わざわざ行ってみたくなる、最南端の絶景の町
鹿児島空港から国道をひたすら車で南下すること、約2時間。右に錦江湾(鹿児島湾)、左には断崖絶壁の緑の壁が姿を現しはじめる。ほとんど信号のない、最高のドライブコース。不自然な人工物は姿を消し、明るく開放的な南国特有の空気が押し寄せてくる。
人口は7484人(平成28年1月1日現在/推計人口)。海と緑の豊かな自然にあふれた町だ。第一次産業従事者が多く、マンゴーやライチなどのフルーツ栽培や農業、漁業、畜産業が盛ん。環境にほれ込んで、移住して農業を始める人も増えている。一方、高齢化率は45%と県内トップで、しばしば「日本の20年後の町の姿を表している」ともいわれる。
「パノラマパーク西原台」からは、雄大な桜島や錦江湾が望める。天気のよい日には遠く種子島まで見渡せるという。こんなところでパラグライダーもできるというから、最高である。
いたるところに、スピリチュアルスポット
町には知られざる景勝地がたくさんある。数年前から人気が集まりはじめ、県内外から観光客が訪れるようになったのが「雄川の滝(おがわのたき)」。深いエメラルドグリーンに輝く滝つぼと、絹糸のように繊細に流れ落ちる滝、荒々しい岩壁が見るものを圧倒する。
また、雄川の滝の近くには、全国的にも珍しい“並列鳥居”を構える「諏訪神社」がある。仲良く並んだ様が夫婦円満や縁結びにご利益があるといわれ、雄川の滝とセットで訪れる人が増えている。左の鳥居から入って、右の鳥居から出る習わしだとか。
そのほか、黄金の砂が美しいことから名付けられたゴールドビーチ(大浜海岸)も、感度の高い若者や家族連れでにぎわう。目の前に指宿を望む対岸には、“薩摩富士”とも呼ばれる開聞岳(かいもんだけ)が望める。ここに夕日が沈む光景は、時間を忘れて見惚れてしまう。
伝統の祭りやスポーツなど、多彩なイベント
明るい南国気質のせいだろうか。季節の行事が盛んで、ほとんど毎月のようにイベントがある。
春を告げるのは「佐多の御崎祭り(さたのみさきまつり)」。佐多岬にある御崎神社の妹神が、近津宮神社の姉神に新年の挨拶で会いに行く、という謂われがある。1400年前から続く伝統の祭りで、県無形民俗文化財にも指定されている。毎年2月20日前後の土日の2日間で開催され、この日こそはと帰省する町の出身者も多いという。
10月は町役場の前を流れる雄川の河口で「ねじめドラゴンボートフェスティバル」が開催される。昨年で31回を数え、県内外から100チームを超えるエントリーがあった。地元の人々はもちろん、県外からの参加者や観光客が一体となって盛り上がる大会だ。
ほか、自転車の町としても有名で、根占に鹿児島県唯一の自転車競技場がある。地元南大隅高校や鹿屋体育大学自転車競技部など、サイクリストを町中で見かけることも多い。
“外からの視点”を生かし、魅力を発信
企画観光課の渡邉さんは、「今は、佐多岬、雄川の滝、パノラマパーク西原台という、3つの景勝地が観光の目玉になっています。ですが、外の視点を取り入れ、ここ以外の魅力を発掘しようと、2年前に初めて地域おこし協力隊を導入しました」と話す。
その、初めての隊員が関根大吾さんだ。関根さんは、手探りながらも地域に溶け込み、町を活性化する企画を次々と打ち出してきた。その基盤を生かし、今いるもうひとりの隊員と協力しながらさらに大きく広げていける人材が必要だ。
隊員は企画観光課だけでなく、観光協会のサポートも兼務する。週末のイベントに顔を出すことも多く、のんびりしてはいられない。しかしそれだけ多くの町民に顔を覚えてもらえ、早く地域になじむことができるという。
整備の進む佐多岬を活かし、広域観光にも力を入れたい
町の魅力を内外に発信するだけでなく、隊員に求められるのは、今後を見据えた企画開発力とエネルギッシュな行動力だ。
平成24年10月、佐多岬までの有料道路であった「佐多岬ロードパーク」を全面無料化。その影響は大きく、3年後の平成28年1月には来訪者が20万人を突破。佐多岬人気にはずみがついた。 「さらに、平成30年には佐多岬に新たな展望台が完成します。観光整備事業として、国と県も一丸となって力を入れています(渡邉さん)」。
有名観光地である指宿へ、フェリーで渡れる利便性を生かした広域観光ルートの開発にも力を入れたいという。
協力隊員に求められる期待はことのほか大きいが、やりがいはめいっぱいありそうだ。
住民のおもてなし機運をサポート
観光客の受け入れ体制づくりも、急ピッチで進めなくてはならない。 平成27年12月には「南大隅町観光おもてなし看板コンテスト」を初開催。9つの自治会と企業1社の応募があった。このコンテストでは、単に看板をデザインするだけではなく、実際の設置場所を決めて設置するところまでを実施して、評価した。
企画観光課観光推進室の原係長は「自分たちで設置場所を決めて案内看板を設置することで、その周辺をキレイにしておこうという美観意識の向上も期待できるんです」と話してくれた。
この企画には地域おこし協力隊も関わった。ほか、町では住民による観光ガイドの育成にも努めていて、有償化することで持続可能なサービス体制をつくってのだという。 こういった住民に対するインナープロモーション企画にも、協力隊の力が必要とされている。
高齢者が支えあって暮らす、新しい仕組みを模索
今回の協力隊募集では、企画観光課の他に、介護福祉課でも1名募集をしている。福祉関係での隊員募集は全国的にも珍しい。その意図は何だろう。介護福祉課の水流(つる)課長に聞いた。
県内で最も高齢化が進む南大隅町。特に山間部では限界集落で独居老人が増え、高齢者の孤立化が問題となっていた。そこで地域の高齢者同志で支えあう『寄ろっ住も家(よろっすもや)!事業』がスタートしたのだ。
具体的には、月に1回集落の公民館に集まり、5~6人のグループで宿泊を含めた共同生活で楽しく過ごしてもらう。いわば“高齢者版シェアハウス”。同じような課題を持つ地域の先進事例として、自治体やマスコミからも注目されている。協力隊員には、宿泊拠点となる公民館の周辺集落に住んでもらい、月1で一緒に共同生活し、新たなニーズや課題を次に生かしてもらいたいという。 そのほか、企画観光課の地域おこし協力隊と連携して町内のイベントの企画や参加をしたり、社会福祉協議会と一緒に地域サロンの運営なども行ってもらう。
本土最南端は日本最先端。福祉の未来がココに
「従来の福祉や疑問を持ち、へき地の福祉に興味のある人にはいいチャンスだと思います。介護の専門性は求めませんが、お年寄りにちょっと手を貸すといった場面も出てくるかもしれませんね。テーマや時間も自分で自由に考えていいので、まず、1年目は地域に溶け込んでもらいたいです。2年目からは今までのスタッフから見えていないポイントも見えてくるのではないかなと思ってます。初めての試みなので、もちろん任せっぱなしにはしませんよ(笑)。提案を尊重しながらサポートしますので、安心してください(水流課長)」。
過疎化・高齢化において時代の最先端を行く南大隅町。それだけに早くから課題をつかみ、解決の糸口をつかみやすい場所でもある。従来の固定概念にしばられない自由な発想で、新しい地域介護のスタイルを考え、実践することができるのではないだろうか。
ヨソモノの視点が、地域の元気の原動力になる–―。福祉の現場でもその力が求められてきている。