長屋を改装した「沼垂テラス商店街」は新潟市注目の場所
沼垂と書いてぬったりと読む特徴的な名前のこの街は、新潟駅から徒歩約20分にあるエリア。「沼垂テラス商店街」は、以前は市場として使われていた長屋を改装し、新しく生まれ変わらせたショップ群です。趣のある長屋の外観はそのままに、カフェや雑貨店、古本屋やお花屋さんなど、個性的なショップが28店舗。繁華街からずっと離れた小さな通り沿いにズラリとおしゃれなお店が並んでいる様子は圧巻です。土日を中心に多くの人が訪れますが、月に1回、日曜日に開催されている朝市、冬市には、今や地元の若者や県外からも多くの人が訪れる観光スポットにもなっています。
カフェ・セレクトショップなど個性的なショップが集結
沼垂テラス商店街は、一本の細い通り沿いの長屋を改装したメインのエリアと、近隣にあるサテライト店舗で構成されています。
30近くある店舗のラインナップはさまざまです。 珈琲スタンド「HOSHINO koffee & Labo.」、無垢フローリングのショウルーム「and wood」、古道具や古家具、古着のセレクトショップ「ハチミツplus」、フラワーショップ「IRIE FLOWER らいおん堂」、北欧雑貨「Kippis7265」、カフェ&家具屋&染布雑貨屋「ISANA」など。
業種も内容も異なる店舗ですが、不思議と全てが繋がっているような共通する雰囲気があり、それがこの商店街の大きな特徴にもなっています。
2010年、ひとつのショップ誕生から生まれた奇跡
いったいこの商店街はどのような成り立ちで出来たのでしょうか?株式会社テラスオフィス・店舗統括マネージャーの高岡はつえさんにお話をお聞きしました。
高岡さんは、実はこの商店街のなかにある大衆割烹「大佐渡たむら」がご実家。もともと「沼垂市場」と呼ばれていたこの一帯の栄枯盛衰を見てきた人でもありました。
新潟は、古くからの歴史ある港町。近くには大きな工場なども多く、昭和30年頃から「市(いち)」と言われる店舗が立ち並び、買い物をしたり飲食をしたりする人々で溢れ、大変活気に満ちていました。
しかし昭和の終わり頃から、工場の撤退や縮小、商店主の高齢化、マーケットの郊外化が進み、沼垂市場の店舗はどんどん減り、2000年代に入ると、数店舗を残してシャッター通りに近い状態になっていたのです。その様子をずっと見ていた高岡さんと田村さん姉弟。ご両親が営んでおられる割烹の運営も岐路を迎えていました。
そんな状態を脱却、「かつての賑わいを取り戻したい」と行動することにした2人。田村さんが中心となって割烹近くの空き店舗を借り、2010年に佐渡生乳ソフトクリームと手作り惣菜のお店「Ruruck Kitchen(ルルックキッチン)」を開業させました。
惣菜・カフェ・陶芸工房の3店舗の開業がターニングポイントだった
「Ruruck Kitchen」のオープンがきっかけとなり、2011年、家具とコーヒーの店「ISANA(イサナ)」が、さらに2012年、陶芸工房「青人窯(あおとがま)」が次々とオープン。沼垂市場通りに注目が集まりはじめました。
「この3つの店舗の誕生が大きなターニングポイントでした」と、高岡さんは話します。
「やっぱりこの沼垂市場通りは土地としての力がある場所なのかもしれない。かつての賑わいを取り戻せるパワーがここにはある!」高岡さんがそう感じられるようになってきたのもこの頃。若者を中心とした出店の問い合わせが相次いだことが、通りの再生に大きく動き始めるきっかけになりました。
陶芸工房「青人窯」の大山育男さんにお話をうかがうと、この通りの存在を知ったのは偶然で、地元の友人に連れられてコーヒーを飲みに来たことがきっかけだったそう。新潟出身で、陶芸の勉強のため岐阜県多治見に住んでいた大山さんが関西出身の奥さまと共同で工房を持ちたいと考えていた頃に偶然訪れ、この場所の可能性に惹かれ、工房兼ショップをオープンさせました。
ひとつ、またひとつ、年に1軒というゆったりペースで店舗が増えていた沼垂市場通りですが、点と点が結びつくように、3つの店舗がまとまって紹介されることが増え、ちょっとレトロな雰囲気に惹かれた若者たちが「ここで店を出したい」と増えていきます。当初から出店の依頼や相談をすべて請け負っていた高岡さんたちですが、遂に管理会社を立ち上げ、全体運営に関わることになったのが2014年のこと。実はこの頃、運営を悩ます大きな問題が立ちはだかっていました。
空店舗があるのに出店利用できないジレンマからの出発
それは「空き店舗はあるのに出店できない」という問題。当時、ここは旧来の沼垂市場の組合が存在しており、その組合の会則によって、もう誰も使っていない空き店舗があっても店子が限られ出店が許されない、という矛盾した状況が生まれていました。
そこで、高岡さんたちが一念発起。高齢化等もあって市場組合が解散したことを機に、空き店舗になっていた長屋を会社で一括して買い取り、コンセプトを変えて新たな商店街として再生、開業希望の若者が出店しやすい環境を整えることにしました。
環境が整った結果、続々とお店が増え、2015年春には、ついに旧沼垂市場のすべての長屋が埋まりました。ここで元々営業を続けている八百屋・雑貨屋等既存店4店舗と先駆的な役割をした先の3店舗をはじめとした全28店舗が集まり「沼垂テラス商店街」として新たなスタートを切ったのです。
「沼垂テラス商店街」は人が決め手のセレクトショップ集合体
商店街を構成している店舗のバラエティの豊かさとユニークさが特徴の「沼垂テラス商店街」ですが、この店舗はどのように集まってきたのでしょうか?
高岡さんは「ここでしか出会えないもの・ひと・空間」を意識していると話します。出店希望の人が各々出店するのではなく、商店街の事務局として、希望者と面談をした上で、出店者をセレクトしています。選ばれるポイントのひとつは、上記の条件に加えて「一緒に働きたいかどうか?」
商店街のショップについて詳細を聞くと、このお店の人はこういう人で、とスラスラと何も見ずに全部答えてくださる高岡さん。30代メインの他県からの移住者も多いというオーナーたちは、彼女にとってテナントの店子といったビジネスライクの存在ではなく、まるで大きな家族のような存在になっているようです。
お話を聞いている間にも、近くの小学生が「こんにちは!」と挨拶をしたり、通りかかった近隣の住民の方と気さくに会話を交わしたりと、高岡さんは大忙し。商店街の真ん中にガラス張りの事務所を構えているので、通りのお店やお客さんの様子もすぐにわかります。
商店街そのものをリニューアルするという株式会社テラスオフィスの試みは、2016年地域再生大賞準大賞、2017年にはグッドデザイン賞を受賞したこともあり、若い女性を中心とした買物客の増加にとどまらず、地域再生の例として全国からの視察見学も増えています。
商店街はさらに拡大、サテライト店舗も誕生
市場通りの空き店舗が全部埋まった「沼垂テラス商店街」ですが、その動きはさらに周辺地域にも波及しはじめています。「沼垂テラス商店街」に出店した移住者のオーナーが近隣に住居を求めたり、逆に、近くの空き家を活用できないか?と相談を受けることも多くなりました。
そうして市場通り以外にも、サテライト店舗として、ゲストハウス「なり」と、クラフトビールと靴修理の店「KADO shoe repair & beer stop」、ブックカフェ「BOOKS f3」などのユニークな店舗が誕生。エリア一帯を盛り上げていく動きがはじまっています。
沼垂という街の浮き沈みをずっと見続ける高岡さんの願いは「今の子どもたちが成長して大人になったときに、自分の生まれ育った沼垂が、自慢できるような場所であってほしい」ということ。また「沼垂テラス商店街がエリア全体で活気を生んで、そのエネルギーが伝播して移住者の増加に繋がるようになれば」と話してくださいました。
小さな街では、一つのカフェやショップの存在が街を変えていくこともあります。わずか数年でこうした大きなムーブメントを生んだ「沼垂テラス商店街」。新潟市の小さな通りにこれだけ個性とパワーがあふれるショップたちが集まってくることで、どんな人たちがここに化学反応を起こしていくのか?これからの動きにも要注目です。