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和歌山県 本宮町で、食堂とゲストハウスを運営する森岡雅勝さん。田舎 × 世界遺産の可能性

紀伊半島の南西、和歌山県の南部に位置する田辺市本宮(ほんぐう)町。ユネスコ世界遺産に登録されている「熊野古道」や川原を掘ると熱いお湯が湧き出る珍しい「川湯温泉」といった人々の心と身体を癒す地域資源が集まる場所でもあります。

今回はそんな本宮町に移住し、「くまのこ食堂」と「ゲストハウスはてなし」という二つの施設を運営されている、森岡雅勝(もりおかまさかつ)さんにお話を伺いました。

地方移住を考えている人の中には「田舎に移住して、自分のお店を開く」という未来を想像している人も少なくないでしょう。そこで、移住に至ったきっかけや今後の展望など、地方での開業につながるヒントを教えてもらいました。

温泉と世界遺産、地域資源が豊富な本宮町

熊野本宮大社

森岡さんが移住したのは、和歌山県田辺市本宮町。本宮町は、もとは東牟婁(ひがしむろ)郡に属していましたが、2005年の市町村合併で田辺市など4市町村と合併し、新市制の田辺市の一部となりました。

熊野詣のゆごり場として栄えた日本最古の湯「湯の峰温泉」や、川原を掘ると70度以上の源泉が湧き出て、川の水と相まって程良い温泉になる「川湯温泉」などが有名な温泉の町です。冬季には、川の水をせき止めて巨大な露天風呂にする「仙人風呂」も現れ、その抜群の開放感から、温泉好きから絶大な人気を誇ります。

川湯温泉(写真提供:公益社団法人 和歌山県観光連盟)

ユネスコ世界遺産に登録されているというのも本宮町の大きな魅力。「紀伊山地の霊場と参詣道」と聞いても、あまりピンとこないかもしれませんが、その一部である熊野古道という名前なら聞いたことのある方も多いのではないでしょうか。

熊野古道における重要なポイントが、本宮町には多く存在しています。熊野本宮大社は、日本全国に約4,700社もある熊野神社の総本宮です。本殿から500m程離れたところには、日本最大の大きさを誇る33.9mの大鳥居が鎮座しています。

きっかけは大学時代、森岡さんが感じた本宮町の魅力

奈良県宇陀(うだ)市で生まれ育った森岡さん。大学・大学院と大阪で過ごした後に、本宮町に移住したのが、2018年のことです。今後も本宮町での生活を予定されているそうですが、明確な意志のもと、本宮町と関わりを持ち始めたのではなかったと言います。

森岡さんが本宮町のことを知ったのは、大学でのゼミがきっかけでした。ゼミのプロジェクトの一貫で、大阪府堺市の子供たちを田舎に連れて行き、自然体験をするというツアーを開催。その訪問先が本宮町でした。

最初は、本宮町について何も知らなかった森岡さんですが、下見などの準備で定期的に本宮町へ行き来するようになり、プロジェクトに携わる中で、魅力を少しずつ知っていったとのこと。

「本宮町って本当に田舎レベルが高いんです。日本の田舎といっても、ピンキリでしょう。それなりに便利で、あまり都会と変わらない生活ができる田舎もあります。でも、本宮町は本当に田舎なんです。

あたり一面が山か川というくらい自然豊かで、コンビニはない。スーパーも19時には閉店します。電車も通っていないので、最寄りの駅までは車で1時間以上かかります。

他のエリアからの一般的なアクセス方法は、南紀白浜空港まで飛行機で来て、そこからバスか車で1時間以上。本宮町に来るのも一苦労なんです。それだけを聞くと一般的には不便と思われるかもしれませんが、だからこそ気づけることもあります。

夜になると電灯も少ないので真っ暗、星がよく見えます。物音もしないので本当に静か! 他にも、毎日のように温泉に入れるなど、本宮の特徴として答えられるものは色々ありますが、高レベルの田舎環境こそが魅力だと思います」。

世界中から訪れる旅行者、本宮町ならではの出会い

「世界遺産の一部ということも、やっぱり本宮の大きな魅力ですね。多くの外国人が来る日本の田舎、というだけでも面白いんですけど、熊野古道を目指して来る旅行者の中には、ヨーロッパやアメリカに限らず、世界中から多くの人が訪れていました。初めて聞いた国から来ている人にも、出会いましたね。

来店してくれた旅人と話していると、会社経営者や世界的企業で働いている人もいました。社会的地位の高い方ともフランクに話せる機会は、東京や大阪だと少ないと思うので、まさに本宮町ならではの体験だと思いますね。

現在は、新型コロナウィルスの影響もあって、状況が異なりますが、社会が落ち着いたら、また面白い出会いがあるのでは?と、期待しています」。

飲食店経験者は0。未経験メンバーで立ち上げた「くまのこ食堂」

「くまのこ食堂」店内

本宮に移住して最初に取り組んだのが、飲食店のオープン準備でした。大学生活での経験から働く場所を考えた結果、都会で働くことにあまり大きな意味を見出せなかった森岡さん。地方で何かやりたいと思って、最初の候補となったのが「最も身近な田舎」である本宮町でした。

大阪時代、シェアハウスに一緒に住んでいた友人が似た考え方を持っていたこともあり、4人で会社を立ち上げ、本宮町にお店を作ることになりました。その時に立ち上げたのが「一般社団法人kumano.co(くまのこ)」です。

お店の内容は、本宮町の状況を元に考案。宿泊施設は多いのに、飲食店がとにかく少ない。当時、夕食を提供しているお店がほとんどなかったので、町の人も旅行者も気軽に訪れられる食堂「くまのこ食堂」をつくることに決めました。

メンバーに飲食に詳しい人がいたのかと思いきや、飲食経験者は0だったんだそう。しかし、そこまで問題ではなかったと言います。

「くまのこ食堂が提案するのは、食べ物を提供するだけのお店ではありませんでした。田舎ということもあって、交流拠点と呼べるような場所が当時の本宮にはなく、地域の人や観光で本宮に来た人たちが、フラッと立ち寄れる休息所のような場所を作りたかったんです。

重要なのは料理の味だけではなく、その空間全体。立ち上げたのは飲食店でしたが、そのポジションは食を通して地域の魅力を発信するメディアというのが私たちの共通認識でした」。

専門的な知識がない状態で飲食店を経営するのは相当なハードルを感じますが、素人だからこそ役に立ちそうなものは何でも取り入れて活用していったとのこと。

本宮産の鹿肉をつかった「ロースト鹿肉丼」

最初は、学園祭の延長なんて言われたこともあるそうですが、地域の料理やジビエの処理の仕方などを周囲の方たちに教えてもらいながら、少しずつ成長していきました。オープンから2年が経過し、新しくアルバイトの方も雇えるように。旅行者にはもちろん、地域の方にも少しずつ認められてきた証と言えるのではないでしょうか。

ワーケーションやお試し移住の拠点にもなる「ゲストハウスはてなし」

202010月には「ゲストハウスはてなし」をオープンしました。ゲストハウスですが、ドミトリーはなく、宿泊部屋は全て個室。3泊以上の滞在だと、1泊あたりの料金が割安になる、中・長期滞在者向けのプラン設定があるので、ワーケーションなどの利用にも適しています。

「ゲストハウスはてなし」外観

「おもてなしが自慢のホテルとは少し趣が違いますが、自分の使いたいように滞在をカスタマイズして、本宮を知るための拠点として利用してもらえたらと思っています。旅行やワーケーションといった単発の利用ももちろん歓迎ですが、本格的な移住をする前のお試し住居という使い方もおすすめです。

本宮の魅力って一朝一夕でわかるシンプルなものではないので。滞在して、ゆっくり時間をかけて知ってくれる人が少しずつでも増えていくと嬉しいですね」。

「ゲストハウスはてなし」客室

食堂とゲストハウスでは、随時スタッフやインターンの受け入れもされているとのこと。二つの施設で運営管理のお手伝いをしてもらいつつ、地域との繋がりを作ってもらったり、自分が本宮でやりたいことを考えてもらったりと、単なる旅行とは違う形で地域と関わってもらえる工夫をしています。

例えば、2020年に本宮にオープンしたシュークリーム屋のオーナーさんも、移住前に、くまのこ食堂で働きながら、現地の情報を収集したんだそうです。移住前はホテルのパティシエをされていて、和歌山県内で開業しようと考えていた際に、くまのこ食堂を知り、興味を持たれたとのこと。住み込みで半年ほど働き、本宮を肌で感じ、オープンを決意しました。

本宮では、思い描く「田舎」ライフが楽しめる

「今後は本宮町での経験を、他地域の移住政策にも活用していきたいですね。kumano.coがきっかけで生まれた移住や、地域とソトモノの関係性の作り方などをコンサルティングという形で、知識やスキルを共有していくことも考えています」。

調理をする森岡さん

「アクセスのことなど諸々を含め、やっぱり田舎なので、不便なことはあります。まず、車がなければ生活するのは難しいですし……。でも、ある意味本当の田舎暮らしをしてみたい、という方にはマッチすると思っています。現在では、田舎といっても便利なところが多いので、ディープな田舎体験をできるところは減ってきていますしね。

都会から本宮に移住するとなると、ガラッと世界が変わるので、何か大きな変化を求めている人にもいいかもしれません。カジュアルな田舎暮らしではなくて、本当の意味での田舎暮らしを知りたい人。田舎での生き方を追求したい人にとって、うってつけの場所だと思います」。

しかも、その町は世界遺産に登録されているという、壮大なオマケ付き。きっと予想だにしない出会いや可能性が、本宮町にはあるのではないでしょうか。本宮町を知る第一歩として、「くまのこ食堂」と「ゲストハウスはてなし」に訪れてみてはいかがでしょうか。

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 過疎が進む中で、すべての風土を守り、 残していくことは不可能であり 時とともに消えていく風土もあるでしょう。 その一方で、外から移住してその土地に根付き、 風土を受け継ぎ、新しくつくっていく動きもあります。

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