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奈良県 吉野町の地域おこし協力隊員、菊地奈々さん。「地域関係案内人」として、ソトモノと地域を繋ぐ架け橋に

人口約6,300人のまち、奈良県・吉野町。日本さくら名所100選にも選ばれており、約200種3万本の桜が吉野山を埋め尽くす姿は圧巻です。しかし、吉野町の見所はそれだけに留まりません。桜鮎の生息する吉野川や、高級ブランド杉「吉野杉」が広がる林など、まさに自然の宝庫とも呼べるような場所が広がっています。さらに近年では、「出産お祝い金」や「住宅リフォーム助成制度」を始めとする、子育てや暮らしの支援が充実。移住に適した場所としても注目され始めています。

今回は、そんな吉野町に移住して、地域の関係案内人として活動されている菊地奈々さんに、吉野の魅力や移住に至るまでの経緯についてお話を伺いました。

桜で有名な奈良県 吉野町は、移住者からも注目されている

吉野町は奈良県の中部に位置し、町域の一部は吉野熊野国立公園、吉野川・津風呂県立自然公園に指定されています。更に、吉野山を含む「紀伊山地の霊場と参詣道」は、2004年にユネスコ世界遺産にも認定。

昔から林業が盛んな山深い土地であり、町の中央部を東から西に吉野川が流れます。住民にとっては大自然が身近にあるのが当たり前ですが、それを目当てに行楽シーズンには、森林浴やキャンプ、川釣りを楽しみに多くの観光客が訪れます。

吉野町は大きく4つのエリアで構成されています。桜の名所として有名な吉野山、工芸品などが多く「ものづくりの里」と呼ばれる中荘(なかしょう)・国栖(くず)、滝や湖などの自然スポットの多い龍門(りゅうもん)、そして玄関口として機能しているのが上市(かみいち)地区です。

上市は、室町時代に商業地として栄えた歴史があり、伊勢詣の拠点としても利用されていました。近鉄電車の大和上市駅までは、大阪市内から約90分、乗り換えなしでアクセスでき、どのエリアにも行きやすいので、移住の下見の際は上市を拠点にするのがおすすめです。

今回お話を伺った菊地さんが、仕事の拠点としているのも、大和上市駅から徒歩10分程の場所。豊かな自然と、住みよさの両方を感じられる地域と言えるでしょう。

菊地さんの仕事「地域関係案内人」とは

菊地さんが吉野町に移住してから2年半が経ちました。移住してすぐに、地域おこし協力隊の一員として働き始め、最初のミッションは地域の資源を有効活用する事業の一環として、森林セラピーのオプションを提案していました。その後、吉野の移住を促進させるために2019年春から「吉野関係案内人」としての活動がスタートしました。

「関係案内人」は、あまり聞きなれない言葉ですが、簡潔に説明するならば「外モノと地域の人をつなげるパイプ的な存在」のことで、移住や多拠点居住を考えて吉野を訪れる人たちの窓口として活動しています。

相談内容は多岐に渡りますが、基本的には外から来た人の相談を受け、その内容から、地域の誰に繋げるのがベストか考え、紹介していきます。

パイプ役になるためには、地域の人のことをよく知らなくてはなりません。地域の行事に参加し、地域おこし協力隊の活動内容を説明したり、「困っていることはないですか」と、住民の方に聞いたりして、現在の関係を一から築いていきました。

「ポスティングでできるような仕事ではないですし、少しずつ地域の方と関係を広げていきました。地元を盛り上げようと思っている人は多いので、繋がりを持てた人に知り合いを紹介してもらうこともありました。信頼で成り立っている部分が大きいので、大事にしないといけないなと強く感じています。

高齢者の多い地域ということもあり、農作業に必要な労働力が常に足りていないという話を頻繁に聞きました。他にも、イベントやお祭りなどの行事の際に多くの人手が必要になるので、移住を検討している方に手伝いをお願いしたこともありました」。

「最近、意外と地域のみなさんがFacebookをしていることがわかったので、関係案内人としてのアカウントを作り、オンラインでもヒアリングしています」。

旅人として滞在した三奇楼。地域の人とふれあい、移住を決意

吉野に来る前は、神奈川県で保育士として働いていた菊地さん。

仕事内容は好きで続けていたものの、スピード感を増して大きくなる町の中で働くことに違和感を抱くようになりました。

「人口の多い地域だと、自分は唯一無二の存在になれない。自分の代わりになる人はいくらでもいるんじゃないかという、都会ならではの悩みを感じていました」。

そんな息苦しさから距離をおきたいと、漠然と田舎での生活を考えるようになったときに出会ったのが、奈良県吉野町。旅行したときに感じたほどよい空気感が気に入り、なんとなく奈良県で生活してみようかな、と思ったそうです。

ゲストハウス三奇楼のデッキ。菊地さんはここから見る夕日が好きなんだそう。

仕事を探しているときに、目についたのが吉野町の地域おこし協力隊の募集記事でした。書類選考に受かり、面接を受けるときに宿泊した上市にある三奇楼(さんきろう)というゲストハウスをきっかけに、移住を決意したんだそうです。

「三奇楼は、旅行者が宿泊するゲストハウスやイベントスペースとしての営業、さらに移住体験スペースとしても利用できる施設で、現在の私の活動拠点でもあります。

滞在中、三奇楼のイベントスペースには、地域イベントの準備に多くの人が訪れていました。地域の人と話してみたかったので、私も手伝わせてもらいました。自然な形で吉野の良さや大変さを聞くことができ、住民の方と触れ合ううちに吉野の空気感が自分に合っていると、感じました」。

吉野の郷土料理「柿の葉すし」

吉野町最大の魅力は、「人のおおらかさ」に触れられること

「吉野町の魅力は、その地域に住む人だと思います。地域の人のおおらかさが特長で、みんなあんまりせかせかとしていることはなく、時間にもそんなに厳しくなくって……都会とは違う、おおらかな時間が流れている気がします」。

よそ者である菊地さんに対しても、壁を作ったりせずに自然な態度で接してくれるウェルカムな雰囲気も強く感じたそうです。

「田舎ってもっと閉鎖的なイメージが強かったので、正直驚きました。よそ者ということで特別扱いはしないけれど、何か困っていることや聞いてみたいことがあれば、すごく丁寧に教えてくれる、といった経験も多くありました。そんな部分も、移住者としては大いに助けられましたね。

地域に誇りを持っている人が多くて、吉野のことを好きになって欲しい!と、思ってる方が多いんだと思います」。

構い過ぎもせず、放っておかれるわけでもない。移住者からすると、ありがたい距離感なんだそう。どこからそういった気質が生まれたのかはわかりませんが、吉野町の歴史を振り返ると、興味深い点があります。

かつては源頼朝に追われた義経が、弁慶と共に身を隠したのが吉野と言われています。他にも、天皇の座を剥奪された後醍醐天皇は吉野に逃げ延び、朝廷を開いたというエピソードも。山に囲まれているため、逃げ込みやすく、都からもそれほど離れていない、という立地は復活を目指す場所として最適だったそうなのです。

「来る者を拒まず、去る者を追わず」といった吉野の方々の精神性は、昔から「一時的な休息地」として利用されてきたという、そんな歴史からきているのかもしれません。

移住者だからこそできる「ソトモノ」と「ローカル」の橋渡し

菊地さんの地域おこし協力隊の任期は3年。2021年秋には、関係案内人としての仕事も一旦終了となるため、今後どういった形で移住者をサポートしていくかは、模索中とのこと。今のポジションはとても有意義なので、どうにかいい形を見つけたいと言います。

チャレンジショップ「上市スタンド」

「外から来た人と地域をうまくマッチングできたときに、特にやりがいを感じるので、今後もつながりを生み出していきたいですね。これまでの例では、上市スタンドという一日限定でお店を開くことのできるチャレンジショップでの試みが印象に残っています。

三奇楼に滞在していた方で、拠点を移動しながらその先々で唐揚げを揚げてお布施制で配っている方がいました。その方には一日唐揚げショップの店長になってもらいました。

他にもキッチンカーで日本中を回っている方には、スパイスカレー屋さんを開店してもらいました。移住体験に来た方に、やりたいことを聞いて、実現に向けて地域を巻き込んでいくようなイメージです。

高齢者が多い土地なので、揚げ物や見慣れないカレーは敬遠されるかと思いきや、むしろとても好評でした。一人では作らないけど揚げ物もたまには食べたい、といった声や、珍しいカレーが食べられるなら食べてみたい、と意外な地域のニーズも知れたし、何より地域の方々も喜んでくれたのが嬉しかったですね」。

チャレンジショップでスパイスカレー屋さんを開店

移住する側にとっての大きな課題は、家と仕事。いざ、移住しようと思っても、なかなか移住先を決めるのは容易ではありません。そのため、まずは短期間からお試し移住ができるようなシステムがあれば、気軽に体験できます。

吉野では、三奇楼が最初のお試しの家になるでしょうし、何かお店を開いてみたいと思っているなら上市スタンドが挑戦しやすいでしょう。商売をするために何度か試してみて、地域の人の反応を肌で感じると、その後のイメージも掴みやすいでしょう。

「吉野町にも空き家バンクはありますが、すべての空き家が登録されているわけではありません。空き家バンクには載せていないけど、知り合いになら貸したいという人も」。

仕事に関しても、人手が足りていないところがたくさんあるのですが、ネットに募集を出していない場合も多いので、外からでは見つけにくいと思います。移住に関する相談のワンクッションとして、吉野地域案内人を利用して欲しいと言っていました。

「地域の人を知るには、移住前に地域の行事に参加してみることも重要です。四季を通じて過ごしにくくないか、地域の年間行事の参加率はどうなのか、同年代の人が積極的に活動しているか……など、実は移住する前に知っておいた方が良いことってたくさんあるんですよね。

とりあえずで移住してしまうと、その後動きづらくなってしまうので、最初はお試し感覚で来てもらうのがちょうど良いと思います。公的な機関や地域の人は、土地のよくないところや大変な部分をあまり口にしたがらないと思うので。これから吉野に関わっていこうと思っている人達に、移住者だからこそできるサポートをしていけたらと思います。

不便なことを伝えるのもその一つですが、客観的な事実を伝えることで、その人たち自身に考えてもらえる余白のようなものを与えられれば。その上で、地域の人たちをつなぐパイプ役として、町の発展に貢献できれば、とても嬉しいですね」。

まずはお試しから、移住体験で吉野町の魅力を感じる

移住先の情報を調べてあれこれを悩むよりも、まずはお試しで移住先候補を訪ねてみるのもいいのではないでしょうか。おおらかで懐の広い吉野町には、あなたの求める心地よさがあるかもしれません。

最後には、菊地さんお気に入りの吉野の景色を教えてもらいました。吉野は山に囲まれた場所であるものの、夕焼けがちょうど山と山の間から見られ、吉野川と夕焼けの景色は情緒満点。赤い空と緩やかに流れる吉野川をボーッと眺めるという時間の過ごし方も、吉野ならではの楽しみと言えるでしょう。

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物語を編む

 「風土」という言葉には、地形などの自然環境と、 文化・風習などの社会環境の両方が含まれます。 人々はその風土に根ざした生活を営み、 それぞれの地域に独自の文化や歴史を刻んでいます。

 過疎が進む中で、すべての風土を守り、 残していくことは不可能であり 時とともに消えていく風土もあるでしょう。 その一方で、外から移住してその土地に根付き、 風土を受け継ぎ、新しくつくっていく動きもあります。

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