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2014年11月26日 山田智子

水と踊りの町に誕生した「地方と都会をつなぐ宿」 郡上八幡ゲストハウス まちやど

名古屋から車で約1時間、岐阜県のほぼ真ん中に位置する「郡上八幡」。城下町の古い町並みが残り、町中に巡らされた水路からは、どこにいても水のせせらぎが聞こえる。水の流れとともにゆったりとした時が流れる風情ある町だ。

そんな静かな町が、夏の2ヶ月間だけは一変する。日本3大盆踊りに数えられる「郡上おどり」は、7月中旬から9月上旬まで33夜にわたり開催される日本一会期の長い踊りで、特にお盆の4日間の「徹夜踊り」には、人口約1万7千人の八幡町に約30万人もの人が訪れ、にぎわいを見せる。

「水と踊りの町」郡上八幡に、今年4月、交流型ゲストハウス「まちやど」が誕生した。町家を改装した小さな宿は、まるで友だちの家に遊びにきたようなアットホームな雰囲気だ。 この宿を一人で運営するのは青森出身の木村聖子さん。郡上に来て4年、それまで郡上とは縁がなかった木村さんはどんな思いで「まちやど」をオープンしたのだろうか。

 

「山? 岐阜! 岐阜に行ってみるか(笑)」

川

木村さんが郡上に来た理由は「なんとなく」。
予想とはあまりにもかけ離れた答えに少し拍子抜けしたが、話を聞くうち、木村さんの根底にある思いが徐々に浮かび上がってきた。

木村さんは青森県六ヶ所村で生まれた。「小学生の同級生は14人で、そのまま中学卒業まで同じメンバー。そういう田舎の閉鎖的な環境に辟易していた。とにかく外に出たくて、高校を卒業したら絶対に東京へ行くぞと思っていました。」

高校卒業後は両親の反対を押切り東京へ進学。通学社員という制度を利用し、働きながらファッションデザインを学んだ。 「9時から15時まで学校で、17時から23時くらいまで仕事。終電で帰って1時くらいに家に着いて、そこから課題をやって3時4時に寝るような生活。そういう生活を3年続けていて、これは限界だなと思いました。」

学校をやめた木村さんは、「語学を学びたい。色々な国を見てみたい」というかねてからの希望もあり、イギリスへ留学。27歳の時に帰国し、再び東京で3年ほど「住環境コーディネーター」として働いた。しかし、順調にキャリアアップする一方で、ストレスから体調を崩してしまう。
「それなりに収入はあるけど、体調が悪くて、病院行ったり整体に行ったり。ずっとそういう生活だったので、そこから抜け出したいというのがあった。
5年後の自分を考えた時、このまま仕事をがんばって続けていった姿も、結婚して東京で子育てをしている姿も、どちらの自分もイメージできなかった。」

東京での生活に行き詰まりを感じた木村さんは、友だちが沖縄に移住したのをきっかけに、ちょっと東京を抜け出してみようと、しばらく沖縄でのんびり過ごすことを決める。
「沖縄での休暇を終え、そろそろ社会復帰をしようかなという時に、東京に帰りたいとも、青森に帰りたいとも思わなくて、どこか違うところに行ってみようかなと思った。
なんとなく、海は行ったし、今度は山に行ってみようかなって。東京にいた頃、何度か高山に行ったことがあり、山あいの雰囲気や、山とか川の印象がすごく残っていた。山? 岐阜!!岐阜に行ってみるか、そんな感じでした(笑)。」

岐阜で仕事を探してみたところ、偶然にも郡上市八幡町島で住み込みの自然体験の仕事が見つかった。「仕事もあって、家もあるんだったら、じゃあ行ってみよう」
2010年、木村さんは「なんとなく」郡上市に移住する。

移住の現実と、新たな決意

町並み

郡上に来た木村さんは、「NPO法人メタセコイアの森の仲間たち」で1年間自然体験の仕事に携わる。そこで、NPOの代表である興膳さんの「自然体験を通じて、都会と田舎との距離を縮めたい。」とういう考え方に賛同し、「もっと田舎と都会が行き来しやすくなったらいいな。」という思いを深めていったという。

しかし、1年後思わぬ壁にぶつかる。
「郡上に来て、最初は社員寮付きの自然体験の仕事をしました。半年でその仕事が終わり、その後、「地域おこし協力隊」として引き続き(郡上市)明宝で仕事をすることになりました。社員寮を出なくてはならなかったので、一人暮らしの住まいを探したのですが、全く見つかりませんでした。」

郡上市は移住を推進しているにもかかわらず、実際には空き家情報がほとんどないのが現状だ。
空き家がないわけではない(むしろ空き家は増えているのだ)が、家賃が高く、情報が口コミでしか得られないため、地元の人以外が情報を知ることは非常に難しいのだ。

「郡上に来たいという人はたくさんいるのに、こんな状況では来ることができない。」
木村さんは東京で建築や不動産の仕事に携わっていたこともあり、空き家の問題、単身者の住居問題に取り組んでいきたいという気持ちが強くなっていった。そんな中、サポートしてくれる方が徐々に増え、ゲストハウスオープンに向け一気に動き出すこととなる。

頑張りすぎてしまう人へ、骨休めの場をつくりたい

下駄

ここ数年、日本全国で多くのゲストハウスが開業しているが、「まちやど」はいわゆる “バックパッカー向けの安宿”とは少し趣が異なる。

「“THEゲストハウス”みたいなのを作りたかったわけではないんだと、オープンしてから気がつきました。私が一番こういう人たちに来てほしいなと思うのは、やはり同年代、特に「女性」なんです。がんばりすぎちゃう人が骨休めで使える場所にしたい。さらにそこから郡上を好きになってもらって、時々来てもらったり。そういう場所になれればいいなと思った。」

「同世代の女性」への思いを口にする木村さんの話を聞きながら、かつて東京でがんばりすぎ、沖縄に癒しの場所を求めた木村さんの姿が重なる。

「郡上に来たいという同世代の人はたくさんいます。そういう人たちが活躍できる場所をもっと作れるはず。必ずしも郡上に住まなくてもいいと思うけど、都会と田舎がもっと行き来しやすい環境を作ってあげることがとても大事だと思う。きっかけとなる場所を自分が作りたいという思いがあります。」

田舎、都会、どちらかを選ぶというより、その距離を縮め、行き来しやすい環境をつくるとことの方が重要だと木村さんは強調する。

「移住というと365日ずっとそこに住むと考えがちだけど、土日だけ移住とか、週一移住とかそれも移住の一つだと思う。そういう拠点のつもりで「まちやど」を作ったので、郡上に関してはそういう移住の方法もあると伝えたい。」
田舎、都会の良さも悪さも両方経験して苦しんだ木村さんだからこそ、その言葉には説得力がある。

都会と郡上の人が交流し、新たな魅力を発信する

食事

「田舎と都会の距離を縮める」ために、まちやどは、宿泊する人だけでなく、地元の人が気軽に集える場所になっている。
第1木曜日はカレー、第2水曜日はマクロビカフェのディナー、第3火曜日は創作料理と、週替わりで行われる「ごはん会」もその一つ。

「郡上の本当の魅力は、地元の人とふれあってこそ感じられると思う。知らない人同士が一緒にご飯を食べて、食べ物を通じていろんなつながりが生まれたらいいなと思っています。 料理人によって、集まる人のタイプが変わるのもおもしろいです。ここは宿泊しなくても22時までは解放しているし、いろんな人がふらふらっている感じの方がいいなと思っています。 旅人と地元の人が交流することで、新たな郡上の魅力を発信できる場所になればうれしい。」

秋冬こそ、郡上の人との交流のチャンス

ポスト

郡上に関して言えば、秋冬の今こそ地元の人たちと交流するチャンスだという。
「郡上のおもしろい人たちは、夏場はみんな忙しいので、本業と地域活動で町に出てこられない忙しくてなかなか交流する機会がない。郡上踊りが終わって、秋から冬は暇とパワーを持て余し、外からお客さんが来たと聞けばかまいたくてしょうがない。郡上人の面倒みの良さが発揮される今が、ディープな郡上に触れるチャンスです。」

そのためまちやどでは、冬の間 “お試し移住が1ヶ月間無料で出来る機会を提供している。
少し宿の仕事をお手伝うのと、秋冬の郡上の魅力を外の人の目線で発信してもらう代わりに、1ヶ月無料で宿泊できるというものだ。

内観

「来たいなって思うなら、あれこれ考えずまず来てみればいい。来て何を感じるかで、戻ろうと思えば都会に戻れるし、ずっといたいと思えばいる手段はいくらでもある。仕事がどうとか、生活がどうかというのは、あとからついてくるんじゃないのかな。私はそうだった。田舎は「若いから」ということである程度のことは許してくれる、そういう懐の深さがあると思う。」

いきなり移住を決めるのはさすがに勇気がいる。移住に興味のある方は、まずは“お試し移住”や”週一移住”からはじめてみてはいかがだろう。木村さんのように「なんとなく」訪れた場所から、新たな可能性が広がるかもしれない。

取材先

郡上八幡ゲストハウス まちやど

〒501-4222 岐阜県郡上市八幡町島谷674
0575-67-9118 (9:00〜20:00)
http://www.machiyado.info

HP:http://www.machiyado.info

山田智子
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山田智子

山田智子岐阜県出身。カメラマン兼編集・ライター。 岐阜→大阪→愛知→東京→岐阜。好きなまちは、岐阜と、以前住んでいた蔵前。 制作会社、スポーツ競技団体を経て、現在は「スポーツでまちを元気にする」ことをライフワークに地元岐阜で活動しています。岐阜のスポーツを紹介するWEBマガジン「STAR+(スタート)」も主催。 インタビューを通して、「スポーツ」「まちづくり」「ものづくり」の分野で挑戦する人たちの想いを、丁寧に伝えていきたいと思っています。

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 「風土」という言葉には、地形などの自然環境と、 文化・風習などの社会環境の両方が含まれます。 人々はその風土に根ざした生活を営み、 それぞれの地域に独自の文化や歴史を刻んでいます。

 過疎が進む中で、すべての風土を守り、 残していくことは不可能であり 時とともに消えていく風土もあるでしょう。 その一方で、外から移住してその土地に根付き、 風土を受け継ぎ、新しくつくっていく動きもあります。

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