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2016年6月10日 石渡ノリオ

古家採取活生計画:第5回目 空き家から始まる理想の暮らし<前編>

ついに2年間にわたる「空き家再生」の取り組みが完了しました。そうです、ひとつの家が生き返ったのです。

人間の生命維持に直接関わる「家」への取り組みは、太古から100年前、現在から未来のライフ・スタイルまで想いを馳せる旅になりました。みなさんも、空き家から始まる理想の暮らしをしてみませんか?
(写真上:再生した築80年の長屋の一室)

「空き家」って何?

「空き家」=「空いている家」ではありません。「空き家」とは何かの事情で市場に流通しない家屋を指します。例えば、物置になっていたり、空いていても誰かに貸すつもりがなかったり、相続の問題があったり、本当にボロボロなのに改修するお金がなかったり。

古民家第4回0▲岐阜県中津川市の古民家。今年の夏からプロジェクトの始動予定

ちなみに、インターネットで「空き家」として賃貸物件の情報掲載しているのは不動産物件です。ぼくはそれと区別するために「空き家」を「野生の家」と呼んでいます。もし好みの「野生の家」に出会ったなら、まずは、家の所有者とコンタクトを取ることから始まります。「野生の家」を使えない様々な事情を解決しなければ、家を再生することはできません。

 

家を再生する最良の手段は、家を使いながら生活すること

ぼくは、愛知県津島市で築80年の長屋と家主さんに出会い、この2年間、計画や改修をしながら、空き家について考え行動してきました。 挫折もありました。その第一の原因は、家ばかりを見て、家主の存在を軽んじたことです。家が改修されればいいと考えていましたが、家には歴史があり、人と同じように生きているのです。簡単には足を踏み入れさせてくれません。

067▲今回再生した長屋は一部入居者が決まっています。まだまだDIY物件として入居者を募集中

家の価値は空間の活用だけではありません。明治以前から昭和初期に建てられた家に出会ったなら、日々営まれてきた暮らしの痕跡、無名の職人の仕事の数々に触れることができるし、価値ある民俗資料を発掘することもできます。日本の古い木造建築は、この国にしかない芸術品でもあります。今、目の前にあっても数十年後にも存在するとは限りません。二度とつくれない木と土と紙で建てられた貴重な古い家々を少しでも保存したいと考えています。

古民家第4回0▲偶然出会った解体途中の民家。今はもうありません

そこで、自分に約束事を決めて空き家再生を実践することにしました。

・家を貰わない
・家を買わない
・家を所有しない

家の状態が回復するまで滞在して、良くなれば家主さんにお返しすることにしたのです。これを「仮暮らし」と名付けました。家を使いながら生活することが、家を再生する最良の手段なのです。

 

仮暮らしの旅人

仮暮らしの目的は、家を蘇生させることです。家は生き物です。呼吸をしなければ朽ちていきます。つまり、人が住んで、窓を開け風を通したり綺麗にしたり、人間と同じようにすれば、どんな家もずっとよくなります。簡単に言えば、掃除と片付けです。

古民家第4回0▲まずは掃除から

掃除できたら、暮らしてみましょう。電気、水道、ガスがない場合もあります。その際に備えてカセットコンロで日々調理をしています。仮暮らしの身分ですので、テレビ、冷蔵庫、洗濯機は、いつもある訳ではありません。この辺りは、嫁のテクニックが光ります。キャンプだと思えば、それこそ最高の環境です。そんな訳でソーラー発電も始めました。

古民家第4回0▲充電中のソーラーパネル。携帯とパソコンの電気はこれで足ります

 

空き家に暮らしながら技術を身につける

実際に空き家に暮らし始めて、不便なところや壊れている箇所を改修したいと思っても何をどうやればいいのか分かりません。 そんなときこそ、ワークショップです。専門家を招聘して、自分同様に学びたい人を集めて体験型のイベントにします。これまでに、床張り、土壁、ソーラー発電のワークショップを開催してきました。どんな地域にも生きるに必要な技術を持ったエキスパートはいるのです。

古民家第4回0▲代々木公園でのフェス内で開催したソーラーパネルのワークショップ

メリットは3つ。

1)技術を習得できる
2)専門家への報酬を参加費でカバー
3)同じ興味ある仲間に出会える

古い家に暮らしながら、使える技術を身につけていけば、空き家の再生で困ることが減っていきます。

こうして2年間の「空き家再生」の取り組みが完了し、1つの空き家を改修するにも様々な問題を解決しなければならないことがわかりました。

次回は、どうして日本にこんなに空き家が増えてしまったのか。家の歴史を遡り考えてみます。

石渡ノリオ
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私が紹介しました

石渡ノリオ

石渡ノリオ1974年生まれ。地球人、生活者、芸術家、ライター。妻と2人で、あちこちの古い家に暮らしながら、生活芸術を推進中。ぼくはここにいます。

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 「風土」という言葉には、地形などの自然環境と、 文化・風習などの社会環境の両方が含まれます。 人々はその風土に根ざした生活を営み、 それぞれの地域に独自の文化や歴史を刻んでいます。

 過疎が進む中で、すべての風土を守り、 残していくことは不可能であり 時とともに消えていく風土もあるでしょう。 その一方で、外から移住してその土地に根付き、 風土を受け継ぎ、新しくつくっていく動きもあります。

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