ブログで気になった“先輩移住者”が教えてくれた二宮町の存在
穏やかな笑顔が印象的なササキワカバさんは青森県五戸町出身。岩手の大学を卒業し、広告代理店で数年勤めたのちに上京。東京では10年ほど暮らしましたが、トータル11回も引っ越しを繰り返したそうです。「暮らしていた場所に執着がなかったので、部屋の賃貸更新の度に引っ越していました」。
元々アレルギーなどがあったというワカバさん。結婚し子どもが生まれてから、より自然のある環境を求めて東京都内を西へ西へと移動しました。
「長女が3歳になるまで東京で暮らしていましたが、東京での子育ては大変でした。」
▲海沿いの町、中郡二宮町
より子育てしやすい場所を探していたワカバさんに転機が訪れたのは、2008年のこと。長女が3歳になる時に、人口3万人に満たない海沿いの小さな町・神奈川県中郡二宮町に、思い切って移住したのです。それまで二宮町には縁もゆかりもありませんでしたが、ご主人が二宮町在住のライター・塩谷卓也さんのブログ「湘南番外地」を読み、おいしいものがいっぱいあり自然豊かな様子が気になったことが、二宮町との出会いなのだそう。以降、ウェブデザインの仕事をしているご主人とお子さん3人の家族5人で二宮町に暮らしています。
▲二宮町の情報がつまったフリーペーパー
「二宮町って意外にグルメな地域で、塩谷さんのブログで紹介されていたイタリアンのお店に一度行ってみたいと思ったことが初めて来たきっかけです。東京からは離れていますけれど、『山田食堂』や『ブーランジェリーヤマシタ』など、おいしくておしゃれなお店が点在しているんですよ」
暮らしていて嫌な思いをしないのは初めて
二宮町へ移住しようと動き始めた当時は、自治体による移住への取り組みはあまりなく、すべて自力で行ったそうです。「二宮町には賃貸物件が少ないので、家族で住める一軒家を探すのに半年ほどかかりました」と、家探しの苦労を教えてくれました。ようやく見つけた賃貸でしばらく暮らした頃、長女が通う幼稚園の保護者会の役員になったことが、二宮町に定住する大きなきっかけになったと振り返ります。「人とつながることでここにいたいと思えるんですよね。」
これまで暮らしたどの町も、なにか合わないと感じてきたそうですが、二宮町に関しては、「暮らしていて嫌な思いをしないのは初めてでした。二宮町は住人の方との距離が近すぎず遠すぎない、それがちょうどいいんです」。
▲遊びに来ていたお母様も二宮町を気に入っているようです
現在の住まいは、2011年に新築した一戸建て。室内にカーテンやドアをつけない明るく開放的な家で、子どもたちがのびのびと育っている様子を伺うことができました。東京ではマンションに住んでいたため、上下階の人に気を遣っていたそうですが、今の家はそれがないので精神的に楽なのだそう。「鳥の声だけが聞こえてきていいですよ。東京では体調が優れないことも多かったのですが、今では心を落ち着けて子育てが出来ています。東京にいた時には気づかなかったけれど、当時はストレスがあったんだと思います」。
自然に囲まれた環境で行う「東京ハイジ」の活動
▲東京ハイジが制作した絵本
ワカバさんは大学生の頃から「東京ハイジ」というユニット名で、お姉さんと動画制作をしています。活動当初は大人向けのアニメがメインでしたが、現在は歯磨きの仕方が学べるアニメ『はみがきのうた』や仕掛け絵本『ゆきだるまとキラキラクリスマス』など、子ども向けの作品を多く制作しています。
海と山があり、穏やかな自然に囲まれた二宮町。しかし、創作活動を行うには刺激がある環境にいたほうがアイディアが浮かぶのでは?と尋ねると、「私は周りが静かなほうがいいんです。逆に姉は刺激があったほうがいいようで、都会の方が好きなんですよ。」
<自宅でできる仕事なので、鳥のさえずりが聞こえる作業スペースで子育てをしながら仕事をしているワカバさんですが、唯一大変なのが東京での打ち合わせが仕事によっては必要なこと。一番下のお子さんがまだ1歳で目が離せないため、現在はマネージメント契約を結び、マネージャーに支えてもらうことで、東京に行く回数を極力減らす工夫をしているそうです。
▲仕掛け絵本も手がけている
「東京ハイジ」では、アニメーションと二宮町の四季折々の自然や町民が生き生きと暮らす様子を織り交ぜた紹介動画『菜の花畑のニーノ~二宮町においでよ!~』を制作。総務省の「全国移住ナビ」で2016年4月1日に公開されると、5月~8月の市区町村動画ランキングで6位になり、話題になりました。
「二宮町の紹介動画を公募していることを知人が教えてくれて、地元を題材にした内容なので、おもしろそうだなと作ってみることにしたんです」。
すっかり二宮町の顔になったニーノとミーヤ
『菜の花畑のニーノ~二宮町においでよ!~』の登場キャラクター、ニーノとミーヤは二宮町の議会だよりや広報の表紙も飾るほど、町にとって欠かせない存在になっています。駅前町民会館などでトートバッグやカーマグネットなどのグッズも販売されていて、こちらも好評のようです。
▲『菜の花畑のニーノ~二宮町においでよ!~』の1シーン
「臨月の時に町にプレゼンテーションし、そして出産後の2015年9月から子育てをしながら半年かけて制作したため、本当に大変でした。でも、素晴らしい景色のスポットに初めて行ったり、人とのつながりが増えたりして、制作する中で二宮愛がさらに強まりました」。
ちなみに、紹介動画内の最後の「二宮の素敵なところをみつけてみませんか。」というメッセージは、二宮町と出会うきっかけになったライターの塩谷さんに書いていただいたそうです。
「撮影をしたカメラマンさんも、早く続きを作りたいねと話すほど、すっかり二宮町の魅力にはまったようでした。現在、ニーノとミーヤのその後を描いたアニメーションを制作中で、2016年12月末頃に公開予定です」と、楽しみな情報を教えてくれました。
(※取材は2016年10月下旬)
▲ニーノとミーヤが表紙の広報誌や議会だより
“普通”こそが一番の魅力だと教えてくれた町
これまで何度も引っ越しを重ねたワカバさんに、二宮町に定住して感じた魅力を改めて伺いました。じっと考えた末に返ってきたのは「普通なところですね」という、意外な答えでした。
「私も動画制作の際に、町の人に二宮町の魅力を尋ねたんですけど、皆さん普通なところとおっしゃって(笑)。でも本当に普通なところが一番なんです」。
今振り返ると、東京では常にストレスを抱えていたというワカバさん。「人ごみによるストレスがない普通、鳥や虫などが近くで暮らしている普通、夜には辺りが真っ暗になる普通。そんな“普通”が暮らしの上で何より大切なのだと二宮町が気づかせてくれました」。生活では車が欠かせないそうですが、日常の買い物にも困らず暮らしているそうです。「二宮は大磯や小田原の近くですが、周辺に比べて土地が手頃なので穴場だと感じています」。
最後に、神奈川県への移住を検討している方に向けて、メッセージをお願いしました。
「これまで住んだことのない場所や田舎に住むのは不安だと思う方もいらっしゃるかもしれませんが、うまくいかないことはないですよ」。
実際に名前も知らなかった小さな町に家族で移住してきたワカバさんならではの、心強いメッセージです。神奈川県のほぼすべての地域が都心への通勤圏内なので、近隣には移住してきた方も多いといいます。ご主人が都心に通勤して奥様が穏やかに子育てをしている方や、場所を問わない仕事をしている方などさまざま。
「現在は自宅で仕事をすることが多くなりましたが、主人も数ヶ月前まで都心に通勤していました。伊豆や箱根などの観光地も近く、海が近いので夏は海水浴ができるなど、自然を近くに感じられる環境です。とは言え、おしゃれな飲食店があったり、マルシェが開催されていたりと、自然が近くても田舎過ぎないのが神奈川県や二宮町のいいところですね」。
山と海、そして双方の恵みを生かした食と、都会から伝わる洗練された感性。それらを紹介するブログに誘われて移住したワカバさんが、ワカバさんならではの感性で全国へ向けて二宮町の魅力を発信しています。