染織から養蚕の道へ
今回訪ねた松岡さんは東京都出身の26歳。2019年4月から地域おこし協力隊として就任し、㈱更木ふるさと興社を活動拠点に養蚕に取り組んでいます。 どうしても養蚕がやりたくてできるところを探し回った結果、この地にたどり着いたといいます。 「ここに来る前は奄美大島で着物や帯を染めたり織ったりする仕事をしていました。養蚕がやりたくて行ったんですが、そこでは叶わなかったので」と、松岡さん。
これほどまでに養蚕への気持ちを強くした背景には、染織を学んでいた大学時代まで遡ります。 ある日突然、大学の講師から学生に5、6頭の蚕が配られました。 「『育ててみろ』と。虫は好きじゃないし、はじめは気持ち悪かったんですが、育てているうちに、この子たちが繭をつくって糸ができるんだ、“蚕すごい”って感動しちゃって。そこから一気にハマりました(笑)。」
養蚕への興味を深めた松岡さんは、一人暮らしをする自宅で蚕を飼い始めました。 大学の卒業制作では、自分で育てた蚕の繭から生糸をとって着物を織り、それを着て卒業式に出席したというほど、養蚕ひとすじだったそうです。 驚異の行動力と探究心から、独学で蚕を育て、養蚕の歴史などを学ぶうちに、本格的に養蚕をやりたいと考えるようになったのでした。
なぜ更木で養蚕なのか
養蚕とは、桑を育て、蚕を飼育し、繭を生産して生糸をつくる、昔ながらの産業です。 そして蚕はいわゆる家畜。人間の手によってつくられ、人間とともに生きてきました。 だから、「一匹二匹」ではなく「一頭二頭」と数えるのですね。
かつては全国津々浦々に多くの養蚕農家がいて、日本の一大産業だった養蚕業。農家にとっては貴重な現金収入源だったこともあり、 “お蚕様”とも呼ばれて大切に育てられていました。 ところが、戦後は外国産の安価な絹糸や化学繊維などに押されて、養蚕農家はだんだんと減ってしまったのです。
松岡さんの活動フィールドとなる北上市北東部の更木(さらき)地区も、もともと養蚕が盛んに行われていた地域で、蚕の餌である桑の畑もあちらこちらにありました。 しかし、その更木地区でも例にもれず養蚕業は衰退していきます。 たくさんあった桑畑も放置されて荒れ放題。それらを活用しようと設立されたのが㈱更木ふるさと興社です。 3年前、唯一残っていた養蚕農家がついに廃業してしまったことも、養蚕技術の後継者を育てようという思いを強くする一因となりました。
㈱更木ふるさと興社は桑を育て、桑茶を中心とした商品の製造販売を行なうなど、地域資源を生かして地域を活性化し、桑食文化を伝えていくことを目指しています。 また、岩手大学発のベンチャー企業である㈱バイオコクーン研究所と協働で養蚕事業に取り組み、養蚕技術を絶やすことなく伝えていきたいとの思いから、地域おこし協力隊の受け入れ団体となっています。
松岡さんはこの㈱更木ふるさと興社を拠点とし、㈱バイオコクーン研究所の指導を受けながら養蚕技術の習得に取り組んでいます。
また、松岡さんは養蚕のほかに、㈱更木ふるさと興社が現在行なっている小学校の課外授業やグリーンツーリズムの一環としての農業体験など一連の体験プログラムの実施、蚕や繭、桑などを用いた新商品の開発といった活動にも取り組んでいるそうです。
新たに募集する地域おこし協力隊も、養蚕技術を習得することに加え、自らの経験やスキルを生かした活動をしてほしいとのこと。
「北上市は隊員と直接雇用関係を結ぶわけではありませんが、その分受け入れ団体と隊員の連携が円滑に行なわれるよう毎月打ち合わせをしたり、年間の活動について方向性を確認したりと、サポート体制はしっかりと整えています」と、担当の北上市役所の長鈴実紀子さんは言います。 「ちょっとしたことでも相談しやすくてありがたいです」と、松岡さんも心強い様子。
地域おこし協力隊、受け入れ団体、連携企業、自治体、それぞれの関係はとても良好で、自分の意見を主張したり、やりたいことを積極的にやれたりするような環境づくりがなされています。
蚕を育てたその先に
養蚕技術の伝承や普及への取り組みは、文化を絶やさないためにもとても意義があるものです。 とはいえ、時代の流れとともに一度は衰退してしまった養蚕業。 人手も手間もかかる大変な作業であり、これまでとは違ったやり方を模索する必要がありそうです。
実のところ、蚕の飼育方法や蚕自体についてもまだまだ研究の余地があります。 たとえば、㈱更木ふるさと興社が提供した蚕のサナギを使って、㈱バイオコクーン研究所が漢方薬などに用いられる冬虫夏草(=きのこ)を培養し、サプリメントをつくるといったことに取り組んでいます。 繭を糸にするだけでなく、それまで商品価値のなかったサナギも活用するという画期的なビジネスモデルが生まれつつあると言えます。 このように研究が進めば、新たな産業へと発展する可能性もあるのです。
現在養蚕に没頭する松岡さんの原動力は「生き物への尊敬の念」だと言います。 「相手が生き物である以上、病気になることもあるし、死んでしまうこともあります。でも、『蚕を育てられた』という喜びのほうが勝るんです」。
今後は染織の技術を生かし、草木染めや真綿づくり、機織り体験などのイベント企画や商品開発などにも力を入れていく予定だという松岡さん。 任期が終わる3年後には養蚕をメインに、染織と絡めた形での独立を考えているそうです。
その後に生かせる自身のスキルと「養蚕をやってみたい」という気持ちさえあれば、どんな方でも大歓迎です。
応募概要―北上市地域おこし協力隊(将来の養蚕経営者)―
主な活動内容
㈱更木ふるさと興社が受入れ団体となり、㈱バイオコクーン研究所の指導を受けながら養蚕に関わる次の活動
①養蚕技術の習得による飼育・生産の確立
②養蚕体験プログラム企画等の実施
③新商品の開発
※①の飼育・生産が活動の中心であり、②と③については着任する隊員のスキルや特性に合わせて取り組む
<委嘱期間終了後のイメージ>
・委嘱期間内で培った技術を活かして、養蚕農家として独立、もしくは養蚕事業等での起業・養蚕事業担当として、㈱更木ふるさと興社や関連企業に就職し、継続して活動を実施
募集対象
(1)年齢が概ね20代から40代の方(性別は問いません)
(2)現在、三大都市圏又は地方都市等(過疎、山村、離島、半島等の地域に該当しない市町村)に居住し、委嘱後に住民票を北上市に異動し、居住できる方
(3)蚕を扱うことが大丈夫な方
(4)農作業があるため、体力に自信のある方
(5)普通自動車運転免許を取得している方(自家用車両を所有している方歓迎)
(6)パソコンを日常的に使用している方(基本的なパソコン操作ができる方)
募集人数
1名
活動拠点
㈱更木ふるさと興社(北上市更木22地割9番地2)
勤務時間
月20日 1日8時間程度
休日・休暇は受入れ団体の取り扱いに準じる
雇用形態
無
※隊員と受入れ団体との円滑な連携や、隊員の自立に向けた自主的な活動を推進するため、隊員と市の間で雇用契約を結ばない
活動形態・期間
(1)北上市から北上市地域おこし協力隊隊員として委嘱
(2)令和2年4月以降の委嘱開始とし、通算3カ年の活動を予定。委嘱開始日は、事情に合わせて相談可能
報酬
・月額200,000円を報償費として支払う
※月の勤務日が20日未満となった場合は、活動日数に日額10,000円を乗じた金額
待遇等
(1)次の活動経費について、市と隊員が協議の上、予算の範囲内で補助
・市内での住居借上げ費用(光熱水費等は対象外)
・活動に必要な自動車やパソコン等の借上げ費用
・活動車両の燃料費
・活動に要する消耗品費
・活動にかかるイベント経費等
・活動にかかる旅費
・研修参加費及び旅費
・その他市長が必要と認める経費
(2)委嘱期間終了日の前後1年間において、北上市内での起業に係る経費を上限100万円の範囲内で補助
応募方法
(1)応募前に現地説明会に参加
(2)本エントリー(エントリーシートを提出)
(3)書類審査(一次選考)
(4)面接審査(最終選考)
応募スケジュール
下記サイトをご覧ください
https://www.city.kitakami.iwate.jp/life/kitakamishidekurasu/iju_teijukanrenjoho/14909.html
応募・問い合わせ先
〒024-8501 岩手県北上市芳町1-1 本庁舎2階
北上市 都市プロモーション課 都市ブランド戦略係
TEL 0197-72-8308
E-mail promo@city.kitakami.iwate.jp