記事検索
HOME > ライフスタイル > コミュニティ >
2014年10月20日 吉田航

働く場を通して街に人にアクションを新しいシェアオフィス「上町荘」

新しいようで懐かしい?屋上菜園とイベントスペースのあるシェアオフィス「上町荘」

ワークライフバランス、ノマドワーク、クラウドワーク、コワーキング、ここ数年で新しい働き方を示すような言葉を沢山聞くようになりました。高度成長期以降画一的だった幸せのモデル、働き方のモデルは21世紀を過ぎて耐久性を失い、細分化、多様化の方向へと向かっています。今回、大阪市内にある「上町荘」というシェアオフィスの取材に訪れ見つけた、新しいようで懐かしい、懐かしいようで新しい、働く場所の在り方をご紹介します。

 

シェアオフィス「上町荘」の始まり

大阪市内のキタの繁華街とミナミの繁華街に挟まれた「谷町」と呼ばれるエリアで、昔ながらの町家も残る、いわゆる”下町”といった雰囲気の場所に「上町荘」はあります。2013(平成25)年の7月に建築家の白須寛規さんと山口陽登さん、それに大工である伊藤智寿さん3人のシェアオフィスとして「上町荘」が始まりました。

「上町荘」外観

白須さん「もともと山口とは同じ大学でした。卒業してから数年後に一緒にシェアオフィスを構えようという話になって、その時に仕事でつながりのあった大工の伊藤も誘いました。」

伊藤さん「前は文化住宅の一室を借りて事務所にしていたのですが、何か面白い事が起こりそうな雰囲気が全くしませんでした。人も呼びにくいですし、別の場所に移ろうかと思っていた時に、丁度誘ってもらいこの場所に来る事になりました。」

山口さん「そんなふうに、始めは3人のシェアオフィスとして考えていたのですが、広すぎて自分達だけではこの場所が持つポテンシャルを生かし切れないと気付きました。それから徐々に仲間を集め始めましたが、始めから沢山の人達でシェアオフィスをやろうというような想定ではなかったですね。」

韓国料理店だったという空きビルを、3人がシェアオフィスとして使い出し、少しずつリノベーションも行われ(現在も進行中)、今年の1月以降は新たに6人のメンバーが上町荘に加わりました。デザイナー、カメラマン、アーティストと色々な職種の人達が集まっています。特にクリエイティブ系の仕事をしている人に限って入居者を募集したわけではないそうなのですが、ここに集まった人達はフリーでそれぞれに仕事をしていて、それぞれに仕事場について思う事があったようです。自宅で一人で仕事をしていると、ついだらけてしまう。住む場所と同じだと、打ち合わせでも人を呼びにくい。仲間がいるような環境で仕事をしたい。そんな風にそれぞれがどこかに良い場所がないかと探していて、吸い寄せられるようにしてこの場所に集まってきたのです。

ミーティングスペース
 ▲1階ミーティングスペース

緩やかな繋がりの生まれる空間で仕事をする

現在は、2階の一室を棚でスペースを区切り、それぞれに机を並べて仕事をしています。ただ、一人一人のスペースを完全に分けてしまうのではなく、緩やかに繋がっている状況というのがとても良い効果を生み出していました。ごく身近な所で異業種の人達が仕事をしているというのは、ちょっとした事も気軽に相談出来るだけでなく、違った視点から物事をみたり考えたりする事が出来るので、一人で仕事をしているのとは全く違った環境があるようです。

白須「外に出掛けていて、ここに帰って来た時にただいまと言うような気持ちになれるのが良いなと思います。」

山口「もし個人で事務所やっていたとすると、コピー機や本棚、キッチンも全て自分で揃えないといけないですから、シェアオフィスというのは凄く効率的だなと思います。」

伊藤「ここに来てから沢山の人に出会うようになりました。自分だけだと出会う事のなかったような人達に出会えるのは、何にも代え難いものだと思います。」

オフィススペース
 ▲2階オフィススペース

外へと開かれた空間で、人と出会う

内観

「上町荘」には机が並べられた2階のオフィススペース以外に広いミーティングスペースが1階にあります。大きな窓から光が入り外からも様子が伺えるとても開放的な空間です。普段は打ち合わせなどに使っているようですが、それだけでなく積極的にイベントなどにも活用されています。白須さんが建築家の方をゲストに招いて対談をする「Shirasu Night」というイベントや、仕事で出た廃材を使って物作りを楽しむ「DIY カフェ」というイベントが定期的に開催されています。またその他にも展示会や音楽イベントなど外部へのレンタルスペースとしても活用されています。今後はコワーキングスペースとしての活用も考えているようです。

トークイベント
▲トークイベント「Shirasu Night」 の様子

白須「ここは、まだまだ作りながら使っていっているという状況なので、すぐには始められないですが、平日はコワーキングスペースとして使えると良いなと思っています。そうやって、色んな年齢層の人が集まればと思います。例えば、普通に仕事をするだけでなくて、近所のおばちゃんがしゃべってるとか、学生が宿題をしているとか、そんな地域の集会所的な使い方も出来るのではと思っています。」

人を育み自分自身を育む場所で働く事

働くとは一体どういう事なのでしょうか。1日の内で8時間程度働くとして、人生の内で3分の1近くの時間を働く事に使っている事になります。一人きりで仕事を抱えるのでもなく、大きな組織に言われるがまま仕事をこなすのでもなく、「上町荘」の様な個人個人が緩やかに繋がる事の出来るスペースがあれば、仕事はもっといきいきとしたモノに変わっていくのではないでしょうか。

取材を終えて、最後に屋上に上がり集合写真を撮りました。屋上菜園を始めたとの事で、皆植物の成長の様子が気になるようでした。場所を共有して働く姿というのは、皆で畑に出て農作業をする姿にどこか似ているかもしれない。ふとそんな事を感じました。

集合写真
▲上町荘の屋上で

取材先

シェアオフィス「上町荘」

吉田航
記事一覧へ
私が紹介しました

吉田航

吉田航1980年生まれ。Berklee College of Music 卒業。芸術企画室・月夜と少年主宰。 大阪のオルタナティブスペースでディレクターを務めた後、2008年に独立し「gallery 月夜と少年」をオープン。2012年に閉廊後は「芸術企画室・月夜と少年」として特定の場所を定めずに、国内外様々な場所で展覧会や音楽イベント等の企画を行う。日常の生活で掌からこぼれ落ちてしまったもの、忘れ去られてしまったもの、そんな物に再度柔らかな光を当て、豊かに生きる為の知と美の再発見を提案している。

関連記事

人と風土の
物語を編む

 「風土」という言葉には、地形などの自然環境と、 文化・風習などの社会環境の両方が含まれます。 人々はその風土に根ざした生活を営み、 それぞれの地域に独自の文化や歴史を刻んでいます。

 過疎が進む中で、すべての風土を守り、 残していくことは不可能であり 時とともに消えていく風土もあるでしょう。 その一方で、外から移住してその土地に根付き、 風土を受け継ぎ、新しくつくっていく動きもあります。

人と風土の物語を編む