三戸町のテレワーク事情と背景を聞く
青森県三戸町(さんのへまち)は県の南東に位置する人口約1万人の小さな街。戦国時代には南部藩が城を構え、城下町として栄えました。基幹産業は農業で、山間に水田や果樹園といったのどかな田園風景が広がります。そんな三戸町でも人口減少や働き手となる世代の流出は課題となっています。そこで、「住んでみたい町、住み続けたい町 さんのへ」を掲げ、農業だけでなく、他の産業によって新たに人を呼び込んだり、働き手の流出を食い止めようと、「新しい働き方」を背景としたテレワークに着目しました。
その中では、テレワークのようなPC一台でも可能な仕事を生み出すには、それを叶える人材と企業が必要になってきます。そのために、サテライトオフィスを整備し、テレワークのできる企業の誘致を行います。さらに、地域住民に対してもテレワークが可能となるようなスキルを身に付ける講座を始めるなどの取り組みを行う予定となっています。(※講座は、2018年4月以降に実施予定)
今回の案内役は、テレワーク推進のため町が整備した「お試しサテライトオフィス」で働きながら、
まず訪ねた「三戸町お試しサテライトオフィス」は住宅地の一画にある一軒家。もとは医師住宅だったところを町が整備したとてもきれいな施設で、田んぼや川など自然に囲まれた立地です。利用は最大3ヵ月間無料。中はオフィススペース+2LDK、Wi-Fi完備、広い駐車場、エアコン、ダイニングキッチン、ユニットバスなど快適そのもの。お邪魔したのは雪が舞う寒い日でしたが、中はポカポカ。五十嵐さんはバリバリとお仕事をこなしていました!
「初恋のような気持ち」三戸にベタ惚れな五十嵐さん
秋田県出身の五十嵐さんは東京などで地方のテレワークを活用した就業支援の国の計画やテレワーク導入のコンサルティングに携わり、現在はITで新しい働き方やモノづくりを提案する「(株)コー・ワークス」で働いています。初めて三戸町を訪れたのは、2016年、当時町はサテライトオフィスを整備するなどテレワークの推進に着手した時期でした。
「その時は主に、サテライトオフィスを利用する企業の誘致、イベント開催などのプロモーション、そしてオフィス自体の環境チェックを行っていました。これまで被災地などでの業務経験から、地方や田舎といわれる地域で一番大変なのが現地の方といかにコミュニケーションをとるかという点。でも、三戸町はその壁がほとんどなかったんです。固定概念が崩れた瞬間でした。」
五十嵐さんにして「いい意味でとにかく人たらし」と言わしめる町の皆さんの人の良さ。その魅力に惚れてしまったといいます。
そんな中でも、テレワークの推進には、オフィスという箱だけではなく、町の魅力を現地で伝え続けるプレイヤーの必要性を感じていた五十嵐さん。地域の中での個人的な活動も行いながら利害関係を調整、所属している会社の方針や理解もあり、「三戸町お試しサテライトオフィス」を会社のサテライトオフィスとして利用・居住することになりました。会社の「新しい働き方」の旗振り役として実証を行いながら、町のプロモーションも行ってきました。
「会社からの反応も良いですし、地域の人と少しずつ距離が縮まったり、想いを共有できる人が増えてつながっている実感があることが何よりもうれしい」と話します。もうすぐ住民票を移し、今後はさらに腰を据えて三戸を盛り上げるための仕掛けを考えているそうです。
三戸町役場から「街歩きツアー」がスタート!
実際に住んでみて、人の暮らしに触れ、三戸に魅せられた五十嵐さんに、町のお気に入りスポットを案内していただけることになりました。どんなところが気に入ったのか、五十嵐さんのアツいトークを交えて、町を散策してみましょう!
まずは五十嵐さんと一緒に観光協会が主催する「さんのへ街歩きツアー」に参加することに!街歩きガイドさんが、普段入ることができない場所や、観光パンフレットに掲載されていない街の見どころを案内してくれるツアーです。
三戸町役場に集合した参加者は、今回ガイドを担当するジェンゴスキーさんからツアーの概要と三戸町出身の漫画家・絵本作家の馬場のぼるさんについて説明を受けました。ちなみにジェンゴとは三戸の方言で田舎を意味するとのこと。”田舎+好き”でこのお名前だそうです!ジェンゴスキーさんのユーモアたっぷりのトークがツアーを一層盛り上げていました。
「元祖まける日」で賑わう街!
ツアーに参加した日は藩政時代から続くという「元祖まける日」の開催日!「まける」とは「負ける」ではなく値段やモノを「まける」というお得なイベントです。土日2日間の開催で、餅まきや獅子舞・神楽・えんぶり・ちんどん屋、元祖せんべい汁や甘酒無料振る舞いなど盛りだくさん。参加者は街歩き中に獅子舞の演舞に偶然遭遇!美しくも迫力のある演舞に参加者からは盛大な拍手が送られていました。
まだまだ続く!五十嵐さんおすすめスポットへ!
ツアーを終え、ここからは五十嵐さんとNPO法人プラットフォームあおもりで八戸圏域の移住コーディネーターも務める風間一恵さんに町のおすすめスポットを案内していただきました!
①「小山田煎餅店」
まず初めに向かったのは「小山田煎餅店」です。南部せんべいやせんべい汁を誰もが連想しますが、できたての温かい南部せんべいは、市販のものとは味も食感も違い感動です!お店の職人さんからは、煎餅が焼きあがる間や、店から出るときも南部せんべいの差し入れが。これだけでお腹いっぱいになりそう。ほっこりした気持ちで店を後にしました。
風間さんは「お酒のつまみにピッタリなんですよ」とせんべいの耳を購入。
五十嵐さん「ここのおすすめは”てんぽ”。
②「三戸望郷大橋」
続いて向かったのは、「三戸望郷大橋」です。三戸出身の人たちが、ふるさと三戸町を思い起こす場所、心に刻み込まれる場所になってほしいとの思いで三戸町民の応募の中からネーミングされたそうです。五十嵐さんと風間さんもこの笑顔!
③「三戸城跡城山公園」
「三戸城跡城山公園」は戦国時代に南部氏が居城としていた場所で町の主要観光スポットの一つです。春には1,600本もの桜が咲き誇る花見スポットになり多くの人が訪れます。
五十嵐さん「まだ見たことないんですが、ここには松生桜(まつおいさくら)と呼ばれる松の木から接ぎ木された様な桜があるんです。
④「豊誠園食堂」で絶品豚汁に舌鼓!
そろそろランチタイムに差し掛かります。五十嵐さんに空腹の限界を伝えると、とっておきのお店に案内してくれました。市街地を出て数分走ると見えてきたのは渋い佇まいのお店「豊誠園食堂」です!
おすすめはにんにくがたっぷりと入った豚汁定食。「この地域ではにんにく生産が盛んで、みんな当たり前のようににんにくを食べるんです。においなんて誰も気にしませんよ!」と五十嵐さん。南部弁のお父さんとお母さんの掛け合いを楽しみつつ、美味しい食事と店ののんびりとした雰囲気に、ついつい長居したくなってしまいました。ごちそうさまでした!
カラクリ人形に遭遇!
すっかりお腹も満たされて元気いっぱいになったところで、訪れたのは町内の山間部にある蛇沼(じゃぬま)地区。里山風景がどこか懐かしさを感じさせる静かな集落です。市街地から車で20分ほど、突然道路沿いに現れたのは人形の集団!?ここは「荒田バッタリ村」という水力を利用して動くカラクリ人形の展示館。
ここで農業を営む奥利(おくり)義美さんが、農閑期に作品を制作しています。その珍しさ・面白さからテレビ番組でも紹介されたとか。人形は、くしもちを焼く姿や脱穀作業をする姿など南部の人々の暮らしを再現。人形は水車の力でゆっくりと動きます。人形は毎年リニューアル・増産していくとのことで新作の公開がとても楽しみ!
こんなにも斜め上を行く発想でカラクリ人形を作る奥利さんはもしかして変わった方!?と一瞬思いましたが・・・お会いしてみたら大変穏やかで優しいお父さんでした。奥利さんは「ここを訪れた人が少しでも喜んで楽しんでもらえれば嬉しい。」とのこと。ここでは、人形だけではなく奥利さんにお会いすると何故か元気になるという素敵なカラクリも存在しました。
町を好きな人が案内すれば人は町を好きになる
三戸町には地域の人の顔が見える温かい暮らしがありました。古き良きものを重んじながら三戸町が大好きで暮らす人が人を呼び、みんなで楽さを共有。そうして自然とできたコミュニティが街を元気にして魅力の発信につながっているように思います。
さらに、リモートワーク、サテライトオフィスの取り組みにも積極的。観光はもちろん、移住先や拠点の一つとしてなど、様々なかかわり方を持つことができる町だと感じました。案内いただいた五十嵐さん、風間さん、そして町の皆さんありがとうございました!
五十嵐さん「三戸町は夏は暑く冬は寒いと極端に厳しいと感じる気候。でも、