和のテイストを活かしつつ、現代的でスタイリッシュな内装
新潟市沼垂(ぬったり)にある「なり」は、古民家をスタイリッシュに再生したバー併設のゲストハウス。ドミトリー(相部屋)だけでなく、部屋ごとに四季をあらわす風の名前がつけられたダブルの洋室や和室など、それぞれ意匠にこだわってつくられたお部屋と、広い共有リビングスペースがあるのが特徴です。
先日ご紹介した沼垂テラス商店街のメイン通りから徒歩5分、商店街のサテライト店舗でもある「なり」。濃茶色の木造の建物と細い格子の窓。しっかりとメンテナンスが行き届いた館内は、どこをとってもオーナーの思いが詰まった素敵な佇まいです。
入り口の扉を開けると、広い和の空間が現れます。扉の脇には番台のようなレセプションがあり、スタッフがきびきびとゲスト対応。靴を脱いで奥のエリアは琉球畳に平机、座布団の和空間があると思えば、低めのソファチェアが置かれたバーラウンジ空間も。中庭からは光が差しこみ、緑がきらきらと輝いています。
廊下には宿周辺の情報フライヤーやオーナーがセレクトした本棚もありました。小さなキッチンスペースもあり、近隣で買ってきたものを調理して、広いラウンジで食事をすることも可能です。
客室は二階にあり、女性用ドミトリーと男女混合ドミトリーが一部屋ずつ。さらにダブルベッドが置かれた洋室と和室の個室があります。それぞれ部屋ごとに四季をあらわす風の名前がつけられていて、どこも素敵なインテリアで統一されています。
新潟の魅力がたっぷり詰まったおにぎりと味噌汁の朝食
滞在中、感動したのは朝食です。「なり」では宿泊費に追加500円で和朝食を提供しています。おにぎりと味噌汁、少しのお漬物。とてもシンプルな内容ですが、その中身がすごい。
新潟は日本随一の米どころ。近隣の農家さんから仕入れた美味しいお米で炊いたご飯でつくったおにぎりは、食べるとしみじみと美味しさが伝わってきます。近隣で営業している峰村醸造のお味噌を使い、旬の野菜を入れた手作りのお味噌汁とお漬物もまた、ていねいに作られているのが感じられ、ひとつひとつじっくり味わいたくなるお味でした。
夜はバーカウンターになる共有ラウンジでの過ごし方は自由。新潟の地酒をちびちびと味わうもよし、館内に置かれたガイド本や写真集など興味の惹かれた本や雑誌をパラパラとめくってみたり、友人や宿のスタッフの人とぽつぽつ語り合ったりできるのも、ゲストハウスの魅力のひとつ。決して押し付けがましくなく、ちゃんと必要なときに親切に対応してくれるなりのスタッフのみなさんの対応が心地よく感じられました。
二度目のUターンでゲストハウスを開業した高江理絵さん
「なり」を運営しているのは、新潟市出身の高江理絵さん。2名のスタッフとともに毎日宿を切り盛りしています。理絵さんは、新潟に2回Uターンしているというちょっと珍しい経歴をお持ちです。どうしてここ沼垂の地でゲストハウスをやろうと思ったのか、お話をうかがいました。
大学で東京へ出て社会人生活を経験したのち、一度目に新潟に戻ってきたときは企業の事務職の仕事に就いた理絵さん。毎月お給料が入り定時で上がれる安定した生活でしたが、当時は新潟で生活する楽しさを見出すことが出来ず、「もっと自分らしくやりがいがあることを見つけたい!いろんな職種があるのはやっぱり東京しかない」と再び上京することにしました。その職探しのため長期滞在したのが都内の「toco.(トコ)」というゲストハウスでした。そこで理絵さんの人生の歯車がぐっと動きはじめます。
魅力的な場所がないなら自分でおもしろい場をつくればいい
その頃「toco.」で働いていたスタッフのひとりが、新たに長野の下諏訪でゲストハウスを企画しており、改修作業を手伝ってもらえないかと誘われたのです。理絵さんは、就職活動の合間に短期間のお手伝いのつもりで現地に向かったところ、予想以上にそこでの生活に充実感があったことで、「せっかくならオープンまで見届けたい」と滞在を延長。さらにその後も完成した「マスヤゲストハウス」でスタッフとして働くことになったのです。
それまで都会にしかおもしろい場所がないと思っていた理絵さんですが、諏訪のゲストハウス運営と周りのまちや人の変化を通して、自分の価値観が変化していったと言います。
「今まで環境や周りのせいにしていたけれど、そうじゃない。おもしろい場所がないなら自分でつくっていけばいいんだと気づいたんです」。
ゲストハウスは、人がいろんなボーダーを飛び越えてやってくる場所。1泊でもそこに泊まって人が生活する場所をつくるこの仕事はすごいと感じていた理絵さん。自身でも地元でゲストハウスをつくろうと決意し、名前と「新潟で宿をやります」と書いた名刺を作り、知り合った人に配り歩きました。
縁あって沼垂の古民家と出会い開業、あっという間の1年
「なり」がある沼垂のこの素敵な古民家との出会いも、友人を通してのご縁。人と会い、話すなかで、どんどん夢の実現スピードが上がっていくのかもしれません。
宿の建物については「初めて見たとき外観にピンときました。品があると思って」と一目惚れだったよう。10年ほどは使われていなかった古民家でしたが、この家が代々大切に扱われていたのを感じ、度重なる交渉の末、ゲストハウス開業にこぎつけました。
開業1年目は「ほとんど記憶がないくらい」、毎日が新しい経験の連続で大変だったそう。2年目となった現在、ようやく宿の経営がわかりはじめたと話してくれました。今後はどんな風にこの場所を育てていくのか?プライベートでは今年ご結婚、秋には出産も控える身となり、今までのようにひとりで何でもこなす方法では成り立たなくなるはず。「人に頼るのが苦手だったんですが、これからはそうも言っていられない。スタッフに安心して任せられるように体制を整えなくては」と、これからも試行錯誤の日々が続いていくようです。
新潟のあたらしい魅力をもっと広く伝え続けたい
以前働いていたゲストハウスのスタッフ時代、訪れたゲストと話していると「新潟へは行ったことがない」と言う人が多くて驚いたことも新潟に宿をつくるきっかけになりました。東京近郊から2時間程度と近く、新潟県は日本一有名なお米の産地であり、美味しい日本酒でも知られているけれど、実際来たことがある人はそう多くないことを知り、「まだまだ県外の人に知られていない、観光として未開拓なところがたくさんあるから、そうした新潟の魅力をもっと発信したい」と感じていることも宿運営の大きなモチベーションになっています。
「なり」とは大工用語で自然ななりゆき、余白のこと。「その場にいる人、空気感で毎日違う表情を持つ宿にしたい」と、名前の通り、時代の流れにあわせて宿の形態やあり方も変化させることも厭わずこの場所を長く続けていきたいと考えています。
「なり」で情報を集めて、旅立っていける宿に、という意図通り、館内には沼垂の情報はもちろんのこと、新潟県内いたるところの情報誌やリーフレットなども揃っています。また、宿のスタッフやバーラウンジで出会った地元の人に新潟のオススメ情報を聞いてみると、自分では発掘できなかった新たなまちの魅力が見つかるかもしれません。ぜひあなたも新しい新潟の魅力をさがしに、ぜひ「なり」に泊まりにいってみてはいかがでしょうか。