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2018年5月16日 西村祐子

移住した女性2人が運営する古民家ゲストハウス「ネドコロ ノラ」。五島列島・福江島のはじっこで暮らすような旅をしよう

「ネドコロ ノラ」は、長崎県五島列島・福江島の西、荒川漁港の近くにあるゲストハウスです。2016年夏、関東出身の女性ふたりがオープンさせたこの宿は、地域の空気を確実に変えつつあるようです。現地で「暮らすように滞在」しながら、スタッフの牧山萌さんに、宿をつくった経緯やコンセプトについてお話をうかがいました。

約150の島々からなる五島列島で最大の島「福江島」

長崎県はたくさんの島がありますが、その中でも五島列島は、長崎港から西に約100kmの海域に南北に連なる大小約150の島々から構成されています。その一番南に位置する一番大きい島が福江島です。

島独自の文化が多くありますが、特に隠れキリシタンの歴史はこの地を特徴づけるものです。2018年には「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」として世界遺産登録予定となり、その中には五島列島の教会もいくつか含まれています。

教会

福江島・堂崎教会 キリシタン資料館としての顔も

福江島は、離島とはいえ大きな島。人口も4万人弱で、五島列島の中で最大。福江島の玄関口、港と空港のある町には商店街や大きなスーパー、ホームセンターなどもあります。

福江港ターミナル

福江港ターミナル

小さな漁港のそばにある古民家をリノベーションしたゲストハウス

ゲストハウス「ネドコロ ノラ」があるのは、福江港から車でまっすぐ40分ほど走った玉之浦地区にある荒川という集落。

荒川は、環境省による「快水浴場百選」にも選ばれている高浜海水浴場からも近く、温泉地もある漁港沿いのまちです。かつては鯨漁などで栄え、遊郭が立ち並んだという活気ある集落でしたが、現在はその面影はかすかに残るばかりで、商店の数も少なくなっています。

「ネドコロ ノラ」は、荒川漁港のすぐ目の前、築約90年の古民家。以前はちゃんぽんや定食を提供する食堂だったという建物をリノベーションしてつくられました。港から見るイラスト看板がとてもわかりやすくて印象的です。

ネドコロ ノラ外観

明るい色合いの看板がお出迎え

移住女子2名によってゲストハウス計画がスタート

このゲストハウスを運営しているのは、Iターンで神奈川県からそれぞれ移住してきた女性2人。廣瀬愛(まなみ)さんと牧山萌さんです。

廣瀬さんと牧山さん

左:廣瀬愛さん、右:牧山萌さん

2人は東京にある同じ美大の同級生。それぞれ学生時代から空き家を活用する地域再生やまちづくりの研究にも携わっていました。福江島との縁は、廣瀬さんが大学卒業後、五島市地域おこし協力隊として福江島へ移住したことからはじまりました。牧山さんは、彼女の家に遊びに来たのがきっかけで、島の空気感が気に入り、その後何度も遊びに来るようになったそう。

それまでに体験していた旅を通じて、地域の人と交流できるゲストハウスの魅力を知っていた2人は、島でゲストハウスをつくろう!と意気投合し、牧山さんも福江島に移住、2016年初頭にはクラウドファンディングで資金も募り、目標達成。数ヶ月かけて改装し、2016年夏に開業しました。

改装前の様子

ゲストハウスに改装する前の様子

改装前の様子

“島のはじっこ 小さな港で暮らす宿” 住民の生活と旅人が交差する場所に

「ネドコロ ノラ」のコンセプトは、“島のはじっこ 小さな港で暮らす宿”。

旅をしていて「また訪れたいな」と思うのは、ものすごい絶景を見たときではなく、実はどんな人に出会ったか?どんな体験をしたか?という現地の生活感が垣間見えるような経験をしたときなのかもしれません。

福江島の中心地は港がある福江。近隣にはホテルや旅館などもある地域です。けれど、今や“島の奥”と言われることもある玉之浦地区の荒川周辺は、足湯や日帰り温泉はあるものの、宿や飲食店も少なく、いわゆる「観光地」とは程遠い立地。

「ネドコロ ノラ」は、こちらから何も言わなくても訪れるような場所ではなく、アクセスもやや不便なこの荒川だからこそ、ゆったりとした島時間が流れ、旅で訪れたゲストとこの地で暮らす住民の生活がチラリと見え、交差する、暮らすような旅ができる場所になる。2人はそう考えたのです。

宿周辺の様子

宿のまわりは古い民家が立ち並ぶ

充実した共有キッチンは、豊富な地元食材を自炊で楽しんでもらいたいから

宿に入って最初に気づくのは、共有のキッチンとリビングスペースがとても広いこと。

一階はまるまる共有のリビング・ダイニングになっています。また、キッチンスペースは広いだけでなく、自炊を楽しんでもらえるよう、調味料や調理器具なども豊富に揃えられています。

取材をした日も、地元のスーパーに立ち寄ってみると、島の野菜やお魚がすごく安くてピカピカに輝いていて!ご当地ものの「五島乾麺」や島のトマトやレタス、お豆腐など、1泊しかしないのに、あれこれ食材を買い込んでしまい、牧山さんと一緒に夕食を作りました。美味しかった〜!

近くの食堂で、島の名物・五島うどんを食べるのもよいけれど、スーパーでお買い物をして調理をして、一緒にごはんを食べる体験は、まさに暮らす旅の醍醐味です。ただ見るだけではなく、五感をフルに使った島の味わい方だと感じました。

ダイニングスペース

1階の共用キッチンとダイニングスペース

リビングスペースは、大きな机があり、カウンターにいるスタッフとちょうどよい距離感で話すことができます。近くにある足湯や温泉施設に来た人や近所の人もふらりと立ち寄れるような空間になっています。空間の設計デザインは、美大時代の友人に依頼、共に話し合い、作業しながらに進めていったのだとか。古い家の風情を活かしつつ、スッキリと清潔感ある空間にまとめられています。

2階の様子

2階の宿泊&多目的スペース

ヨガやフリマイベントも開催。根底にあるのは「楽しく暮らす」ライフスタイル

「ネドコロ ノラ」では、宿泊以外に、地元の仲間とともにヨガやフリーマーケットなどのイベントも開催しています。フリーマーケットには、島外からの出店者もやってくるなど盛り上がりました。

まだ宿が出来る前、荒川でゲストハウス用の物件を探している頃、地元の人はゲストハウスがどういうものかすらわからない人がほとんどでした。地域おこし協力隊として2年前から島に居住していた廣瀬さんも、住んでいたのは違う地区で、最初は物件探しから苦戦し、理解を得るのに時間がかかったそう。

けれど、新築ならすぐに建つ家を、何ヶ月もかけて大工さんや友人たちと一緒に壁を剥いだり塗ったりしている姿に、だんだん地元の人たちも「?」マークから、「心配して見に来る」ようになりました。

リノベーションの様子

宿のリノベーションは地元の人や島内外の仲間とともにつくりあげた

リノベーションんの様子

「まだまだよそ者だと思っています」と牧山さんは話しますが、今では地域の総会などにも出席し、すっかり地元の信頼も得たようです。

ゲストハウスを女性2人で共同経営するのは、比較的珍しいスタイルです。「ケンカしないんですか?」とちょっぴり意地悪な質問をしてみましたが、デメリットよりメリットのほうが多いと話してくれました。

「ここで自分たちが楽しく暮らすことが大事、という根っこの部分が共通しているからでしょうか。この島で暮らしが成り立ち、楽しみながら仕事をつくることができて、今はとても楽しいです。お互い感情の浮き沈みの時期があっても、そこはフォローしあうようにしています。」(牧山さん)

売店

島の食材などを販売する売店やスパイス料理教室などのイベントスペースとしても活用

ノラネコのようにのんびりと。人と出会い、暮らすような旅をしよう

廣瀬さん、牧山さんともに美大出身で、デザイナーとしての顔も持っています。今は宿を経営しながら、それぞれ地元企業や行政などからデザインの仕事も受注し、仕事として請負いつつの宿営業。そんな二足のわらじスタイルもこの島での時間の流れ方の中では、忙しさよりも心地よさや、ひとつの仕事に頼らず生きられる安心感につながるようです。

福江島は今、移住者がとても増えているという明るい側面もある一方、少子高齢化や人口流出、産業の衰退など、日本の多くの地方が抱えているような課題も数多くあります。「ネドコロ ノラ」がある荒川地区も80世帯ほどのほとんどが高齢者のひとり暮らし世帯なのだとか。

そんな地域に、自分たちの暮らしを自分の手でつくっていく若い2人がやっている宿があり、そこに全国各地から旅人が訪れ、「楽しかった!」と言って、島時間を楽しんで帰っていく。「ネドコロ ノラ」の存在は、この地域に確実に明るい灯火を照らしてくれているようです。

ぜひ、あなたも福江島の“島の奥”、荒川集落で「ノラネコ」のようにのんびり、ゆったり時間を過ごしてみてはいかがでしょうか?

受付

福江島でお待ちしてます!

取材先

ネドコロ ノラ

ネドコロ ノラ:https://nedokoro-nora.com

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西村祐子

西村祐子人とまちとの関係性を強めるあたらしい旅のかたちを紹介するメディア「Guesthouse Press」編集長。地域やコミュニティで活躍する人にインタビューする記事を多数執筆。著書『ゲストハウスプレスー日本の旅のあたらしいかたちをつくる人たち』共著『まちのゲストハウス考』。最近神奈川県大磯町に移住しほどよい里山暮らしを満喫中。

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 「風土」という言葉には、地形などの自然環境と、 文化・風習などの社会環境の両方が含まれます。 人々はその風土に根ざした生活を営み、 それぞれの地域に独自の文化や歴史を刻んでいます。

 過疎が進む中で、すべての風土を守り、 残していくことは不可能であり 時とともに消えていく風土もあるでしょう。 その一方で、外から移住してその土地に根付き、 風土を受け継ぎ、新しくつくっていく動きもあります。

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