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2017年3月22日 Furusato

木工用ボンドを使った独自の「ボンドアート」で、医療・地域・世界をつなぐ!

木工用ボンドに絵の具を混ぜて絵を描く「ボンドアート」の手法を生み出し、画家として活動する冨永ボンドさん。西九州大学リハビリテーション学部で事務職として勤務する傍ら、「つなぐ(接着する)」をテーマに、「アート」「医療」「地域」「世界」をつなぐため、多岐にわたる活動をしています。佐賀県多久(たく)市という人口2万人の自然豊かな町にいながら、ニューヨークやパリのアートフェスに参加しギャラリーと作家契約を結ぶなど、作家として幅広い活動をされるボンドさんに、移住までの経緯や現在の活動について伺いました。

絵の描き方を知らなかったからこそ生まれた、新しいアート

ボンドから作られる作品▲絵を生み出すボンド

福岡県出身のボンドさんは、専門学校で家具のデザインを学んだ後、家具メーカーや印刷会社で働きながら、大好きだった音楽関連の活動も趣味として続けていました。20代前半には、友人たちと音楽イベントを主催し、そのイベントのポスターやフライヤー、CDジャケットなどのデザイン・制作を担当していました。

「会社が終わってから制作していたので、徹夜も多かったですね。お金は全然もらえなかったけど楽しかったんです。色々な画像を組み合わせて作るコラージュ技法が得意で、それがまるで接着剤で画像がくっついているみたいだったから、デザインの仕事は「Bond Graphics」という屋号で請け負うようになりました。」

インタビューに応える富永ボンドさん

今でこそアーティストとして活動しているボンドさんですが、26歳までは絵を描いた事がなかったのだそう。音楽イベントを主催する中で、「もっとミュージシャンと近づきたい」という思いから、自分自身も何らかのかたちで「出演者」として関りたいと考えるようになったそうです。

「DJもダンスもラップもできない。だったらライブペイントをしてみようかなと思い立ったんです。でも、絵を描いたこともないし、下手。描き方も知らなければ画材のことも知らなくて。その時、屋号が「Bond Graphics」だったので、木工用ボンドに色を混ぜてみようと思いついて。ホームセンターに行き、ペンキとボンドを買ってきて描いたのが始めです。描き方を知らないから、ベタベタと色を塗って、塗った面の間を絵の具を混ぜた木工用ボンドで縁取る。この方法しか思いつかなかったんです。」

 

「アート」と「医療」をつなげるために

ボンドさんの作品

ボンドさんの作品にはインパクトがあります。キャンバス上にマットに塗られた鮮やかな色彩、それらを結びあるいは分断する光沢のある黒いライン。ボンド独特の光沢と色鮮やかな色彩がちりばめられたボンドアートは、感覚的に楽しめるため、アートセラピーといった医療の現場でも取り入れられています。福祉施設や病院で行われるボンドアート体験ワークショップの対象者は、主に認知症・精神障害・発達障害のある方たち。作業療法士である奥様の存在もあって、重度認知症のデイケアでワークショップを開催したのがきっかけでした。「アートに失敗はない」をキーフレーズに、絵を描くことに集中すること、その楽しさを伝えています。そして、小さな成功体験の積み重ねによって、参加者が自信を得ていくのだそうです。
※アートセラピー…アートを通じて、自分の心を回復させたり、成長させたりすることを目的としたセラピー技法

ペンキとスマートフォンのケース▲ペンキと持ち歩ける作品・スマートフォンケース

 

アートの力で、地域に活気を

ボンドさんの作品は大きなものが多く、作品の保管場所となる倉庫を探していました。たまたま訪れた不動産会社で、多久市を盛り上げたいと奮闘する同世代の男性に出会い、現在アトリエとして利用している物件を、都市部では考えられないような賃料で紹介されたのだそう。約100坪の大きな倉庫は、以前事務所として使われていたため建物の状態もよく、家具メーカーでのデザイン経験があったボンドさんは自分好みに内装を変えて、バーカウンターやDJブース、ゆったりとくつろぐことのできるソファ席などを作りました。

ボンドさんの拠点のアトリエ▲拠点となるボンドバ

このアトリエが、町のにぎわいづくりをコンセプトにした「ボンドバ」です。毎週金曜日のBar営業日や月に一度のアトリエ開放日には、ボンドアート体験やボンドさんの作品を鑑賞しに市内外から多くの人が集まります。Bar営業の時には、オープンと同時におじいちゃんとおばあちゃんでカウンター席が埋まることもあるという、微笑ましいエピソードも聞かせてくれました。

「多久市周辺の若い人たちが毎週のようにボンドバに来てくれるんですが、もうファミリーみたいになっていて、新しいつながりが生まれ、コミュニティができているんです。だから、ボンドバの2周年は、彼らと一緒に迎えたいなと思っていました。」

バーも営業している▲コミュニティーをつなぐBarに

2016年7月末に行われたボンドバの2周年感謝祭では、近くの広い空き地も利用してマルシェを同時開催。佐賀県内で雑貨やアクセサリーなどを扱う作家90人に出店してもらい、九州在住のライブペインターを80名呼び、来場者は1,400人に上りました。ライブペイントに音楽とダンス、アート体験に雑貨販売とおおいに盛り上がりました。

ボンドさんの地域にまつわる活動は、他にもあります。多久駅を中心とした中心市街地に、様々なジャンルのアーティストがウォールアート(壁画、シャッターアート)を描く「多久市ウォールアートプロジェクト」。ボンドさんもこのプロジェクトに協力しており、現在、いつでもだれでも無料で鑑賞できるパブリックアートが、まちなかにボンドさんの作品を含めた14点が存在しています。もともとは商店街の活性化を模索する中から生まれたこのプロジェクトは、中心市街地へとその範囲を広げ、100点の作品を目標として現在も着々と動いている勢いのあるプロジェクトなのだそうです。

 

自分が楽しむことで、夢を叶え、人が集まる

ボンドアートを楽しむ子ども▲子どもから大人までアートを楽しめる

ボンドさんが移住してきた当時の印象的なエピソードがあります。移住当初、地元の人たちに「なんで多久市に来たの?」と会うたびに言われたボンドさん。それに対しボンドさんは、「なんでって聞くのは失礼だから、ようこそって言いましょうよ。ようこそって言ってもらいたいものなんですよ。」とひとりひとりに伝えていったそうです。

「『ようこそ』って言えるような町づくりをしていきましょうっていうのはずっと言っています。でも、この町を活性化させようなんてことは正直思っていなかったんです。福岡ではこんな大きなアトリエを持つことも、大きな予算を使ってアートプロジェクトすることもできませんでした。多久市に移住してただ自分が楽しくてやりたいと思うことを一生懸命やっていて、それが結果的に町のにぎわいを作っていってるだけなんです。ひとりひとりがそれでいいんじゃないかなって思うんですよ。最初から『町のために』とか考えるんじゃなくて、まずは自分のことを一生懸命に。」

ボンドさんは、特にクリエイターにとっては、地方で暮らし、活動することに大きなメリットがあると話してくれました。

「多久はまだこれからの町です。まだアートに関しては発展途上だからこそ、私たちのようなクリエイターにとっては創作しやすい。どうしても外に目が行きがちですけど、楽しみって自分で見つけるものじゃないですか。なければ作ったらいいんですよ。多久市には空き物件があって、家賃2、3万円なんてのもよくあります。副業だとしても、本当に自分がしたいことができると思います。地方で夢を叶える。いいですよね。」

ボンドさんと作品

取材先

「ボンドアート」画家 冨永 ボンド(とみなが ぼんど)さん

木工用ボンドを使って描く画家。創作テーマ「つなぐ(接着する)」に基づき、「アート」「医療」「地域」「世界」をつなぐ(接着する)作家活動を通して、画を描く作業の大切さをより多くの人に伝えるため、「即興絵画パフォーマンス」や「アートセラピー」、「アートでまちおこし」や「世界のアートフェス挑戦」など幅広い分野で活躍中。

抽象的な画のモチーフは全て”人間”。黒い立体的なラインと多彩な色彩が特徴の通称「ボンドアート」と呼ばれる独自の画法は、2014年ニューヨークで開催された世界最大級のアートフェス「ART EXPO NEW YORK 2014」や、2016年パリで開催されたルーブル美術館「Art shopping」でも高く評価された。ラジオ、テレビ出演多数。夢は世界一影響力のある画家になって、医療福祉の分野を支援すること。キーフレーズは「アートに失敗はない!」
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