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2021年11月8日 西村祐子

コロナ禍で決めた小田原移住。夫婦でハードな仕事を継続しながら、豊かな家族時間を楽しむ横山遼さんの心地よい暮らし

横山遼さんは、フリーランスで活躍する人事・経営支援コンサルタント。WEBマーケターとして活躍する妻と3歳になる娘さんとともに、2021年1月に神奈川県小田原市に移住してきました。以前は東京都心での生活を満喫していた横山さんが小田原に惚れ込んだ理由とは? 移住の経緯や現在の暮らしぶりをお伺いしました。

コロナ禍のリモートワークが、働き方や子どもの環境を考えるきっかけに

新型コロナウイルス感染症の影響が出始めたのが2020年の冬。横山さんはちょうどその時期、今まで働いていたスタートアップ企業の上場を機に独立することが決まっていました。

「今は主にエンジニアと人事採用を繋ぐお手伝いと組織のマネージャー育成という事業を行っているのですが、独立してすぐ全部リモートワークになってしまって。妻の会社は原宿ですが、こちらも全部リモートになりました」

それまで東京都内、会社にも近い五反田に住んでいた横山さん一家ですが、東京での暮らしには、家賃の負担や子どもの教育面でも不安がありました。

「子どもができたときに、オフィスの目の前のマンションを借りたんです。通勤が楽なのでそれは正解だったんですけど、娘が大きくなってきたときに、この街なかで暮らしているのか?と。外に出ても子連れで遊びに行くところも少ないし、生活コストのことも考えたら、今は東京にいる理由もないねという話になって。小田原がいいらしい、という話は妻が調べて提案してきたんです」

その時、横山さんの頭にある小田原のイメージは「お城」くらいのもので、自然が豊かで海も近いという特徴にも全然興味をそそられませんでした。

「自分は北海道・北見出身で街のどこからも山が見える環境で育ったもので、自然が嫌いだったんです。大学から横浜に出てきてそのままずっと都会暮らしで、酒場に入り浸るような生活でしたから。ただ、これからの子どもの教育を考えたときに、妻が調べていた、小田原にある三の丸小学校というユニークで元気な公立の小学校には興味があって。まずは市が主催している体験移住に参加することにしました」

「体験移住」プログラムに参加してその場で移住を決意

2020年夏に2泊3日のお試し体験移住プログラムに参加した横山さん一家は、すぐに小田原に惹かれていきました。

「初日に市の担当者が車でぐるっとまちを案内してくれたんですが、「すげえなここ」って一発で気に入っちゃって。海があって、すぐそばに箱根の山並みが見えてすごく落ち着くんです。
自分は都会好きで、海にも何の思い入れもなかったんですけど、海岸に来てみたらすごく静かで綺麗で、波の音を聞いていると心がすごく穏やかになっていくのがわかって。小田原は山も川も海もあって街の規模もちょうどよくて。なにより出会った人がすごくいい人ばかりで、すごく歓迎してくれた感があったのも決め手になりました」

箱根や湯河原などの温泉地が見える小田原の海岸

他地域での移住も考慮に入れていた横山さんですが、このプログラム参加の3日間で、すぐに移住することに決めて、その足で不動産屋に挨拶に行ったというから驚きです。

小田原は温暖で気候がよく過ごしやすいことも気に入っているポイントのひとつだと話します。

「ようやく四季全部を経験したんですが、夏がすごく気持ちいいんですよね。都内と同じ温度だとしても、湿気のムワッとしたのがほとんどなかった。妻も昔住んでいた「カリフォルニアの気候と同じ!」と言ってすごく気に入ってます」

御幸の浜(みゆきのはま)へ向かう道沿いにあるかわいい看板

食もリゾートも、家の周辺で楽しめる小田原暮らし

移住して約1年、今では小田原暮らしを存分に満喫している横山さん。その居心地のよさは食の充実にもあるようです。

「うちはかなり外食する家なんですが、小田原は外食も安いんですよ。料理も好きで、自分は中華が得意だったんだけど、近所に中華料理屋もあってめちゃくちゃ安くて美味いから、作る回数が減っちゃった(笑)」

外食するレストランの豊富さ、質の高さに加え、スーパーで売られている野菜や魚、肉も安価だといいます。特に魚は出荷される漁港が近いため種類も豊富。採れたての海鮮を買って、浜でBBQするのが最高!と話します。

お気に入りの浜で海をみながらぐびり

また、小田原はリゾート地として名高い箱根の玄関口。日帰りでリゾート気分が味わえるのも魅力です。

「先日、仕事が少し落ち着いたので、金曜日に夫婦共に休みを取って、1日近場で楽しみました。まず朝、早川漁港に行って港の食堂で朝食。干物を買って、箱根湯本までバスで15分。箱根の山を少し散歩して、日帰り温泉に立ち寄って。平日だとほとんど貸し切りで交通費込みで2000円以内。掛け流しの素晴らしい露天風呂の中で「こういうのがやりたかったんだ!」って叫びました。小さな贅沢が気軽にできるのが小田原のすごいところだと思います」

リゾート気分が味わえる小田原ですが、新幹線とJR東海道線、小田急線など都内へ向かう複数の選択肢があるのも便利です。横山さんはよほどのことがない限り都内へ出向かなくなったそうですが、新幹線を使えば品川まで26分、都内への通勤する人が多いのも納得です。

2020年にオープンした駅前施設「ミナカ小田原」

普段の暮らしは、娘中心に回っているという横山さん。家からの徒歩圏に、公園や何気ない空き地のような場所がたくさんあるので、遊ぶ場所に悩まなくなったそう。

芝生が広がる空き地 空間スペースに余裕があるのが心地いい

「土の匂いを嗅ぐと和みますよね。娘が草むらでとんぼを追いかけたりしているのを見ると、東京暮らしではおそらくこのシーンはなかっただろうな、と思います」

突然の移住から1年、東京時代と変わらない仕事内容をこなしつつ、時間的にも気分的にもゆとりのあるライフスタイルを着実に築いているようです。

新しいことにチャレンジしやすいまちの環境が魅力的

新たな地元となった小田原で、横山さんはまちの人たちとどのように交流を深めているのでしょうか?

「やっぱり子どもがいるとなかなか夜も出歩けないし、今はよく行く地元のお店の方との交流がメインです。東京時代は飲み屋に入り浸って知り合いを作るのが定番だったんですが、このご時世だとそういうのもやりにくいですから。
ただ、体験移住でお世話になったゲストハウスTipy Records Innの内田さんや毎日のように顔を出す酒屋の箱根屋さん、ジェラート屋の龍宮堂さんなど、仲良くしてるみなさんは顔が広いし、何か困ったら彼らに聞けばわかるから不安はないですね」

創業400年になる老舗酒屋の「箱根屋」さんとは家族ぐるみで仲良しだとか

御幸の浜に向かう道沿いにあるジェラート店「龍宮堂」

まだ移住して1年目、今は意識的に大きく関わりを広げなくてもいいかな、と話す横山さんですが、小田原に来て将来の夢や展望は大きく広がっているようです。

「自分はお酒とその場が大好きで、以前銀座で週に1回だけ間借りのスナックをしていたことがあるんですが、そういう場づくりを小田原でもできればと考えています。ビルを借りて2階と3階をコワーキングスペースにして、1階は路面でバー・スナックみたいな場所をつくりたいんです。営業時間は遅くまでやらないで夜は寝ろ、みたいな健全な店をやってみたいですね」

横山さんの妻エリさんも、小田原の海辺で小さなバルをやってみたい、と夢が広がっているといいます。

「彼女はワインが好きだから、(酒屋の)箱根屋のお母さんとタッグを組んでワインを仕入れて、なんて考えてます。やっぱりこの辺りは賃料が安いからチャレンジしやすい環境なのがいいですね。もし駄目でもそこまでダメージじゃない。銀座だとごく小さいスペース借りるだけでも保証金で何百万ですからね」

今は自分の事業優先のため、具体的には手をつけてない部分もあるけれど、今後はもっと小田原のまちのためになるようなことにも関わりたいと話す横山さん。

小田原市には、駅前に小田原市在住で登録した事業者は無料で利用できるコワーキング&イベントスペース「おだわらイノベーションラボ」も整備され、市内で起業開業する人などを応援する仕組みも整っています。

ミナカ小田原内の公民連携・若者女性活躍推進拠点「おだわらイノベーションラボ」

東京都内から比較的近距離、仕事も変えずにライフスタイルが大きく広がった横山さんの生活の様子はいかがでしたか?
まちの情報や生活水準、気候などを事前に知っていると移住する際により安心感が増します。すべてを捨てて移住するといった「片道切符」のような覚悟の必要な移住ではなく、今の仕事やライフスタイルを大切にしながら新しいことを始める環境を後押ししてくれる近距離移住は、コロナ禍を経た今後の大きな流れになっていくのかもしれません。

取材先

横山遼さん

北海道北見市出身。横浜の大学に進学後、都会暮らしを続けていたが、2021年1月に妻と3歳になる娘とともに小田原に移住。仕事はフリーランスの人事・経営支援コンサルタント。

西村祐子
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西村祐子

西村祐子人とまちとの関係性を強めるあたらしい旅のかたちを紹介するメディア「Guesthouse Press」編集長。地域やコミュニティで活躍する人にインタビューする記事を多数執筆。著書『ゲストハウスプレスー日本の旅のあたらしいかたちをつくる人たち』共著『まちのゲストハウス考』。最近神奈川県大磯町に移住しほどよい里山暮らしを満喫中。

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 「風土」という言葉には、地形などの自然環境と、 文化・風習などの社会環境の両方が含まれます。 人々はその風土に根ざした生活を営み、 それぞれの地域に独自の文化や歴史を刻んでいます。

 過疎が進む中で、すべての風土を守り、 残していくことは不可能であり 時とともに消えていく風土もあるでしょう。 その一方で、外から移住してその土地に根付き、 風土を受け継ぎ、新しくつくっていく動きもあります。

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