コロナ禍で加速する働き方の変化を追い風に! 山形県長井市が挑戦する、副業人材の活用

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テレワーク、リモートワーク、2拠点生活…。働き方改革、そして予期せぬコロナ禍を受け、今、仕事のスタイルは急速に変化しています。そんな風潮を追い風に、2月1日、山形県長井市でパラレルワークを推進し、企業とワーカーをマッチングする求人サイト「PARASUKU(ぱらすく)」がオープン。これを記念して、パラレルワークの先駆者6名を招き、新たな働き方や経営を語り合うオンラインイベントが2月3日に開催されました。

パラレルワークなしでは、地域が“成り立たない”時代に

今回誕生した『PARASUKU』とは「パラレルワーカーが地域を救う」の略語で、名前の通り壮大な目標を持った求人サイトです。山形県内の仕事情報(オープン直後の現在は、県南部 置賜地区の案件が中心)を検索できますが、その対象として、短期・短時間で働く「副業」と、継続的な雇用となる「主業」の両方が掲載されていることが特長。県外からリモートで勤務できる仕事もあります。

YouTube Liveで配信されたイベントではまず、これからの働き方の多様な可能性を示し、「人生を自分らしく謳歌するための、キャリア戦略としての副業」を提案するコンセプトムービーを上映。続いて運営元の日本・アルカディア・ネットワーク代表取締役 黒澤栄さんが登壇し、「今地域では少子高齢化による人材不足に加え、都市圏への流出が止まらない現実があり、乗り切るにはパラレルワークが重要な位置付けに。パラレルワークがなければ地域が成り立たない時代に入ったのでは」と、長井市、内閣府と官民一体となり開設に至った背景を語りました。

日本・アルカディア・ネットワーク株式会社 代表取締役 黒澤 栄さん

日本・アルカディア・ネットワーク株式会社 代表取締役 黒澤 栄さん

来賓である長井市長の内谷重治さんも登壇し、「地方創生戦略の一つとして雇用を促進する中で、パラレルワークの活用に期待を寄せている」と挨拶。イベントのメイン会場でもある長井市営のインキュベーション施設『i-bay』を、テレワークやワーケーションも受け入れられる産業振興の拠点として磨き上げ、『PARASUKU』と連携しながら多様な働き方ができる街を目指す決意を表明しました。

長井市長 内谷 重治さんによる挨拶

長井市長 内谷 重治さんによる挨拶

みんな違ってみんないい、パラレルワークの形

「パラレルワーカーが地域を救う~新しい経営と新しい働き方~」と題したトークイベントがスタート。コーディネーターである慶野(けいの)英里名さんが登場し、平日は出版社に勤務、就業後や土日は「パラレルキャリア研究所」の代表として、複業について語り合うイベントの主催や、地域と関わる“関係人口”の増加を目指すPR支援など、幅広く情報発信のサポートを行う自身の働き方を説明。

続いて5人のパネリストが、自らのパラレルワークや、これを活用した経営方法について、自己紹介を兼ねて順に解説しました。

まず、“パラレルフリーランス”という形で働く志保あかねさんは、大学在学中からプロ太鼓集団として活躍するも、公演後に飲んだ仏ビールに魅せられ、太鼓を続けながら輸入代理店の営業に。その後、取引先である飲食店の経営に興味が湧いてカフェバーもオープン。現在はWEBデザイナーもされているそうです。

コーディネーターを務めたパラレルキャリア研究所代表 慶野(けいの)英里名さん(左)と、アベントゥーライフ株式会社 志保 あかねさん

コーディネーターを務めたパラレルキャリア研究所代表 慶野(けいの)英里名さん(左)と、アベントゥーライフ株式会社 志保 あかねさん

2人目の加藤健太さんは、リクルートを経て、webメディア『All About』の創業に参画。そこから分社した『エンファクトリー』で代表を務め、ECサイトや、パラレルワーカーやフリーランスに越境活動の機会を提供するプラットフォーム:チームランサーを運営されています。
また、『エンファクトリー』は「専業禁止」を人材ポリシーに掲げており、社員の約6割が副業経験者だそうです。

自社の人材ポリシーについて解説する、エンファクトリー代表取締役社長 加藤 健太さん

自社の人材ポリシーについて解説する、エンファクトリー代表取締役社長 加藤 健太さん

続く中村龍太さんは、外資系企業から4年前に週休3日制のサイボウズに転職。休日は農家として人参を育てていますが、センサーを使って最適な収穫時期を予測するなど、本業のITを農業に活用。これを農業法人に販売することで本業の営業成績も上がり、さらに自身で事業も行うなど、“複業家”として活躍しています。

サイボウズ株式会社 社長室長、9つの事業を展開するコラボワークス 代表、自営農家を兼任する“複業家”として注目される中村 龍太 さん

サイボウズ株式会社 社長室長、9つの事業を展開するコラボワークス 代表、自営農家を兼任する“複業家”として注目される中村 龍太 さん

4人目の黒木あるじさんは、フリーのカメラマンを経て、この後登壇する岩瀬義和さんが経営する『デジコンキューブ』で映像ディレクターに。ただ、入社前から執筆活動を行っていたため面接時に交渉し、入社後も執筆を続行。2009年に怪談作家としてデビューした後に専業作家となり、30冊以上の著作を出版されています。

怪談作家、小説家として多くの著作を手掛ける黒木 あるじさん

怪談作家、小説家として多くの著作を手掛ける黒木 あるじさん

最後に登壇した岩瀬義和さんは、『山形パナソニック』から社内ベンチャーとして2005年に総合制作プロダクション『デジコンキューブ』を設立。2015年には副業として『二四三屋』を立ち上げ、ヨーロッパ向けに食材を提供する一方、カフェも展開。社員には、自由な副業をOKしているそうです。

社員の副業について語る、デジコンキューブ 代表取締役社長 岩瀬 義和さん

社員の副業について語る、デジコンキューブ 代表取締役社長 岩瀬 義和さん

複業から得られるのは、スキルと人とのつながり

自己紹介後はいよいよパネルディスカッションに。
1つめのテーマは「会社員が社外で仕事を持つことのメリットは?」。
龍太さんは、現金収入という「金融資本」は減ったけれど、農業の知識や技能などの「人的資本」と、周囲の農家とのつながりなどの「社会資本」が育まれていると言います。またコロナ禍を受け、ビニールハウスの中にリモートオフィスを作る活動を始め、それが売れて収入につながった事例など、複業で育んだ資本から、時間差で「金融資本」が発生する循環も生まれると語りました。
これに対し志保さんも、複業で育んだ知識と人脈があったからこそ、「仏ビールを飲んで、和太鼓で脂肪を燃やす」というイベントを企画し、開催準備もスムーズにできた経験を話されました。

人の暮らしと仕事に関わる3つの「資本」について話す龍太さん

人の暮らしと仕事に関わる3つの「資本」について話す龍太さん

一方、雇用側である加藤さんは、企業側のメリットとして、「自ら働き方や生き方をデザインし、自律的に行動できる人材が育っている」とコメント。同じく経営者である岩瀬さんからは、黒木さんが退社後も、著書の表紙を撮影すると、特別な1話が読めるアプリを共に開発するなど、プラスの関係が続いていることが紹介されました。
総じてパラレルワークは、働く側にとってはスキルと広い人脈を、雇用する側にとっては自ら考え行動できる人材育成と、副業からつながった異業種とコラボする新たな事業チャンスをもたらしてくれるものと言えそうです。

先駆者ならではの貴重な意見が交わされたパネルディスカッションの様子

先駆者ならではの貴重な意見が交わされたパネルディスカッションの様子

オープンに、同時間帯に行うことでシナジーを生み出す

2つめのテーマは、「本業と副業のシナジーは何か、シナジーを生むための工夫は?」。
加藤さんは、社員の副業だけでなく、フリーランスなど外部人材も積極的に活用することで、社内と社外の境界をなくし、情報とアイデアが行き交う流れを作っているとコメント。大切なのは、それらを全てオープンにして情報を共有することで、思ってもみない化学反応や教え合う機会が生じるなど、日常的にシナジーが生まれているのだそう。
慶野さんも、副業の職種に近い社内プロジェクトに誘われるなど、情報開示をすることでシナジーが生まれた経験があり「副業について隠すのはおすすめしない」とアドバイス。
対して龍太さんは、「複業が引き裂かれない環境」も重要だと発言。例えば保険会社の営業マンが土日にラーメン店をするなら、営業の最後に「ラーメン屋さんをやっています」ともう1枚の名刺を渡し、あるいは店の客から「資産運用に困っている」と聞けば、本業を明かし相談に乗るなど、同時間帯に進行する環境作りが大切だそうです。 ただ4つ、5つ同時にとなるとメンタルもフィジカルも大変なので、「体調を崩せば本業も共倒れになるため、負荷がかかったらすぐ辞める潔さも必要」と注意喚起も。
これには黒木さんも、自身も執筆依頼が増えたため、作家業を選んで退職を決断したと同意。自分にとって作家業は、会社の外に通じる扉であり、「いざとなったら飛び出せばいい」と思えるシェルター的役割を果たしていたからこそ、ダメージを抱えるのは本末転倒だと語りました。
志保さんも、同時に複数仕事をしていても、メインの仕事を期間で入れ替えるなどの工夫で、負荷を分散していると秘訣を明かしました。

社内と社外の境界をなくし、情報とアイデアが行き交う流れを作っている『エンファクトリー』の情報とアイデアが循環する仕組み

社内と社外の境界をなくし、情報とアイデアが行き交う流れを作っている『エンファクトリー』の情報とアイデアが循環する仕組み

これら先駆者の意見から見えてきたのは、副業はオープンにして、情報を周囲と共有することと、同時期に進行することでシナジー効果が生まれやすいこと。また、負荷を分散する工夫をし、時には潔く辞める勇気も必要だということでした。

地域とパラレルワーカーは、不足を補い合う幸せな関係

最後のテーマは、「地域とパラレルワーカーの関わりは何をもたらすか?」。
東北で生まれ育ち、現在も山形在住の黒木さんは、「パラレルワークをすることで人と人との関わりが増え、ワーカーの視野が広がるのでは。そして閉塞感のある地域に対しても、共に汗を流す立場だからこそ、説得力を持って新しいヒントを提供できる人材となりうるのでは」とコメント。
岩瀬さんは、現在山形県内で、コワーキングスペース5施設をオンライン会議で常時接続する事業が行われており、そこで企業とフリーランスがマッチングし、仕事を提供し合う事例が生まれていることを紹介。そういった場所に複業フリーランスや企業、県内外からこのイベントを見ている視聴者もつながれば、関係人口を増やす大きな意味をもつのでは…と期待を寄せました。

イベントが進むに連れパネリストも緊張がほぐれ、議論はますます活発に

イベントが進むに連れパネリストも緊張がほぐれ、議論はますます活発に

さらに、千葉県で農業を営む龍太さんも、「地域とパラレルワーカーのマッチングは、地域に人材不足の問題解決をもたらし、ワーカーにとっては、本業では得られないワクワク感や経験、人とのリアルなつながりをもたらす。だから双方にとって必ずや幸せなものになる」と確信を込めて述べられました。
これを受け加藤さんからも、『PARASUKU』のように、山形の中で山形の人自身が運営するサイトは、山形県、長井市にとって大きなチャンス。地域内で人材を育て、残る若者を増やす循環を作るきっかけにしてほしいとエールが送られました。慶野さんも、「地域がパラレルワーカーを巻き込むことで、上京した人がリモートで地元の仕事をするなど新しい働き方が普及するのでは」と期待を寄せました。

パネリスト6人もPARASUKUによる地域の発展に期待を寄せる

パネリスト6人もPARASUKUによる地域の発展に期待を寄せる

トークイベントはこの後、視聴者から寄せられた質問に時間の許す限り登壇者が答えて終了に。最終テーマを振り返れば、パラレルワーカーは地域に新しいヒントや人材をもたらし、一方で地域は、やりがいや経験、つながりをもたらす。まさにwin-winの関係性が築ける、明るい未来が感じられる論議で幕を閉じました。

化学反応が起これば、地域も個人も、もっと豊かに

イベントの最後は、来賓の山形県産業労働部 中小企業振興課 課長補佐 古瀬隆志さんが登壇。先駆者6人が自分らしくやりがいを持った複業を語るいきいきとした姿に、「その要因は、金融、社会、人的資本を1企業に求めるのが難しくなった時代に、自己実現ができるパラレルワークという働き方にあるのでは。『PARASUKU』が人材を地域に引き寄せる大きな可能性を感じると同時に、県内企業でも副業の活用、推進の必要性を感じました。『PARASUKU』を呼び水に、地域の企業にパラレルワーカーのスキルを生かし、盛り上げていただきたい」と総評を語りました。

総評を行った、山形県産業労働部 中小企業振興課 課長補佐 古瀬隆志さん

総評を行った、山形県産業労働部 中小企業振興課 課長補佐 古瀬隆志さん

『PARASUKU』の歩みはまだ始まったばかりですが、今後地域とパラレルワーカーの化学反応が数多く起これば、地域と個人、どちらもが豊かになれる可能性を秘めているのではないでしょうか。筆者も地域での暮らしに憧れがあり、まずは関係人口という形で関わる方法を模索したい、と想いを新たにした貴重な時間でした。

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関連情報

PARASUKU パラレルワーカーが地域を救う。
https://parasuku.jp/

笹間聖子

笹間聖子sasama-seiko-admin

兵庫県出身、大阪在住のフリーランス編集者・ライター。 
営業事務、システム会社営業を経て「仕事を断らない」がモットーの編プロ2社で計15年勤務し独立。取材人数は10,000人以上。子育て主婦目線のアイデアを活かして、企業の会員誌やレシピ&ライフスタイル書籍、400年続く旧家の暮らしをまとめた本などを担当したほか、グルメ、エンタメ、BtoB、健康、教育など幅広いジャンルで企画、編集、執筆を行っている。

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