世界に発信できる可能性を秘めた二ツ森貝塚と人手不足のジレンマ
青森県は2007年から北海道や北東北3県と連携し「北海道・北東北の縄文遺跡群」として世界文化遺産登録を目指しています。2013年からは共同で文化庁に推薦書を提出。6回目にして今年初めて、国内推薦候補に決定しました。残念ながら今年度の推薦には至りませんでしたが、七戸町では将来的な登録を視野に入れながら「縄文」をキーワードに二ツ森貝塚を世界に発信していくため地域おこし協力隊「縄文ナビゲーター」を募集しています。
さっそく二ツ森貝塚を訪ね、長年ボランティアガイドとして活躍されている「二ツ森貝塚遺跡保存協力会」(以下、保存協力会)の鎌本義明会長に話を聞きました。鎌本さんはもともと歴史に興味があったことから、定年退職後に先代から現職を引継ぎ、2代目会長に就任しました。保存協力会は町の世界遺産対策室から委託を請け、来場者への簡単な案内をはじめ、敷地内にある竪穴住居の燻蒸作業や草刈りなどの環境整備にあたっています。
「世界文化遺産登録への取り組み以前から、貝塚の価値を後世に残そうと地域住民が保存活動やガイド活動に取り組んできました。私も三内丸山遺跡や富岡製糸場、白川郷など、ほかの地域をいろいろと視察してきましたが、内容としては二ツ森貝塚も決して負けていないと思います。2016年7月からこの休憩所に見学者ノートを設置しています。常時スタッフがいるわけではないので推測ですが、来場した方の10人に一人くらいが書いていると見込んでいます。」
ノートが設置されている休憩所は冬期間閉鎖されるため、書き込めるのは4月から11月末まで。実際にノートを見せてもらうと、台湾や九州など国内外から毎年70名前後の老若男女が訪れて書き込んでいる様子。鎌本さんの推測にもとづけば、年間700人以上が訪れていることになります。2019年にはこの貝塚まで5分で着くという新しい道路のインターチェンジも開通するため、より一層の来客が見込めます。
一方で鎌本さんは、世界文化遺産登録への取り組みや縄文ブームの到来など、二ツ森貝塚の可能性に期待しながらも、高齢化が進む組織の窮状を訴えます。
「保存協力会は60代から80代の地元住民10人前後で構成されています。うち、自分を含めてガイドをできるのが4人程度。世界遺産対策室経由の申し込みでガイドをすることが主ですが、たまたまこの休憩所に立ち寄った際にお客様がいらっしゃればご希望に応じて案内します。道路環境もよくなりますから、周辺の縄文遺跡も含めておすすめルートを案内できれば、この地域への経済波及効果も高いと思います。ただ、アイディアはあっても人手も時間も足りない状態です。」
縄文ナビゲーターに期待されることとは
二ツ森貝塚から徒歩5分ほどの場所にある「天間東小学校」。土地柄もあって児童たちは貝塚の学習に熱心です。残念ながら2018年度で閉校が予定されていますが、その後は1階を中心に改装工事が入り、2020年度の完成を目指して二ツ森貝塚と連携したガイダンス施設として生まれ変わります。この施設でのガイドや集客、活用方法を企画・実行するのも縄文ナビゲーターの役割のひとつです。
ここからは七戸町世界遺産対策室の甲田美喜雄室長にお話を伺いました。今年の縄文ブーム到来にも「もう何度目かの縄文ブームですね。」と、かなり詳しい様子。どんなガイダンス施設にしたいのか、縄文ナビゲーターに期待することも含めて将来像を尋ねました。
「二ツ森貝塚が1998年に国の史跡に指定されると同時に地元の方々による二ツ森貝塚遺跡保存協力会が設立されて、2015年からはボランティアガイドも務めてきました。設立からもう20年が経過。住民の皆さんがこれまで培ってきた実績やノウハウに、協力隊という形で新たな人材に加わっていただき、ボランティアガイドを現状にあわせた持続可能な体制に移行していきたいと考えています。」
「そのためにもガイダンス施設は重要な役割を担います。出土品の展示も行いますが、見るだけで終わる施設ではなく、史跡と連携していきたい。七戸町には学芸員の資格を持った職員もいるため、企画を進めていくうえで専門的なことは教わることができます。着任1年目は世界遺産対策室に勤務し、ガイダンス施設オープンに向けて、積極的に県内外の史跡や資料館を見て学び、運営に活かしてほしいですね。」
まだ伝えきれていない、学術的にも価値の高い二ツ森貝塚出土品の魅力
甲田室長に案内され次に訪ねたのが七戸町文化交流センター。この2階には貝塚から出土した貴重な品々が展示されています。圧巻なのが、2003年の発掘調査で出土した貝層断面。文字通り貝塚の断面を特殊な工程によりはぎ取ったものなのですが、少なくとも約4,000年前のヤマトシジミやホタテの貝殻などが、土壌から突き出たような状態で目の前に広がると、なんとも言えない不思議な気持ちになります。
縄文ファンでなくとも一見の価値ありですが、当センターは貝塚付近から離れており、いつでも自由に見学できる状態にはありません。これらが展示されるガイダンス施設ができるのはまだ先。二ツ森貝塚の見学者からは、出土品をその場で見たいという声も多く、この時間差でも何かできるとすれば、それが縄文ナビゲーターの腕の見せ所かもしれません。
地域を守って次世代に引き継ぎたい。地元住民の想いに触れて
保存協力会の鎌本さんの話で印象的だったのは、地域への想いでした。
「二ツ森貝塚は、今は竪穴住居が2棟建つのみですが、それでもこれだけの人が来ているという事実があります。地元住民としてはそれはうれしいことですし、おもてなししていきたいと思っています。貝塚は、自分たちがこの地域を守って次世代につなぐんだ、という気持ちを醸成するためにも必要なんです。」
実はこのインタビューには、七戸町在住の菅岡耕太郎さんという方が同席していました。一度県外に働きに出た後Uターンしてきた出身者です。「”二ツ森貝塚”という看板は見えるけれど、どういうものなのか実際に聞いてみたかった。」と同席を希望され、熱心に話を聞いた後は写真撮影にも協力していただきました。鎌本さんの言う「次世代への橋渡し」に、二ツ森貝塚がその役割を果たすことを期待できそうな気がしました。
縄文ナビゲーターとして着任した際には、菅岡さんのような地元にいる若い人を巻き込むことで、活動の強力な味方が得られるかもしれません。鎌本さんも「このあたりはよそから来た人でもとけ込みやすい土壌があります。」と話していました。
さらに、甲田室長は「縄文ナビゲーターとともに二ツ森貝塚の取り組みを盛り上げていく『二ツ森貝塚サポーター』も募集中です。」と次のプランに向けて動き始めています。
縄文文化への興味があれば、学芸員やガイド経験がなくともサポート体制が万全の七戸町。ぜひ応募を検討してみてください。