「生産者と消費者がつながる場所」をポリシーに
JR秋葉原駅を電気街側に出て、線路沿いに北に歩くことわずか数十秒。交差点を渡った先に「ちゃばら」という駅高架下施設があります。このうち一等地を占めているのが、「日本百貨店しょくひんかん」。気軽に出入りできるロケーションにあるためか、観光客や外国人の方々も気軽に出入りをしているようです。
「ここは一言で表せば、『生産者と消費者がつながる場所』であるのかな、と思っています。生産者の思いを、熱量を伝える場所ですね。」
そう話す副店長の假屋義人さんは、このコンセプトに惹かれて中途入社した転職組のひとり。かつては食品専門の卸売会社で営業兼仕入れを担当していたそうですが、「もっと消費者に近くて、生産者の『熱量』を消費者に直接伝えられるような仕事をしたい」と思っていた時に、あるイベントに参加していたお米農家さんから、「日本百貨店」を教えてもらったのだそうです。
もともとこの「日本百貨店」は、「日本百貨店しょくひんかん」からさらに歩いて北へ3分ほど、御徒町駅近くの高架下にある雑貨店から始まったお店です。その後、ジェイアール東日本都市開発(この高架下の開発主体)から「高架下のスペースを利用してみないか」と提案されて、しょくひんかんのプロジェクトがスタートしたとのこと。当時、都内各地に各県の「アンテナショップ」は沢山ありましたが、こうした、全国を網羅した地場食品の専門店はほとんど無かったそうで、オープン時には大きな話題に。それからおよそ5年、現在の取扱品目は4000種類以上にも及び、多くの人で賑わっています。取り扱う商品はどのように決めているのでしょうか。
「実は、がっちりとした選考基準は無いんです。お店のスタッフが地方の生産者さんのもとに出向いて、『これは責任をもって売りたいな』と思った食材を販売させていただくという形なんですよ。取り扱うかどうかは、スタッフの熱量と、生産者の方の熱量次第ですね。もちろん価格の折り合いがつけば、という面もありますが。」
こうして「熱量」を基準に取り扱い商品を増やした結果、今は全国の都道府県のほとんどを網羅。多くの商品は、食品メーカーや各県・市町村の産業振興課などから声がかかって、商談に呼んでもらい、そこで「熱量」を感じて成約に至ったものだということです。
「でも、それだけではなくて、スタッフが出張に行った時に、道の駅や地元のスーパーで商品を買って、それが美味しかったら商品の裏面を見て電話をして、また行く、といった形で取り扱いが始まった商品もあります。お客さんから紹介していただいた商品もけっこうありますね。」
「都会で売る」ためのアドバイスをするのも、日本百貨店の仕事
とはいえ、熱量だけあれば販売数が伸びるわけではありません。熱量だけでなく、「美味しければ何でも売れる」とか、「素朴なデザインがうける」という考えは「甘い」のだそう。地方の人が描く都会の人々の購買イメージを補正して、「こうすれば東京でもっと売れますよ」と改善の提案をするのも、しょくひんかんスタッフの役割なのだといいます。
「改善の例を挙げればキリが無いのですが、僕がいま携わらせていただいている仕事では、香川県の担当者の方と一緒に改善を進めていまして、『東京の方はすごく忙しい方が多いので、周りに紛れない、インパクトのあるパッケージにしましょう』ですとか、『単身者が多いので、もっと小分けのサイズにしたらどうでしょう』といった提案をさせていただいています。改良するかどうかはメーカーさん次第なのですが、小売店のスタッフの一意見を商品に反映いただけるということで、面白いことをさせてもらっているんだな、と感じています。」
「香川県の例では、味はいいんだけれども、高いという理由で埋もれてしまっていた、『竹の子なめたけ』について、“ごはんのお供”として売り場やパッケージを変えて展開したらどうかといった提案もしていますし、瓶もののドレッシングは重くて電車で持って帰るのが大変ですから、もっと軽い簡易包装にしませんか、というような提案をさせていただいたりもしています。すでに改良されたものですと、たとえばこの、小豆島の『はもめし』などは、元のパッケージは地味で素通りされてしまっていたんですが、思い切ってデザインを変えたら、売れ行きもすいぶん変わりました。ドライフルーツもそうですね。小分けにしたパックに変えたら売れ方も変わりました。」
スタッフ自身が実際に感じている「都会のニーズ」を、生産者側に直接フィードバックできるから、すぐに改善がなされる。そして改善した商品を並べれば、すぐに結果が見える。この「スピード感」が、「日本百貨店しょくひんかん」の強みなのかもしれません。もちろんそれは、スタッフが生産者と直接つながっていて、その間に同じ「熱量」があるからこそ。ほかで真似をしようと思っても、難しいことなのかもしれません。
東京の消費者が見ているのは、商品に込められた生産者の「熱量」
「日本百貨店しょくひんかん」では、2年ほど前から、全国各地の商工会議所に秋葉原まで来てもらって、販売コーナーを持ってもらうという、「地域うまいもんマルシェ」の取り組みも始めたそうです。
「週替りで各地域の商工会議所単位で出店をしていただいています。やはり、僕らが全国津々浦々に行くということだと、限界がありますから。各地の生産者の方にとっても、東京に来て商品を売って、都会のお客さんの声を直接聞くというのは貴重な機会だと思いますし、うちとしても、反応が良い商品があれば、継続的に取引をさせていただいたり、といったメリットがあります。もちろん、お客さんも楽しいですよね、現地の方とお話しをしながら買えるので。」
生産者と消費者の中間に立って、日々、いろんな人の声を聞いている假屋さん。そうした中ではやはり、「地方の生産者と東京の消費者の認識のズレ」について、いろいろと感じるところもあるようです。
「うちの店の一番の魅力であり、お客様からも評価をいただいているのは、『生産者の顔が見える商品だけを置いている』という点なんですね。言い換えれば、お客さんは地方の商品に『安心』を期待しているんです。鮮度や安さということ以上に、作っている方の思いが伝わる、安心が伝わる、熱量が伝わる、ということが大事なんですね。」
「だから僕らも『熱量』という言葉にはこだわっているんです。地方の生産者の熱量は僕らもPOPなどを作ってフォローできますから。それに加えて、サイズが小さめな商品がより売れるという傾向はありますし、パッケージデザインもいいに越したことはありませんが、まずは『熱量』が大事だと思うんですね。」
なるほど、『熱量』という言葉が口癖のようになっている假屋さんにとって、その言葉は、安心・安全・美味しさをすべて表すための、いちばん的確なワードのようです。この店の商品を見る時には、『熱量』を感じてもらうために工夫を凝らした、POPの文言や陳列方法にも注目したいところですね。
生産者と消費者を結ぶことは、都会と地方の距離を縮めることにつながる
最後に、「日本百貨店しょくひんかん」の今後のビジョンについてお聞きしてみました。
「現状の僕らの方向性としては、生産者の方と消費者の方の出会いの場でありつづけるということがまず第一です。とはいえ、もう5年が経ちますので、何かもうちょっとランクアップはさせていきたいな、とも考えています。たとえば、今は週末だけ、各地域の生産者の方に来ていただいて、お茶の淹れ方をレクチャーしながら実演販売をしてもらったり、お酒の試飲イベントをしてもらったり、といった交流の機会を持つようにしているのですが、今後はそういった機会をさらに増やしていって、生産者の方の『熱量』がよりダイレクトに伝わるような仕掛けをしていきたいですね。」
「一方で生産者の方々にも、お客様のリアルな声を吸い上げてもらって、ノウハウを得ていただければと思っていますし、生産者と消費者、双方の方が幸せになれるような仲介をしていければ、と思っています。やるべき課題はまだまだ多いと思っています。だからこそ、今の仕事はすごく楽しいんですが!!」
そう言って微笑む假屋さん。「日本百貨店しょくひんかん」ではいま、「地方の生産者と都会の消費者を結ぶ」にとどまらず、県市町村なども巻き込みながら、「都会と地方の距離を縮める」という段階に踏み出しているようにも見えます。