JR豊後竹田駅前通りにあるパン屋とカフェ・バー併設のゲストハウス
たけた駅前ホステルcue(キュー)は、JR豊後竹田駅を出て100メートルほど歩いた駅前通り沿いにあるゲストハウスです。
もともとは化粧品店だったという築80年を越える古民家をリノベーション。一階入り口部分はカフェとなっており、さらに日中は人気のパン屋さん「かどぱん」が入る「イミルバ」と名付けられた複合施設になっています。
宿名のcueとは英語で「きっかけ」という意味。宿の滞在を通して、旅のきっかけづくりに、さらに旅が終わったあとに続く日々の暮らしにも、新しい世界をみつけるきっかけづくりになってほしい、という思いが込められています。
大分県竹田市地域おこし協力隊として着任した堀場夫妻
cueを運営するのは、堀場貴雄さんとさくらさんご夫妻。
2014年に大分県竹田市の地域おこし協力隊に着任したことがきっかけでこの地にやってきました。
もともと出会いも沖縄の離島だったという旅好きなふたり。いつか自分たちが世界で泊まり歩いて快適に過ごしたゲストハウスをやりたいと考えていました。
2012年に結婚し、さくらさんは地元福岡を離れ、貴雄さんの地元である千葉に居住地を移しましたが、都市生活のなかで「地域コミュニティに溶け込む暮らしがしたい、さらに子育てをするならもっと自然が身近にある場所で」など、将来の自分たちの生き方を考えはじめ、地方へ移住するための準備も整えていきました。
そして、ゲストハウス開業の夢を現実のものとするために行動を起こしはじめたのです。
情報収集の過程のなか、地域おこし協力隊の制度と竹田市のことを知り、当時定員10名で募集していた協力隊へ夫婦ともに応募することにしました。もともと募集は個人単位だったため、夫婦でばらばらに応募。無事、ともに選考を通過して移住したのが2014年のことでした。貴雄さんは当初、移住定住担当として着任しましたが、半年後から任期終了までまちづくり会社の運営に携わり、さくらさんは生涯教育などを行う部門の仕事に就いていました。
着任3年目で動き始めたゲストハウス経営の夢
地域おこし協力隊の任期は3年間。その最終年にあたる2016年、知人竹田出身のUターン者でもある地元や九州の美味しい食材を使ったイタリアンレストランOsteria e Bar RecaD(オステリア・エ・バール・リカド)を経営する小林孝彦さんが駅前の古民家を購入して活用方法を探っているという話から、具体的なゲストハウス運営への道が開けはじめました。
地域を元気にしたい!と活発に活動している小林さんの熱意がさまざまな人を動かしていきます。堀場夫妻も協力隊任期終了まであと1年となり、具体的に動き出す必要があったタイミングだったこともあり、元化粧品屋さんだったという建物を改修し、ゲストハウスだけでなく、地元の人も立ち寄れるパン屋さんやカフェ・ショップ機能もある複合施設として立ち上げる「イミルバ」プロジェクトのメインメンバーとなったのです。
改修やオープンに当たっては自己資金や金融機関からの融資を主に、イミルバプロジェクトメンバーでクラウドファンディングも実施。全国から多くの支援も受け、「左官しナイト!」などDIY作業をイベントのように誰もが参加できるように工夫して開催、のべ100人以上の参加者、知人友人などの協力も得て、2017年4月にゲストハウスがオープンしました。
古民家のよさを活かしつつ、古材をリデザインした複合施設に
現在「イミルバ」では、ホステルcueに加え、一階でカフェ&バー、木〜日営業のベーカリー「かどぱん」がシームレスなかたちで仲良く営業しています。 「かどぱん」は竹田市の隣町の山奥に約20年前に移住した田舎暮らしの先駆者臼田夫妻がオーナーの人気ベーカリーショップの支店として営業しています。
玄関を開けると大きなテーブル。朝、焼き立てのパンがトラックから運びこまれると、館内はふわっとあたたかい空気と匂いに包まれます。
カフェスペースには旅先でちょっと読みたい本やガイドブックなども置かれています。こちらは宿泊ゲスト以外も利用可能。
レジ兼レセプションの奥には宿泊者専用のラウンジスペースもあります。こちらはぐっと和の雰囲気。この家の解体で出てきたものなど、古道具がセンスよくディスプレーされています。
宿泊者用のキッチンやラウンジエリアには立派な中庭があります。ガラス戸とくり抜いた丸窓が印象的。全部が新しくピカピカしたものよりも、昔からあるものを交ぜることで、まるでずっと前からここにあったような存在感や落ち着いた雰囲気が出ているようです。
2階に上がるとドミトリー(相部屋)と個室があります。個室は畳ではなくベッドでシンプルスタイリッシュな空間。
ドミトリーは、抜いて高くなった天井裏を活かして、中にボックス型のベッドをつくりました。覆われている部分が多く、入口が分かれていることで二段ベッドよりもプライバシー性も高く、上段部分のハシゴも上りやすくていい感じです。
ゲストハウス開業にもとめられる起業精神と技術
内装デザインは、Osteria e Bar RecaDのデザインも手がけ、多くのゲストハウスのデザインでも知られているReBuilding Center JAPAN (リビルディングセンタージャパン/通称:リビセン)の東野唯史さんを中心に、地元の大工さんとともにつくりあげていきました。
貴雄さん:
「彼にはすごく刺激を受けました。ちょうどリビセンの立ち上げと被っていて、そのプレゼン用資料を見せてもらったら、わりといい出来だと思っていた自分たちの企画書とはレベルが全く違う。慌てて資料を作り直したりして。改めて自分たちのゲストハウスについて、いろんな立場の人に理解してもらえるよう、自分たちの考えを整理するよい機会になりました。」
今までは、地域おこし協力隊という枠組みのなかで、与えられた任務や業務をしっかり行うことが主な仕事。これからは、自分たちの理想と現実をしっかり見据え、ビジョンの実現とともに地域に具体的にどのような貢献をしていくのか?を指し示し、それを実現していく起業精神が求められる。この変化はとても大きく、未経験な部分ばかりでストレスもかかります。
地域おこし協力隊の任期は3年。卒業後、赴任地に留まり定住する人の進路は、まちの中で自らが居場所や仕事をつくっていくゲストハウス開業のような起業スタイルを取る人、農業や漁業、その他地元企業の就職を選ぶ人など、さまざまですが、いずれにしても、移住地での新たなライフスタイルの実現には、情熱を持ってものごとに取り組んでいく技術とまわりの人を巻き込んでいく人間力がとても大切なことがわかります。
竹田を知り、好きになってもらうさまざまな工夫
内装デザインも大事だけれど、もっと大事なのはそこで働いているスタッフの質と考えている堀場夫妻。スタッフの教育には力を入れ、自らもゲストハウスならではのもてなし方とはなにか?を常に考え、工夫を重ねています。
例えばcueでは、訪れたゲストとの距離感を重視していて、時間が許す限り、チェックイン時に宿周辺、竹田の城下町を案内するオリジナルマップを使って、簡単な街案内をする時間を設けています。蛍光ペンを使って、このルートをこう行って・・・とルート案内もしてもらうだけで、まちを歩く前からワクワクしてきます。
たとえ宿から歩ける範囲に名所旧跡のような観光スポットがなくても、住んでいる人ならではのお気に入りポイントや視点を教えてもらうと、新たな視野が広がります。それもまたcueが目指す「きっかけづくり」のひとつなのだと感じました。
いただいた地図を片手にまちを歩くと、古い城下町ならではの穏やかな空気感と狭い小道を歩くワクワク感で心が踊ります。
新しい体制でさらなるきっかけづくりを
ゲストハウス開業後の2017年8月に協力隊を卒業し、2018年12月には第一子が誕生、今度はゲストハウスを経営とともに子育てをしていくという新たな働き方が求められるようになりました。今まではオープンから一緒に働いたベテラン女性スタッフとさくらさんが業務を担当することが多かったのですが、さくらさんは出産、スタッフもここで働いた経験を経て海外で新たなスタートを切ることになりましたが、竹田出身の20代の女性スタッフが新たに加わり、cueの運営もまた新たな展開を迎えています。
現在は貴雄さんがcueのほぼ全ての業務を担当、さくらさんの出産と夫婦の子育てがスタートし、宿の運営はより大変になっているようにも思えます。今の状況はどんな様子なのでしょうか?
さくらさん:
「子育てをしながらの運営は、もちろん大変は大変ですけど、うちは夫婦ともに宿に携わっていてそこはお互い協力しあえるので、助かっています。繋がりのあるゲストハウスでも同じ年代の女性が出産して子育てをしている方が増えているので、それも心強いですね」
また、さくらさんは、「日本人だけでなく外国人との交流が当たり前に広がるゲストハウスでの子育ては、きっと子供に与える影響も大きい、既に10カ国を超える方々に抱っこしてもらっています」と話してくれました。
開業3年目となったたけた駅前ホステルcue。ここ竹田の地には若い移住者やUターン者も多く、ここにふらりと来て滞在するだけで、旅人同士が知り合うだけでなく、移住者や地元の人とも知り合うことができるかも。ぜひあなたも大分・竹田のまちを訪れcueで新たなつながりや人生を変えるきっかけを見つけにきてはいかがでしょうか?