記事検索
HOME > 移住する > Iターン >
2016年3月4日 小川佳奈代

タイプの異なる2人のチームワークが絶妙!“本土最南端の町” を盛り上げる地域おこし協力隊に迫る

本土最南端にある人口8000人あまりの小さな町、鹿児島県南大隅町。古き良き日本の里山が残るのはもちろん、手付かずの自然と、南国特有ののんびりした雰囲気が魅力だ。この町には現在2人の地域おこし協力隊員がいる。一人は昨年1月に隊員に就任した今村翔子さん。もう一人は、2年前に南大隅町初の隊員として就任し、あと1年で任期満了を迎える関根大吾さん。来年度、新メンバーを募集するということで、今の協力隊の現状や思いを聞いてみた。

この町を選んだ、ぶっちぎりの理由

「私、もともと自然に全く興味なかったんですよね(笑)」。
開口一番に出たこの言葉に驚きを隠せない私をよそに、機関銃のように語り始める今村翔子さん。大阪府茨木市出身の26歳だ。

babasan001

「大阪ではアパレルとかやってたんですけど、25歳の時、たまたま南大隅町の写真が載ってる協力隊募集のページを見つけて。それまで南大隅町どころか鹿児島のことも全然知らなくて。自然にも全く興味ないし(笑)。だけどそこに載ってた南大隅町の自然の写真に興味を持って。でまたその興味を持った自分に興味を持って、結果、来ちゃいました(笑)」。
ずばり直感とインスピレーションだという。
「でもホントそこで初めて地域おこし協力隊の募集を知ったんです。しかも締め切り前日。速達で送ったらすぐ連絡が来て嬉しかったですね」。
面接の前日に初めて町に来た。そこで、写真で見て憧れた景勝地に行ってみようと思ったものの、看板も見つからず、たどりつけなかったこと、面接では、鹿児島弁に苦戦したことなどを楽しそうに語る。どんなハードルも、彼女にとってはすべて笑いのネタだ。

 

観光PRや他県への視察で出張も

南大隅町の地域おこし協力隊は、現在、企画観光課の業務以外に、観光協会の事務サポートも兼務している。今村さんは、佐多岬コンシェルジュの事務サポートや体験プログラム作り、南大隅町ツーリズム推進協議会事務局(都会の中高生教育旅行受入)担当の他、広報紙に掲載する町のディープスポットの取材にも奔走する。他県や他地域への視察出張にも出かけることもあるほか、土日もPR車やイベントのため現場に出向くことも多い。

babasan001▲2015年夏に、はじめて開催した肝だめし。スタッフからお化け係まで全て青年団の皆で作りました。

地域とかかわるなかで子どもが遊べる場所がないと感じ、昨夏、閉校跡地を使って肝試しを初企画。青年団や町のみんなに手伝ってもらい、町の廃材や古布を回収して、それを素材に手作りしたのがポイントだ。

「町内の子どもたちに喜んでもらえたのが何より嬉しかったです。スタッフの皆もめっちゃ頑張ってくれたんですよ!」。そのときの様子を思い出したのか、今村さんの表情がさらに明るくなった。

明るくノリのいい今村さんは、すでに町の人気者だ。鹿児島弁で「のんかた」呼ばれる飲み会の誘いもほぼ断らない。

babasan001

夜の9時とか10時に『なんしてるの、おいでよ。』って呼ばれることもありますけど、『じゃ、いきます!』って(笑)。楽しいですよ、知り合いが増えていろんなことを教えてもらえるので」。
釣りが趣味の大阪の祖父母もすでに6回町に来て、町の人と仲良くなっている。地域になじむのは大変ですね、なんて問いかけはもはや不要だ。

 

大切なのは「自分から聞いていけるかどうか」

大阪という都会から、自分の直感を信じて全く未知の世界に飛び込んだ今村さん。最初のイメージとのギャップは何かと尋ねると、
「夜は真っ暗! ほんと暗い。家にたどり着けない(笑)。でも慣れます、1週間で。あとは鹿児島弁ですね。何を言ってるか分からないときは素直に聞き返すのがいちばんです!皆さんちゃんと聞き返せば丁寧に教えてくれます。ここで知ったかしちゃうと後で自分が後悔する結果になるので…(笑)」
ごみの分別も都会とは考えられないほど多いし、虫に慣れてないと大変。

babasan001

「でも大切なことは、わからないことがあれば、自分から聞けるかどうかですね。」
役場で把握できていない細かいことも当然ある。地元の人にどこまで打ち解けているかによって、知りえる情報が変わってくるのだという。
地域おこし協力隊に応募する方へのアドバイスを聞いたところ、地域おこし協力隊は、自分のやりたいこと以外にも様々な業務があるので、募集要綱をきっちり読むことが重要とのこと。
「あとは直感とインスピレーション。今だと思ったら動いてみる。来てみてから考えるっていうのもいいんじゃないかなって思います。あと何かあったら気軽に今村まで連絡してください(笑)」
なんとも心強いひとことだ。

 

小さな町の観光の可能性を見つけたい

babasan001

南大隅町の初代隊員であり、あと1年で任期満了を迎える関根大吾さんは、埼玉県戸田市出身の24歳。大学の観光学部観光学科の第一期生として卒業し、観光に携わる仕事がしたいと協力隊に応募した。活動場所は、地域には特にこだわらず、自分に合った場所でと探したところ、南大隅町にめぐりあった。関根さんも今村さんと同じ企画観光課に所属し、SNSでの情報発信や、地域資源を用いたイベントの企画や運営にたずさわっている。ひとつひとつ言葉を選び、ていねいに語る人だ。

この2年間、できる限り休日も町内のイベントに参加して、地道に基盤を固めてきた。しかし当初は、南大隅町が観光地であることにまだピンと来ていない地元の人も多かったという。

「就任3ヵ月後に、中学生の職場体験で、観光案内パンフレットをつくる授業も設けてもらいました。また、教育委員会にかけあい、自分の地元を再発見してもらうという目的で、『南大隅高校の高校生観光プランコンテストのサポート』を行ったりもしました。」

思いついたらすぐに実行に移せ、実現できるスピード感もコンパクトな町ならではの良さかもしれない。
「企画観光課での仕事のほかにも観光協会として具体的な仕事の割合が大きいですが、協力隊の立場を生かして、いろんなことが企画できることは間違いないですね。」

 

観光×スポーツイベント『フォトロゲイニング』を仕掛けたい

babasan001

協力隊としてあと1年となった今、やりたいことが急に増えてきた。もともと観光に興味があり、旅行が趣味の関根さん。すでに47都道府県は制覇しており、休みが取れるときは全国各地へ出かけるという。その経験が彼にアイデアを与えてくれるのだろう。ノートにはたくさんの書き込みがあった。
「制限時間内で決められたスポットの写真を撮って回り、得点を競う『フォトロゲイニング』というスポーツイベントがあるんです。いろんな世代が町歩きを楽しみながら地域の再発見や、健康増進に役立ててもらえるという。九州でもやっているところはまだ少ないので、“大隅半島初上陸”というカタチで実現してみたいですね。」

babasan001

ほか、南大隅町ならではの文化である「ドラゴンボートフェスティバル」の認知度アップや、ゴールドビーチでの子ども向けイベント、移住希望者に向けた就業体験プログラム、外国人観光客に向けたピクトグラム看板の設置……と、温めている企画を語ってくれた。
「お土産があまりないので、町で余っている木材や竹材を使って“日本の端”とかけた“二本の箸”なんて(笑)」と、茶目っ気も忘れない。 任期を終えた後も観光に関わる仕事をしたいそう。「最後の1年、この町に還元できることは何でもしたい」と話す。

 

好きなことで能力を発揮したい人、精神的にも肉体的にもタフな人を求む!

babasan001

もともと田舎志向だったため、自然と共生する暮らしのうえでの不便さは想定内だった関根さん。それでも住んでみてはじめてわかったことがある。
「南国でも冬は寒いのでそこは気を付けた方がいいですね。冬は短いだけで寒さは同じ。山や海からの風が“冷たい”んです。冬は桜島からの灰が降ってくることもあります。大雨も台風も、湿気も多いですね。」
しかし協力隊をやってきた中で困ったことはないという。
「生活面で大変なこともありますけど、食べ物もおいしいし、いずれ慣れます(笑)」

babasan001

「関根さんは外部担当、私は内部、とうまく役割分担できているんです」と今村さん。独自の視点から斬新なアイデア生み出し実行に移せる行動力。体当たりで地域のフトコロにもぐりこみ、たとえ逆境に遭ってへこんだとしても天性の明るさを武器に笑い飛ばせる強さ。こんな二人が自由に活躍できる環境はとても居心地がいいだろう。
また、職住近接で海と山がそこここにあること自体、特にアウトドア好きにとってはたまらない環境だ。関根さんはシーカヤックガイドの資格も取得し、趣味と実益を兼ねた理想的なキャリアを築いている。
「田舎でも特に“へんぴ”なところが好きで、好きなことで自分の能力を発揮したい人、精神的・肉体的にタフな人が向いていると思います」。
なんだか大変そうだけどおもしろそう、そう思ったらアクションしてみよう。

小川佳奈代
記事一覧へ
私が紹介しました

小川佳奈代

小川佳奈代徳島県徳島市出身。フリーライター、エディター、2児の母。 徳島でタウン誌編集を経て、東京、鹿児島とメディア界隈で約20年うろうろ。2018年に帰郷。まち、人、暮らし、働き方、食、旅をテーマに、「よそものの視点」でローカルネタを掘り起こし中。シャツの前後を間違えても夕方まで気づかないのが特徴。サンバが大好き。

人と風土の
物語を編む

 「風土」という言葉には、地形などの自然環境と、 文化・風習などの社会環境の両方が含まれます。 人々はその風土に根ざした生活を営み、 それぞれの地域に独自の文化や歴史を刻んでいます。

 過疎が進む中で、すべての風土を守り、 残していくことは不可能であり 時とともに消えていく風土もあるでしょう。 その一方で、外から移住してその土地に根付き、 風土を受け継ぎ、新しくつくっていく動きもあります。

人と風土の物語を編む