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2016年5月19日 清水美由紀

「nanoda」に続く塩尻の空き家活用プロジェクト。”公用語は英語”のシェアオフィス「mimosa」

長野県塩尻市・大門商店街に、2016年4月16日にオープンした「mimosa(ミモザ)」。空き家をリノベーションして生まれ変わった建物は、主にシェアオフィスとして使用されており、キッチンのある1階部分は、英語のみの交流会や、創業者の講座会場として使われる予定だ。

特筆すべきは、まちづくりの一端を担うことを目的として作られた施設にも関わらず、「英語しか使ってはいけない」というルールが存在することだ。できるだけ敷居を低くして誰でもウェルカムな雰囲気を作りがちだが、あえてハードルを高くすることでわざわざ来てもらうのが狙いだという。「mimosa」を運営する土屋さんにお話を伺った。

とがったコンセプトを打ち出すことで、目的を持って訪れてもらえる場所にしたい

長野県松本市の隣に位置する塩尻市は、東京・名古屋への特急電車の分岐点となる交通の要。駅前の商店街を盛り上げようと動き出した「空き家から始まる商店街の賑わい創出プロジェクトnanoda」の取り組みが多くのメディアで取り上げられるなど、注目も集まりつつある。

2010年に図書館や子育て支援センターなどを含む、市民交流センター「えんぱーく」が開館して、その向かいにはショッピングセンターがオープンし、人が集まる場所ができた。それでも商店街を歩く人の姿は多いとは言えない。

「スポットで人が集まるようになったものの、そこから離れると閑散としているという感じですね。建築士の保科さんという女性が、街全体を考えるまちづくりを行っているのですが、その中のひとつのプロジェクトとしてmimosaは作られました」と、土屋さんは話を始めた。

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▲レコード店、雀荘、選挙事務所として使われてきた建物を明るく開放感のあるスペースにリノベーション

「保科さんに頼まれたことは、歩いている人の数を駅から離れた場所にも増やすこと。しかも、何かをもたらしてくれそうないい雰囲気のある人で、歩いているだけでその場所が明るくなるような人に来てもらいたい、というお話でした。だから、この場所はあえて生産性が求められる、何かを得て帰ることができる場所にしたいというところから、コンセプトを練っていきました。」

その中で出て来たのが、”英語”だったという。塩尻市出身の土屋さんは、アメリカの大学に通いそのままアメリカで就職し8年間を過ごした。世界規模のUターンを果たした帰国後は、通訳翻訳業の傍ら女性の創業支援や「GoGlocal」という、日本文化と地域の魅力を再発見しながら、日本人の国際力や異文化コミュニケーション力を高める活動をしている。そんなバックグラウンドを持った土屋さんだから考えついたアイディアかもしれない。
「とがった場所にしないと、人は目的を持って来ないだろうと思ったんです。」

そのようにして出来たこの場所は、イタリアで「女性らしさと強さ」の象徴であるミモザの花をモチーフにということで、「mimosa」と名付けられた。

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▲mimosaの運営に携わる土屋みどりさん

 

地域と共生しながら、ソトから来た人を受け入れる交流の場に

英語に特化した場づくりをすることに決めたもうひとつの理由は、他の施設や商店街のどのお店とも競合にならないからだ。

「他の場所に来ているお客さんを奪ったり争ったりしては、意味がないですよね。mimosaには、今までの商店街を目当てに来る人にも、もちろん寄って欲しいですが、それ以外の新しい人を呼び込む仕組みを作りたいと思っています。外国人など新しい人が来すぎて、商店街が困っちゃうくらいにしたいですね。」と意気込む。

「mimosaから、商店街の店舗に人を流せるような仕組みも作っていきたいですね。昔ながらのコミュニティに穴を開けて風通しをよくして、若い人や海外から来た人でも、もっとコミュニティに入りやすくしたいんです。」

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▲インテリアは女性らしく可愛らしいデザイン

平日夕方6時までは、シェアオフィスとして入居者が使用している。1階のキッチンと大きなテーブルのある打ち合わせスペースは、月2回開催されている英語チャットなどの勉強会や講座にも活用される。
「近所に住んでいる主婦の方がお子さんと一緒にきてくださったり、お仕事で英語が必要だから、という理由でいらっしゃる方もいます。」

まだ始まったばかりのmimosa。土屋さんの頭の中にはこれからやりたい様々なプロジェクトが浮かんでいるようだ。
「雰囲気の良い落ち着いた場所なので、これから自分で創業したいと思っている方が講座やワークショップを提供して、始めたばかりの人が始めやすく、積極的に経験と実績を積める場所になっていけばいいなと思っているんです。」

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▲1階のテーブル。打ち合わせや講座に利用される

 

塩尻出身の女性たちが、商店街に新しい風を吹き込む

そして、もうひとつ土屋さんがこのmimosaで取り組もうとしている個人プロジェクトが「ソルトターミナル」だ。「塩尻」という市名の由来は、日本海側と太平洋側からそれぞれ塩が運ばれてくると、この辺りで両者が合流することから塩の道の終点・塩尻とされたという説が有力だ。

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▲初めての人でも土屋さんが優しく迎えてくれる

「塩尻には元々塩研究会という団体があって、日本中から塩が送られてくるんです。80種類を超える塩がすでに集まってきているので、これを活かしたいなと。塩の道の最終地点であるここ塩尻に”ソルトターミナル”(場所はmimosaの2階)を作って、その塩が巡って来たストーリーに触れられたらおもしろいかなと思っています。来場者がどこかから持って来た塩と、すでにソルトターミナルにある塩を交換してもらったら、地図にピンを立てて動向が分かるようにしたいと思っていて。自分の運び込んだ塩がどんな旅をするのか、交換して持ち帰ることになった塩はこれまでどんな旅をしてきたのか。そんなことが体感できる場所になったらいいですね。」

地名の由来でもある「塩」をキーワードに、外の人と中の人の交流を生むプロジェクト、今後の展開が楽しみだ。

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▲ソルトターミナルの今後に期待したい

塩尻には、土屋さん以外にも、地元のためにさまざまなプロジェクトに取り組んでいる女性がいる。mimosaの建物のリノベーションを行った保科さんだ。保科さんも塩尻市出身。

「話せば話すほど、情熱のある、とにかく熱い人なんです。塩尻愛にあふれていて。」と、土屋さんは強調する。保科さんは、mimosaの他にも同時並行で「サクラアトリエ(仮称)」という場所をつくっているのだそう。こちらは、家具職人などの若手作家や、ものづくりに興味のある職人が集まる、シェアアトリエ(工房)になるのだそう。
「塩尻も、峠の向こうの諏訪や岡谷も、ものづくりの会社が多いですからね。」

地域にもともとある素材を活かしながら、外のものを取り入れ、しなやかに交流を生み出していく。そんな塩尻の女性たちの活動から、今後も目が離せない。

取材先

mimosa

住所:長野県塩尻市大門一番町8-3

https://www.facebook.com/mimosa.shiojiri/?fref=ts

清水美由紀
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清水美由紀

清水美由紀フォトグラファー。自然豊かな松本で生まれ育ち、刻々と表情を変える光や季節の変化に魅せられる。物語を感じさせる情感ある写真のスタイルを得意とし、ライフスタイル系の媒体での撮影に加え、執筆やスタイリングも手がける。身近にあったクラフトに興味を持ち、全国の民芸を訪ねたzine「日日工芸」を制作。自分もまわりも環境にとっても齟齬のないヘルシーな暮らしを心がけている。

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 「風土」という言葉には、地形などの自然環境と、 文化・風習などの社会環境の両方が含まれます。 人々はその風土に根ざした生活を営み、 それぞれの地域に独自の文化や歴史を刻んでいます。

 過疎が進む中で、すべての風土を守り、 残していくことは不可能であり 時とともに消えていく風土もあるでしょう。 その一方で、外から移住してその土地に根付き、 風土を受け継ぎ、新しくつくっていく動きもあります。

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