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2017年3月18日 岩手移住計画

子育ても作家活動もあたたかい人柄で受け入れてくれた金ケ崎町。地域密着型のギャラリー兼アトリエ「KOШKA(コシカ)」の店主・佐藤さんを訪ねて

金ケ崎町で2007年、やきものと草木染のギャラリー「KOШKA(コシカ)gallery&atelier」を開いた佐藤真智香(まちか)さん。仕事で岩手県内を転々とする夫にあわせ、移動しやすい場所に一軒家を探していたところ、縁があって金ケ崎町で現在の自宅を見つけました。移住し、現在は陶芸家として暮らす金ケ崎町についてお話いただきました。

中学生で陶芸と出会い、陶芸家への道を志した

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佐藤さんは一関市出身です。中学1年生の時に体験学習で陶芸と出会ったことをきっかけに、陶芸家を志すようになりました。中学・高校時代、卒業後の弟子入りを目指し、陶芸で有名な町の窯元の門を何度か叩いたこともあったそうですが叶わず、独学で陶芸家への道を歩き出しました。

佐藤さんの陶芸への憧れは、父親の影響もありました。

「父は看板制作の職人だったのですが、昔からその様子をそばで見ていて、“大人になるというのは、ものをつくって生きていくこと”だとずっと思っていたんです。」

佐藤さんは弟子入りを諦めたものの、仙台の専門学校に進学し、陶芸を含むさまざまなものづくりを学べるクラフト科を卒業。その後、結婚・出産を経て2004年に金ケ崎町の現在の自宅に引っ越してきました。

「夫が仕事で県内を転々とするので、それにあわせて移動しやすい場所に自宅を構えようと探していました。ふたりとも金ケ崎町に地縁はありませんでしたが、古い一軒家というのも好みでしたし、陶芸に使えるスペースがあったのも決め手になりました。やきものは窯から煙が出るので、なるべく近所に迷惑にならないように、というのも大事なポイントでしたね。」

 

念願の陶芸家に。やきものと草木染の「KOШKA(コシカ)」をオープン

koshika02▲自宅一部を改装して開いたコシカの入り口

佐藤さんは子育てが一段落した2007年、自宅敷地内に、やきものと草木染のギャラリー兼アトリエは「KOШKA(コシカ)」を開きました。「コシカ」という名前はロシア語で「猫」という意味です。

ここでは佐藤さんが制作した作品が購入できるほか、草木染や手びねりの陶芸を体験することができます(いずれも予約制)。参加者はどんなものをつくることができるのでしょうか。

「陶芸はろくろを使わない手びねりなので、なんでも好きなものをつくっていただけます。カップでもお皿でも。複雑な形状だとコーヒードリッパーをつくられた方がいました。小学生が急須をつくっていったこともありますね。大きめのものだとちょっとした大きさの人形とか。その後、窯で焼いてからお渡しするので少し時間はかかりますが、だいたいのものは形になりますね。」

koshika06▲ギャラリーには昭和レトロな箪笥や棚を活用して作品を陳列

冬になると自宅前の道路事情が悪くなることから、11月下旬から雪解けの3月上旬ごろまでは店を閉じるそうですが、草木染めは家庭の台所でもできる素材を使っているため、冬季休業中でも出張教室を開いています。

この日、ギャラリー内に展示されていた草木染の作品は春のオープンを待っているのか、淡いピンクやイエローなど、春らしい色合いのものがそろっていました。陶芸作品も小物からオブジェなど様々なものが並んでいます。すべて佐藤さんが手がけているのでしょうか。

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koshika04▲草木染ならではの風合いや色合いが楽しめる

「やきものはすべてそうですね。オブジェの鬼は好きなモチーフで、ふっと頭に浮かんだものをつくっています。ストールやシャツなどは、北上市で洋裁教室『coromo』をやっている女性やタイで作ってもらったものを草木染しています。自然のものだけでここまで色が出せるんですよ。」

今では岩手県内はもとより青森や東京からもお客さまがいらっしゃるそうです。

koshika05▲鬼をモチーフにした佐藤さんの作品

コシカのスペースは、もともとは納屋だったところを佐藤さん自身でリフォームしました。「専門学校では本当になんでも自分でつくっていたので。」と話すとおり、壁にペンキを塗ったり、もらってきた椅子をリメイクしたり、壁に穴を開けて新しく窓を取り付けるといったことまで手がけています。店内を飾る足踏みミシンや、小物を飾っている年代物の箪笥や棚の一部は「有効活用してくれそうだから」という理由でご近所の方からいただいたものだそうです。

koshika07▲佐藤さんが設置したアトリエの窓

 

同世代のクラフト作家とつながり、毎年行う「冬ごもり展」

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コシカでは作品を展示販売するほか、金ケ崎町内の片平丁・旧大沼家侍住宅で6月に行われるイベント「まんがらい」にも参加しています。

自主イベントとしては、冬季休業する直前、年に一度行う「冬ごもり展」があります。県内外から数組の作家を招き、作品づくりを体験するワークショップをしたり、この日だけの特別なランチを提供したり、作品の展示販売を行うという内容です。出展依頼している作家とはどのようにつながるのでしょうか。お客さまの反響についても話していただきました。

「冬ごもり展に参加いただいている作家さんとは、イベントで顔をあわせたり、お客様から紹介されたことをきっかけにつながっていきましたね。素敵な方が多いですよ。無理せずできる範囲で、運営のクオリティをあげて参加者の満足度をあげていこうと思っています。」

コシカ3周年記念の「CIRCUSサーカス」では2日間で延べ370名のお客様が来場し、付近の道路に車が列をなしたこともあったそうです。

 

心を豊かにするお手伝いがしたい。佐藤さんが始めた作家活動以外のこと

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実は佐藤さん、名刺の裏を見ると、陶芸や草木染の作家以外にも複数の活動に取り組んでいることがわかりました。それは多岐にわたり、太極拳やアドラー心理学、読み聞かせボランティアやフラ・タヒチアンダンスまで様々でした。ここまで多種多様な取り組みが増えたのは、単なる趣味ではなく、佐藤さんなりの考えがありました。

「私は最初、とにかく焼き物が作りたくて陶芸家を目指したんですが、この1、2年で考えが変わりました。陶芸を通じてお客さまと出会ったり同業の方とつながったり、それから自分に子供ができたことや、それで地域とのかかわりが増えていったことなど、自分にかかわる世界を改めて見渡した時に、私の役目は陶芸家ではなくて、みんなの心が豊かになるよう、お手伝いをすることではないかと思うようになったんです。例えば、私のつくったカップでコーヒーを飲んで幸せだなと思ってもらえたり、草木染を体験してみて楽しいと思ってもらえたり。一見、脈絡のないことをやっていそうに思われますが(笑)私からすると、陶芸もフラダンスも、心を豊かにしていくための手段としては同じものであって、つながっているんです。」

これらはすべて岩手県内で学べて、仲間もいるそうです。太極拳については準師範の資格も持っているとのこと。ストイックに作家活動に打ち込むだけでなく、誰かの心を豊かにしていきたいとできることを広げている佐藤さん。もしどれかに興味があれば、ぜひ佐藤さんを訪ねてみてください。

 

金ケ崎町は新しいことを始めるのに適した地域性がある

佐藤さん一家が金ケ崎町に引っ越してきてから13年が経とうとしています。地縁のない土地に引っ越してきて作家活動をしている点から、地域おこし協力隊を考えている方にメッセージをいただきました。

「子供が小さい頃、自宅付近の道路で事故に遭ったんですが、私よりも先にご近所の方が気づいてくれて、私に知らせるよりも先に緊急対応してくれたんです。それ以降も何かと気にかけてくれて。子育てしながらもコシカを続けてこられたのは、地域の皆さんのおかげもありますね。コシカを開いた時も興味を持って見に来てくれて、お友達に紹介してもらったりしました。人柄の良さに助けられています。金ケ崎町に暮らして何か新しく始めるにしても、地元の皆さんは協力的だと思います。安心して来てほしいですね。」

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koshika12▲コシカの看板猫「もち」といつもの挨拶

最後に、金ケ崎町でおすすめの場所を教えていただきました。

「私は息抜きに千貫石温泉にいくんですが、ちょっと熱めでとろみのあるお湯がいいです。美人の湯と言われています。その帰りにカウベルさんのジェラートを食べるのがお決まりのコースですね。」

取材先

KOШKA(コシカ)gallery&atelier

住所:岩手県胆沢郡金ヶ崎町西根花舘6

https://kosika.jimdo.com/

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岩手移住計画岩手移住計画は、岩手にUターン・Iターンした人たちの暮らしをもっと楽しくするお手伝いをし、定住につなげていくために活動している任意団体です。県内各地で、「岩手移住(IJU)者交流会」と題したイベントを開催しているほか、岩手県などが主催するUIターンイベントにメンバーが参加し、移住希望者の相談にも対応しています。首都圏と岩手をつなぐ活動にも力を入れています。

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 「風土」という言葉には、地形などの自然環境と、 文化・風習などの社会環境の両方が含まれます。 人々はその風土に根ざした生活を営み、 それぞれの地域に独自の文化や歴史を刻んでいます。

 過疎が進む中で、すべての風土を守り、 残していくことは不可能であり 時とともに消えていく風土もあるでしょう。 その一方で、外から移住してその土地に根付き、 風土を受け継ぎ、新しくつくっていく動きもあります。

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