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2019年4月4日 ココロココ編集部

美味しさの秘密は、徹底した品質管理と常陸大宮市の自然、人。奥久慈いちごで笑顔を届ける「つづく農園」

那珂川の清流や雄大な御前山など、里山の原風景が広がる茨城県北地域・常陸大宮(ひたちおおみや)市。奥久慈いちごの生産・販売を行う「つづく農園」の広大な畑では、「いちごグランプリ」で金賞を受賞した茨城県オリジナルの「いばらキッス」や「ひたちひめ」、農園オリジナルの「ルビードロップ」など全7種類の品種を栽培。12月から5月中ごろまで続くいちごの収穫時期には、県内外からいちごを求めて多くの人が「つづく農園」を訪れます。農園を営む都竹大輔さんは、東京都出身の元会社員という経歴を持つ移住者。常陸大宮市の御前山地区で暮らす都竹さんのもとを訪ねて、お話を伺いました。

憧れていた田舎暮らし。移住は突然に!

「最初は農業を始めようとは思っていなかったんです。というのも、実家が旅館ということもありペンション経営を考えていました。ペンション経営に合った土地を探している時に、この御前山に初めて来て、直観的にここに住みたい!と感じました。」
その後、何度も常陸大宮を訪れ、移住することを決めた都竹さんですが、何とご家族へは事後報告だったそう。

「妻とは、いずれ悠々自適に田舎暮らししたいね、といった話はしていましたし、旅行で田舎暮らし体験もしていました。ただ、定年間際になると気力がなくなる、移住するなら早い方が良いとも聞いていましたので…。当時0歳と2歳の子育てで忙しい妻に相談しなかったのは本当に申し訳なかったのですが、今しかない!と思いまして移住を決めてしまいました。」

都竹大輔さん

さらに都竹さんは当時の生活をこう振り返ります。
「始発電車で会社に行って勤務して、終電で帰宅、さらに週に3~4日は出張するという多忙な生活でした。当然子どもたちと接する時間もなく、夜中に帰って子どもを抱いても慣れてないせいか泣かれてしまったり…。もちろん家族のために、と働いていたのですが、その実感が湧かない時もしばしばで。移住を打ち明けた時、妻の反対は当然ありましたが、一番理解してくれたのも妻でした。ここまで一緒についてきてくれたのが一番大きいですね。」

農業は大きなチャンス。移住した街でゼロからのスタート

こうして常陸大宮市に移住をした都竹さんですが、仕事に選んだのは経験や知識のあるペンション経営でも会社勤めでもなく、なんと農業。一体、都竹さんに何があったのでしょうか。
「最初はペンション経営を考えていたのですが、何度も通ってまちの様子や人、暮らしを見ているうちに、ペンション経営だけで確実な収入を得るのは難しいのでは?と考えるようになりました。ペンションよりも農業で生計を立てるのがこの街には適している、そう思いました。もちろん不安はありましたが、農家の高齢化も知っていましたし、同世代で農業をしている知り合いも皆無。逆に40代、50代と歳を重ねていった時にチャンスになるのでは?とも思いました。」

しかし、当時農業に関しては全くの素人だった都竹さんは、農業研修を受けることからスタートします。
その中で、「手始めに栽培が簡単そうなブルーベリーで摘み取り園をやろうかな」と、ブルーベリーやイチゴなど様々な“ベリー系”を育てて、一年中収穫ができる観光農園を構想。しかし農業研修を続けるうちに、農業の奥深さ、難しさも思い知ることになります。

「研修でお世話になった先輩から、ブルーベリーは収入を得るまでに最低でも4~5年かかると聞きました。長い期間無収入のままよりも、並行していちごの栽培をした方が収入の面でも良いのでは?と栽培方法を教えていただきました。」

土地の風土を生かして安心・安全ないちご栽培を

「つづく農園」の直売所

こうして、いちごを軸に就農することを決めた都竹さん。畑を借りて、2006年に「つづく農園」をオープンします。その後は直売をメインに5年前からいちご狩りもスタート。さらに現在は、干しイモや鶏卵など取扱商品も増やし農園は活気に溢れています。

御前山地区の風景

都竹さんが移住した常陸大宮市御前山地区は、いちご栽培には非常に適した土地。水質の良い井戸水が当たり前に手に入り、農業で「名産品が育つ」と言われる肥沃な沖積(ちゅうせき)土壌、また冬の日照時間の多さや寒暖差がある内陸性の気候といった環境が甘く美味しいいちごを育てるのです。

「安心・安全には特に気を使って栽培をしています。苗を植える前には高濃度炭酸ガス処理をして害虫や害虫の卵を完全に除去。二重構造のビニールハウスで外からの虫の侵入を完全に防ぎ、ハウス内にはアブラムシを食べる蜂など害虫の天敵を放出。農薬を極力使わない自然な状態で栽培を行っています。この栽培法は常陸大宮市のイチゴ農家全体が取り入れていまして、先進事例として全国から多くの農家や関係者が視察に訪れる程です。」

茨城県オリジナルの「いばらキッス」。糖度が高く、酸味とのバランスも良い、濃厚な食味が特長。

このようにして大切に育てられる安心・安全で美味しい「つづく農園」のいちご。都竹さんにオススメの食べ方をお聞きしました。
「洗わないでそのまま食べるのが一番のオススメです。洗うといちごのビタミンが一緒に流れてしまうので、そのまま食べるのが栄養価もあり美味しくいただけます。農薬を極力使わない栽培方法だからこそできる食べ方ですね。」

「つづく農園」のいちご

環境の変化で感じる田舎暮らしの魅力

美味しい食べ物も水も豊富な常陸大宮市。移住後は、食の恵み以外にも都竹さんやご家族の暮らしにもプラスの変化が訪れます。
「気持ちに余裕ができたのでしょうか。茨城弁で『なんとかなっぺ!(何とかなるさ)』と、何事にもドーンと構えるようになりました。また、最低でも1日に1食は家族と食卓を囲んでご飯を食べることができる時間があるのも、とても幸せですね。妻は食べ物の旬を熟知するようになり、家族で旬な時期の美味しい食べ物を共有するようになったのも大きな変化です。」
さらに都竹さんは笑顔で続けます。
「子どもが通っていた『御前山中学校』は、部活動の選択肢の幅も少なく、みんなで協力しないと成り立たないような小さな学校でした。今年閉校し別の中学校との統合が決まったのですが、生徒数が少ない分、全員にいろいろなチャンスが巡ってくるので、私の子どももいつの間にか自分で積極的に考えて行動できるように成長したと感じます。」

田舎暮らし=古民家暮らし?街の情報や支援制度のフル活用を

常陸大宮市は移住者の受け入れにも積極的で支援制度も豊富。都竹さんのように首都圏から移住して就農する例も多く、市では支援制度の活用を推進しています。
「田舎暮らしというと古民家に住むイメージとイコールになりがちですが、古民家暮らしは問題点も多いと思います。住んでみたら思ったよりも寒かったとか家の補修に結構お金がかかるとか…。私は最初の1年間は農業研修で無収入になることが決まっていましたので、家賃の安い市営住宅に住み毎月の出費を最小限に。それでも東京では考えられない3LDKの駐車場付き、家族で暮らすのにも申し分のない物件でした。おかげ様でお金の問題もクリアして、農業研修にも集中できとても助かりました。今後は古民家だけではなく、市営住宅の空き情報なども市で発信していけば、もっと移住者が増えるのではと思います。」

人と人の繋がりが温かい!この街に恩返しを

常陸大宮市は良い意味で田舎の街。住んでみると感じる人と人の繋がりが温かい、と都竹さんは話します。
「移住してきた頃に仕事で手が離せない時は、近所のおばあちゃんが子どもの面倒を見てくれるなど街の人にはとても親切にしていただきました。今でも野菜のおすそ分けをいただいたり、時には玄関のドアノブにキジとかイノシシの肉がぶら下がっていることも(笑)。みんなが周りに気を使ってくれる温かい街だと思います。街にどっぷりと浸かって暮らすことがおすすめですね。移住するにあたって心配事はつきませんが、移住してしまうと意外と何とかなってしまうもの。思い切って一歩踏み出すと素敵な世界がそこにあるかもしれませんね。」

いちごの仕分け作業を行うスタッフの皆さん

スタッフなどの働く環境づくりも

今後は少子高齢化の影響で耕作放棄地が増える可能性も視野に入れ、同じ移住者仲間と農業法人を立ち上げて対策を講じていきたいと話す都竹さん。「つづく農園」でもパート従業員の年間雇用などの働き方改革にも積極的に努めて、地域に還元できる仕組みづくりを進めていきたいと話してくれました。

「移住してきた時に色々お世話になったので、これからは少しでも地域のための活動ができればと思っています。小さなことですが、ビニールハウスの角地にひまわりを植えて、通りがかる街の人に花を楽しんでもらうとか、パートさんたちには普段の愚痴も仲間と話して発散してもらえるようなコミュニティスペースのような仕事場づくりをするとか、「つづく農園」が街の活性に少しでもつながればと考えています。」

取材先

都竹大輔さん/つづく農園

1972年生まれ。岐阜県出身。名古屋の大学を卒業後、東京での10年間の会社員生活を経て茨城県常陸大宮市に移住。1年間の農業研修の後、2006年に「つづく農園」をオープン。奥久慈いちごの直売のほか、いちご狩りも行っている。

つづく農園のホームページ
http://www.tsuduku-farm.com/

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ココロココ編集部

ココロココ編集部ココロココでは、「地方と都市をつなぐ・つたえる」をコンセプトに、移住や交流のきっかけとなるコミュニティや体験、実際に移住して活躍されている方などをご紹介しています! 移住・交流を考える「ローカルシフト」イベントも定期的に開催。 目指すのは、「モノとおカネの交換」ではなく、「ココロとココロの交換」により、豊かな関係性を増やしていくこと。 東京の編集部ではありますが、常に「ローカル」を考えています。

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 「風土」という言葉には、地形などの自然環境と、 文化・風習などの社会環境の両方が含まれます。 人々はその風土に根ざした生活を営み、 それぞれの地域に独自の文化や歴史を刻んでいます。

 過疎が進む中で、すべての風土を守り、 残していくことは不可能であり 時とともに消えていく風土もあるでしょう。 その一方で、外から移住してその土地に根付き、 風土を受け継ぎ、新しくつくっていく動きもあります。

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