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2016年9月6日 ココロココ編集部

茨城県大子町「まちの研究室」が仕掛ける魅力ある町の作り方【いばらきさとやまの未来 vol.3】

常磐自動車道「那珂」I.Cから車で約50分。茨城県大子町(だいごまち)は、袋田の滝をはじめとする美しい里山がある自然や温泉、グルメを満喫できる県を代表する観光地だ。また、りんごやぶどう等の果物王国でもあり、シーズンになるとこちらも多くの観光客で賑わう。街の中心地にあるJR「常陸大子」駅から徒歩1分、昔懐かしい駅前商店街を歩くとすぐ、杉の木材を基調とした真新しい建物がNPO法人「まちの研究室」だ。

JR「常陸大子」駅前に新たに同事務局を兼ねたシェアオフィスをオープンさせた、NPO法人「まちの研究室」を訪れ、事務局長の齋藤真理子さんに話を伺った。

「まちの研究室」とは

「まちの研究室」は、大子町の活性化を図るため、まちの活性化及び交流人口・定住人口の拡大を図る各種事業を市民・行政・団体等と協力して企画・運営又は支援し、地域社会及び地域経済の発展に寄与すること、これらの活動を通して、次世代の人材育成に寄与することを目的として発足した。

『NPO法人として2年目になりまして、「まちの研究室」は町内で行われるイベントの主催やそれに伴う事務作業を主にしています。またコミュニティFM局「FMだいご」の運営もしています。』

「まちの研究室」が携わっているイベントには「丘の上のマルシェ」や「花嫁行列」、「常陸国YOSAKOI祭り」、「らっしゃい大子百円街」などがあり、どれも多くの町民に愛されている。各種申請や連絡、備品準備などから当日の運営まで、担当する業務は多岐にわたる。

FMdaigoポスター

また、コミュニティラジオ「FMだいご」は、町の防災ラジオとしての役割を担いつつ、住民参加型ミステリードラマ「大子町殺人事件」といった町民参加型のラジオ放送なども行っている。

大子町には防災無線がないため、各家庭に1台ずつラジオが配布されているとのこと。2011年3月に発生した東日本大震災の際に、ラジオで被災の状況や生活物資の情報発信を行い、「防災ラジオ」の重要性が再認識されたという。「FMだいご」は、観光情報や地域の情報を町の人たちに伝えるだけでなく、防災ラジオとしての重要な役割もある。

齋藤さん

さらに、「まちの研究室」の発足で町内のイベントにも変化がみられているという。

『今までは大子町で行われる各イベント間での横のつながりはなかったのですが、「まちの研究室」を立ち上げて、事務局をひとつにまとめてからは、イベント間のつながりや仕事の連携がとれるようになったんです。』と齋藤さん。

JR「常陸大子」駅周辺の商店街で定期的に開催されている「らっしゃい大子百円街」でも、他のイベントと連携をとり、「創り手古書市」を同日に開催することで集客を伸ばすなどお互いに良い影響が生まれているという。

 

アートの街・大子へ

齋藤さんが特に力をいれているイベントの一つが毎年秋に大子広域公園内にて開催される「丘の上のマルシェ」だ。

丘の上のマルシェ

『今年で6回目になりまして、茨城、栃木、福島のクラフト系や飲食系の作家さんの作品が集まります。昨年は予想以上の反響を頂きまして、約13,000人の方が来場しました。会場へのアクセスが混雑してご迷惑をおかけしてしまったので、今年は「常陸大子」駅からシャトルバスを運行します。』

このイベントは、マルシェ開催の夢を持っていた「まちの研究室」副理事長の木村さんが、5年かけて他のイベントを見たり、スタッフとして働いたりして人脈を作り、つくり上げたという。

そのためか、準備段階から妥協しないこだわりのマルシェづくりが行われている。

『「丘の上のマルシェ」に出店する作家の決定には、イベントのイメージ戦略の為に一般募集は行わず、マルシェのイメージに合った作家の元に直接伺って、お声がけをしているんです。』

丘の上のマルシェの様子

『イベント自体のクオリティ維持の為に、私たちの作るマルシェの考えである“すてきな手仕事”、“すてきな音楽”、“すてきな味”を表現して頂ける作家さん、私たちの考えをご理解頂ける作家さんにお声がけさせて頂いています。出店していただける全部の作家さんに声がけするには1年ほどかかりますが、そこは妥協したくないと思っています。」

「丘の上のマルシェ」の開催により、里山の風景が広がる大子町が異国情緒溢れる「アートの街」として生まれ変わったといっても過言ではないだろう。

丘の上のマルシェの様子

県内外の多くの作家が大子町の特別な1日「丘の上のマルシェ」のために作品を作り、町民を含めた多くの人々がそれを楽しみマルシェに足を運ぶ。今まで大子町と縁のなかった人々が「丘の上のマルシェ」の開催により新しい繋がりを次々と生み出しているのだ。

 

祭りを通じて新しい住民を歓迎

「まちの研究室」が手がけるイベントは、「丘の上のマルシェ」のように町に新しい風を呼び起こしてくれるものばかりではなく、古き良き町の伝統を重んじたものも多いのが特長だ。その一つが、「百段階段でひなまつり」イベント内で開催される「花嫁行列」だ。

百段階段でひなまつり

「百段階段でひなまつり」は大子町で大切にされている祭りの一つで、「常陸大子」駅近くの十二所神社にある通称「百段階段」を舞台に、毎年ひなまつりの時期に開催される。

『「花嫁行列」では本町通りを新郎新婦と地元の人ら総勢数十名の華やかな行列が練り歩きます。「まちの研究室」では、大子町にゆかりのある新郎新婦とご家族に毎年お声がけをしています。以前には大子町に新しく移住して来たご夫婦にお声がけして、「百段階段でひなまつり」を通じて街をあげてご夫婦を歓迎したこともあります!」

花嫁行列

『地元のご年配の方も楽しみにしてくださって、祭りでは商店街の人に折り鶴を折ってもらってそれをフラワーシャワーのようにしてご夫婦を祝うのですが、最後に縁起物だから!とお持ち帰りいただいて家に飾る地元の方が多いそうです。』

常陸国YOSAKOI祭り

そのほかにも、大自然の中で海外の子どもたちと日本の子どもたちが思いっきり遊ぶことで多様性を深め合う「Mix Kicks! Summer Camp in Daigo」や作家の方々が古本を選んで販売するという一風変わった古本市である「創り手古書市」など、ユニークなイベントを多数開催している。中でも、‟茨城県北を盛り上げたい”、‟日本の伝統文化を守りながら新しい地域文化を創りたい”という想いから始まった「常陸国YOSAKOI祭り」は大子町の中でも指折りの大きなイベントだ。2004年から始まり、今年で13回目を迎えた今年は全国から集まった95チームが2日間にわたり熱い踊りを披露し、大子町を盛り上げた。
イベント業務を通じて、町内外の人たちを巻き込みながら地域を盛り上げる「まちの研究室」と大子町から、今後も目が離せない。

 

クリエイティブな力を応援したい

daigo-19

「まちの研究室」は、JR「常陸大子」駅から徒歩1分ほどのシェアオフィス「daigo front」内にある。もともとは写真館だった建物をリノベーションして建てられた。

ここから大子町に不足するクリエイティブワーカーの応援と、大子町・商店街の活力あふれるまちづくりを目指すという。昔ながらの懐かしい風景が広がる商店街の中に突如現れるクリエイティブな空間は驚きだ。

daigo-20

『クリエイティブワーカーや起業家にシェアオフィスとして使って頂きたいです。また、オフィス内にある什器は移動することができますので、ギャラリーの展示やイベント、白壁に映像を映せば講演会への使用も可能ですし、パーティションで区切って会議室としても使用できます。町の人が気軽に入ることができる使われ方ができれば良いですね!』

このシェアオフィスは、「常陸国YOSAKOI祭り」の事務所としても使用されている場所で、「まちの研究室」もそのまま使用している。そのため、リノベーションした現在は「シェアオフィス兼、常陸国YOSAKOI祭り事務所兼、NPOまちの研究室事務所」という複合オフィスになっている。様々な人がこの場所を使用することで、さらなる交流が生まれ、新たなおもしろい取り組みが生まれる可能性もありそうだ。

 

町民の力が完成の後押しに

「daigo front」の什器や床一面には、地域材である八溝(やみぞ)杉が使われている。リノベーション時には多くの町民が製作に関わった。

daigo front

『材料の八溝杉は、地元の材木店に依頼して加工していただきました。床には5cm×5cm、5cm×10cm、10cm×10cm、の3パターンの木材を組み合わせています。町のみなさんに床貼りをワークショップ型のイベントとして告知しまして、子供たちや近所の人、通りすがりの人などたくさんの方に参加いただきました。大子清流高校森林化学科の生徒さんにも協力いただきまして、約3日間で床貼りは完成しました。町の方々からも、床がとても柔らかくて優しい、と好評です。』

 

人との繋がりが暖かい大子町

人と人との距離感が近く、地域の連携が取れているのが大子町の魅力。町での暮らしは、何かあったら手を差し伸べてくれる、そんな優しさに触れる機会も多いという。

齋藤さん

齋藤さんは大子町に住むにあたって、地域の方との交流の仕方をこう語る。
『まず町の人に顔と名前を覚えてもらうのが大事だと思います。そうすることによって、電話をした時に、「ああ、まちの研究室の齋藤さんね。」といった感じで、話がまとまるのが早くなりますね。』

 

「daigo front」は町の憩いの場へ

大子町の活性化のため、「daigo front」に拠点を得て動き始めた「まちの研究室」。計画中のイベントなど今後の活動が見逃せない。「daigo front」を町の人がより入りやすい場所としての利用法も検討中だという。

daigo front

『オフィス内にある什器ですが、側面に本が並べられるようにデザインされています。現在のところそこに並べる本が新書になるのか、古本になるのか、図書館と連携したものになるのかは決まってはいないのですが、子どもたちやご年配の方が気軽に入ってきて、電車やバスの待ち時間などに本を読めるスペースにしたいと思っています。』

daigo front

 

観光だけではない、大子町の魅力

大子町には四季折々のみどころが多くあり、季節ごとに趣を変える袋田の滝をはじめ、鮎釣りが楽しめる久慈川など、茨城でも屈指の自然の名所が揃っている。

自然あふれる大子町

齋藤さんは「食べ物が美味しい、景色がきれいだというのはもちろん有名ですが、私が一番推していることは、夜に星空がとても綺麗だということですね。町では夜21時くらいになると明かりが少なくなります。空気が綺麗なこともあり、その時に夜空を見上げるとびっくりするほど星空がはっきりと見えますよ!満天の星空に心癒されます!」と大子町の魅力を語った。

自然あふれる大子町

「水と緑の町」、「観光の町」大子町。自然を満喫しに行くのも良いし星空を見に行くのも良い。観光地とは離れたの町の商店街の食堂で食事をして地域の人と触れ合うのも楽しいだろう。ちょっと息抜きに、人の優しさに合いに大子町へ足を運んでみてはいかがだろうか。

取材先

まちの研究室

住所:茨城県久慈郡大子町大子988

http://machiken-npo.com/

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ココロココ編集部ココロココでは、「地方と都市をつなぐ・つたえる」をコンセプトに、移住や交流のきっかけとなるコミュニティや体験、実際に移住して活躍されている方などをご紹介しています! 移住・交流を考える「ローカルシフト」イベントも定期的に開催。 目指すのは、「モノとおカネの交換」ではなく、「ココロとココロの交換」により、豊かな関係性を増やしていくこと。 東京の編集部ではありますが、常に「ローカル」を考えています。

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