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2016年3月23日 木村 知子

移住よりもライトに、地方を盛り上げる人材を増やしたい!「私たちの地方創生戦略-移住と観光の間の関わり方を提示する岩手・花巻の“逆参勤交代”構想-」

全国各地が地域活性をめざしさまざまな取り組みを行う中、岩手県花巻市でも2015年度を通じてその土台を形作ってきました。

2015年12月には『東北食べる通信』編集長の高橋博之さんと『花巻家守舎』の小友康広さんをイベントゲストに迎え、これからの花巻市の活性化に必要な意識のあり方、制度などについて意見を交わし、“逆参勤交代“構想を打ち出しました。
2016年2月には「『イーハトーブアカデミー』〜地域のソトからナカに関わる”逆参勤交代”プログラム〜」と題して、実際に花巻市に訪れて現地の様子や課題を発見し、それぞれどのような関わり方、解決のための取り組みが可能か考えるワークショップを開催。こういった活動を経て得た知見や人脈を元に、2016年度から「イーハトーブアカデミー」、“逆参勤交代”プログラムいよいよ本格始動していくことになりました。

今回のイベントでは、花巻市が考える“逆参勤交代”構想の説明とともに、ゲストスピーカーの方々から地域への関わり方に関するポイントや花巻市の現在、ご自身の活動などについてご紹介いただきました。

観光、移住だけではない地域との関わりを生み出す“逆参勤交代”構想

花巻市役所

まずは花巻市役所秘書政策課の吉田真彦さんから、“逆参勤交代”構想や今後の展開についてご紹介いただきました。

かつて全国各地の藩主らが幕府の中心地である江戸に向けて出仕を繰り返したのと逆の流れ、つまり「首都圏や都市部から、花巻市へ定期的に人が訪れ、そこで花巻市を盛り上げる活動をする」流れが作れないかというのが“逆参勤交代”構想のコンセプトです。これまで地方との関わり方として観光または移住の2択が主であったところを、その中間的な関わり方、複数回その地方に足を運び活動を行う人たちを増やすことで、「何となく移住をイメージしていた人たち」が移住をより現実的に考えられるようになったり、あるいは移住先地域の人々との関係が移住前から構築できるため、移住後の人間関係もスムーズになるのではないか、といったメリットを想定しているそうです。

この活動について、行政と地元住民、そして他地域からの人々との間をつなぎ、活動を主導していくキーマンとして、花巻市では地域おこし協力隊を採用しています。すでに2015年に1期生として5名が採用され、2016年4月以降もさらに5名の採用を予定しているそうです。

 

「地域のしごと」には2つのカテゴリが存在する

村楽

続いて、一般社団法人村楽理事・地域再生プロデューサーの東大史さんから、「地域のしごと」についての解説をいただきました。

現在、地方創生の流れの中で語られる事業の多くは、観光産業や第6次産業の活性化を中心とした「LOCAL WORK(稼ぎ・商い)」ですが、地方での生活にはその地域に古くから根ざした「REGION WORK(普請・なりわい)」もあるとのことです。

REGION WORKの具体的なイメージとしては、伝統文化・伝統芸能や、生活の知恵の中から生み出されたローカルな技術、地域住民らで支え合い暮らしていくための出合い仕事など、それ自体が明確にお金を生み出す仕事ではなくても、生活を支える力となったり地域の活力になったりするような取り組みを指すようです。そして、このREGION WORKこそが地域の多様性を生み出しているものであり、REGION WORKの文脈を知ることでLOCAL WORKとして独自性のあるコンテンツ化がはかれるとのことでした。

 

地域の価値観や生活を、地域の文脈から理解し、一緒に取り組んでいく

また、ご自身も地域おこし協力隊を経験し、現在も国内各地を周りながら地域おこしに関わっている東さんの視点から、“逆参勤交代”によって地域に入る際に必要な3つの心構えについても教えていただきました。

  • 都市部においてこだわっているエゴをいったん捨てる
  • シンプルに地域住民に役立てることを見つける・身につける
  • 足し算の支援(REGION WORK)を大切にする。かけ算(LOCAL WORK)はそれから

都心部と地方とでは、根本的な価値観が大きく異なる部分も多くあります。そしてそれらのほとんどは立場や生活などさまざまな背景の違いから来るものであり、どちらが正しいと簡単に結論づけられるものではありません。これから入っていく地域の文脈を理解し、REGION WORKを中心に地域住民とともに日常の生活を営むことで価値観のギャップをニュートラルにする、つまりその地域の価値観を否定せず理解する。それが“逆参勤交代”期間において必要な心構えであるとのことでした。

 

5年間の記憶でも魅力を感じる街、花巻市

藤原さん

花巻イーハトーブ大使の藤原あかねさんは、秋田で生まれてからまもなく岩手に引っ越し、子ども時代を花巻市や大船渡市で過ごしたのち、大学進学を機に一度上京します。その後IBC岩手放送のラジオリポーターへ転職し3年間を盛岡市で過ごしたのち、現在は再び上京してフリーランスのアナウンサーとして活動しています。

IBC岩手放送時代には岩手県内の各地を飛び回り、岩手の人々とふれあう中で岩手の良さを強く感じ、退職後も何かしら岩手の魅力を発信するような活動がしたい…そう考えたときに花巻イーハトーブ大使の募集を知ったのだそうです。

「私自身が花巻市にいたのは0歳〜4歳、それから中学2年生〜高校3年生までの間だけです。強く記憶に残っているのはやはり中高時代の5年間ですが、その5年間だけでも花巻市は愛着を感じる、魅力を感じる街だったなと。それが、花巻イーハトーブ大使に応募したきっかけでした」

現在は岩手には月に1回以上は行きつつ、首都圏のイベントで花巻市や岩手のことをPRしているという藤原さん。東京と花巻市を往来することのメリットは、外からの視点を持ちながら花巻市を見ることで、地元の人では気付かない魅力を発見できることだそうです。震災を機に「人生は一度きりだ」と痛感したことからも、自分ができる限りの取り組みを積み重ねていければと強く語っておられました。

 

現地に行くことで、新たに感じられることがある

岩手県内でも地域おこし協力隊の活動が活発であり、2015年11月には「いわて地域おこしサミット」も開催された花巻市。今後の展開として、地元から盛り上げていく活動と同時に、外部の人々の視点ももっと取り入れていきたいとの思いから、今回のイーハトーブアカデミーの構想も立ち上がっています。

ここで、2016年2月の「『イーハトーブアカデミー』〜地域のソトからナカに関わる”逆参勤交代”プログラム〜」に参加された方々から、フィールドワークの様子についてレポートをいただきました。

はしもとさん

1人目は花巻コースに参加された橋本亮子さん。フリーランスのWebデザイナーとして首都圏で仕事をしながら移住先を探していたそうですが、岩手の景色が気に入ったことから現時点での有力な移住候補地として検討しているそうです。現地の商店街や老舗デパート、歴史ある洋館などを見て回る中で、地方ならではの街の成り立ち方や生活の温度感、培われた文化や人々の気質をリアルに感じることができたそうです。

 

「地域が抱える本当の課題は何なのか?」を深掘することが大事

あべさん

続いては、大迫コースに参加された安部薫さんです。大迫地区は良質なエーデルワインの産地としても知られており、2015年もオーストリアウィーン国際ワインコンクールで4つのワインが入賞するなど大きな実績を積み重ねています。フィールドワークでは実際のワイン工場を見学、ぶどう農家の課題や工場の様子について話を聞いてきたそうです。

今回のイベントを経て安部さんが感じたのは、「地域の課題を深掘し、それを外部に明確に提示していくことが必要ではないか」とのことでした。「一口にぶどう農家が減少していると言っても、その具体的な数値であったり、減ることで地域は何が困るのか、何をめざすのかが明確でないと、解決のための議論も抽象的なものになってしまうのではないでしょうか」

また、「東京の学生」にとって、地方が第2の故郷になるとよいのではないかとの案も出されていました。地方に興味を持つ首都圏の学生は年々増えていること、また学問と実践を結びつける場として地方が活用できるのであれば、若年人口の少ない地方、新しい視点を求める地域にとってもメリットがあると言えるかもしれません。

 

花巻の食材&エーデルワインで懇親会!

懇親会

トークセッション終了後は、花巻市から取り寄せた食材を使用した食事と大迫地区のエーデルワインで乾杯! イベント参加者、登壇者全員で懇親会を行いました。

ちなみにこの日の参加者30名ほどのうち、ほとんどは岩手県外出身者の方々。花巻市の打ち出した “逆参勤交代”構想について興味があって参加された方が多かったようです。それだけ、地方の課題に興味関心があるけれど今すぐの移住は難しい、それでも何かできることがあれば…という思いを抱えている人が多いということかもしれません。

来年度も地域おこし協力隊を募集へ!

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花巻市は、4月から新しい「イーハトーブ地域おこしプロジェクトチーム(地域おこし協力隊)」を全国から募集する予定です。花巻市の地域課題や活動テーマを設定し、4月1日(金)に募集情報が公開されます。

4月上旬と下旬には都内での募集説明会兼交流イベントが行われ、5月中旬には実際に花巻市の活動地域を見学するフィールドワークも行われる予定です。

詳細が分かり次第、ココロココでも4月1日(金)からも随時情報発信を行っていきますので、ぜひご注目ください!

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私が紹介しました

木村知子

木村 知子愛知県出身。雑誌編集・ライター業やWebディレクション業を経てフリーランスに。NPO法人農音代表・田中の移住を当初は生暖かく見守っていたが、愛媛県松山市・中島産みかんの「幸せになれる味」や中島の人々の人柄に惚れ込み、農音に参画。広報宣伝部長・アートディレクターという肩書きながら、基本的には飛んできた来た球を打ち返す地味な係。

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 「風土」という言葉には、地形などの自然環境と、 文化・風習などの社会環境の両方が含まれます。 人々はその風土に根ざした生活を営み、 それぞれの地域に独自の文化や歴史を刻んでいます。

 過疎が進む中で、すべての風土を守り、 残していくことは不可能であり 時とともに消えていく風土もあるでしょう。 その一方で、外から移住してその土地に根付き、 風土を受け継ぎ、新しくつくっていく動きもあります。

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