記事検索
HOME > はたらく > ものづくり >
2016年10月28日 木村 知子

湖と森の国から | 滋賀とフィンランドの暮らし方 イベントレポート

2016年9月24日(土)、東京・入谷にある「SOOO dramatic!」にて、滋賀移住・交流促進協議会が主催するイベント『湖と森の国から | 滋賀とフィンランドの暮らし方』が開催されました。

滋賀県といえば、琵琶湖を中心に据え豊かな緑に囲まれた県。フィンランドも「森と湖の国」と呼ばれるとおり、豊かな自然の中での暮らしが魅力です。この滋賀県とフィンランドの共通点を探りながら、滋賀県での暮らしについて考えたイベントについてレポートします!

テーマは「滋賀県とフィンランドの共通点」

中山郁英さん

まずは、ながはま市民活動センター・東京大学の中山郁英さんから、イベントのテーマについて説明がありました。テーマは「滋賀県とフィランドの共通点を探すこと」。それを通じて滋賀県の魅力を違う角度から発見し、そして今後の活動のヒントを探していきたいとのことでした。

夕暮れの琵琶湖

滋賀県とフィンランドの共通点といえば、湖と森。滋賀県とフィンランドの写真をそれぞれ並べた写真が紹介されましたが、森や穏やかな湖畔の景色は滋賀県かフィンランドなのか区別がつかないほど。そんなフィンランドによく似た景色に魅了された、フィンランド出身の宣教師たちが移り住んだことがきっかけとなり、国内唯一のフィンランド学校が誕生したのも滋賀県なのだそうです。そのほか、フィンランド語の愛称「Koti(ふるさと、家の意味)」が付けられたJR「永原」駅舎など、何かとフィンランドと縁の深い滋賀県。
中山さんの話の後は、滋賀県の豊かな環境の中で工芸や農業に携わる3名のゲストスピーカーより、滋賀県での暮らしの様子について語られました。

廃校の木造校舎を利用してギャラリー&菓子工房に

川端健夫さん

最初のゲストスピーカーは甲賀市に暮らす木工作家の川端健夫さん。
元々は農業を営んでいましたが、農業の足しにと学び始めた木工の活動を本格化させ、「mamma mia」というカフェ&ギャラリーをスタートさせました。「mamma mia」の店舗は元農業学校だった廃校の木造校舎を自分たちで改装したもの。壁を取り払ってゆとりを作りながら、木造校舎の雰囲気を活かして暖かみのある内装に仕上げることで、ゆったりとした時間の流れを感じられる空間が広がっています。
川端さんが尊敬する木工作家がフィンランドにおり、その方の工房を訪れたことがきっかけとなって、「mamma mia」でフィンランドに関する展示を行ったこともあるそうです。

広い間取りのギャラリースペースでは、作家とともに空間を作ることを意識しているそう。工芸の盛んな滋賀県らしく、「mamma mia」の周りには作家が多く暮らしており、日々の交流も盛んだとか。カフェで提供されるお菓子や料理は地元産の旬の食材が中心。豊かな自然の中で子育てをしながら、川端さんもシンプルで実用的、かつ暖かみのある木工細工を作り続けています。

 

滋賀県の水産業を支えた真珠の養殖業を支えていきたい

杉山知子さん

続いてのゲストスピーカーは大津市で琵琶湖真珠の専門店「神保真珠商店」を営む杉山知子さん。
かつて、琵琶湖やその周辺の湖沼では真珠の養殖業が盛んでしたが、湖の水質悪化により真珠をつくる貝が生育できる環境が激減。現在では数件の養殖業者が高度な養殖技術を受け継ぐのみとなっているそうです。

琵琶湖真珠の魅力は一つひとつ形が異なる、そのユニークさだと杉山さんは語ります。そのため、祖父、父と続いた商店を受け継いだ杉山さんは、より多くの人に琵琶湖真珠のことを知ってほしいとの思いから、2014年、実店舗をオープン。現在の住まいである大阪から大津までは電車で40分ほどで到着するため、毎日のように通っているのだそうです。また、滋賀県の中でも大津はやや都会的な雰囲気とのことで、おしゃれなカフェや休日には琵琶湖畔でヨガ教室なども楽しめるといったエピソードも登場しました。

 

環境と共生しながらの農業

石津大輔さん

3人目のゲストスピーカーは「針江のんきぃふぁーむ」代表の石津大輔さん。
農業を営む父親にコンプレックスを抱き、一度はファッションの世界へ進むものの、現在は「食と農を明日につなぐ」をモットーに安心・安全な米作りに邁進しているとのことです。

石津さんが米作りをしている高島市針江(はりえ)地区は「生水(しょうず)の郷」とも呼ばれるほど、豊かで綺麗な湧き水があふれる土地。子どもたちが田んぼで水遊び・泥遊びをする様子が昔からよく見られる、そんな日本らしい田園風景の広がる地区なのだそうです。

ただし、豊かな湧き水が逆に湧きすぎて困ることが多いのも、琵琶湖の広がる滋賀県で農業を営む際に難しいところ。水量のコントロールのために水路を整備したり、生産性を上げるために農薬を使用したりといった戦後の農地改革は農家経営に改善をもたらしましたが、その一方で田んぼに住む魚がいなくなってしまう原因にもなってしまいました。そこで滋賀県内では「魚のゆりかご水田プロジェクト」として、魚が遡上できるように排水路を改良する方法を考案。石津さんも排水路の設備を整え、人と自然、生物たちが共存できる環境を維持する農業を推し進めています。

 

滋賀県とフィンランドの共通点を探る

スリヤ佐野 ヨハンナ雪恵さん

3人のトークに続き、「日本フィンランド学校」卒業生であるスリヤ佐野 ヨハンナ雪恵さんの視点から、滋賀県とフィンランドの共通点について語りました。

そもそも「日本フィンランド学校」が滋賀県に誕生したのは、戦後京都にやってきたフィンランド人の宣教師たちが滋賀県の景色を目にして「故郷の景色にとても似ている!」と気に入り、生活の拠点としたことがきっかけのようです。最初は琵琶湖のほとりの教会の庭に自分たちの手で建てたプレハブ校舎からスタート。1986年に本校舎が完成するまで、子どもの数が増えるたびに建て替えや引っ越しを繰り返していたのだそうです。

このような「自分たちの手で」という姿勢は普段からフィンランドの人々の生活に根付いていて、ヨハンナさんたちが暮らした家も、両親による手作りなのだそうです。建物の解体現場に通って廃材を集め、最初に作り出したのがサウナだというのも、フィンランドの人たちの国民性が表れていますよね。

ヨハンナさんの視点から感じる滋賀県とフィンランドの共通点は、主に以下の4つだそうです。

  • 自然の中で暮らすことが好き
  • 手作りが好き
  • 古いものが好き
  • 素朴でシャイな人柄

こうして見ると、身近な生活の温度感がとても近そうな印象を受けますね。実際、ヨハンナさんたちが暮らしていた家がダム建設予定地となり、滋賀県を離れることを余儀なくされた折には近所の人たちが「娘が嫁に行ってしまうかのように寂しい」と別れを惜しんでくれたこと、そしてヨハンナさん一家も同じく滋賀県の人たちと別れることの寂しさが深く胸に刻まれたと言います。

トークのラストは、ヨハンナさんの姉が作ったという曲「ふるさと〜味噌汁ソング」をピアノで弾き語り。滋賀県での暮らし、近江の人たちの暖かさへの想いが込められた優しい曲に、会場一同じっと聴き入っていました。

 

「滋賀フィンコラボ飯」で交流会!

交流会で振舞われた「滋賀フィンコラボ飯」

トークイベントの感想や質疑応答を経て、イベントのラストは参加者全員での交流会を行いました。ここで振る舞われたのは「滋賀フィンコラボ飯」こと、滋賀県産の野菜などを使用しつつ、フィンランドの要素を取り入れたメニュー!一風変わった料理のラインナップに、会場のテンションは自ずと上がります。

参加者全員での交流会のため、会場では来場者だけでなくトークゲストや滋賀県に暮らすスタッフも参加。滋賀県の暮らしについて、またフィンランドの様子などについて話し、大いに盛り上がりました。

自分が置かれている環境について、客観的に見るというのはなかなか難しいものです。ですが、例えば今回のテーマのように、視点を切り替えて「フィンランドとの共通点を探す」ことで、改めて滋賀県の魅力を発見することができました。また同時に、来場者の方々にも滋賀県の暮らしの様子をわかりやすく伝えられていたイベントだと感じました。

木村 知子
記事一覧へ
私が紹介しました

木村知子

木村 知子愛知県出身。雑誌編集・ライター業やWebディレクション業を経てフリーランスに。NPO法人農音代表・田中の移住を当初は生暖かく見守っていたが、愛媛県松山市・中島産みかんの「幸せになれる味」や中島の人々の人柄に惚れ込み、農音に参画。広報宣伝部長・アートディレクターという肩書きながら、基本的には飛んできた来た球を打ち返す地味な係。

人と風土の
物語を編む

 「風土」という言葉には、地形などの自然環境と、 文化・風習などの社会環境の両方が含まれます。 人々はその風土に根ざした生活を営み、 それぞれの地域に独自の文化や歴史を刻んでいます。

 過疎が進む中で、すべての風土を守り、 残していくことは不可能であり 時とともに消えていく風土もあるでしょう。 その一方で、外から移住してその土地に根付き、 風土を受け継ぎ、新しくつくっていく動きもあります。

人と風土の物語を編む