「先輩移住者とめぐる旅」第1弾は大船渡、釜石、洋野で復興を感じる
今年度のツアーのテーマは「先輩移住者とめぐる旅」。これまでの4年間で実施した計16回のツアーに参加し、その後に岩手に移り住んだ方は24名。その方々とはこれまでも盛岡で交流会を開催したり、LINEやSNSで連絡をとり何人かで集まるなどのコミュニケーションを続けています。
地方への移住を考えている人たちが、岩手で移住ライフを楽しんでいる「先輩移住者」たちと出会うことで、さらに岩手とのかかわりを深めてほしいと思い、各地の先輩移住者たちと相談しながらツアーでの訪問先を選びました。
第1弾の舞台は、夏の三陸。東日本大震災からの復興の象徴として岩手県沿岸部を南北につなぐ三陸鉄道を乗り継ぎながら、恋し浜(大船渡市)、鵜住居(うのすまい)(釜石市)、久慈(久慈市)の各駅で下車しながら北上し、各地で体験や地元の方々と交流します。
このツアーの「先輩移住者」は東京在住時にこのツアーの運営にもかかわってきた釜石市在住の細江絵梨さんです。
細江さんは東京都出身。東日本大震災で被災した地域の力になりたい、と復興支援のNPOに転職し東京と岩手を行き来しながら働いたのち、現在は釜石市の地域おこし協力隊・釜石ローカルベンチャーとして活動しています。細江さんは「沿岸をめぐるこのツアーを通して、地域住民の絆やコミュニティの大切さを感じてもらえるとうれしい。訪問先ごとにコミュニティのありかたも違うので、現地の方々とたくさんコミュニケーションをとってほしい」と参加者に呼びかけました。
大船渡で東日本大震災と移住者の暮らしを知る
まずは前泊した一関市から大船渡市に向けてバスで移動し、車内では参加者が1人ずつツアーに参加した動機や岩手とのかかわり、移住への思いなどを自己紹介しました。この日は、ツアーの目的のひとつでもある釜石鵜住居復興スタジアムで試合が行われるため、三陸鉄道は朝から混雑。
参加者もなんとか「盛(さかり)」駅(大船渡市)から乗車することができました。3つ目の「恋し浜」駅で下車すると、集落の屋根の向こうには、海が見えます。
ここで迎えてくれたのが、「恋し浜ホタテデッキ」を運営する阿部正幸さんと大船渡市企画調整課の古澤純悦さん、同市地域おこし協力隊のイザベル・プロヴォさん。
阿部さんは内陸の花巻市に拠点を置く「東北食べる通信」のスタッフでもあり、大船渡と花巻、東京を行き来する3拠点生活。家は大船渡に構えています。「東北食べる通信」の仕事を通じて恋し浜の人たちとのつながりが生まれ、移住するに至りました。
阿部さんは、「移住する前の時点で自分と地域の人たちをつないでくれる地域の『里親』的な人を見つけておくことは大事。そういう人が家探しや何か困ったことがあった時に力になってくれる。その意味でも移住までの準備期間を設定することは重要です」と自身の経験もまじえて語りました。
交流の後は、阿部さんの『里親』の一人でもあるホタテ漁師・佐々木淳さんの船で湾内をクルーズ。ホタテ養殖の様子を見学しました。船上での話題は東日本大震災のことに。実は参加者が乗船した船は津波に巻き込まれたものを発見し修理した奇跡の船でした。
佐々木さんはあの日、船で湾内に出ていて尋常でない揺れを感じて漁港に引き返しました。「絶対に津波が来る」と確信したという佐々木さんは高台へ逃げ、そこから集落や船が津波の飲まれる様子を見ていたと言います。ほとんどの船や養殖の設備が被災するという過酷な状況でしたが、震災前から「恋し浜ホタテ」のブランド化に取り組んできた佐々木さんたちはいち早く養殖施設を復活させました。「全国の消費者からの支援があったからこそここまで来ることができました」。参加者からはホタテ養殖の苦労やこだわりについて質問が挙がりました。
ラグビーで盛り上がるアツい釜石で途中下車
恋し浜を後にして、再び三陸鉄道に乗車。
「釜石」駅で乗り換えて二つ目の「鵜住居」駅で下車すると、すでにラグビー日本代表のユニフォーム姿のファンやおもてなしのボランティアの人たちで駅前はにぎわっていました。歩いて5分ほどのスタジアムでは日本代表対フィジー代表の試合開始がまさに始まるところ。隣を歩く人声も聞こえないほどの大声援に包まれていました。
このスタジアムが建っているところは、東日本大震災当時は釜石市立鵜住居小学校と釜石東中学校の校舎がありました。生徒、児童が手を取り合って安全な高台を目指して走ったエピソードは「釜石の出来事」として全国の防災学習の教材としても知られています。
参加者の中には震災後のボランティアで何度も釜石を訪れているという方もいて、スタジアムで地元の方と旧交を温める姿もありました。
1日目は宮古での夕食交流会で終了です。
岩手へのUターンでもある岩手県定住推進・雇用労働室の下川結さんとIターンの岩手移住計画・手塚と参加者のみなさんとでの質疑応答の時間。「地域おこし協力隊の募集の情報はどうやって見つけるの?」や「車の運転はやはり必須?」などさまざまな質問に、岩手県で暮らしている立場から回答しました。
県境の洋野町で地域おこし協力隊と交流
翌朝、「宮古」駅から再び三陸鉄道に乗車し、北の終点・「久慈」駅を目指します。太平洋が一望できる橋の上などインスタ映えスポットでは一時停車のサービスもあり、光を浴びてキラキラと光る美しい車窓の景色を満喫。ボックス席では地元のお年寄りと膝をつき合わせて座り、岩手の訛りのおしゃべりなお婆さんとのおしゃべりも。Uターンを検討している岩手出身の参加者でもなかなか聞き取れない岩手弁に触れることができるのも地元に親しまれている三陸鉄道ならではです。
「久慈」駅からはバスに乗り、青森県境にある洋野町を目指します。ウニで有名な洋野町。その産業を支える宿戸(しゅくのへ)漁港で待っていてくれたのは洋野町の移住定住施策担当者と地域おこし協力隊。協力隊の大原圭太郎さんは仙台市出身のIターン、同じく麦沢紅美さんは18年ぶりに洋野に戻ったUターンです。
まずは、観光振興などを担当する大原さんのガイドで宿戸を散策。水揚げしたばかりのウニを剥いている加工場を見学したほか、「みちのく潮風トレイル」のコースにもなっている海岸線を歩き、ウニの畜養施設など洋野のウニ養殖の歴史について学びました。
洋野町を通るレストラン列車「TOHOKU EMOTION」にむかって大漁旗を振る「洋野エモーション」の活動にも参加。列車が通る日には毎回、大漁旗を準備して待っているという地域の皆さんから振り方の指導を受けながら、参加者も列車の乗客に向かって大きく旗を振りました。
漁協の女性部の方々に教えてもらいながら、ウニとホヤを捌く体験も。捌いた後はもちろん、参加者で頂きました。
食後は協力隊のおふたりと交流。
麦沢さんは「子どもたちに自然の豊かさや食育などを伝えたいと思い、子どもの小学校入学を機にUターンを決めました」と移住の動機を語り、「最初は地元の人たちの輪に入っていきにくいと感じましたが、こちらから積極的に声をかければすぐに打ち解けてくれる。最初の一歩が大事」と話しました。
また、「子育て支援策が充実しているのも洋野の魅力」と話してくれました。町では「ここすむひろの」を通じた情報発信にも力を入れています。お試し移住向けの住宅も用意しており、参加者の中にはさっそくスケジュールを確認して申し込む人も。洋野町を目当てに今回のツアーに参加した方も何名かいて、皆さん熱心に麦沢さんや町担当者のお話に耳を傾けていました。
2日間のツアーの最後は、グループに分かれての振り返りの時間。
参加者からは「東京に長く暮らしていて、最近特に東京の時間のスピードは速すぎると感じることが増えた。岩手のような地域で生きることをリアルに考える機会になった」とか「いきなり移住というのはまだハードルが高いが、岩手とのかかわり方をもっと深めたいと思うようになった」など、それぞれの2日間を総括しました。
今後も続々とツアーを開催予定!
岩手県移住交流体験ツアー第2弾は9月14~16日、岩手県北部の二戸市、一戸町、軽米町、九戸村を舞台に「県北deほっこり暮らしを体験ツアー」と題して実施します。8月26日(月)申込〆切です。 手仕事や雑穀の栽培、炭焼きなど、厳しい自然環境の中で地域資源を活かしたなりわいをつくっている方々を訪ね、先輩移住者と交流します。