苦しかった東京での生活、「逗子」へ移住したきっかけとは
出身地の熊本から東京の大学へ通うために上京、卒業後はそのまま都内の会社に入社した遠山さん。13年間に及ぶ東京生活の最後は、「苦しかった」と話します。以前は東京都豊島区大塚で、仲間8人で大きな家を借りシェアハウスで暮らしていました。
「東京の暮らしは、夜遅くまで働いて、会社のメンバーと飲んでクラブ行って、みたいな。そんな中、週末になると息抜きに2時間かけて茨城県まで行き、畑で野菜作りをしていました。」
もともと農業が好きで、良い息抜きになると農作業を楽しんでいましたが、次第にある思いが膨らんでいきます。
「畑に行っていいなと思う自分と、東京で毎日飲んでお金を使ってクラブに行くという消費するだけの生活。そのギャップがどんどん苦しくなってきてしまった。」
遠山さんの仕事は全国にある劇場の運営で、担当する劇場のひとつに逗子のホールがありました。仕事で逗子に行き、地元の人たちと関わっていく中で、イキイキと地元を愛する人々がとても魅力的に感じるように。当たり前のように、日々の暮らしにプラスして、みんなで作ってそれを楽しむカルチャーがあり、「それがすごく好きで、そんな地域で生きていきたいなと思って。」と、2017(平成29)年に、上京から17年間の東京生活にピリオドを打ち、逗子に引っ越しを決めたと言います。
海、山、仕事場がすべて5分圏内に
そうして東京での生活から、逗子への移住を決めた遠山さん。当面は逗子から東京へ通う生活に。その生活が2年を過ぎた頃、思わぬ転機が訪れます。
「担当していた逗子文化プラザホールの館長となりまして、勤務地が逗子になったんです。」
これにより生活は劇的に変化。東京へ1時間の通勤は、自宅から自転車で4分の近さになり、「これは本当にラッキーでした」と笑顔で話します。それと同時に結婚、子宝にも恵まれ生活も一変していきます。
歩いて2分で海、5分で山というロケーションに加え、通勤も自転車で4分と、すべての生活圏が5分で完了するという、なんとも羨ましい生活。
「以前は電車で40分くらいでしたから、すごく楽になりました。昼ごはんも家に帰って食べられます。これはやっぱり最高です。」
仕事帰りには、夕日が沈む中ふらりと海の家でビールを一杯。
「子どもが海辺で遊んでいるのを見ながらね。特にキレイな時間があって、逗子の人たちはそれを『マジックアワー』と呼んでいるんですが、夕日の入射角ですごく海がキラキラと光るのが20分くらい続くんですけど、それが本当にキレイで。海もフワッとミルキーに変わって、その時は本当に幸せ!と思いますね。」
あらゆる面で変化があった日々の生活
かつての独身時代の東京の暮らしは、徹夜で仕事をこなしたり、朝までクラブで過ごしたりという生活もあったと話します。逗子で結婚、子どもも生まれた今、どんな生活を送っているのでしょうか。
「平日は子どもが保育園に通っているのですが、朝30分海で遊んでから保育園に行くんですよ。その後自分の職場に行って。仕事は劇場なので、コンサートを行ったり、地元の小学校にコンサートを届けたりと、結構地域と紐づきながら関わりを持って、仕事を行っています。」
17時半には帰宅して、夕食前に海や山を散歩しているとのこと。
「その後ご飯を食べて21時には寝る、みたいな。とても健康的な生活を送っています。子供がいますので、子どものサイクルに合わせているところはあります。」以前とは全く異なる生活スタイルに、「今そんな生活を送っていますが、そういうの、本当にいいなあと思います。」
子育ての面でも、逗子はとても良い環境だと話す遠山さん。海や山が近い逗子では、都会ではなかなか体験できない、自然いっぱいの環境が揃います。この辺りには2つの良い保育園があると言います。
「山の中に『ごかんのもり』という保育園があって、ここは森を切り開いた環境です。あとは『うみのこ』という保育園があって、この海で子どもたちを遊ばせるんです。そのような自然と共に生きていく感覚を、子どもに経験させてあげられるのは、とても良いと思います。」
日々の光景の中に、海で元気に遊ぶ子どもたちが見られる逗子海岸。保育園や幼稚園の帰りに、都内では公園に寄るような気軽な感覚で、海や山を散歩することができます。
「例えば自分が海に連れていくことはできるじゃないですか。でもクラスの子どもたち全員での海遊びって、普通できないですよね。それは凄いことだと思います。」と話します。
都会的なカルチャーと手付かずの自然が融合する逗子
逗子の魅力は、海と山が近く豊かな自然を楽しめること。海や山の美味しい味覚も味わえます。都心にも近く、1時間で行けるアクセスも魅力です。海の幸が豊富で、歩いて行ける場所には漁港も。
「小坪は漁港の街なんです。朝採れた魚をまさにそこに並べていて、購入できるんです。いろんな種類の魚が並びますが、中でもタコは本当に美味しい。こんなに美味しいタコは食べたことがないというくらいです。」
古き良き時代の光景を残す一面も持つ逗子では、随所に懐かしい場面に出くわすこともあると言います。
「近くにリヤカーで野菜を売っているおばちゃんとかがいるんですよ。そのような風景はもう都内では絶滅していると思うんですけど、そんな光景もここでは見られます。」
駅前にはランドマーク的な存在の魚屋さんは、軒先に新鮮な魚をずらり。そんなローカルな日常の風景もお気に入りだと話します。
それでいて、都内にも近いというのも魅力のひとつ。
「なんかこう、自然に寄り添った暮らしなんですが、すごい田舎の自然どっぷりというわけでもなく、都会的なカルチャーと手付かずの自然が一緒にあって。どちらもアーバンに楽しめる場所なんです。」
最大の魅力は地元を愛する人々がつくる、たくさんのコミュニティ
遠山さんが移住を決めたいちばんの理由は、逗子の多彩なコミュニティだと言います。
「私は文化の仕事をしているのですが、関わっている人たち、地域の人たちがとても素敵で。普通の暮らしをしながら、当たり前のようにプラスアルファ、自分達が楽しむことをやっていて。コンサートやったり、イベントをやったりして。地域のローカルフェスをやったりとか。」
逗子ではいろいろなイベントがあって、誰でも参加でき、運営から関わることができると言います。遠山さんも移住してから、2つのイベントの運営に関わっています。ひとつはゴールデンウィークに逗子海岸で開催される「逗子海岸映画祭」、そしてもうひとつは、例年秋に開催する「逗子アートフェスティバル」です。
2つのイベントは逗子の中でも人気のあるイベント。そんなコミュニティは気軽に参加できるのかを聞いてみました。
「誰でも参加できます。移住した人って、なかなかコミュニティに関わることってないじゃないですか。でもここで友達ができて、興味のあることに参加することで、繋がるというか。都会から『逗子海岸映画祭』だけ関わって、それで好きになってこちらに移住してくるとか、良い入口になっているんじゃないかと思いますね。」
逗子に興味があって参加したいとの思いがあれば、誰でも参加できると言います。また、移住して、結婚、子どもが生まれたら、子どもを通しての親同士のコミュニティも生まれてくるので、気がついたら自然とコミュニティの中にいると話してくれました。
地域全体で子育てをする町、「逗子」
逗子で結婚、子育て中の遠山さん。逗子は地域全体で子育てをするという土壌があると感じています。「ここは地域全体で子育てをしていく、そんな町なので、住みやすいし子育てしやすい町だと思います。」
「『逗子トモイクフェスティバル』など、いろんな活動をしている人たちが、自主保育をしたりしています。放課後に森の中で子どもたちを遊ばせるとか、『黒門カルチャーくらぶ』では子どもたちの『リトミック』の教室があります。そういう子どもたちの想像体験などをアシストしてくれる人がたくさんいて、地域の中でみんなで子育てをしている感じがします。」
主催する「逗子アートフェスティバル」では、町中でアートを制作。再編統合で完校になった学校を使って大人も子どももアート制作。また「逗子トモイクフェスティバル」では、「共に学び、共に育つ「共育(ともいく)のまち」の実現を目指して、大人も子どもも、一緒になったさまざまな体験ができるイベントです。
このような町ぐるみでのイベントもあって、日々の生活の中で、自然と地域で子どもたちを見守る体制があると言います。
都会の生活と離れ、のんびりとしながらも快活に日々を送る遠山さん。移住して本当によかったと何度も話したのが印象的です。地元を愛し、町に潤いを与えるようなイベントやコミュニティが豊富でとっても楽しいのだとか。
海へ2分、山へ5分とコンパクトにまとまるのも魅力で、スーパーや商店なども歩いて行けるので、「最近電車に乗ってない」と話します。コンパクトに、すべて歩いてなんでも揃う5分経済圏がお気に入りなのだとか。
今後チャレンジしてみたいことや、将来の展望を聞いてみると、リフォームして奥様の実家に二世帯住宅を建てたいとのこと。
「今までいろんな地域を転々としてきたけど、そうするとここで骨を埋めて、生きて死んでいくんだろうなと。そう思うと、今子どもを通じて新たなコミュニティができていて、子どもと一緒に楽しんでいくという生き方をやってみたいと思っています。」と笑顔で語ってくれました。