住む前からわくわくするカスタマイズ賃貸「ハロープレイス」を手掛けた、マネジメント・ワン不動産の星麻希さん
2日目は、オガールプラザから車で15分ほどの矢巾町にある「ハロープレイス」という賃貸住宅の見学から始まりました。3月5日に内覧会を実施したばかりの新築ですが、壁紙が選べる、いわゆるカスタマイズ賃貸と呼ばれる物件です。これを手掛けたのが、マネジメント・ワン不動産の星麻希さん(写真下)です。
星さんは北上市出身。経営するマネジメント・ワン不動産は、紫波町のお隣の矢巾町にありますが、紫波町在住です。「紫波町が大好きで離れたくない!」と話すお子さんふたりとご主人と家族で暮らしています。ご主人も紫波町出身ではありませんが、「出身でなくとも程よく仲良く、楽しめるのが紫波町の良さ。」と星さんも気に入っている様子。
星さんは岩手大学在学中に住宅関連の仕事を志し、一時期は専攻を変更するため中退も考えたそうですが、母親からの「どうしてもなりたいなら、遠回りになっても必ずなれるはず。」という一言で思い留まりました。就職活動では不動産業界に絞り、念願かなってハウスメーカーに就職。7年ほど営業職に就いていました。勤務先で知り合ったご主人との結婚を機に退職。ご主人とふたり、不動産関連事業で独立し、現在は一般の賃貸物件も扱っています。宅建のほか、子育て中の合間をぬってインテリアコーディネーター、整理収納アドバイザーの資格も取得しました。
案内されたハロープレイスのモデルルーム(写真上)では、おしゃれな壁紙が使われ、天井からもモビールが吊るされていました。壁紙だけでなく、釘を打って棚をつけたり、天井の色を替えたりすることも可能です。
これらのカスタマイズは一から希望通りにすることもできますが、最初から何もないとイメージしにくい方も多いので、モデルルームにはある程度手が入っています。ほかにも暮らしがイメージできるように机やベッドなどのインテリアも設置されていて、購入することも可能です。
モデルルーム以外にも、希望通りにカスタマイズした方の入居前のお部屋も案内していただきましたが、寝室だけでなくトイレの壁紙までカスタマイズされていました。洗面台や洗濯機の水道栓などの水回りも、シンプルながらひとつひとつにこだわりが感じられました。
星さんがカスタマイズ賃貸を始めたのは、東京にある「ロイヤルアネックス」という賃貸マンションの存在がきっかけでした。壁紙や間取りを好きなものに変えられる、現在のカスタマイズ賃貸の先駆けです。手掛けたのは株式会社メゾン青樹ですが、代表である青木さんと紫波町で出会うきっかけが昨年9月にありました。紫波町が開催したリノベーションスクールです。遊休不動産を活用したまちづくりがテーマで、講師のひとりとして青木さんがきていました。
星さんはこのリノベーションスクールに参加したことで、よりいっそうカスタマイズ賃貸への思いを強くし、理解ある大家さんとの出会いもあって、ハロープレイスが完成しました。実は星さんが手がけるカスタマイズ賃貸はハロープレイスで2件目。人を引き寄せる力と行動力には驚きます。内覧中、特に女性参加者からの反応は早く、このような仕事にかかわるにはどうすればよいかという相談が出るなど、星さんの仕事に影響を受けている参加者もいました。
星さんが提案する、日詰商店街のリノベーションプランを見学
次は日詰(ひづめ)商店街に移動しました。前述の星さんが参加したリノベーションスクールは、この商店街にある空き物件を対象として、リノベーションを考えるというものでした。
写真上が、星さんがプランニングのために選択した物件です。この日は商店街のイベントにあわせて休憩所として使われていましたが、星さんはここを「発酵」をテーマに、紫波町の日本酒やワイン、食を楽しめるバルにしたいと提案したそうです。商店街の中でもひときわ歴史を感じる物件でしたが、その話を聞いて眺めると、古い外観も味があってむしろよさそうです。紫波町に来る楽しみが増えましたね。
公民連携のまちづくりで全国区になった「オガール」
日詰商店街の後はオガールプラザに戻り、町役場の佐々木琢磨さんに案内されて施設内をひととおり見学。プログラム期間中、オリエンテーションやワークショップはオガールプラザ内の部屋を使っていましたが、改めてどんな場所なのか、案内していただきました。
全体的に学校の教室規模の部屋が多く、時間帯によって用途を変えて使用している部屋や、敢えて定員100人のコンパクトに作ったホールなど、小さく作って無駄なく使うという工夫が随所に見られました。当初は数百人収容できるホール建設も考えられていましたが、100人以上になったら既存施設を使ってもらえばいいという英断により、現在のようにコンパクトなつくりになったそうです。
休日だったこともあり、1階図書館前のフリースペースではアクセサリーや手芸品の販売、カラーセラピー診断などの出店がありました。このスペースは、バンドによる発表会や、ダンスサークルによる練習にも使われます。
公民連携のまちづくりで一躍全国区になったオガールプラザには、各地から自治体を中心とした視察があります。この視察は有料制で、昨年は200件以上、延べ人数で1800人の視察に対応。ここで得られた利益で、併設する図書館に図書を寄贈しました。
図書館の規模は大きくはありませんが、ゆったりしていて、居心地のいい空間になっています。入り口にはベビーカーが用意され、お子さんが本を選んで移動するのに便利なカートもあります。図書館スタッフによると、利用者と直接コミュニケーションをとるために、注意書きなどの張り紙は敢えてしていないそうです。
この図書館は東日本大震災の後、2012年に完成していることもあり、災害にも備えています。本棚は移動式で、棚も一定の揺れで斜め後ろにずれるように設計されており、いざという時に本が落ちて通路を塞がないように工夫されています。
図書館をつくりたい。紫波町で夢を叶えた図書館司書の手塚美希さん
図書館を案内してくれたのは、図書館司書の手塚美希さんです(写真上)。別室に移動してお話をうかがいました。
秋田県出身の手塚さんが生まれ育った小さな村は、なにかあると子供も大人も集まって、一緒に考えるという習慣がありました。この地域性を子供の頃から気に入っていた手塚さんですが、一方で不便なことも自覚していました。どうしたらこの村でずっと暮らしていけるかを真剣に考えた結果、図書館を思いつきました。「都会ほど便利なものがなくても、情報があれば、大好きなこの村でずっと暮らしていける。」そう確信した少女時代の手塚さんは、図書館を情報発信基地だと考え、村に図書館をつくりたいと考えるようになりました。
目的のはっきりした手塚さんは、大学では図書館情報学について学び、卒業後も複数の図書館勤務でキャリアを積みました。図書館を一からつくるというのは図書館司書といえどもなかなか経験できることではありませんが、幸運なことにその時は訪れます。
秋田県立図書館に勤務していた時、紫波町図書館の立ち上げスタッフとして、上司が手塚さんを推薦してくれたのです。こうして紫波町民にとっても、手塚さんにとっても念願の図書館が完成。手塚さんはこの経験を多くの人と共有するため、ブログ「紫波町図書館ができるまで」でもその日々を綴っています。
手塚さんは図書館の仕事以外にも、休日を利用して沿岸にボランティアに出かけたり、「シワキネマ」という自主上映会を開いたり、活発に行動しています。「シワキネマ」は映画館のない紫波町で、みんなで集まって映画を見るために企画したもので、最初は赤字になるほど人が少なったのが徐々に知れわたり、今では楽しみに通う方が多いそうです。
手塚さんの仕事ぶりをうかがっていて印象的だったのは、図書館に対する考えと、町役場の方との距離感でした。「図書館運営は人づくり、まちづくり(に匹敵するもの)だと思っています。そして、私も役場の人間だと思って仕事をしていますし、役場の人たちも図書館の人だと思って一緒に仕事をしているつもりです。」手塚さんのこの言葉から、図書館という場所が、誰かの背中を押してあげられる、誰かの何かを見つけられる場所にするために、立場を超えて、一緒に図書館運営に取り組んでいることが伝わりました。
2日間を振り返って
2日間はあっという間で、最後の振り返りの時間となりました。今回のプログラムを運営していたNPO法人wizの黒沢さんから最後のワークショップについて説明があり、考える時間が設けられました。シートに記入するのは3点だけですが、参加者それぞれ、濃密だったこの2日間をふりかえっている様子で、少しだけ時間も延長しました。
参加者に、今回のプログラムの感想や、今後紫波町や岩手にかかわるイメージが具体的に持てたかどうか、話を聞きました。
「岩手県の県南出身ですが、オガールには運動場を使うだけにしか来たことがありませんでした。今回様々な人に話を聞き、地域を変えるには、その地域の中に熱い思いを持った人が必要だなと実感しました。今は県外の大学に通い、地域活性化を考える学生団体をつくって活動をしていますが、やはり僕のフィールドは地元だと思っています。今回、日詰商店街を直接見られたのもよかった。ここで気がついたことなども活かして、卒業後は戻って地元に貢献したいです。」(岩手県出身・20代・男性)
「このようなプログラムに参加するのは2回目ですが、まだ自分がその地域で働く、暮らすというところまでの具体的なイメージは持てていません。今回お会いした人たちのように、これといった強みやスキルを自分の中に見つけられていないので、これからもいろいろな地域の事例を見て、これなら私でもできるかもというケースを探したいなと思っています。」(大阪府出身・20代・女性)
「紫波町で生まれ育ちましたが、同じ町内にいても、ここまでほかの方の話を聞く機会はありませんでした。こういうプログラムが紫波町で行われていることも、もっと多くの町民に知ってもらうと、何か変わるかもしれないと思いました。」(岩手県出身・20代・男性)
今回のプログラムを通じ、参加者にとって紫波町は既に「知っている人のいる町」になりました。すぐにかかわる“すきま”が見つからなくても、また紫波町に来たい!と思っていただけたのではないでしょうか。オガールプラザで、畑で、商店街で(そのうちバルで?)、紫波町はいつでも皆さんをお待ちしています。
*1日目のレポートはこちら!
紫波町で出会うとっておきの10人から、地域にかかわる“すきま”を見つけよう!~MEET UP IWATEレポート①~