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2015年7月2日 松永直

木曽の食文化に触れる「スローフード木曽」の”ほお葉料理を学ぶ会”

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木曽路の初夏の風物詩 ”朴葉巻き”。長野県木曽町では5月中旬から7月中旬にかけて町内のあちこちのお菓子屋さんでこの朴葉巻きののぼりが見られるようになります。まるでトトロが持っていそうなとてもかわいらしい見た目の朴葉巻き。そんな朴葉を使ったお料理が地元のおかあさんたちから習えるということで、”ほお葉料理を学ぶ会”へ参加してきました。

木曽町と朴葉巻き

御嶽山のふもとの静かで美しい町、木曽町。木曽の初夏の風物詩・朴葉巻きは、昔、この御嶽山に入る人々が保存食として朴の葉で水に漬けた米を巻き、茹でたり蒸したりしたものを持って行ったのがはじまりだそうです。朴葉で巻いたご飯は香りもさることながら抗菌効果もあるので3〜4日持ち歩いても大丈夫な上に、葉っぱで包まれているためサランラップなどがない時代にも携帯食として重宝していました。

1_朴葉

また、端午の節句といえば柏餅ですが、その柏の葉が標高の高い木曽にはなかったため、柏餅の代わりに朴葉巻きを作り、神仏にお供えをしてきました。木曽町では年中行事を旧暦で開催するため、6月5日が端午の節句で、その前後である5月下旬から7月中旬の祭り頃まで朴葉巻きが作られます。ちなみにそれ以降になると葉にアクが出てきておいしく作ることができないそうです。

山々が新緑に満ちるこの時期は、木曽では田植えのシーズンでもあります。そのため、朴葉巻きはお節句の時だけでなく農作業の合間など日常のおやつとしても食べられてきました。

先人たちの知恵からはじまり、受け継がれて作られてきた伝統的なこのお菓子は朴の葉の野趣豊かな独特な甘い香りが楽しめます。

 

木曽の伝統的な食文化を伝える「スローフード木曽」

2015(平成27)年6月15日。木曽町の「ふるさと体験館木曽福島」にて開催された”朴葉料理を学ぶ会”に参加してきました。

会の主催は「スローフード木曽」。「スローフード木曽」では、木曽の先人が育んできた食文化や自然の恵みを学び、体験することができるワークショップや教室を季節を通じて開催しています。

年会費1000円で誰でもどの地域に住んでいても入会することができ、参加費の割引などもあります。この日も初めて参加する方が何名か入会していました。もちろん会員以外でもイベントに参加できます。

参加者は地元の方はもちろん、少し離れた伊那市から来た方や旦那さんの転勤で埼玉から引っ越してきた方、東京と木曽を行き来する生活をしている方もいらっしゃいました。一緒に体験をすることで会話のきっかけも生まれるので、終わる頃にはとても仲良くなれました。

郷土料理に興味がある方はぜひ参加してみてくださいね。

今回教えてくださったのは「四季の会」の中邑恵美子さんと林すみ子さんのお2人です。

2_四季の会

 

朴葉巻きに挑戦

まずは朴葉巻きから挑戦です。この日はこしあんに少し現代風アレンジがされていて、黒糖入りの餡でした。この餡をまず等分に俵型にして丸めておきます。

3_俵型の餡

そして包む生地を作ります。米粉とえごまを混ぜた所に熱湯を加えます。このえごまも今回の会ならではのアレンジです。最初はとても熱いので木べらや箸でかき混ぜます。そしてそのあとは手で練っていきます。とても熱いのですががここでしっかり混ぜることがポイントなんだそうです。耳たぶくらいの固さになるまで練ります。最近では柔らかさを保つ工夫として小麦粉や砂糖を入れたりすることもあるそうです。

4_こねている所

こねあげた生地を等分にして、皮を伸ばして餡を包んでいきます。今回はその段階を省きましたが、餡を包む前の生地を一回蒸して作る方法もあるんだそうです。

いよいよ朴葉で巻いていきます。葉の大きさで、中身を置く位置が変わってきます。横向きに置いたら、左右の葉を折り込み、下から2回ほど巻き、いぐさで結びます。

おかあさんたちは手早くキレイに包んでいきますが、慣れないと縦結びになってしまったり、小さい葉だと包みにくかったりなかなか難しかったです。

そして、20分程蒸したら出来上がりです。蒸し上がった朴葉巻きは新聞紙の上で冷まします。

5_冷ましているところ

つぶつぶのえごまの食感と香り、そして黒糖の香りがマッチしていてとてもおいしかったです。しかも蒸し立てを食べる機会はなかなか無いので、おいしさも格別でした。ちなみに木曽町内のお菓子屋さんではつぶあんや味噌あんで作ったもの、そば粉が生地に入ったものなどが売っていて、それぞれ個性があって食べ比べも楽しいですよ。

 

現代風アレンジの朴葉料理

続いては朴葉料理です。昔はしし肉(イノシシの肉)を朴の葉で巻いて包み蒸しにして食べていた地域があり、それを現代風にアレンジしたものが今回のお肉の包み蒸し。朴葉巻きと同じ要領で、下味をつけたお肉と地元の御嶽しめじを包んで巻いていきます。信州産の鶏肉と豚肉の二種類。いぐさを表で閉じるか裏で閉じるかで豚か鶏かをあける前にわかるようにしました。

6_お肉を包んでいる

塩胡椒だけの下味なのに、朴葉の香りが合わさると香り高くてとってもおいしい一品に大変身。これは驚きです。

7_お肉蒸し上がり

そして最後は朴葉寿司です。現代ではこの季節の地域の仕出しでは欠かせないものだそうです。元々は山に入る時や農作業の合間の保存食や携帯食的な役割としてお米を包んでいたものから、ハレの日の酢飯を包むようになったという変化はおもしろいですね。

8_朴葉寿司1

朴葉の真ん中に酢飯を湯のみ茶碗一杯分ほどのせて、その上に好みの具をのせます。しいたけを煮たもの、ちりめん山椒、紅しょうが、でんぶ、錦糸卵など好みの具を入れます。特に紅しょうがの色がキレイで見た目だけでなく味のアクセントにもなり、とても良かったです。

9_朴葉寿司2

 

交流の場として

朴葉巻きや朴葉料理を作りながら、自分の家での朴葉のアレンジ方法を話したり、できたものを食べながら地域のおいしいお店の話題などで盛り上がったり、学ぶことはもちろんですが交流の場としても大切な場になっていることを感じました。やはり手を動かす、おいしいものを食べるというのはコミュニケーションを活性させますね。

「スローフード木曽」のイベントには、東京などの都市部から参加する人もいるとのこと。現在、スローフード木曽事務局を担当する都竹亜耶さんは元木曽町地域おこし協力隊。活動する中で木曽の郷土食を継承している地元のおかあさん方の知恵と技に魅了され、そこに食のモードという要素を加えることで、温故知新な活動プログラムを展開しています。活動目的には着地型観光プログラムの開発という位置付けもあるので、首都圏からの参加者も歓迎だそうです。木曽町までは新宿からは高速バス1本で行くことができるのでアクセスもしやすいですよ。

地域のおかあさんや、参加者の方との交流をしたい方、郷土料理が好きな方、山々に囲まれた自然に癒されたい方、イベントをチェックしてぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。

 

■スローフード木曽
・お問い合わせ:木曽町役場農林振興課 スローフード木曽事務局 担当:都竹(つづく)
・電話番号:0264-22-4390
・Fax:0264-23-2121
・Email:slowfood@town-kiso.net
スローフード木曽入会申し込みの方は氏名・住所・電話番号を明記の上、上記宛先までお申し込みください。入会の資料を郵送でお送りします。

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松永直

松永直東京都出身。料理家および食に関するライター。 大学卒業後、マーケティング会社勤務を経て料理の道へ。主な活動は出張料理、食品メーカー向けメニュー開発、地域と都市をつなぐフードイベント企画・運営、企業や学校での料理教室など。 また、地域おこし協力隊として移住した友人と「しまの食堂」を立ち上げ、愛媛県上島町の食材を使った料理を都内各地で提供している。

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 「風土」という言葉には、地形などの自然環境と、 文化・風習などの社会環境の両方が含まれます。 人々はその風土に根ざした生活を営み、 それぞれの地域に独自の文化や歴史を刻んでいます。

 過疎が進む中で、すべての風土を守り、 残していくことは不可能であり 時とともに消えていく風土もあるでしょう。 その一方で、外から移住してその土地に根付き、 風土を受け継ぎ、新しくつくっていく動きもあります。

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