手続きの壁が立ちはだかるも、花巻家守舎設立から半年強で各テナントは営業開始
リノベーションまちづくりを実行する花巻家守舎(以下、家守舎)は、2015年4月1日に設立され、10日には花巻市内で設立パーティを実施。その志やビジョンは、県内外のメディアでも紹介されました。
リノベーション物件第1号となる小友ビルでは、10年以上も使われていなかった1、2、4階で、誰が何をやるか、設立時点で既に決まっていたため、5月に着工し、8月にはオープンするという予定でいました。しかし古いビルだったこともあり、希望する改装が消防法をクリアしないために再考が必要だったり、用途変更申請に時間がかかったり、手続きの壁が立ちはだかりました。
それでも多くの方から有償・無償の協力を得て、半年強でオープンまでこぎつけました。2015年11月22日、オープニングイベントが行われると同時に4階のシェアードワークプレイス「co-ba HANAMAKI」がスタートし、12月1日に2階のヨガスタジオ「BlueYoga」が、同じく8日に1階の飲食店「JOE’S LOUNGE」がそれぞれ営業を開始しました。
それぞれが場所を育てていく時期に移った、今からが正念場
小友さんに、各テナントについて、現在の様子などお話を伺いました。
「1階のJOE’S LOUNGEはオープンまでの間、約60人の方にボランティアとして関わっていただきました。例えば改装工事については、事業オーナー・高橋亮さんの友人が勤務先にかけあったところ、志に共感した社長が無償で資材を提供してくださるということがありました。塗装や溶接など、個人的に手伝ってくれた方もいます。花巻には本当に様々なスキルや経験を持った方がいるのだということを実感しましたね。」
2階はヨガスタジオを運営するMarble+がテナントとして入居していますが、取材に訪れたこの日はカウンター越しにコーヒーのいい匂いが漂っていました。
「2階のMarble+からは、ヨガスタジオオープンの後、隣のスペースでカフェを開きたいと追加要望があったので、家守舎として調整にはいりました。フロアの用途変更はビル全体のものよりは大がかりではなく、手続き、改装も含めて約2カ月で完了しました。2016年2月13日にはカフェスペースMarbleがオープンしました。」
「4階のco-ba HANAMAKIは、オープン前は本当に入居者が集まるか不安でしたが、現在(2016年2月1日)では市内の方を中心に、契約待ちも含めて10名程度まで利用者が増えました。イベントスペースとしてもご利用いただいており、勉強会や読書会、ワークショップなどの利用実績も増えてきています。 小友ビルでやりたいと考えていたことは、スケジュールの遅れはあったものの、ほぼすべて実現できました。でも、リノベーションして新しく使われることがゴールではありません。どのテナントもそうですが、これからが正念場。各自それぞれの場所を育てていく段階に移ったと思います。」
花巻のいいものを人に伝えたいと行動してきたことが、小友さんとつながるきっかけに
▲高橋久美子さん(写真左)
2階/Marble+代表・花巻家守舎取締役(創業メンバー)
久美子さんは2階のヨガスタジオを運営するMarble+の代表であり、花巻家守舎創業メンバーのひとりでもあります。結婚を機に移り住み、花巻在住歴は14年になります。小友さんと知り合うきっかけや、小友ビルに入居するまでの経緯を伺いました。
「このあたりに住んでいると車移動が多くて、町なかのちょっといいお店に気がつきにくいんです。こういうお店の情報をもっといろんな人に伝えたいという気持ちもあって、以前からMable Marketというイベントを主催していました。さらに、花巻のまちあるきマップを作りたいと思って、周囲に相談していたところ、皆が口をそろえて小友さんに会うことを勧めてきました。そんな時、市が主催のまちづくりに関する勉強会があって、そこで小友さんと接点ができました。」
後に家守舎の創業メンバーとなる4人は、久美子さんが参加したこの勉強会で知り合い、2015年2月には、(家守活動を提唱している)清水義次氏が代表を務める一般社団法人公民連携事業機構が企画する「家守ブートキャンプ+リノベーションスクール」に参加しています。
「ブートキャンプは、実際に花巻市に存在する物件を対象に具体的にどうしたいか、事前にプランを提出することから始まるため、この時から小友ビルを対象に、何をするか、誰を巻き込むかといった話が進んでいました。私はもともとその半年前からヨガスタジオを開くために物件を探していたところだったので、タイミングがあって、小友ビル2階のテナントとして入居することになりました。」
人と人をつなげる役割を楽しみたい。
▲髙中瑞保さん
2階/Marble+スタッフ・Cafe Marble担当
瑞保さんは花巻出身。15年ほど大手飲食チェーン店で働いていましたが、久美子さんに誘われMarble+のスタッフとして働いています。2016年2月13日、ヨガスタジオ隣に新たにオープンするCafe Marbleを担当することになり、こだわりの美味しいコーヒーを提供するため、盛岡市のカフェに1カ月ほど修行にいきました。Cafe Marbleをどんな場所にしていきたいのでしょうか。
「コーヒーの修行は新しい発見があって楽しくて、毎日わくわくしながら通っていました。修行したカフェは、お客さんがお店の人と話すのを楽しむために来ているような場所でした。私もそんなカフェを目指しています。美味しいコーヒーも飲んでもらいたいですが、Marbleにいるあの人に会いたいから、お喋りがしたいから来たよと言ってもらえるような場にしたいです。ヨガの参加者以外でも使えますので、いろいろな人に遊びに来てほしいです。」
Marble+は家守舎から委託を受け、4階のco-ba HANAMAKIも運営(入居者の申し込み対応、集金業務など)しています。家守舎とほぼ一体となり、これまでの取り組みを裏方でサポートしてきた瑞保さんに、今後家守舎に期待することを伺いました。
「家守舎もそうですが、Marble+もco-ba HANAMAKIも、人と人とをつなげる役割を果たしていると思います。私もそういう役割を楽しんで引き受けたい。 私は若い頃は外にばかり目が向いていて、地元の良さを知る機会がありませんでしたが、家守舎を手伝っていくうちに、今まで見えていなかった花巻の風景やいいところをたくさん知り、いろいろな人とつながれて、私自身が地元を楽しんでいます。家守舎にはその取り組みを通じて、この花巻の良さを、私が伝えていくよりももっと多くの人に届けていってほしいですね。」
家守舎のビジョンに共感。一緒に組むことで花巻を誇れる町にしていきたい
▲高橋亮さん(写真左)
1階/JOE’S LOUNGE オーナー
亮(とおる)さんは花巻出身の31歳。花巻市内で飲食店を経営しており、JOE’S LOUNGEは4店舗目。若い頃は趣味のスノーボードを極めるため、各地のスキー場を転々としていました。全国各地からやってくるスノーボード仲間と地元自慢をすることがあったそうですが、その会話の中で、自分が出身地である花巻に誇りを持って話せていないことに気がつきました。亮さんはこのことをきっかけに「もっと花巻を盛り上げたい、誇れるようなまちにしたい」と心に決め、21歳の時に飲食店経営の道に進みました。今回の店舗はどのような経緯でオープンされたのでしょうか。
「Mable Marketというイベントに出店していたので、イベント主催者であり、家守舎の創業メンバーでもある久美子さんとは面識がありました。2015年2月頃に連絡があって、家守舎のメンバーが揃ったところで、小友ビルのテナントとして誘われました。突然のことで、「小友ビルで飲食店をやる」こと以外に何も決まっていない状態だったのですが、家守舎の目指すところに共感しましたし、不安よりも期待のほうが大きくて、その場ですぐにやりますと伝えました。」
飲食店経営の実績をかわれたものの、どういう店にするのか、内装のことも含めてすべてゼロからのスタートでした。家守舎とタッグを組んでの出店についてはどうだったのでしょう。期待していることも含めてお話しいただきました。
「家守舎には相談できる安心感がありますね。何か困ったことがあっても、的確な答えが返ってきますし、つながるべき人を紹介してくれます。これからの家守舎には、やりたいことにたどり着けずに、まだ途上にいる若い人たちをサポートしていってほしいです。 以前から、自分のようにお金も人脈もコネもなくても、ここまでやれているということを、花巻にいる若い世代にも知ってほしいと思っていました。花巻を誇りに思い、楽しくやれるんだということを、JOE’S LOUNGEを通じて伝えていきたい。まずはここが、若い人たちと上の世代が交流できるたまり場のようになればいいと思っています。もしそこからビジネスが生まれれば、4階のco-ba HANAMAKIも紹介できます。小友ビル全体で、若い人のチャレンジを応援していくことができるのが、今までの店と違う最大の特徴です。」
小友ビルをモデルケースとし、実績を増やしていきたい
2015年11月22日のオープニングイベントでは、参加者を交え、小友ビル以外の2件の空き物件について現地見学会が行われました。これらの物件は、それぞれ不動産オーナーから利用許諾を得ていますが、片方はその後耐震性に問題が発覚し、今後の改装範囲について入居予定者も交えて調整中であり、もう1件は希望者はいたものの、まだ入居者が決まっていないという状況のようです。
小友ビルが「場所を育てていく時期に移行した」現在、家守舎としての今後の取り組みや考えについて、小友さんに伺いました。
「小友ビルの場合は、予め各フロアをどう使うか構想があり、そこに最適な人材を見つけ出して口説きました。今のところ、これがいいモデルケースかもしれません。今後は空き物件に対してテナントが現われるのを待つのではなく、その物件で誰と何をするか、人材発掘を含めてのプロデュース力が必要とされています。」
家守舎の取り組みに後押しされるように、こんな変化もあったようです。
「うれしいことに、花巻駅前に新たに店を出したいという方も出てきたそうです。私たち家守舎の目標は、駅前エリアにチャレンジする大人、つまり「ビジネスを新たに起こしてくれるような人」や、「新しい挑戦に一歩踏み出す人」が100人集まること。それは家守舎が介在してもしていなくてもどちらでもいいことです。もしかしたら、家守舎の役目が必要なくなり、発展的解散として役目を終える日が来てもよいのではないかと思うこともあります。」
これからが正念場と語る小友さんや入居者の皆さんは、以前からそれぞれ事業を手掛けていたこともあって現実をシビアに分析していますが、家守舎が掲げるビジョンにまっすぐに向かっているように見えました。彼らの本気の取り組みを支援するため、花巻市も地域おこし協力隊をサポートとしてつけています。
花巻家守舎のチャレンジが花巻市にどのような変化を生み出すのか。まだまだ目が離せません。