記事検索
HOME > プロジェクト > まちづくり >
2017年3月29日 奈良織恵

市民のチカラでまちの魅力を掘り下げ、発信していく。花巻市シティプロモーションの取り組み

岩手県のほぼ中央に位置する花巻市は、2006年に旧花巻市、石鳥谷町、大迫町、東和町の4つの市町が合併して誕生した人口約10万人のまち。観光地として花巻温泉郷を擁し、宮沢賢治生誕の地としても知られるほか、最近では、「マルカンデパート」再生の物語が、市の内外から注目を集めている。

そんな花巻市で、2016年秋から、市民参加型でまちの魅力を発信していくプロジェクトが始まった。今回は、このプロジェクトの経緯と、それによって生まれた、市民ライター参加型の花巻メディア「まきまき花巻」についてご紹介しよう。

◆まきまき花巻 http://makimaki-hanamaki.com/

市民一人ひとりが持っている、自分だけの花巻の魅力を発信できる場を

日本全国で人口減少や担い手不足が叫ばれる昨今、花巻市も例外ではなく、10年前の合併時に10万人を超えていた人口も10万を割り、後継者不足や空き家問題も深刻になってきている。そんな中、「地方創生」の流れを受けて、花巻市も2015年から「地域おこし協力隊」を導入。花巻の魅力にひかれ、花巻で暮らしたい、花巻を少しでも元気にしたいという問題意識をもった12名の隊員が活動している。(2017年3月現在)

移住定住担当として協力隊採用に1期生のときから関わり、今回のプロジェクトの仕掛け人でもある秘書政策課の高橋信一郎さんに、実施の経緯についてお話を伺った。

「花巻は、宮沢賢治や花巻東高校などがやっぱり有名で、プロモーションもそこに集中しがちなんです。でも、自分自身で考えてみると、前職が学芸員だったこともあって、あまり知られてないけど面白いマニアックな建物を知っていたり、そういう自分ならではの魅力があることに気づきました。同じように、市民一人ひとりにも自分だけの花巻の魅力があるのではないか、だったら、役所が既定路線で情報発信するのではなく、市民が主体となったプロモーションをするべきではないかと思ったんです。」

花巻市秘書政策課の高橋信一郎さん▲花巻市秘書政策課の高橋 信一郎さん

「まったく知名度がない自治体であれば、まずは名前を売ることに力を入れたプロモーションもできますが、花巻はある程度の知名度があります。でも、魅力理解は進んでいなくて、”名前は知っているけど、よく知らない”という人が多いんです。そんな中で、どういう手法をとったらよいのかを考えて、今回は市民と一緒に発信するという方法を選択しました。」

このような考えからスタートした、今回のシティプロモーションプロジェクト。ココロココ編集部も、事前のワークショップ運営から最終的なメディアづくりまで、全面的にお手伝いをさせていただいた。具体的にどのような取り組みだったのかを紹介しよう。

 

市民が花巻の魅力に気づく!ブランドづくりワークショップ

1回目:2016年11月14日(月)@熊谷家

会場は、新花巻駅からほど近くにある古民家「熊谷家」。花巻で起業した方、地域おこし協力隊、Uターン者など、職業も年代も幅広い参加者が集まった。雪こそ降っていなかったもののかなりの冷え込みの中、ストーブを炊きながら、花巻の伝統芸能「早池峰神楽」が舞われることもあるという独特の雰囲気の中でのワークショップとなった。

冷え込む中でのワークショップの様子

ゲストとして登壇した、博報堂の兎洞武揚さんからは、神奈川県相模大野の事例を元に、市民をお客さんではなく「仲間」として巻き込んでいく手法が紹介された。もう1名のゲスト、マガジンハウス「コロカル」編集長の及川卓也さんからは、人口減少社会において求められるのは「移動と交流」であるということで、地域に繰り返し来てもらうためのファンづくりについての話があった。

ゲストトークの後は、その内容も受けて、参加者がグループごとに、花巻の魅力と課題を洗い出していった。

魅力と課題を出し合う様子

普段から、花巻のまちに対して問題意識があり、自分で活動をしている参加者も多かったためか、活発に意見が出されて、模造紙はあっという間にいっぱいになった。チーム間でアイデアを共有し、第1回目は終了。

2回目:2016年11月30日(水)@co-ba hanamaki

2回目は、約2週間後の11月末に行われた。参加者の7割ほどは1回目からの継続参加。今回も、ゲスト登壇のあとに、活発な意見交換が行われた。

第2回ワークショップの様子

博報堂の加藤由佳さんからは、移住を志向する人にはどういうタイプの人がいるのか、それぞれのタイプの特徴や割合についての話があった。 移住をテーマにしたWEBマガジン「雛形」の濱地徹さんからは、市民を巻き込んだ情報発信の先進事例として、兵庫県豊岡市のケースが紹介された。

積極的に意見が出されている

ワークショップでは、1回目に洗い出した魅力と課題を踏まえて、ゲストの加藤さんからお話があった「移住志向タイプ」の各タイプをターゲットに、花巻のどういう魅力をアピールしていけばよいのかを話し合った。子供の教育移住を志向するタイプには、花巻の神楽や能、農業体験などを組み合わせたプログラムを用意するなど、具体的なアイデアが出された。

3回目:2016年12月14日(水)@co-ba hanamaki

3回目は、1、2回目の内容を受けて、より具体的なアクションに結び付けるための話し合いが行われた。さらに、現役の花巻市地域おこし協力隊の隊員から、空き家を改修してゲストハウスにするプランや、地元のおかあさんのレシピ紹介をする活動など、今まさに進行しているプロジェクトについても話があった。

ワークショップの成果を発表する

また、秘書政策課の高橋さんからは、花巻市で新しくWEBメディアを立ち上げる予定であること、一緒に花巻の魅力を発信してくれる市民ライターを募集していることも発表された。

 

市民が魅力発信のノウハウを学ぶ!メディアづくり講座

全3回のブランドづくりワークショップでは、花巻の魅力を掘り起こし、何を、誰に、どのように伝えればよいかという方向性を話し合った。その内容を受けて、年明けからは具体的な情報発信のノウハウを学び、新しく立ち上げる花巻のWEBメディアに活かしていくためのメディアづくり講座が開催された。

講師は、盛岡市の「ふだん」暮らしをテーマとしたミニコミ誌「てくり」を発行するまちの編集室・ライター/エディターの赤坂環さんと、大阪から雫石町に移住し、「てくり」ほかさまざまなメディアで撮影をしているフリーカメラマンの奥山淳志さん。

1回目:2017年1月21日(土)@co-ba hanamaki

1回目はインプット編として、赤坂さんからは「取材をするときの心構え」「アポの取り方」「原稿執筆での注意点」など、実践的なノウハウが話された。 奥山さんからは、「カメラは押せば写る。いかにパーソナルな視点を入れるかが重要」ということで、スマホなどでも十分に綺麗な写真が撮れるようになった今の時代だからこそ、写真を撮るうえで気を付けることなどについて話があった。

口座に参加する市民ライター

実際に、参加者同士で写真を取り合う人物撮影練習や、食事メニューを用意しての食べ物撮影練習など、実践的なワークも行われた。

写真を撮る練習をする市民ライター

講座の最後には、1か月後の2回目講座の前までに、1本ずつ取材をして記事を書いてくるように、という宿題が出された。

2回目:2017年2月18日(土)@co-ba hanamaki

メディアづくり講座の2回目はアウトプット編。1か月という短い期間の中で、各自がそれぞれの興味や活動にあわせて、1本ずつ記事を書き上げてきた。

市民ライターの記事に目を通す講師の2人▲講師のお二人(左:奥山さん、右:赤坂さん)

講師のお二人は、事前に全員分の原稿と写真に目を通し、厳しくもあたたかい講評をいただいた。文章の読みやすさや写真の構図についての具体的なアドバイスに加えて、「プロではなく市民ライターだからこそ、上手さだけではない自分らしさ、自分の視点を入れてほしい」というエールも送られた。参加者からも具体的な質問が多く寄せられ、自分の記事をより良くするためのブラッシュアップ作業が続いた。

 

市民参加型メディア、「まきまき花巻」の誕生!

2017年3月29日、市民ライターが岩手県花巻市の魅力を発信するサイト「まきまき花巻」が遂にオープン。1月、2月に行われたメディアづくり講座を通じて、参加者が執筆した記事も掲載された。

まきまき花巻のキャプション▲「まきまき花巻」サイトトップ

オープンに先駆けて、3月25日(土)には、東京有楽町にてお披露目イベントが行われ、花巻市からも何名かの市民ライターが参加した。 ゲストには、ブランドづくりワークショップで講師をつとめたマガジンハウス「コロカル」編集長の及川卓也さんと、「ローカルメディアのつくりかた」の著者である影山裕樹さんが登壇し、これからのローカルメディアのあり方や、「まきまき花巻」の今後について、議論が交わされた。

3/25のイベントの様子▲3月25日(土)お披露目イベントの様子

地域の魅力は、地元にいると当たり前過ぎて気づかないことも多く、だからこそ、魅力の発掘には「外からの目線」が必要だともいわれる。が、その一方で、ヨソモノ取材者が一定期間取材に訪れただけではたどり着けない地元ならではの情報、なかなか見せてもらえない素顔にこそ、大きな魅力を感じられるというのも事実だろう。

「まきまき花巻」は、今後も、ココロココ編集部が外からの目線で関わり、市民ライターが中からの目線でどんどん魅力を掘り下げていく。今後の展開が楽しみだ。

取材先

まきまき花巻

住所:岩手県花巻市花城町9-30

http://makimaki-hanamaki.com/

奈良織恵
記事一覧へ
私が紹介しました

奈良織恵

奈良織恵横浜市出身、東京都港区と千葉県南房総市の2拠点生活。 両親とも東京生まれ東京育ちで、全く田舎のない状態で育ったが、父の岩手移住をきっかけに地方に通う楽しさ・豊かさに目覚める。2013年に「ココロココ」をスタートし、編集長に。 地方で面白い活動をする人を取材しつつ、自分自身も2拠点生活の中で新しいライフスタイルを模索中。

人と風土の
物語を編む

 「風土」という言葉には、地形などの自然環境と、 文化・風習などの社会環境の両方が含まれます。 人々はその風土に根ざした生活を営み、 それぞれの地域に独自の文化や歴史を刻んでいます。

 過疎が進む中で、すべての風土を守り、 残していくことは不可能であり 時とともに消えていく風土もあるでしょう。 その一方で、外から移住してその土地に根付き、 風土を受け継ぎ、新しくつくっていく動きもあります。

人と風土の物語を編む