ぼくが「家」に興味を持つようになったのは、アフリカのザンビアで泥の家を建てたことがきっかけでした。
▲ザンビアで泥の家を建てる様子 泥でつくって耐用年数20年!
自然にある身の回りのモノで家を建てるサバイバル能力に感動して、日本でも泥の家を建てたい、と密かに野望を抱きつつも、気候や地震の心配などがあるので無理だろうか、とモヤモヤしていたら、日本にも泥の建築技法があることに気づいたのです。そう、土壁です。
日本の伝統工法の土壁を学びたいと考えて、あちこちで「土壁つくれる職人さん知りませんか。」と話しつつ、あちこちのホームページやブログからメッセージを送り、体験イベントの開催を企てました。
すると 改修している長屋(愛知県津島市の長屋は、家主の水谷博士の好意により改修を進めることができています)のある愛知県津島市のお隣、愛西市の左官職人さんを紹介してもらえ、相談することができました。ところが、土壁は、鏝を使いこなすのが必須で、しかも修得するには5年かかると言うのです。困っていると職人さんが教えてくれました。
「人力で解体する時代の人は知っているけど、土壁は、とても粘りがあって強いんだ。クロス貼りのような乾式と違って、湿式だから水が乾くまでが勝負だし、天候にも左右されてしまうし、測定して数値が出せないから強度も評価できない。それは、自然と付き合うのが、簡単ではないということなんだ。本来、人間は自然に従って生きてきたのだから、それでいいのに、現代の建築に合わないから切り捨てられてしまったんだよ。しかし、土壁で人は集まるのかね?」
▲津島リノベ塾 第2回目「手でつくる土壁」のワークショップ:定員を超える15名の参加者で大盛況でした(今回のワークショップは、愛知県津島市のつしま夢まちづくり事業の助成を受けて開催されました)
古い日本家屋は、木と土と水と紙でつくられているのです。そこに火を熾して暮らしていました。築80年を超えれば、そんな家ばかりです。戦前に建てられた家は、有名でなくても、当時の職人さんの手仕事です。もう再現できない技が施された、瓦や壁や柱の構造から、すべてが自然からつくられる伝統技術なのです。知れば知るほど、古い家が愛おしくなるのです。
かつての土壁は、家主が近所の職人に依頼して、職人が近くから材料を集めて、地域の人たちの手を借りてつくられていたそうです。築80年の長屋の改修を進めるうちに、かつては家を直しながら暮らしていたことも分かってきました。家は商品ではなく、生きるための道具だったのです。
▲岐阜県中津川市の友人の祖母が暮らしていた古民家
そうなってくると、いよいよ、家の材料である木材がどうやって森から伐採されて流通するのかを知りたくなってきました。
これまた念願叶い、先日、岐阜県中津川市の加子母という場所で開催された村楽ブートキャンプ(http://www.sonraku.org/)に参加して、森で木の伐採を体験してきました。
▲杣人(=きこり)カッコいいです
この森で伐採した木の樹齢は、36年でした。つまり、36年前に植えられ、手入れをして育てられてきたのです。目の前にある森は、何百年も前の村人たちが、自分たちが死んだ後の世代のためにつくっているのです。
この加子母という地域自体が、森と共に生きて、常に30年後、50年後の未来を考えていました。だから、いますぐにはお金にならないことも、未来のために選択し行動して、村がひとつになって町づくりをしていました。
もし国家が、100年後のために行動したら、どんな未来になるのでしょうか。もし、そうだとしたら、住宅の価値が30年でなくなるはずがない、と思うのです。
ぼくが日本の未来を考えるなら、古い家に価値を見出し、積極的に活用していくことが、わたしたちの次の世代の暮らしを豊かにすると思うのです。その方法がなければ、つくればいいだけのことです。
例えば、50年後の未来のために、あなたなら何をしますか?