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2017年10月17日 西村祐子

和歌山県・熊野にオフグリッドゲストハウスikkyuをつくった森雄翼さんの目標は「地球一個ぶんの暮らし」を体感できる宿にすること

森雄翼(ゆうすけ)さんは、和歌山県新宮市の地域おこし協力隊として活動中の 2017年3月、自ら自宅近くの古民家を発掘し、1年以上の時間をかけ、電気エネルギーを自給自足、コンポストトイレや薪ボイラーシステムを採用した「オフグリッド」なゲストハウスをオープンさせました。森さんに、京都の大学を出てから、家族とともに和歌山県新宮市熊野川町に移住した経緯や、ゲストハウスをつくった理由について伺いました。

熊野三社の中間地点、熊野古道を旅する外国人にも人気の地域

ゲストハウスikkyuは和歌山県新宮市熊野川町にある古民家を改装した一棟貸しの宿。ここは熊野三山(熊野速玉大社・熊野那智大社と熊野本宮大社)の中間地点あたりに位置しており、周辺地域がユネスコ世界遺産に登録され、外国人観光客向けガイドブック「ミシュラン・グリーンガイド・ジャポン」で三ツ星も獲得しました。以来、日本人だけでなく、熊野古道を旅してみたいと訪れる外国人観光客も増えています。

太平洋に面した那智勝浦など、周辺部には大きなホテルも多いのですが、こと熊野古道近く、山間部に入ると宿の絶対数も外国人対応ができるところも少なかったため、そうしたニーズに対応した宿泊施設の需要は高まっていました。

熊野本宮大社へは車で20分程度

▲熊野本宮大社へは車で20分程度

ゲストハウスikkyuは「オフグリッド」を実現した宿

このゲストハウスをつくったのは、和歌山県新宮市に地域おこし協力隊として赴任した森雄翼さんです。森さんは、熊本県出身、京都大学在学中にご結婚され、その後新宮市熊野川町にやってきました。

ここの特徴のひとつは「オフグリッド」であるということ。オフグリッドとは、ここでは電力会社の送電線を通さずに自家発電のみで電力をまかなうことを指しています。ikkyuの屋根には太陽光パネルが設置され、それらをバッテリーに蓄電しています。その他、自作の薪ボイラーシステムなどを利用することにより、全て自家発電で宿の電気を不自由なく使えるレベルまで安定して供給できるシステムを構築しています。

▲屋根には太陽光パネルが取り付けられ、バッテリーで蓄電している

また、トイレもコンポスト(排泄物が堆肥になる)トイレにしたり、調理もガスキッチンの他に自作のステンレス薪コンロもあり、お釜でご飯を焚くことも、五徳のように通常の鍋の調理もできるようになっています。部屋の内部は「柱以外全部作り変えた」と森さんが言うとおり、まるで新築かのようにピカピカ。Wi-Fiも完備しインターネットも使え、不便さは全く感じることなく快適な宿泊が可能です。

▲和室二間と板張りの多目的スペース

▲バーカウンターと靴のままくつろげるソファも

結婚・子育てをきっかけに和歌山に移住

森さんは、京都にいた大学時代から、さまざまなチャレンジをしてきました。例えば「廃棄食材カフェ」。廃棄される予定の食材を「もったいないから食べよう」と利用してカフェで提供する仕組みをつくったり、地域のおじいちゃんおばあちゃんも来るような開かれた小さなバーをやってみたり。その行動の軸になっていたのは「人助けがしたい」ということでした。人助けをすると、世の中に貢献できる。そういう生き方を選んで行動していた森さんですが、2011年の東日本大震災後1年間仙台に暮らしてボランティア活動をする中で、その価値観が変化したと言います。

森さん:「地球規模で考えると、文明的な暮らしをしているだけで地球環境にマイナスのインパクトがある。表面上『いいこと』ーつまりプラスに見えることをしていてもトータルでは実はマイナスな生き方をしていたんだ、と気付いたんです。社会貢献『ごっこ』だったかもしれない。

マイナスをゼロにするためには、エネルギーも含めて自給自足の暮らしをして未来から搾取しないライフスタイルを送りたい。環境や生態系、あらゆるものへの配慮なくして『社会貢献』はありえない。本当の意味での社会貢献をするために、地球を傷つけない生き方をまずは実現したいと思うようになりました。」

▶「地球1個ぶんの暮らし」をしたいと語る森さん

▲「地球1個ぶんの暮らし」をしたいと語る森さん

ちょうど結婚して子どもが生まれるというタイミングだったこともあり、自分たちの理想の暮らしをどう実現していくか?を考えたとき、地方に移住するというのはちょうどよい選択肢でした。以前、和歌山をヒッチハイク旅で巡った際、出会った人たちのあたたかさが印象に残っていた森さんは、和歌山県南部の新宮市に移住し、地域おこし協力隊として活動することになりました。

当初空き家バンクの整備等の仕事に従事していた森さんですが、その後、地域の宿不足の現状もあり、自分の理想を追求した自給自足型のゲストハウスをつくることになったのです。

歯を食いしばり大部分をDIYでつくりあげた理想の宿

ゲストハウスは、自宅から二軒離れた古い一軒家。森さん自ら家の持ち主と交渉、大幅な改造を許可してもらい、ゲストハウスづくりがスタートしました。

宿づくりの大きなテーマとしたのが「エネルギーの自給自足」。特に生活の基盤となる「電気エネルギー」の自給を実現するため、太陽光発電を利用してバッテリーに蓄電することで、電力会社の電気に頼らない「オフグリッド」を目指すことにしました。そのために、既に家のオフグリッド化を実現している方を呼んでワークショップを行ったり、クラウドファンディングで資金を募るなど、宿づくりに奔走しました。

家の構造体など大きな部分は、他県より移住してきた若い大工さんと一緒につくっていきましたが、キッチンやトイレ・風呂などの水回りはもちろんのこと、和室の畳、壁、デッキ、電気配線や水道の配管など細かい部分ははほぼ1人で施工、その改造に要する期間は森さんが想定した何倍もかかりました。

▶柱の色も板壁もすべて新しく塗り替え・つくりかえている

▲柱の色も板壁もすべて新しく塗り替え・つくりかえている

「途中1人で暗闇のトンネルを歩いているような気分になってました」と、今は笑いながら語る森さんですが、太陽光電力のワークショップを終えて「あと1ヶ月!」と想定した期間が、そこからオープンまで5ヶ月かかったというお話からも、相当な負荷がかかっての完成だったのだということがわかります。その甲斐あって、しっかりデザインされた宿の内部で、今は五右衛門風呂や薪ストーブ、薪キッチン、コンポストトイレなど、エネルギーが無駄なく循環する暮らしを想像し、楽しみながら、快適に滞在することができます。

▶ドラム缶を改造したピザ窯

▲ドラム缶を改造したピザ窯

▶室内の五右衛門風呂はシャワーもあり。壁面の木は地元の木材を使用。

▲室内の五右衛門風呂はシャワーもあり。壁面の木は地元の木材を使用。

オフグリッドな暮らしのモデルハウスに

森さんがオフグリッドな一軒家を宿にしようと思ったのには、地域の宿不足解消のためだけでなく、もうひとつ大きな理由がありました。それは、ここを「持続可能な家のモデルハウス」のような存在にしたいという想いです。

現在、電力会社に頼らずオフグリッドのみで電力をまかなっている家は他にもあります。ただ、彼らの家は、そこで生活を営んでいるために「いつでも見学自由」というわけではありませんし、宿泊することも通常は難しい。森さんは「オフグリッドの仕組みややり方を実感し、いつでも気軽に体験できる施設があれば、見学や宿泊をすることで「エネルギー量が見える」体験をし、これからオフグリッドに踏み出したい人の背中を押したり、自然エネルギーの理解を深める助けになれるのでは」と考えたのです。

▶まったく臭わない!手回しで便を肥料にする電気を使わないコンポストトイレ

▲まったく臭わない!手回しで便を肥料にする電気を使わないコンポストトイレ

旅と移住者をつなぐハブのような存在でありたい

また、誰にでも開かれた宿という存在があることで、移住を考える人への窓口になりたい、という思いもありました。移住を考える前に、その地域のことをよく知ることはとても大切です。

森さん:「(宿がある)熊野川町内ではすぐに紹介できる空き家が潤沢にあるわけではないのですが、自分たちが培ってきた友人のネットワークを通じて、新宮市という自治体の枠にとらわれず、近隣の本宮町、那智勝浦町や(三重県)熊野市なども含めた地域の情報も提供して、移住を希望する人へのハブ(軸)のような存在になれたらよいですね。」

今は外国人観光客と日本人の家族連れ旅行客が多いという宿のゲスト構成ですが、これからは観光メインの方だけでなく、オフグリッド・自然循環する暮らしの仕組みに興味がある方にももっと泊まりに来て欲しいとのこと。今後は「オフグリッド太陽光発電システム」の出張ワークショップを行うなど、ikkyuで実践している暮らしの知恵を伝える活動もどんどん増やしていきたいと、話をしてくれました。

▶蓄電バッテリーの仕組みについて詳しく解説する森さん

▲蓄電バッテリーの仕組みについて詳しく解説する森さん

旅行先としてもとても魅力的な熊野古道周辺ですが、もっと大きな視野で「今の暮らしを変えたい」「山間地域への移住を考えている」「オフグリッドな循環システムに興味がある」人にとっても、ゲストハウスikkyuはその想いにこたえてくれる場所になっていきそうです。興味がある方はぜひすてきなこの場所に泊まりに行ってみてください。

取材先

ゲストハウスikkyu/森 雄翼さん

1989年熊本市生まれ。京都大学在学中に「廃棄食材カフェ」や地域の人が集まるバーを経営するなどした後、2014年より和歌山県新宮市に移住、2017年3月より熊野川に臨む場所で「地球一個分の暮らし」をコンセプトにしたエネルギー自給のゲストハウスikkyuを経営。地域おこし協力隊3年目、現在協力隊同士のネットワークを拡げるWEBサイトも準備中。

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西村祐子

西村祐子人とまちとの関係性を強めるあたらしい旅のかたちを紹介するメディア「Guesthouse Press」編集長。地域やコミュニティで活躍する人にインタビューする記事を多数執筆。著書『ゲストハウスプレスー日本の旅のあたらしいかたちをつくる人たち』共著『まちのゲストハウス考』。最近神奈川県大磯町に移住しほどよい里山暮らしを満喫中。

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 「風土」という言葉には、地形などの自然環境と、 文化・風習などの社会環境の両方が含まれます。 人々はその風土に根ざした生活を営み、 それぞれの地域に独自の文化や歴史を刻んでいます。

 過疎が進む中で、すべての風土を守り、 残していくことは不可能であり 時とともに消えていく風土もあるでしょう。 その一方で、外から移住してその土地に根付き、 風土を受け継ぎ、新しくつくっていく動きもあります。

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