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2017年12月13日 ココロココ編集部

リノベーションだけじゃない!「里山」から始まる二宮団地再生物語

神奈川県の中部、相模湾に面している二宮町は人口約28,000人のまちです。西を小田原市、東を大磯町に接し、東京から電車で70分ほどの距離に位置しています。また、近隣の大磯町とともに落花生発祥の地とされていますが、その知名度は高くありません。

そんな二宮町では50年前に建設された二宮団地の再生プロジェクトが注目されています。今回は、そんな団地の再生に関わる方々にお話を伺いました。

ベッドタウンとして開発された二宮団地の魅力と課題

造成中の二宮団地

二宮団地の地域で住宅地開発が始まったのは昭和30年代後半。二宮町では最初のベッドタウンとして、一戸建てを中心に、賃貸住宅や県営住宅等が建設され、全体で約87ha(隣接の橘町(現小田原市)約15haを含む)の大規模開発となりました。二宮団地を開発し、現在でも団地内に28棟の賃貸住宅や商店街を所有・管理運営する神奈川県住宅供給公社(以下、公社)団地再生事業部の鈴木伸一朗さんと同事業部で団地再生コーディネーターを務める(しとみ)健夫さんにお話を伺いました。

鈴木さん「二宮団地の特徴は、集合住宅の棟と戸建て住宅のバランスにあります。集合住宅が連なっている、いわゆる“団地”のイメージとは違い、全28棟が地域内の6ブロックに分散されていることです。」

鈴木伸一朗さんと蔀健夫さん

(左から)二宮団地について話す鈴木伸一朗さんと篰健夫さん

さん「分散していることで管理は大変ですが、よく考えて作られたんです。見晴らしのいいところにとか、日陰にならないようにとか、循環バスルートへの配慮とか。こういう団地は全国的に少ないと思いますし、私はいろいろな団地に関わってきましたが、ここが一番好きなんですよ。」

そんな団地も、開発から50年が経ち、建物の老朽化が目立つようになったことに加え、入居者自体も高齢化。エレベーターがないこともあり退去者が増え、空き家率が4割という状況になっています。また、二宮町自体の人口も減少が進んでおり、地域コミュニティの衰退が懸念されるなど、深刻な課題となっているのです。
さらに、団地のある町北部がその学区として指定されている「一色小学校」の児童数の減少も顕著です。1976年には1185名だった児童数は、2017年現在245名にまで減少しており、これ以上児童数が減れば、統廃合などを検討しなければならない状況にまで追い込まれています。

2016年、このような学区内の課題に対し「一色小学校区地域再生協議会(以下、協議会)」が発足。協議会は、二宮町と地域住民、そしてこのタイミングで二宮団地の再生プロジェクトに着手した神奈川県住宅供給公社により組織され、この三者が協力して地域の再生が行われることとなりました。

二宮団地再編プロジェクト ~湘南二宮 さとやま@コモン~

鈴木さん「公社のプロジェクトでは主に3つのことを行っています。賃貸住宅のコンパクト化、入居促進、団地と地域の魅力アップの3つです。まず、賃貸住宅のコンパクトというのは、現在ある共同住宅を28棟から18棟に集約する取組みです。」

鈴木さん「居住者の方には昨年説明会を開催しました。賃貸を終了することになった棟にお住まいの134世帯の方には最終的には平成36年までに移転をお願いしていますが、既に約90世帯に移転いただいています。」

しかし、団地を集約することで、空き家の数は減少しますが、入居よりも退去が多い現状の根本的な解決にはなりません。

二宮団地

建物の老朽化や退去者の増加など、さまざまな課題を抱えている

鈴木さん「そこで、もう2つ、“入居促進”と“団地と地域の魅力アップ”という取組みも行っているのです。」

「この団地と地域の魅力は何か」。
公社の中で話し合いが行われました。
出てきたキーワードが“里山”。
結果、このプロジェクトは「湘南二宮さとやま@コモン」と名付けられました。

鈴木さん「コモンというのはみんなの共有物を指しています。山を一つ開発したこの地域には、斜面地など、住宅になれなかった土地を公社が所有し続けています。また、団地周辺には公社が所有する山林や農地などもあり、それらを里山ライフを楽しむために使えるよう整備しています。」

田植えの様子

公社の持っている未利用地を共同菜園にして農作物の収穫を楽しんだり、共同水田では田植え・稲刈り体験を行ったりしています。また、町が所有管理している古民家も協議会が管理・運営することとなり、コンサートやバーベキューなどのイベントに利用されています。このような共有資産を活用し、イベントを開催することで、地域内外の交流や魅力発信を行ってきました。今年10月の「二宮こども音楽祭」など大きな音楽イベントも開催し多くの反響があったといいます。

コミュナルダイニング

「食」をテーマに人々が集う「コミュナルダイニング」

また月に1度、10~20人が集まって「歌声ダイニング」を開催している「コミュナルダイニング」も地域の重要な“コモン”の一つです。コミュナルダイニングは、公社の事務所がある百合が丘商店街の空き店舗をリノベーションしてつくられた、「食」がテーマのコミュニティスペース。通常は毎週水・木曜日の昼間に開放し、地元の親子連れなどが商店街で購入したお弁当やパンを持ち込んで食べるなどして活用されています。キッチンがついているため、貸し切り食事イベントを開催することも可能。毎月第4土曜日の「お食事会議」という名の飲み会では、地域外の方や二宮町への移住者、移住を考えている人も多く参加し、地域のことについて語り合っているといいます。

鈴木さん「イベント参加者は地域の方に限らないです。稲刈りでは世田谷からいらっしゃった方もいました。知らない人が二宮を知って、イベントに来て、つながってくれて、結果的に魅力アップや入居の入り口になればいいな、と思っています。」

実際にコミュナルダイニングを改装した際も、元々あった店舗の解体・内装工事は公社職員や地域の設計士・デザイナーなどで行われました。土地や場所だけでなく、ゆったりとした時間も共有するそのゆるさが二宮団地の“コモン”の特徴なのだと感じます。

“里山をコンセプト”に入居者アップ!? 50年前の団地をリノベーションした2人の匠。

プロジェクトに着手し、昨年12月にリノベーションプランを導入してから、この1年で、実際の入居についても「去年から1.5倍くらい」(鈴木さん)に増えているといいます。3つの取組のうちの1つ、入居促進についても具体的なお話を伺いました。

団地の賃貸住宅では、自らリノベーションが可能なセルフリノベーションプランとリノベーション済み住居から選ぶセレクトリノベーションプランを提案しています。

里山プランのモデルルーム。無垢材のあたたかみが特徴。


セレクトリノベーションの中で目を引くのが、県内産材である小田原杉を使用したタイプです。この部屋を担当したお二人、大山材木店の大山哲生(のりお)さん(小田原林青会 会長)と、施工を担当したおしうみ建築の代表、鴛海幸司さん(小田原大工職組合 青年部部長)にお話を伺いました。

鴛海幸司さんと大山哲生さん

(左から)地元産材を活用する取り組みに携わってきた鴛海幸司さん、大山哲生さん

お二人はもともと小田原市内で、「小田原地区木材業協同組合」が行う地元産材を活用する取り組みに携わってきました。「HaRuNe小田原」の施設の一部を木質化したり、小田原城天守閣の改修にも参加してきた木のプロです。

さんによると、このプロジェクトでは「里山のイメージ」、「地場産」という点をより意識したものにしたいという思いから、前述の協同組合とのつながりで声をかけたといいます。

この部屋の特徴はなんといっても小田原杉の無垢材を使用していること。外観からは想像できないような温かみと柔らかい雰囲気です。
モデルルームでの取材中、突然大山さんから「床を裸足で歩いてほしい」との言葉が。戸惑いながら足を乗せると、厚さ25mmの無垢材を使用したフローリングは、ひんやりとした感じが一切なく、足裏に優しく吸いつくような何とも言えない柔らかさがあります。

大山さん「この足触りが無垢材の特徴なんです。調湿機能もあることなど、無垢材の利点はたくさんあるんです。ただ、コストもかかってくるので、公社さんとの板の厚みの調整などは本当に大変でした。」

大山哲生さん

無垢材を絶妙な厚みに仕上げるため、調整には苦労したという

床材の仕様を一つとっても、コストと下階に響く生活音、さらに足触りを調整し、話し合いを重ねるという徹底ぶり。そのほかにも苦労した点があったと鴛海さんが話します。

鴛海さん「50年前当時と現在とでは生活の仕方もモノも違う。どうやって現在の生活に合わせるか、すごく苦労しました。しかも、部屋ごとに若干つくり方が違うんですよ。同じ設計図で作っているはずなのに(笑)」

当時は作る人によって微妙に作り方が異なっていて、ぴったり同じ幅、大きさで作られていないことはよくあるといいます。数々の苦労を乗り越え完成した分、喜びは大きかったといいます。

鴛海幸司さん

「この仕事に携われたのはありがたいことだった」と語る鴛海さん

鴛海さん「このタイプ以外の部屋もいくつかあるんですが、無垢材を使用したこのプランを選んでくれた人が多かったんです。いいものを作ればそれを分かってくれるということには勇気づけられましたね。」

そんなお二人がこのプロジェクトに参加した背景には“木と暮らし”に対する熱い想いがありました。

大山さん「地域の資源を地域の人たちが使うことで経済は動き出します。私たちの立場から言わせてもらうと、そうした作業がなければ、次の世代に技術を伝えることもできないのです。その意味でも、この仕事に携われたというのはありがたいことでした。」

かつて当たり前だった木材家屋での暮らしは、いつしか鉄筋や鉄骨コンクリートの住居が主流に。木の温もりや感触を知らない子どもたちが増えることは、将来、木の家に住みたいと思わない大人が増えることにつながり、木を使う文化の衰退に直結します。製材業に携わる大山さん、住まいに携わる鴛海さんだからこそ、その想いの強さが伝わってきます。

県内の人・モノを集めて完成した「二宮の里山」の部屋は、「リノベーションならぬニノベーション(笑)」と大山さん。古いものをただ新しいものに変えるのではなく、地域の手で活かし、つないでいくことも重要です。二宮団地の再生は、関わる人の多くにその価値観が共有されていることに驚きます。

鴛海幸司さんと大山哲生さん

大山さん「1年ほど前に、父から『ようやく木のことが分かり始めてきたな』と言われました。一生勉強ですが、見立や加工技術はしっかり次の世代につないでいきたい。そのためには人が直接、木に触れられるような環境や、それこそこういう仕事がないと難しいんです。この部屋で風土や地域性を感じてもらえたらいいですね。」

鴛海さん「この部屋は完成してから1年くらい経過していますが、未だにゆがみや隙間ができていないんです。一つの成果だと思います。このような成果を積み上げていって、県産モデルをつくりたい。作り手や行政が一緒になって取り組むことで県産材のファンを増やしていきたいです。」

ますます期待が高まる二宮団地のこれからとは

最後に、これからの二宮団地について公社のお二人に聞きました。
さん「今の協議会は高齢の方が中心。だから、その子どもの世代が戻ってくるといいですね。例えば、親の近くには居たいけど、仕事や買い物の都合もあるから、一緒に住むのはちょっと、という人もいますよね。そんな近居の場所として使ってもらえればうれしいです。子どもがいる世帯も親が近くにいると便利なことも多いですしね。」

鈴木伸一朗さんと蔀健夫さん

団地の“コモン”活用の広がりに期待

また、戸建てに住んでいる親世代が公社の賃貸に入り、代わりに子世代のファミリーが戸建てに入る住み替えや住み継ぎも理想の形と語ります。若い人がコミュニティに入ってくれば共有資産である“コモン”の使い方もさらに広がっていくと期待を膨らませます。

鈴木さん「最近では、こういう場を活用してくれる人も少しずつ増えてきています。また、暮らしを自分でつくる方を取り込みたいという思いを入れながら、賃貸住宅にセルフリノベーションを可能にした制度を導入したところですが、ここ数年、古い家をセルフリノベーションしたおしゃれなお店が何軒もできたり、二宮駅前でマルシェも開催されたり、二宮町が面白くなってきているように感じます。」

プロジェクトには共有資産の利用の仕組みや賃貸終了した住宅やその敷地の活用方法など課題があるのも事実です。しかし、すでにある地域の繋がりだけでなく、外から入ってきた人がもたらす新しいつながりと視点が、二宮団地の強みであり魅力です。二宮団地の再生プロジェクトのこれからに、是非注目して下さい。

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ココロココ編集部ココロココでは、「地方と都市をつなぐ・つたえる」をコンセプトに、移住や交流のきっかけとなるコミュニティや体験、実際に移住して活躍されている方などをご紹介しています! 移住・交流を考える「ローカルシフト」イベントも定期的に開催。 目指すのは、「モノとおカネの交換」ではなく、「ココロとココロの交換」により、豊かな関係性を増やしていくこと。 東京の編集部ではありますが、常に「ローカル」を考えています。

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