海の近くで農業をする夢を叶える!

2

鹿児島県大島郡瀬戸内町に属する、奄美大島から船で約20分ほどの加計呂麻(かけろま)島。ひとつの森のように連なる山々と、山の緑が映り込んだような深いエメラルドグリーンの海、そして、静かな入り江に点在する30の集落が昔懐かしい魅力を持つ、静かな島です。そこで果樹農家として農業を営む浅香さんご一家は、埼玉県さいたま市より2013年、加計呂麻島へ移住しました。

勤続25年を機に自分のやりたいことに向けて動く

「もともと海が好きだったんです。埼玉は海なし県だから、というのもあったのかもしれませんが、とにかく海の側で暮らすことに憧れていました。」

埼玉では消防士として働き、休みの度に千葉や伊豆の海へ家族で通っていたという浅香さん。いつしか、海の近くに「遊びに行く」のではなく「住みたい」という願いを持つようになりました。

夢を叶えて、近所のビーチで撮影。島の中でも青さが一際美しい実久(さねく)海岸
▲夢を叶えて、近所のビーチで撮影。島の中でも青さが一際美しい実久(さねく)海岸

「それと同時に、農業をやりたい、という気持ちも湧いてきました。イチから何か作り上げたい、育てていく喜びを感じてみたい、という気持ちから、海の綺麗なところで農業をする、という夢がまとまり始めて、勤続25年を機に移住に向けて動き始めました。」

そして、2012年から移住関連のイベントに行き、全国各地の情報を集め始めます。静岡県や和歌山県で行われた農業体験研修へ参加し、移住への準備を着々と進めていきます。

 

移住ノートで下準備は万全。着々と夢に向かって前進

移住ノート

浅香さんは移住をする前に、“移住ノート”をつけていたそうです。ごくごく普通のノートには、その日会った自治体の方の名刺や、参加したフェアのチラシなどが貼り付けられています。その後、移住候補地を訪れた際に行ったお店、食べたもの、会った人、紹介された空き家の間取りなどが詳細に記されています。

詳細にその日の出来事が記されたノートは移住への本気度が伝わってきます
▲詳細にその日の出来事が記されたノートは移住への本気度が伝わってきます

「なんでも段取り8割、実施2割だと思っていまして、きちんと情報を整理したほうが後々いいかなと。家族と相談するのにも、記録しておくことでより話がしやすくなりました。それに有楽町のふるさと回帰支援センターに通っていたのですが、相談員の方に質問する際も、考えがまとまってよかったと思っています。」

海の側で農業をしたいということで、さまざまな候補地がありましたが、人とのご縁と巡り合わせで、鹿児島県大島郡瀬戸内町にある加計呂麻島を移住先に決めました。近年就航したLCCバニラエアのおかげで観光客が増えつつある奄美大島から船で20分ほどの加計呂麻島は、「奄美の奥座敷」とも呼ばれる人口1400人未満の静かな島です。

 

いざ、海と山に囲まれた静かな島へ

山の上から見た実久の海
▲山の上から見た実久の海

島というと自転車や徒歩でも回れるほどの小さなものとイメージをしがちですが、複雑なリアス式海岸に沿って山と山の間に30集落が点在する加計呂麻島は、周囲が150kmほどもあり、一周するのに車で3時間ほどかかります。東西に長く伸びる島の西側にある、人口約50人の薩川(さつかわ)集落に、浅香さんは住居と農園を構えています。薩川集落は、NHKテレビドラマ『島の先生』のロケ地にもなった場所で、海が目の前にある小学校とゆったり流れる大川が印象的なのどかな集落です。

移住前にも家族全員で二度ほど足を運び、現地の人々との交流など移住の準備を着々と進めてきた浅香さんですが、最初はやはり、うまくいくことばかりではなかったそう。

ハウスへの道のり
▲ハウスへの道のり

「移住してすぐは、妻は営農センターでパッションフルーツを作る研修を受け、私は学校の用務員として働いていました。まず、最初に苦労したのは、パッションフルーツのハウスを建てる土地を探すことでした。家のある薩川集落に近く、ハウスが建てられる場所となるとなかなか限られていて、苦労しましたね。」

ハウスの場所も、ハウスに向かう道も役場の事業を利用して開墾しました
▲ハウスの場所も、ハウスに向かう道も役場の事業を利用して開墾しました

候補に挙がった数カ所の土地は草が生い茂り、まるでジャングルでした。草木を切り開き、その土地に数十トンもの土をダンプで入れて開墾したそうです。

 

初めてのフルーツ栽培。ゼロからのスタート

「埼玉に住んでいた時は、家庭菜園すらもしたことがなく、農業に関してはゼロからのスタートでした。それでも、2016年からは出荷をすることができるようになりました。」

浅香さんが栽培したパッションフルーツ
▲浅香さんが栽培したパッションフルーツ

せっかく南の島に移住したのだから、南国らしい果物を作ろう。そう思い、育てる作物はパッションフルーツに決めたという浅香さん。加計呂麻島では唯一の大型施設ハウス栽培でパッションフルーツを育てています。

南国の代名詞、ドラゴンフルーツ
▲南国の代名詞、ドラゴンフルーツ

また、今ではドラゴンフルーツや、日本では屋久島や奄美大島、沖縄などで作られているみかんの一種、たんかんの栽培も始め、育てる品種を増やしています。

栽培が難しいパッションフルーツの花
▲栽培が難しいパッションフルーツの花

パッションフルーツの栽培は、まず苗を作ることから始まります。8月末~9月に苗を作り、10月に苗の植え付け。花が咲くのが3月末から4月末。そして、4~5月にかけて全て手作業で行われる受粉が始まります。パッションフルーツの花はその日一日しか咲かないため、毎日昼から夕方まで受粉作業をします。

トラックに積まれるフルーツ

並行して、しぼんだ花を取り除く作業が行われ、収穫は6~7月。その時期は、収穫し、果物を拭いて、重さを計り箱詰めをして出荷する作業に追われ、時に夜遅くまでかかることも。

「最初は、やはり慣れないこともありました。以前の仕事・生活とは違い、農業は自分で区切らないとオンとオフがない。果てしなくやることがあって、やらなければ始まらない。生活リズムの作り方が、最初はどうしていいかわからなかったですね。」

 

島で見つけたこの場所ならではの小さな楽しみ

それでも、ふらっと景色を見に行くなどの、ちょっとした場所で幸せを感じることができると浅香さんは語ります。

加計呂麻島内の海

家から車で15分ほどの実久海岸は、浅香さんご一家のお気に入りの場所。美しい海で知られる加計呂麻島内でも、独特の青さを持つ海の色は、「実久ブルー」と呼ばれ、訪れる人々を魅了しています。
ご長男の雄士くんが通う薩川小学校の水泳の授業もこの海で行われるのだとか。最高の環境での授業ですね。

加計呂麻島は小さな商店以外はほとんどお店がなく、買い物をするにはインターネットか、船で20分ほどの奄美大島に渡らなければなりません。何でも手に入る都心部での暮らしからはずいぶんとかけ離れた暮らしですが、「ないものはない」と思えば、次第に慣れ、それほど苦には感じないそうです。

「時々、海を渡って奄美大島の大きなスーパーやホームセンター、お寿司屋さんに行くのがかえって楽しみになりました。これもまた埼玉で暮らしていた頃とは違った感覚ですね。」

 

農業も、地域の人との付き合いも、やればやるだけ返ってくる

現在では集落の消防団に入団し、息子さんが通う小学校のPTA会長も務める浅香さん。都会では人付き合いなしでも生きていけるけれど、50人ほどの小さな集落では、地域の人との信頼関係を築くことが重要、と語ります。

「一生懸命やればやった分だけ返ってくるのは、農業でも地域の人との関わりでも一緒。そういったストレートなところがやりがいでもあるし、同時に憧れだけではやっていけない部分でもあると思います。」

雄士くんが通う薩川小学校
▲雄士くんが通う薩川小学校

地域の方との関わりで気を付けなければいけないことはどういう点か。そう聞くと、浅香さんは、ゆっくりとこう話してくださいました。

「そんなに難しいことではなく、ごくごく普通のことなんです。道ですれ違ったら挨拶をする、とか、集落行事に参加をする、とか、お互い助け合うなど集落の一員として暮らしていくのに必要な、本当に当たり前のこと。普通に、きちんと、暮らしていたら、見てくれる人は必ず見ていてくれます。」

これからは、現在あるパッションフルーツの販路をもっと拡大しつつ、冬場は現在50本植えてあるたんかんを100本に増やして育てていき、島暮らしをもっと楽しみたいそう。加計呂麻島の豊かな恵みがふんだんに詰まったカケロマあさか農園の果物が、全国津々浦々に届く日が楽しみですね。

この記事をシェアする

このエントリーをはてなブックマークに追加

取材先

カケロマあさか農園/浅香さん

埼玉県さいたま市より、2013年に鹿児島県大島郡瀬戸内町の加計呂麻島に移住。埼玉では消防士として働き、勤続25年を機に夢だった「海の側で農業を営む」ことを考え始める。各地で行われる移住フェアや農業研修などに参加し綿密な準備を経て、長男の雄士くんが小学校に上がる年に奥様の佳代さんと3人で加計呂麻島へ移住。果樹農家として、カケロマあさか農園をスタートさせる。


MAP

読み込み中
Furusato

Furusatofurusato

「Furusato」は、NPO法人ふるさと回帰支援センターが運営するWEBマガジンです。
出身地のふるさとに戻るUターンや地縁のない地方で暮らすIターン、定年退職後の田舎暮らしなど、さまざまな形で都会から自然豊かな農山漁村へ移り住む方々のお手伝いをしています。
各県の移住相談員がお待ちしていますので、東京・有楽町のふるさと回帰支援センターまで、お気軽にお越しください!

[WEB]
Furusato:http://www.furusato-web.jp/
ふるさと回帰支援センター:http://www.furusatokaiki.net/

RELATED関連記事

NEW

POPULAR ARTICLE人気の記事