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2018年9月7日 手塚 さや香

広大な自然の中でのびのび子育てを体験 岩手県移住交流体験ツアーレポート

北海道についで日本で2番目に面積の広い岩手県。東は太平洋に面した三陸漁場、西は秋田県に面した豪雪地帯…地域によって実にさまざまな特色を持っています。そんな岩手の地域ごとの特色を知り、魅力的な人々に触れて岩手への移住や多拠点居住について考えてもらいたい―。そんな思いから岩手県は2015年度から「岩手県移住交流体験ツアー」を実施しています。4年目となる今年度もユニークな4ツアーを実施中。どんな地域でどんな人たちが参加者を迎えてくれたのか、ツアーの様子をご紹介します。

岩手を知り尽くしたメンバーが企画する移住体験ツアー

このツアーは初年度から地元の「岩手県北観光」を中心としたチームが岩手県から受託し、訪問先の選定などツアーの企画・添乗を行っています。岩手のUIターン者でつくる「岩手移住計画代表」の手塚さや香(筆者)、東日本大震災の復興支援を経て「釜石ローカルベンチャー」で活動する細江絵梨さん、そして昨年度からは人を呼び込むイベント企画のプロ「ds企画」の伊藤大介さんも加わり、「岩手県北観光」の宮城和朋さんとともにそれぞれの強みを生かしたツアープランを練っています。

2018年度第1弾となる「ご家族限定 いわて暮らしモニターツアー」は自身も子育て真っ只中の宮城さんが企画したツアー。子育て世帯2組とご夫婦2組の計4組が参加しました。初日は東北新幹線の二戸(にのへ)駅集合。そこからバスで一戸(いちのへ)町へ向かいます。
二戸駅から一戸町まちづくり課で移住定住を担当する土川憲亮さんがバスに乗り込み、町のことや車窓の風景を案内しながら、まずは生活の様子をつかむために町内のショッピングセンターへ。

岩手県移住交流体験ツアー

産直コーナーで岩手県産のりんごを選ぶ参加者

靴などの子ども用品を買い足したり、産直コーナーで岩手や青森の果物を購入する参加者も。「やっぱり安いね」「このお菓子なんだろう」などと産直ならではのラインナップは新鮮だった様子でした。

「のびのび子育てできる町」一戸は子育て支援策も充実

買い物を済ませた一行は、町内の「御所野(ごしょの)縄文遺跡」へ。斬新な外観の展示施設のほか、広々とした芝生のあちこちに縄文時代の竪穴式住居(復元)などが点在し、歴史好きもそうでない人ものんびりとくつろいで楽しめる空間です。
地元の食材を使ったお弁当を食べながら参加者の自己紹介をし、一戸町が力を入れている子育て施策の説明、「先輩移住者」である地域おこし協力隊員の経験談に耳を傾けました。 保育料の実質無料化や高校生までを対象に医療費助成が行われていること、人気の子育て支援住宅など充実した子育て支援策に参加者も魅力を感じた様子でした。

岩手県移住交流体験ツアー

ランチを頂きながら参加者同士の距離も縮まります

その後、町中心部にある「いちのへ手技工芸館」を見学したり、東北各地から家族連れが訪れる入場無料の人気施設・岩手県立児童館「いわて子どもの森」で自由時間を過ごしたり、農業が主要産業の一戸町が新規就農者を育てるために運営する「一戸夢ファーム」でとうもろこしの収穫を体験したり…。都会ではなかなか味わえない広い岩手だからこその体験を家族で楽しみました。

一戸夢ファーム

親子で収穫体験。新鮮なとうもろこしを生のままかじってみる参加者も。

一戸町と葛巻町の先輩移住者の声

現地に移住した「先輩移住者」との交流の時間が充実しているのもこのツアーの特徴。これまでのツアー参加者の中には、「先輩移住者」を訪ねて何度も岩手を訪問している人たちもいます。

初日の夕方に会いに行ったのは、町内の奥中山地区で「結カフェ」を経営する山舘章子さん。山口県出身の山舘さんは大学時代の農業研修で岩手県を訪問し岩手の風景の美しさに惹かれたのをきっかけに、卒業後に一戸町内の福祉施設で教員として働き始めました。子育てがひと段落してからは、障がいのある人たちが働きやすい職場をつくりたい、と「結カフェ」を開業しました。

結カフェの山舘章子さん

一戸の魅力を語る山舘さん

山舘さんは「一戸の人たちは物静かで優しく、思慮深い人たちが多いです」と話し、さらに「地域の人たちが自分の子どものように地域の子どもたちを育ててくれる環境」と言います。図書館の蔵書が充実しているのも魅力だそう。「雪は多いですが、人が良くてとても住みやすいところ。あまり心配せずに気軽に飛び込んできてほしい」と参加者に呼びかけました。

一戸町を後にして訪れた葛巻町では「自治体説明会・交流会」に来てくれた先輩移住者の南舘則江さんと交流しました。

葛巻町の南舘則江さん

子どもたちといっしょに参加してくれた南舘さん

南舘さんは岩手県内内陸部の一関市から2013年に家族で移住しました。東日本大震災を機に、クリーンエネルギーに力を入れる葛巻町への移住を決めたという南舘さん。「子どもたちをのびのびとした環境で育てたいという強い思いもあり、かねてあこがれていた葛巻への移住を決めました」と振り返り、「狭いアパート暮らしだと子育てのストレスもありましたが、葛巻に来てからは4人の子どもたちが騒いでも昔のようにいらいらしなくなりました」と話してくれました。

移住支援制度制度も充実の葛巻町

翌日は、さわやかで涼しい葛巻高原で起床。早朝から散歩をする参加者の姿も見られました。葛巻高原牧場で牛のえさやりを体験し、牛乳やソフトクリームなどを味わいました。

葛巻高原牧場

こわごわ牛に餌をやる参加者の男の子

前日夜の説明会では葛巻町役場のいらっしゃい葛巻推進室の皆さんから町の移住促進施策の説明を受けましたが、そのひとつである「小屋瀬いらっしゃい住宅」を見学に行きました。この新築住宅は町外からUIターンする子育てファミリー向けの住宅で、要件を満たせば月3万9000円の家賃で3LDK木造2階建ての住宅が借りられるほか、12年を過ぎると取得できるという仕組みです。

小屋瀬いらっしゃい住宅

「小屋瀬いらっしゃい住宅」を内覧する参加者

岩手の都会・滝沢市で2日間の振り返り

葛巻町を後にして最後に訪れたのは滝沢市。盛岡市から通勤圏内で鉄道やバスの便もよくスーパーや病院なども充実した滝沢市は岩手の中では都会と言っていいエリアでありながら雄大な岩手山を間近に望み、農業も盛んな地域です。滝沢の名産、すいかですいか割りを楽しんだり、地元の事業者がブースを出す「滝沢市産業まつり」の会場となっている公共施設「ビッグルーフ滝沢」でまつりや産直を見学しました。

岩手県移住交流体験ツアーでスイカ割り

初めてのすいか割りに興奮!

最後はこの2日間で感じた岩手の魅力や、来る前と現在とで変化したことなどについて参加者同士で意見を出し合いました。

岩手県移住交流体験ツアー

参加者からは、「ツアーに参加する前は漠然と移住を考えていたけれど、家を安く借りられる制度や子育て支援策を知ることができ、もっと踏み込んで考えられるようになった」とか「魅力的な人との出会いで岩手が好きになった」といった意見が出ました。

岩手県移住交流体験ツアー

1泊2日を振り返り感想を語り合う参加者

5歳と1歳の子どもたちと神奈川県から参加した高橋琴音さんは「子どもたちが牧場を走り回っているのを見て、移住したいという気持ちが強くなりました。現地で交流したママさんともお話できて不安は少なくなったので、移住に向けてもっと具体的に調べていきたい」と背中を押された様子でした。
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2018年度のツアーはまだ3本予定されています。第2弾ツアーは、10月5日~7日に「みんなの『居場所』とつながる旅」と題して、沿岸部の宮古市、山田町、大槌町、そして内陸部の遠野市、花巻市をめぐり、カフェやゲストハウスなど人々が集う場づくりに取り組む方々を訪ねます。

お申込はこちらから。
https://www.kenpokukanko.co.jp/tpc/reserve/tpc_tour_det.php?gc=042118100041

手塚 さや香
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手塚さや香

手塚 さや香2014年10月より釜石リージョナルコーディネーター(通称「釜援隊」)。釜石地方森林組合に派遣され、人材育成事業「釜石大槌バークレイズ林業スクール」の事務局業務や、全国からの視察・研修の受け入れを担当。任意団体「岩手移住計画」を立ち上げ、UIターン者や地域おこし協力隊・復興支援員のネットワークづくりにも取り組む。新聞記者の経験を活かし、雑誌等への記事執筆のほか、森林組合のプレスリリース作成や取材対応、県内の事業所、NPOのメディア戦略のサポートも行う。

人と風土の
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 「風土」という言葉には、地形などの自然環境と、 文化・風習などの社会環境の両方が含まれます。 人々はその風土に根ざした生活を営み、 それぞれの地域に独自の文化や歴史を刻んでいます。

 過疎が進む中で、すべての風土を守り、 残していくことは不可能であり 時とともに消えていく風土もあるでしょう。 その一方で、外から移住してその土地に根付き、 風土を受け継ぎ、新しくつくっていく動きもあります。

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