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2019年3月29日 家田美央

潜入レポ!新たな息吹をもたらす地域おこし協力隊in奈良県川上村

川上村で地域おこし協力隊が活躍!過疎の村に元気と活力を取り戻す

川の様子

奈良県の南東部、大峯山脈と台高(だいこう)山脈の間にあり、吉野川・紀の川の源流域に位置する奈良県吉野郡川上村。村内には大迫ダムと大滝ダムの2つのダムが設けられ、「水源地の村」として森と水を守る取り組みがなされています。

森の様子

山と森に囲まれたこの土地は、500年前から造林業が行われていた日本の造林発祥の地。杉の中でも高級品として知られる吉野杉の産地で、吉野林業の中心地としても知られています。

豊かな森と美しい水に恵まれた川上村ですが、多くの山間地域の例に漏れず、過疎化や少子高齢化が進み、地域の担い手不足が深刻な問題となっていました。主要産業である林業も安価な外国産材に押されて元気を失うばかり。この状況を打開しようと、平成25年より「地域おこし協力隊」の取り組みがはじまりました。

地域おこし協力隊の任期は3年。地域資源を活用し、川上村に元気や活力をもたらしてくれる若者を全国から受け入れています。新規事業を興した人、地域の産業を活性化させる人、地域の魅力を内外へ発信する人など、活動の内容は様々で、各人の思いと持てる技能をいかし、地域の人々と協力しているのが特徴です。

今回現地でお話を伺ったのは、現役の地域おこし協力隊員、任期終了後も川上村に住み続ける協力隊員OB、そして彼らを支える村の人々。そこには地域に真剣に向き合いながら夢を叶える力強いいとなみと、頑張る若者を支える村人の温かなまなざしが息づいていました。

川上村の村人と移住者を繋ぐ「味噌仕込みイベント」

毎年恒例の味噌仕込みイベントの様子

川上村を訪ねたのは2019年2月中旬。この日は枌尾地区にある古民家の宿「暮らす宿 HANARE」にて、毎年恒例の味噌仕込みイベントが行われていました。 現役の協力隊員や、最近川上村に移住して来た若い親子を迎え、村のおばあちゃんの手ほどきで味噌を仕込んでいきます。

朝から大鍋の大豆を薪で炊いたり、みんなで昼食を作ったりと、わきあいあいとした雰囲気です。

村のおばあちゃんの手ほどきで作業は進められる

あえて機械を使わず手や足で大豆をつぶすなど、まさに手作りの味噌造り。手前味噌は自分の手の感触が頼りのようです。最後は「HANARE」で使用する大量の味噌を、みんなで協力して仕込みました!

地域おこし協力隊卒業後も川上村に住み続けるご夫婦

今回のイベントを主催するのは、元協力隊員第一期生(平成25年)の美穂さんと、第三期生(平成27年)の寛人さん。お二人はご夫婦で、任期を終えた後も川上村に住み続けています。

元協力隊員第一期生(平成25年)の美穂さんと、第三期生(平成27年)の寛人さん

東京で働いているときに東日本大震災に遭い、田舎暮らしを決意したという美穂さん。「川上村はとにかく中途半端じゃない田舎です。でも、自分で手を動かせるやる気のある人や、何かを作りたい人には、いろんな場所や材料が揃っています。」

美穂さんと寛人さんは1日1組貸切の宿「暮らす宿HANARE」を立ち上げ、3年前には息子の健太朗くんが誕生。枌尾地区では実に23年ぶりという子どもの誕生に、住民みんなが喜んでくれたそうです。

二人の息子さんの健太朗くん

今では忙しい時に近所の人へ健太朗くんを預けることもあり、より深く地域と繋がるようになりました。村への移住者や協力隊員の支援も行う力強い先駆者です。

暮らす宿 HANAREに新旧隊員が集合!楽しく飲んで交流を深める

「暮らす宿HANARE」に集まる人々

この日の夜、仕事を終えた現役の協力隊員が続々と「暮らす宿HANARE」に集まってきました。誰が指示を出すでもなく、台所で野菜を刻んだり、テーブルにお皿を並べたりと、手際よく夕食の準備が進められていきます。中には、自分が育てたアマゴの料理を持ってくる人もいて、日頃から協力隊員同士が交流している様子が垣間見えました。

豪華な料理が机へと並ぶ

現役の協力隊員、元協力隊員、なじみの村民に増えてきた移住者、そして村外住民。もちろん、村役場職員など、参加者の出身地は異なれど、川上村の暮らしを楽しみ、地域を良くしていこうと考える人ばかり。食べて飲んで楽しみながら、交流を深めていきます。

現役隊員が語る川上村への想い① 一家で移住し、ものづくりに励む

渡邉崇さん

台所で手際よく肉や野菜を切っていた渡邉崇さんは、平成29年に川上村へやってきた現役の協力隊員です。お子さまの誕生をきっかけに、木工作家として定住できる場所を探していたところ、川上村を知ります。他の林業地域も候補にありましたが、川上村では木材資源の6次産業化を目指し、木工作家を求めていたことが決め手になり、家族と共に移住しました。

東川地区で住居と倉庫を借り、「Moon Rounds」という工房を開設し独立。 「ものづくりをすることが自分のやりたいこと。そこで力を発揮したい」と、吉野杉や吉野桧など地元産木材を中心に、様々な樹種を使ったものづくりをしています。

地元産木材を中心に使った作品

また、今は使われなくなったお寺で地域内外の人々がふれ合う「弥勒茶屋」も定期的に開催。パートナーも村内で介護職として働くなど、地域住民と助け合いながら暮らしています。今後は同じ地区にある「匠の聚(たくみのむら)※」の作家との関わりを深めていきたいと話します。
※匠の聚:多彩なアーティストが生活をしながら活動するアート施設。各種ギャラリーや陶芸体験などを楽しむことができ、宿泊施設を備える。

現役隊員が語る川上村への想い② アマゴの養殖で名物を作りたい

田野雄大さん

アマゴを差し入れしたのは、平成29年に協力隊員になった田野雄大さん。学生時代は水産専門学校に通っており、魚に関する仕事がしたかったという田野さん。川上村の地域おこし協力隊の募集要項に「アマゴ養殖の後継者」が求められていたことから、応募を決めました。

現在は、井光地区にある井光養魚場でアマゴの養殖に取り組んでいます。井光地区の山奥にある養魚場は水が冷たく水質が良いので、くさみのない魚を育てられる絶好の場所なのです。

アマゴのお刺身

今後は、道の駅などでも販売できるアマゴの加工品を開発し、淡水魚を食べる文化をもっと広げていきたいと意気込みます。水源地の村ならではの、豊富で綺麗な水をいかした内水面漁業の振興を担っています。

現役隊員が語る川上村への想い③ 国内外へ川上の魅力を発信

マタレーゼ・エリック・ジェームスさん

ひときわ目を引く活動をするのは、平成28年に川上村へやってきたマタレーゼ・エリック・ジェームスさん。アメリカ・ロサンゼルス出身という、川上村初の海外出身の協力隊員です。

京都や岐阜などで暮らしていたエリックさんは、川上村の圧倒的な自然に惹かれてやってきたそうです。大学で日本語を専攻し、日本に6年ほど住んでいたことから日本語が堪能なエリックさん。現在は翻訳・通訳サービスを行いながら、英語と日本語で書かれた村の情報誌「oide(オイデ)新聞」を月1回制作し、全戸に届けています。 また、月刊誌「ソトコト」への連載や、少部数自費出版のリトルプレス発行などを通じて、村の情報を広く発信。テレビ等へのメディアにも積極的に出演し、大好きな川上村の魅力を伝えています。

現役隊員が語る川上村への想い④ エコツーリズムを根付かせたい

竹中雅幸さんと安田芳裕さん

平成26年度の協力隊員である竹中雅幸さんと、平成28年に赴任した安田芳裕さんは、川上村を中心とした奥大和のエコツアー推進に取り組むガイド団体、「山遊び塾 ヨイヨイかわかみ」を運営しています。

竹中さんが着任した当初、川上村はエコツーリズム不毛の土地でした。大学山岳部で活躍し、大阪の登山ツアー専門の旅行会社で働いた経験を持つ竹中さんは、村の魅力満載のエコツアーを企画します。

「川上村にはエコツーリズムに活用できる素材が豊富にありながら、まだ誰もやっている人がおらず、ラッキーでした。」

村人に案内してもらった洞窟や氷瀑(ひょうばく)が、今ではエコツアーの人気コースになっています。

共にエコツーリズム事業を行う安田さんは、エコツアーの仕事がしたくて協力隊に応募し、竹中さんに合流しました。普段の生活では集落の祭りに参加したり、消防団に入団したりとすっかり地域の一員に。

「隣の集落には何百年も続く祭りがあり、それが当たり前のように今も行われている。村の歴史を改めて感じました。」

と、村での暮らしに興味は尽きない様子です。 今後は事業の収益性を高め、エコツアーだけで成り立っていけるようにするのが課題だとおふたりは話します。川上村に芽生えた、新世代観光のあり方に注目です。

地域おこし協力隊を支える温かな川上村の村人たち

辻芙美子さん

辻芙美子さん

バラエティ豊かな活動を行う地域おこし協力隊員を支えるのが、川上村の人々です。村の案内にはじまり、行事への声がけ、仕事の相談、習慣や暮らしの知恵伝授と、彼らの協力なくして、協力隊は成り立ちません。

そんな協力隊員の活動を、初期から見守っているのが辻芙美子さんです。川上村の柏木地区にある老舗旅館「朝日館」の女将で、まるで村のお母さんのような存在です。平成25年、活動拠点となる場所を探していた協力隊員たちの相談を受けたことで知り合います。田舎暮らしを体験したいという協力隊員と、畑仕事や茶摘みなどを通じて親しくなっていきました。

また、「夢は富士山に登ること」という辻さんの願いを叶えるため、登山経験の豊富な協力隊員の竹中さんが同行し、富士山の登頂を達成したのは忘れられない思い出だと言います。

「3年間の任期中に結果を出せなくても、経験したことは必ず将来に繋がっていきます。若い人たちが田舎の良さを理解し、生活に馴染むことができるよう、私ができることは何でもお手伝いしたい」と、辻さんは話してくれました。

春増薫さん

「暮らす宿 HANARE」の前で樽丸(たるまる)工房を営む春増薫さんも、協力隊員を支える人のひとり。

春増薫さん

樽丸とは木製樽を作るための側板の部材のこと。山から切り出した丸太をそのまま卸すのではなく、部材に加工することで付加価値が高まります。この技術が吉野の林業を支え、古くから日本酒の酒樽作りに吉野杉の樽丸が利用されてきました。

「暮らす宿HANARE」用の物件として、美穂さんに今の建物を紹介したのも春増さん。寛人さんとも樽丸作り体験などを通じ、田舎暮らしの支援を行ってきました。

「横堀さんに健太朗くんが生まれたときは集落のみんなが大喜びで。お年寄りばかりのこの村が、この先も続いていけるんじゃないかと、生きる希望になりました。」

新しい環境でたくましく暮らす協力隊員の姿は、目に見える変化だけでなく、村人の意識をも変える力がある。そんな力強いメッセージを春増さんは教えてくれました。

川上村での経験が若者の心に残り、新たな道を切り開くきっかけとなるよう、川上村の人々は、今後も温かな目で見守り続けてくれるのでしょう。

一緒に川上村を元気にしてくれる仲間を募集中!

村の面積の95パーセントを森林がしめ、人口は1,300人あまりという川上村。100年単位で育成が行われてきた造成林と、手つかずの原生林が残り、森の恵みと共に人々は暮らしてきました。そんな川上村では平成31年度の地域おこし協力隊員を募集しています。

川上村では、そんな協力隊員と交流し、活動や地域を事前に知るための「見学ツアー」を開催しています。今回の募集からこの見学ツアーへの参加を応募条件にもしています。都合の合わない方への個別対応も可能な範囲で行っています。

村の人と一緒になって何かに取り組み、村人にはない視点でアイデアを創出し、自ら行動に移せる、そんなやる気のある人の応募をお待ちしています。

家田美央
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家田美央

家田美央三重県伊勢志摩地方でフリーランスのライター・編集・カメラマンをしています。観光、グルメ、人、もの、行事など、地域を輝かせる隠れた宝物を、分かりやすい文章と写真で伝えることを信条としています。

人と風土の
物語を編む

 「風土」という言葉には、地形などの自然環境と、 文化・風習などの社会環境の両方が含まれます。 人々はその風土に根ざした生活を営み、 それぞれの地域に独自の文化や歴史を刻んでいます。

 過疎が進む中で、すべての風土を守り、 残していくことは不可能であり 時とともに消えていく風土もあるでしょう。 その一方で、外から移住してその土地に根付き、 風土を受け継ぎ、新しくつくっていく動きもあります。

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