家のために働き、生きるのが人生なのか
始まりは1年前、日本の空き家の数が820万戸という天文学的な数字を知ったことからです。
ぼくは東京板橋区で月10万円の家賃を支払っていました。そのほかにも光熱費、携帯、インターネット、各種税金、数えあげたらキリがないです。生活のために働くこと1日の何時間でしょうか。1週間、1年、10年、そうして人間は死を迎えるのでしょうか。
そう考えているうちに、「待て!空き家に住めば家賃を減らせるぞ!」と心の声が聞こえたのでした。
やりたいことがあれば、まずは「旗を立てること」。つまり、手を挙げることです。ぼくは、人に会う度に「空き家を直して住みたいんだよね。場所は何処でもいいから。」と言い続けました。
すると、愛知県津島市に、築80年の空き家の活用に困る大家さんがいると情報が飛び込んできたのです。津島市って何処? どんな家?始まりはそんな出会いでした。
▲愛知県津島市築80年の長屋群
古い家は危険なのか!?
出会った当初は「改修しなければ使えない、耐震しなければ危険、屋根は全部取り替え」この3点セットばかり聞かされました。その3つをやるのに幾ら費用がかかるのか訊けば、数百万円。古い家が余っているなら使おう!と考えただけで、ピカピカの快適な家が欲しいのではありません。
大家さんは「全部を業者に頼むのは予算が厳しいが、せめて耐震補強しなければ入居者が安心できないから、それだけはやりたい。わたしは、ひとができずに諦めることを、どうやればできるか考えて成功させるのが楽しみなんだ。」と言いました。詳しく話を聞いてみれば、大家さんが自分で木造建築の耐震技術を開発するから、一緒にやろう!と言うのです。
発明家のような大家さんと意気投合して、長屋の再生に向けて掃除から始め、危険だという建物に住んでみたところ、9月の大雨で雨漏りしてきたのです。バケツを置いてポッポッポポッと雨粒の連打を聞きながら、その夜は寝るしかありませんでした。
▲長屋の屋根から台風一過の青空
かつて住人が直しながら暮らしていた家
雨が上がった翌朝、屋根に登ってみました。インターネットで調べると「瓦の平らな部分を踏むこと」と、ありました。忍び足で瓦を歩いて調査すると、原因は、割れた瓦から水が浸入していたのです。別の割れた瓦の下には、鉄板を入れて雨の侵入を防いだ跡がありました。かつてこの家に暮らした人も屋根に登って直していたのです。
今では、当たり前に商品やサービスを消費して暮らしていますが、100年前には、ないものを自然から作り出して便利を生み出していたのです。ちょうどのこの家が建てられた80年前もそんな時代だったのです。
割れた瓦に防水シートを張り付け、ズレた瓦の列を整えました。それだけです。以来、雨は漏っていません。
▲修理した屋根
過去の暮らし方を採取し現在に活かし、未来のライフスタイルをつくる計画
ある日、ぼくが暮らすボロボロの家を見た人が、
「こんな古い家、危ないよ。屋根なんて特に!すぐに全部を変えないと!」
と、悲鳴をあげるように言いました。その人は、古い家に住んだこともないし、屋根に登ったこともないようでした。
だから、
「そうかなあ、危ないかな。雨は今のところ漏らないよ。」
と、返事をしておきました。
古い家は、築年数分の記憶を蓄えて生きています。木造建築には、何百年と伝承されてきた職人の技術が注がれています。ここには、現代人が忘れつつある自然と共に暮らしてきた生きる知恵があるのです。建物のことだけでなく、古い家に暮らしてみれば、生活に関する一切のことも同じように採取して学ぶことができます。
最近、「採取経済」という言葉を知りました。自然界の動植物を採取して暮らす原始的な経済の意味です。この連載「古家採取活生計画」では、かつての暮らし方を発掘調査して、現在の生活に反映させ、より豊かな生き方を提案していきます。
合言葉は「非常識」と「自分でやってみる。」
どうぞ、よろしくお願い致します。