「今日は、お料理がとっても上手で素敵な清ちゃんのところに行きましょう。村の料理を教えてくれるそうです」と爽やかに話すのは、マーケティングマネージャーとして半年前にこの村にやってきた大倉曉さん。
「清ちゃん」と呼ぶものだから大倉さんと同年代の女性をイメージしていたのですが、出て来たのはとっても素敵なお母さん! 驚くほど甘くて美味しい蕪や白菜を収穫して漬け物にするという。「漬けるの、手伝ってもらうよー」と、清ちゃんもとっても楽しそう。
約1年前に着任した高橋淳さんと柴原孝治さんが仕事を終えて合流すると、同じく「清ちゃん」と愛情こもった声で口々に呼びます。1年たらずでここまで仲良くなり、関係性を築いている彼らに感動していると、「この村は、年齢関係なく下の名前にチャンとかクンとかをつけて呼び合うみたいなんです。そのなかでも、ことあるごとにお世話になっている清ちゃんはやっぱり特別かな」。と、笑いながら教えてくれました。清ちゃんの美味しいご飯を囲みながら、お互いの話を聞いてみる。
都会で、高いステータスと給料のもとバリバリと働いていた3人。いきなりそれをなげうってこの村にくるというのは、さぞ不安も多かっただろうと思いきや、「僕たちは全員、キャリアアップだと思ってここに来ています」と、目を輝かせて言う。確かに彼らを見ていたら、「田舎=スローライフ」より、「田舎=エキサイティングでクリエイティブ」というイメージの方が近い。
「アキラ君はアンテナを常に張っていて、しかもそれをアイデアに落とし込むのが習慣になっているんだと思いますね」。と、他の隊員に言われる大倉さんは、新しく何かを生み出すというより、村に既にあるものがどうしたらより魅力的になるか、面白くなるかを常に考えているのだそう。
おばあちゃんたちが作る布草履だって、彼にかかれば都会のリネン屋さんと繋いでオシャレにリニューアルされたりするのだから驚きです。
「柴ちゃんがいるから、協力隊に信頼感が生まれているんだよね」。現在移住コンシェルジュとして活躍する柴原さんは、奥さんとまだ小さいお子さん2人の4人でこの村にやってきました。「地域と若者を繋ぐような仕事がしたくてここにきました。『会社に入る』以外の選択肢を若い人に提示したかったんです。現在は空き家の活用を担当していますが、こんなに楽しいものはないですね。可能性がたくさん詰まっているんです」。
会社を立ち上げ、自身でも古民家を購入し、住居兼カフェにするため現在絶賛リノベーション中。楽しそうな話ぶりを聞いていると、こちらまでわくわくしてしまいます。
そして、「淳くんは、Mr.村民って呼ばれているんですよ(笑)」。と紹介されたのは、南部活性化担当の高橋さん。東日本大震災をきっかけに今まで一般的に言われていた「幸せ」に疑問を感じ、地域で暮らしを丁寧に作りながら仕事をするということに目を向け始めたのだそう。
「何をやるというより、この村で暮らすのが普通になってしまって……」と謙遜する高橋さんですが、野球チームに太鼓、青年会に村のお祭りと、ありとあらゆる村の行事に積極的に参加し、今や「村民よりも村民らしい」とみんなから愛されています。
今年、1年越しの思いで隊員の募集を開始した立役者、観光振興課の高島一成さんは「本当に突き抜けた3人が来てくれて、それぞれに自立して動いていく姿には、僕たちも刺激を受けます。そして、地元の人間が普通だと思っていた場所も、『ここ、トレッキングコースとして最高に素敵じゃないですか!』と、取材してもらい、雑誌に美しく取り上げられているのを見ると、魅力的な場所だったんだって新しい発見になる。そんな彼らが吹き込んでくれる新しい風は、村民たちや村長の意識まで変えているんです」と、嬉しそうに話します。
しかし、3人曰く、自分たちが自由に活動できる背景には、高島さんが熱い思いを持ち、矢面に立って全力でサポートしてくれるからだそう。バックグラウンドもキャラクターもさまざまな彼らですが、全員に共通しているのが、リスペクト。地域に対してリスペクトし、仲間に対してリスペクトしている。羨ましいほどのこの関係性が、地元を巻き込みながらスピード感を持って進んでいける秘訣なのかもしれません。
※本記事は、白川村役場HPに掲載されている記事をご提供いただき、掲載致しました。
取材・中村優
なかむら ゆう:1986年生まれ。台所研究家。編集事務所『taraxacum company』、恵比寿のレストラン『キッチン わたりがらす』にて編集と料理を学び、2012年にフリーランスに。自分の訪れた国の家庭料理を振る舞うケータリング「優の旅人キッチン」を主宰するほか、世界中のおいしいものを探し当て、ストーリーブックとともに届ける「YOU BOX」や、世界中の「おばあちゃんのレシピ」採取をしている。