔から移住者を受け入れてきたコミュニティの温かさに魅かれ、都会から多くの人が訪れ、少しずつ移住者が増えています。

今回は、移住悩みびとひろしが東京とやさとの仲間と一緒に「やさと移住ツアー」を実施してみて、さらに移住への思いが強くなっちゃったという、自ら蒔いた悩みの種を収穫してみたいと思います。

 

自然と暮らしの豊かさがいきづく里山「やさと」

都内から車で90分、日本の里100選にも選ばれた茨城県石岡市八郷(やさと)地区。
関東平野の中にどーんと広がる筑波山系にちょうど「C」の字で囲まれた豊かな里山の地です。

田園風景

埼玉県小川町、千葉県三芳町と並んで日本有数の有機農業の地で、昔ながらの茅葺屋根の家が多く残り、今なお暮らしています。

「自分の暮らしは自分の手でつくりだす」。

土や山の自然の循環の中で生き、藁ないや手しごとの暮らしの技を当たり前のようにつないでいく豊かな風景が、ここにはあります。この地にいきづく自然と暮らしの豊かさに魅せられて、昔から多くのクラフト作家や有機農のひとが移住してきています。

私もまた、魅せられてしまった一人。

自分が住みたい地域は、自分たちの手でつくる。

「このやさとにある豊かさ、ここでの暮らしのにおい、コミュニティの温度を、感じに来てほしいな。」

「移住ツアーなんてやりたいね。」とみんなで話をしていました。もわわーんと広がり続けていた夢と妄想。

そんな私たちの妄想は、2014(平成26)年の石岡市商工会議所の「まちづくり大賞」に応募した後、大賞に選んでいただいたことで、移住ツアーの事業化が現実に!!やさとのメンバーと東京のメンバー10人が実行委員を組んで実施しました。

移住ツアー運営メンバー

“地域で暮らしたい人の想いをカタチにする移住応援ツアーにしたい。”

じゃあ、どんなテーマで、どんな内容をやろう。すべては一から話し合い、形にしていく手作りのツアー。私たちの妄想たっぷりのツアーをちょっとご紹介します !

テーマは、“居・職・住”

移住悩みびとひろし。だてに移住を悩みまくってはいません。移住希望者が移住に何を求め、何が心理的・物理的な障壁になっているのか、少しは心得ています。

やさと移住ツアースケジュール

やっぱり一番移住ツアーに期待されているものは、「悩みへのヒント」と「移住のリアル」。

移住への気持ちを押しとどめる悩みは、仕事、住むところ、お金、どんな人が住んでいるか。

特に、仕事や家を自力で見つけるのは至難の技。また、地域に受け入れてもらえるのか、感性があう人が住んでいるのかも気になるポイントです。

そこで、実際にこの空き家に住めるよ!ここで仕事を募集してるよ!という、その日に移住できちゃう(ぐらいの意気込みでお届けする)ツアーにすること。そして、参加者だけじゃなく、実際に移住したセンパイ、地元の人を交えて、みんなで膝を突き合わせて一緒に考えるコミュニケーションを一番大事にして作りました。

ついにツアースタート!廃校施設で、気分はすっかり修学旅行

1月31日、快晴◎

東京新宿から20人の参加者を乗せた天ぷらの廃油で走る貸切エコバスは、90分かけてやさとの廃校を活用した里山体験施設へ。実行委員10人、地域の協力者29人、参加者20人の59人が関わるこのツアー。教室の中で初顔合わせです。

廃校の雰囲気と里山の景色もあいまって、何だかはじめからウキウキ修学旅行気分。

廃校・移住ツアー

「住」チャンドリーの空き家探し体験記

まず最初のプログラムは、「住」。

地域に移住するからには、都会的な暮らしではなく、畑があったり心やすらぐ景色や、子育てにいい住環境があるのかが気になります。

元々やさと出身で、6年前にやさとにUターンした通称チャンドリーさんが、実際に田舎で空き家を探すにあたって経験した都会での家探しとの違いやポイントなどを、実際に貸してくれる空き家を巡りながら教えてくれる「チャンドリーの空き家探し体験記」です。

空き家探し

実は、市役所の方に力をお借りして空き家を探したのですが、物件探しが、超大変!!

地方には空き家がいっぱいあるのに、不動産市場にはなかなか出ない。知らない人に家を貸すことに抵抗を持つ大家さんがほとんど。大家さんとの信頼関係や間に入って交渉してくれる人の助けが必要な家探しのリアルを話しながら、空き家に向かいます。

空き家見学1軒目

1軒目のお宅。美しい田園風景の中に建つ日本家屋は、綺麗に手入れされていて、2階からは美しい里山を見下ろすことができ、裏には畑に出来る広い土地と、隣には大きな2階建ての納屋。門をくぐった瞬間、「うおおおーーー!」と参加者の興奮は早速絶頂に!

大家さんからこの家のこと、住んでいた人のこと、思い出のストーリーを聞いて、一人一人の脳裏に様々な妄想や夢が広がった様子。

田舎の空き家はこんなに広くて、暮らす人次第で色んな可能性があるんです!

「住」移住者のリアルな暮らし

続いては、1年ほど前、結婚を機に閑静な山ぎわの地区に引っ越してきた移住者のセンパイのお宅を訪問。
昔ながらの田の字づくりの家で、水の流れる庭、ユズがなる果樹畑、納屋がついた、6畳6部屋の純和風の広い家!

お宅訪問

半年探し歩いた空き家との出会いは、やはり人づての紹介。

不動産市場を通らないが故に家賃の値づけはあってないようなもので、内見にいって大家さんと話をしても「いくらでもいいよ」といわれ・・・おそるおそる「2万円で・・・」と提示して家賃が決まってしまったという話にまず唖然。

お宅訪問②

普通の賃貸とは違い、基本的に家の中の荷物は残ったまま。大量の荷物と遺影(4世代オールスターズ!)の後片付けから始まる苦悩。

季節にあわせた虫との出会いと闘いと別れ、東京で暮らしていたときと移住してからの赤裸々な家計簿の話、地域で草刈や用水路掃除をする道普請(みちぶしん)などの地域の話など、楽しみながら一から暮らしをつくりだしている移住したセンパイならではの驚き発見をリアルに楽しく聞かせてもらいました。

「職」森をまもり、地域を守るしごと。

空き家を見て妄想が頭いっぱいに膨らんだあとは、じゃあどうやってなりわいを手にしていくのか、「職」のパートです。地方は働く場所が少ないという現実がある。たとえ働けるところがあっても、ただ働けばいいのではありませんね。

せっかく移住したのだから、都会にはない地域のつながりを感じることができるなど、自分が働きたい口があるのかが気になります。

まずは、東京から4年前に移住し、つくばね森林組合という、森をまもり地域をまもるしごとを始めたセンパイの職場訪問です。移住に至った経緯と、森林組合の役割、都会と地方での働き方の変化、どんな暮らしをしているかを話してもらいました。

清水さん

やさとに移住する前は東京で店舗什器のデザインと設計をしていた清水さんは、やさとの農場でツリーハウスを自力建築する「やかまし村」という農体験イベントを通じてこの地に出会いました。

その後やさと内でセルフビルド(自力建築)をされている方を訪問したり、材料の丸太を購入しに行ったのがきっかけで森林組合の職員さんと懇意になる中で、「自分の家を自分の手でこの地に建てたい」と思うようになり、移住を決意しました。

森を歩き、自然と対話して、地域のエコシステムの循環を守ること。

そして、森林組合の職員さんの紹介でご縁に恵まれて、仕事だけじゃなく空き家と軽トラックまで見つけて頂き移住をすることができたという、地域のつながりの中で生きていく安心感が、一番の大きな変化という話に、みんな大感動。

「職」地域がしごとを生み出し、しごとが地域を生み出す。

「職」の後半は、実際に仕事を生み出し、働くひとを募集している、地域の職場を訪問します。

実行委員のみんなで、3ヶ月間、毎週ハローワークや地域の仕事情報を探してきましたが、東京の人が興味をもてる仕事は本当にみつからなくって悪戦苦闘でした。

ここでもやはり大事なことは、地域のネットワーク。実行委員の中に市役所職員がいて、そのスタッフの力で、キラリと光る地域コミュニティに根差した会社や、中心市街地活性に取り組む会社などを紹介してもらいました。

中村写真館

市内にスタジオを構える中村写真館さん。先代のお父様から継いで2代目の地域のあたたかい写真館です。「写真館は、家族写真や、地域や学校の行事写真など、地域を縦と横につないでいく役割なんです」とおっしゃる中村さん。

20-30代の若いスタッフのみんなでリノベーションした2階のスタジオや、今後は地域の人を取り上げた写真をメインにしたフリーペーパーも制作したいという地域の未来に向けた展望に、「こういう人のもとで一緒に地域で働きたい」と参加者のみんなは魅力のとりこに。

櫻井さん

最後に訪問したのは、Mc.J(マックジェイ)の櫻井さん。石岡市内には、看板建築という関東大震災以降の建築様式が残っています。その看板建築の空き家をリノベーションして、「祭り衣」を誂えたり手拭いや和雑貨を扱うお店です。

地域に残る建築様式を活かしてリノベーションして事業を始めるなんて、移住者の夢のひとつですよね。事業を始めたときの苦労話やここでがんばっている意義を話していただき、「新しく石岡で事業を始めたいと思っている人を全力で応援したい、この街の仲間になってくれる事が心から嬉しく思う」とのお話に、結局は「“誰”とどんな“コト”を起こしていきたいか」なんだなと思います。

「居」どのようなコミュニティで生きていきたいのか。

さて、筑波山に夕日が沈み始めるころ。最後の居(コミュニティ)のパートです。

コンセプトは、「移住したセンパイ、昔からの地域の人。世代や立場を超えた コミュニティや居場所」。

場所のご協力をいただいたのは、関東八十八ヶ所霊場のひとつ、阿弥陀院さん。地域に開かれた地域密着寺院です。ご住職の河村照円さんも石岡にずっと住んでいる方として、ワークショップに参加していただきます。

阿弥陀院

座談会ワークショップでは、地域の人10人、移住したセンパイ6人、参加者20人が車座になって、ラウンドテーブル形式で行います。

「移住した先にどんな暮らしがしたいか」「私の移住を阻むもの・心配ごと」について膝をつきあわせて話をしたのですが、これが本当によかった!

座談会ワークショップ

今日一日参加して、参加者が感じた移住の障壁と葛藤について、みんなで話し合います。

「しごと」「お金」「地域でしごとを創り出すには」「結婚を踏まえた人生のライフステージ」「マチとムラで暮らすベストなバランス」「都市と田舎で暮らす多地域居住をするには」「世界で働きたい自分と地域で暮らしたい自分の葛藤」というリアルな悩みについて、話は尽きることなく、帰りのバスが出るぎりぎりまで、座談会と交流会はずっと温かく続いていきました。

移住が人を幸せにしてくれるわけではない。

交流会の最後にみんなでパチリと撮った集合写真。みんなで移住について語り合った後の、なんていい表情。

ツアーが終わり、しばらく時間がたって、なぜ私たちは移住ツアーをしたのか、もう一度振り返ってみることがあります。

集合写真

そもそも地域へ移り住みたい人が増えるためには、何が大事なんだろうという事を考えた時、

「やさとは移住にいいところだっぺー」というその土地のアピールだけには違和感を感じていました。

移住が人を幸せにしてくれるわけではありません。

どのようなコミュニティで生き、何をなりわいとし、どんな暮らしを手にしたいのか。

地域に移り住みたい人と、移り住んだセンパイと、長く暮らす人とが、移住を考える場を持つことで、暮らすことの輪郭がはっきりし、移住をもっと現実的に考えられる。

そんな、移り住む先の暮らしを、手にしたい未来を、一緒に考えていったツアーだったのだなあと思います。それは企画した私たちにとっても、一見すると遠回りのような気もするけど、自分たちが暮らしたい地域を自分たちの手で作り出すということだったんだなあと、今振り返ると思います。

「やさとはほんにいいとこだっぺー」と思ったら、このやさとで、待ってるよ。そんな気持ちで。

移住悩みびとひろしの、第二回目の旅が終わりました。

遠山ひろし
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遠山ひろし

遠山ひろし1981年、熊本県八代 生まれ。 茨城県やさと地区の循環型農園を舞台に、東京でシェアハウスをしながら、マチとムラを往還する暮らしの実験中。「自分の暮らしは自分たちの手でつくりだす」をテーマに、田舎の豊かなライフスタイルを無理なく楽しく創り出すことを大切にしています。 Keyword:コミュニティづくり/移住/地域文化芸能/ツーリズム・イベント・フェス運営/公共空間リノベーション/

人と風土の
物語を編む

 「風土」という言葉には、地形などの自然環境と、 文化・風習などの社会環境の両方が含まれます。 人々はその風土に根ざした生活を営み、 それぞれの地域に独自の文化や歴史を刻んでいます。

 過疎が進む中で、すべての風土を守り、 残していくことは不可能であり 時とともに消えていく風土もあるでしょう。 その一方で、外から移住してその土地に根付き、 風土を受け継ぎ、新しくつくっていく動きもあります。

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