仕事にも子育てにも余裕ができた―家族のために移住・起業した河村さんの米子生活

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米子市の中心部にある「本通り商店街」。その一角に店を構える「マカロニ食堂」は、薪(まき)を使った石窯で焼き上げる本格派ピザが人気の、ピザとパスタのお店だ。
店のオーナーシェフである河村和人さんは大阪の出身。学生時代に大阪で、米子出身の佳代さんと出会った。卒業後は2人とも大阪で就職し、結婚。間もなく長男が生まれて、家族3人での生活をスタートさせた。
大阪で料理人としてのキャリアを順調に重ねていた河村さんが、佳代さんの故郷である米子へのIターンを決めた理由は「子育て」だったという。米子での暮らしを「仕事にも子育てにも余裕ができた」と語る河村さんご夫妻に、移住の背景や苦労などを伺った。

このままでは破たんする―仕事のキャリアを捨て、家族のために移住

当時、河村さんは大阪のイタリア料理店で、新規店舗の立ち上げなどを任され、毎日夜遅くまで仕事に没頭していた。一方、子育てのために仕事を辞めた佳代さんは、まわりに頼れる人もいない大阪での初めての子育てに、ストレスを募らせていたという。

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「私が余りにも仕事一色の生活をしていたもので、家のことは妻に任せっきりにしていたんですね。家族の時間も持てない中で、妻もだんだんと疲弊していきました。そんなある日、『このままじゃ破たんするな』という予感がしたんですよ。破たんを回避するにはどうすればいいか、考えに考えて、出した結論が、『米子に行く』ということだったんです。」

結果として仕事よりも家庭を優先することを決めた河村さんは、すぐに移住に向けて動き出したという。順調だった仕事を辞め、次の仕事も決めないまま、佳代さんの実家がある米子に移り住んだ。当時、大阪での子育てで疲れ切っていた佳代さんも、この迅速な行動には驚いたという。

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「米子にいつか帰れたらな、とはうっすら思っていましたけれど、まさか本当に戻ることになるとは思いませんでした。」

佳代さんはご主人よりも一足先に実家に帰り、両親の助けもあって少し落ち着きを取り戻したという。その後、実家近くに家を借り、夫婦と子ども、3人の新しい生活が始まった。

とはいえ、河村さんにとって米子は「結婚の時に挨拶に来たぐらいの場所」であって、生活するのは初めて。しかも仕事も何をするかまったく決まっていない、「ノープランでのIターンでした」と振り返る。土地勘も無く、人脈も無い中で、河村さんは手探りで仕事探しを始めた。
「いざ探し始めてみると、仕事は確かにあるんだけど、大阪に比べるとやはりお給料が少ないんですよ。いくら環境が良くて、空気が美味しい、水が美味しいと言っても、お金はやっぱり必要じゃないですか。そうなった時に、選択肢として残ったのは、『起業』という選択だったんです。」

 

慣れない街での初めての起業

起業を決めた河村さんはまず、商工会議所が主催する起業のセミナーに参加し、ノウハウを学んだ。その後、市から開業資金の融資も取り付け、金融機関の紹介でこの物件にめぐり会った。

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イタリア料理に関する知識や経験は豊富で、トラットリアやリストランテなど、より高級なスタイルの店も出すこともできた河村さんだが、この場所で、より多くの人々に親しんでもらえる業態は何かと考えた結果、「ピザとパスタの店」に決めた。

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「慣れない街で、自分でやる最初の店でしたから、一番失敗できないタイミングじゃないですか。だから、ここでやるならピザかな、と思ったんです。この辺りにも、ピザの店は沢山ありますけれど、薪窯で本格的なナポリピザを出す店は無かったんです。だから十分に勝負ができるな、と。」

 

地元の人々に支えられて、お店をオープン

こうして、オープンに向けた準備が始まり、イタリアのナポリから薪窯を買い付け、壁を抜いて窯を店内に運び入れた。手探りで行う店の準備は相当に大変だったそうだが、工事関係者をはじめ沢山の人々の協力に助けられたという。店の準備期間中に2人目の子の妊娠がわかったことも、河村さんを鼓舞した。偶然にも、開店の3日前に次男が誕生。「マカロニ食堂」は、新しい命とともにスタートを切った。

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「主人も米子に来て、幾つか勤めを経て(起業を)決断したことだったので、もうそれしか無いのかなと、そう進んでいくしか無いのかな、という感じで見ていました。正直、不安はありましたね。」

奥さんは当時の心境をこう語る。その不安に反して、店はオープン早々、口コミで人気を集めて賑わった。その背景には地元の人々の温かい眼差しや、協力があったのだという。

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「新参者で何のゆかりも無い人が始めた店ですからね、そういう店を口コミで宣伝してくれる人がいたのは、本当にありがたかったです。そのうちテレビにも取材に来てもらったりして、最初は順調でした。でも、そこからじりじりと売り上げは落ちてきて、半年ぐらいの頃が一番きつかったですね。」

話題性が途切れたころに訪れる、スランプの期間。その期間も河村さんは必死にもがき、信じた味を作り続け、定休日にも店に立って研究や仕込みに勤しんだ。その頃は大阪時代と比べても苦しい日々だったという。そんな日々を乗り越えて、今ではお客さんの入りも安定。定休日もしっかり休めるようになった。

「今でも忙しさということでは大阪とあまり変わっていないんですが、家族と過ごす時間は増えましたね。同じ量の仕事をしても、家が近いし、融通も利くようになったので。 『この日はもうオフにして、家族と一緒にどこかに行こう』とか、そういうことができるようになりました。」

 

心に余裕ができて、子育てを楽しめるようになった

お店が落ち着き、ようやく、念願だった家族との楽しい時間を、安心した気持ちで過ごせるようになったという河村さん。それは、奥さんにとっても、子どもたちにとっても、幸せな変化だったに違いない。

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「米子での新しい暮らしについては、子どもはとくに何も感じずに、すんなり状況を受け入れてくれたと思います。それよりは私の変化が大きかったですね。大阪の頃は、主人は本当に帰りが遅かったので、子どもとしか喋らない日もありました。でも、こっちに帰ってきてからは地元の友達もいますし、両親もいますし、子どもは野生児みたいに実家の庭を駆け回って遊んでいます。向こうでは絶対にできなかった経験ですね。」

こう語ってくれた佳代さん。両親の助けも得ることができて、今では育児をする日々も楽しく、幸せな時間に感じているそうだ。最近では合間を見て、徐々に店の仕事を手伝うようにもなった。

 

米子は都会でも田舎でもなく、住みやすい

一方で、大阪生まれの河村さんにとって、慣れない米子の暮らしには不便や不安も多かったのではないだろうか。実際のところ、どう感じているのだろう。

「不便は何も無かったですね。むしろ家からすぐの場所に海があったり、山があったり、自然がすごく身近にあるというところに魅力を感じています。“何もない田舎”だとまた不安になると思うんですが、米子はそういう不自由や不安が無い、ほどよい感じでいいですね。」

米子に移住する前、奥さんからは「田舎だよ」と聞かされ、かなり身構えていたという河村さん。しかしいざ移り住んでみると、思っていたよりもずっと便利で、驚いているようだ。

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「お店に関しては、ここを拠点に、増やしていきたいと思っています。何事もトライし続けていきたいですね。それが温かく迎え入れてくれた、米子の人への恩返しだと思っていますので。」

最初は不安を抱えていた河村さん。しかし今は大きな目標を持って、新しいステップに踏み出そうとしている。

 

住みたい場所があれば、まず飛び込んでみること

最後に、移住する人に対して、先輩としてのアドバイスを聞いた。

「ネガティブな面というのはあまり無いんですが、敢えて一つ挙げるのであれば“仕事”ですね。仕事については、ある程度目星を付けてから来るほうが良いと思います。
新しい事業を始めたいという人にとっては、米子はやりやすい土地だと思いますよ。 大都市に比べて人口が少ない分、都市ではすでに広まっていることでも、米子ではまだやる人がいなくて、目新しくて注目されやすいっていうのもあります。」

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「働く選択肢って、色々あるじゃないですか、起業もその一つですけれど、たとえば、僕があまりお給料がもらえないところへ勤めたとしても、妻が別のどこかに働きに出れば、それはそれで成立できると思うんですね。今はたまたま、(起業という)この形で収まっていますけれど、そういう可能性もあったわけです。だから、あまり身構えずに、まずは来てみたらいいんじゃないかな。」

行きたいという場所があれば、まず身を置いてみること。そうすれば、誰かが力になってくれる。それが河村さんが経験から見出した結論だ。手探りで移住した米子の地では多少の苦労や不安もあったが、地元の人々に助けられ、商売を軌道に乗せることができた。

「今度は自分がしてもらったことを、誰かにしてあげたい」と語る河村さん。米子移住を迷っている人は、一度「マカロニ食堂」を訪れてみてはどうだろう。

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取材先

マカロニ食堂

住所:鳥取県米子市四日市町46
電話番号:0859-30-2955
営業時間:11:00~15:00(14:00LO)
17:00~22:00(21:00LO)
定休日:月曜日
ココロココ編集部

ココロココ編集部cocolococo

ココロココでは、「地方と都市をつなぐ・つたえる」をコンセプトに、移住や交流のきっかけとなるコミュニティや体験、実際に移住して活躍されている方などをご紹介しています! 移住・交流を考える「ローカルシフト」イベントも定期的に開催。
目指すのは、「モノとおカネの交換」ではなく、「ココロとココロの交換」により、豊かな関係性を増やしていくこと。
東京の編集部ではありますが、常に「ローカル」を考えています。

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