みなさん、こんにちは。日本のあちこちの空き家を拠点に暮らす石渡ノリオです。
ぼくは、2014年にある夢を描きました。それは海の傍で自作のボートに乗って、夫婦で絵を描いて暮らすことでした。2013年にスペインを旅したときに出会ったアーティストのライフスタイルに影響を受けて、日本でもそんな暮らしができるか、やってみることにしたのです。それがきっかけで空き家を巡る冒険が始まりました。
▲生活用具一式を積んで空き家を巡る冒険
移住計画は家と仕事どっちが先?
生活の拠点を変えるには、家と仕事を探さなければ始まりません。そこで注目したのが空き家です。日本には何百万もの使っていない家があるのです。その家で満足できれば、家賃も安く、いろんな場所で暮らすことができるはずです。
しかし、夢の一部であるボートづくりは、木工の技術もないので白紙状態でした。ですので、空き家を改修して木工の技術を身につければ、ボートをつくれるようになると企みました。
そして、ぼくが考えた夢を実現するプロセスはこんな感じです。
1. 改修する空き家を探す
2. 改修して木工の技術を身につける
3. ボートをつくる
4. 海の傍の空き家を探す
1.と2.については、これまで連載で書いてきました。今回は、ボートと海の傍の暮らしについてお話し致します。
肝心な仕事については、空き家をみつけたのをきっかけに、絵を描いて売って生活の糧にするようになりました。そのほか、知人から頼まれた仕事でなんとか生計を成り立たせている次第です。わたしたち夫婦は、こんな風に生き延びています。
ボートをつくる
2016年、お正月のことでした。ぼくがいつも「ボートをつくりたい」と言っていたので、嫁チフミのお父さんが「諏訪湖カヌーの会でつくれるらしい」と教えてくれました。夢を叶える方法のひとつは、言葉にして伝えることです。バカみたいな夢でも、ぜひ言葉にしてみてください。周りの人は覚えていてくれるものです。また自分も言った手前、引っ込みがきかなくなるものです。
早速、諏訪湖カヌーの会に問い合わせてみると、約2万円ほどでつくれることが分かりました。会長の伊藤さんは、なんと80歳からカヌーをつくり始めたのです。これまで改良を重ねて何十艘もつくってきました。カヌーの設計図は伊藤さんの頭の中にしかありません。現在88歳の伊藤さんは、言いました。「君のカヌーが最期になるかもしれない。」
▲夢のひとつ 自作のボートに乗る
空き家改修の技術が役に立って、カヌーは1週間で完成しました。こうしてカヌーを手に入れるだけでなく、つくり方も覚えることができました。自然以外のものは、人間がつくり出したのです。買う以外につくるという選択肢がいつも存在しているのです。
ボートをつくってみると、海に囲まれた島国なのに日本人の生活からボート(舟)が消えていることに気がつきました。昭和50年頃までは、川や海や湖に木の舟がたくさんあったそうです。
これはこれで大きなテーマになりますので、また別の機会に展開します。
空き家に暮らす方法
愛知県津島市の長屋に始まり、明治時代からの町家、岐阜県の古民家、三重県志摩市の空き家で、古家採取活生をしてきました。つまり、古い家を調査したり、訪れたり、住んでみたり、改修したりして、かつてのライフスタイルを採取してきました。
▲三重県志摩市阿児町安乗 高台の空き家からの眺め
ぼくには、空き家を転々とし日本中を旅する企みがあります。空き家は、観光地や人が好んで訪れるような場所ではないところに多くあります。空き家がある地域だからこそ、ありのままの景色に出会うことができます。そういう土地を訪ねて滞在し、記録していくことも自分の芸術活動のひとつと考えています。
そういう訳で、非定住型ライフスタイルのぼくら夫婦には、洗濯機も冷蔵庫もテレビもありません。毎日の食事はカセットコンロで調理します。毎日がキャンプのような生活が成り立つのも嫁チフミの理解があってのことです。
▲料理をする 嫁チフミ
空き家暮らしのリアルを伝えるためにチフミの視点をまとめました。
1. 掃除
空き家に住むにはまず掃除。古い家を掃除して暮らせるようにすることを「家開き(いえびらき)」と呼んでいます。家は生きています。だから空気の入れ替えをして呼吸させれば蘇ります。毎日の掃除が、家の経年劣化に負けないプラスのエネルギーになります。
2. 電気、ガス、水道
ライフラインは通常、管理会社に問い合わせれば使えるようにしてくれます。山の方に行くと、井戸や湧き水がある場所もありますし、生活に火を使用しても問題なかったりします。お金を出せば便利ですし、自然を利用すれば重労働です。
3. ゴミ
生活するとゴミが出ます。片付けるには地域ごとのルールを把握する必要があります。田舎にいくほど、ゴミ捨ては管理されています。ゴミを捨てるところから地域との繋がりが生まれます。空き家を転々とする暮らしなので、町内会など気を遣う部分もありますが、近所付き合いで家族のように仲良くしてくれる人もいます。
4. 食品の保存
スーパーマーケットで売っている食品のほとんどが要冷蔵。冷蔵庫が使えなければ、1日もしくは、1日半で使い切らないと腐ってしまいます。根菜、乾物、缶詰が便利。日本人の食卓を支えてきた味噌、醤油、漬物は素晴らしい。冷蔵庫がない生活は、災害緊急時のシミュレーションにもなります。
5. 風呂、トイレ
風呂がない場合は、銭湯や温泉にいきます。夏であれば水浴び。トイレは生活必需品ですが、ない場合も。かつては排泄物が肥料として取り引きされ、そのために家賃を無料にして人を住まわせた時代もあったとか。現代では通用しないので、トイレは空き家攻略の課題です。
こんな暮らしをしている嫁は「旦那が楽しそうにしていればわたしも楽しい。でも、わたしは空き家に住みたいと言ったことはありません。絵を生み出す糧だと思って旅をしています。」とコメントを寄せてくれました。本当に感謝です。ありがとう。
どんな暮らしがあなたの理想ですか?
今年の5月、縁あって訪れた伊勢で知り合った漁師の人に海の傍に住むのが夢だと話したら、トントン拍子で、空き家を用意してくれました。そんなこともあるのです。海の傍で絵を描いて、ボートに乗って、さらには魚釣りも始めました。ぼくにはボートがあるので、海の真ん中で釣れば大漁と思いきや、1匹も釣れませんでした。釣り人の教えによると、特定の竿と餌と仕掛けを買ってくれば、アジが100匹釣れるというのです。竿を買うのは、採取型生活者としては納得できない話でしたが、その人がその道具を一式貸してくれ、指定の場所でやってみると、もう食べ切れないほどのアジが釣れてしまったのです。ところが、冷蔵庫がないから保存もできないのです。それはそれで困ってしまいました。だからこそ、人間は余剰分を売って貨幣と交換したり、便利を必要としてきた訳です。
▲釣り人と安乗の夕陽
おかげで、人間の暮らしが自然のもとで成り立ち、不足や不便な部分を経済や便利が補っていることが分かりました。
この活動で見えてきたフィールドを図にしました。空き家暮らしは「社会採取」に位置します。捨ててある廃材を利用したりすることも同様です。海で魚や貝を漁ったり、山で動物や山菜を獲ることは、自然採取に位置します。簡単に分けると、「便利」は貨幣の側にあり、「不便」は自然の側にあります。
▲古家採取生活の図
実は、現代での生活可能領域はとても広がっています。通信技術のおかげで、インターネットでどこでも買い物できますし、メールや携帯電話で即時にコミュニケーションを取ることも可能です。つまり、もっと多種多用なライフスタイルの実践が可能なのです。例えば、Free Wi-Fiが完備された限界集落があれば、そこに人は移り住むのではないでしょうか。
ぼくは、貨幣経済や便利さを否定するつもりはありません。古家採取活生を通じて「貨幣価値がないと使えないのか」「不便では生活できないのか」を試してみたかったのです。
大切なものは何でしょうか。それはとても単純で「幸せハッピー」なものです。他人との比較ではなく、自分が感じることです。もちろん、幸せも瞬間的なものなので、波のように寄せては、引いていきます。夢は現実になった途端に、夢ではなくなります。だから、また新しい夢へと旅に出るのです。
▲安乗。理想の空き家にて。2016年、夏。
古家採取活生計画。いかがでしたでしょうか。約1年の連載にお付き合い頂きありがとうございました。幸せハッピーになったところで、連載を終了致します。ぼくらは、また新たな冒険を始めます。続きはhttp://orinotawashi.com/をチェックしてください。次は、みなさんがライフスタイルをつくる番です。
空き家再生、家開き、絵のオーダー、執筆、講演など、お仕事お待ちしております。日本全国ならびに全世界を旅したいので、どうぞ、よろしくお願い致します。
また、どこかでお会いできるのを楽しみにしています。ありがとうございました!!