精肉店から発信する、多様な展開
まずは、町内で精肉店「株式会社 肉のふがね」を営む府金伸治さん。
▲「肉のふがね」代表の府金さん。お店はまちの中心部、大町商店街にあります
「肉のふがね」は昭和40年創業。町産ブランド豚である「やまと豚」や、玄米をエサに育てた「岩手めんこい黒牛」、沼宮内名物ホルモン鍋のホルモンなどを取り扱う老舗精肉店です。中でも、今一番ちからを入れているのが「いわて短角牛」とのこと。
「南部牛の血統を継ぐいわて短角牛はまさに岩手の牛。これを首都圏に売り込みたいと思い、新宿の京王百貨店で年に1回行われる『駅弁大会』に『短角牛のやわらか煮弁当』を毎年出展しています。」
▲漫画の表紙にも登場した「短角牛のやわらか煮弁当」
さらに、今年11月には、構想に5年を費やしたハム工場を町内にオープン予定。
「塩と牛肉だけを使用した、短角牛の生ハムを看板商品として製造・販売予定です。生ハムの加工技術を学ぶため、スペインまで渡りました。塩は『のだ塩(岩手県野田村の特産品)』を使う予定です」と県産食材へのこだわりを見せます。
焼きうどんで全国へ
府金さんは、これらのいわて短角牛のブランド化や畜産の6次産業に取り組むかたわら、まちおこし活動を取り仕切るリーダーでもあります。そのひとつが、B-1グランプリにも出展し、町の名物にもなっている焼きうどんを盛り上げる、「いわてまち焼きうどん連合歓隊」です。
▲イベントでの焼きうどんの出展の様子
「自主的な市民活動として取り組んでいます。岩手町がどうやって全国に野菜、特にキャベツを売り出そうかと戦略を練っていたときに、町内の飲食店のみなさんと考えた名物料理が『いわてまち焼きうどん』でした。町内の麺屋さんに焼きうどん専用の麺を作ってもらって、いわてまちの野菜と肉を使うことをテーマにスタートしました。」
独自の集金システムによって、補助金に頼らず自立した活動運営を目指しているのだそう。立ち上げ後は毎年、B-1グランプリにも参加しています。
「焼きうどんを出展するようになって、町内の飲食店が垣根を越えて団結したり、キャベツや肉などの町産食材を見直すきっかけができました。B-1グランプリは人材育成の場だと感じています。」
さらに、まちを盛り上げるには、まずは自分たちが魅力を感じることが重要だと話します。
「大人になって、岩手町にはいいものが沢山あると気づきました。県外の人に足を運んでもらうため、食を楽しめるオーベルジュ(食にこだわる宿泊施設)の建設も構想しています。地域おこし協力隊には、外の目線を持ちつつ、まちに溶け込んでいろんなことにトライしてほしい。情報発信のセンスを期待しています」とのこと。
まちを楽しみ、可能性の宝庫として捉えている府金さん。これからも精肉だけにとどまらない多様な展開が生み出されそうです。
日本トップクラスの大農家
次にお話を伺ったのは、岩手町の特産品の春系キャベツ「いわて春みどり」を含む野菜農家「株式会社アンドファーム」の三浦大樹さん。現在、アンドファームの圃場面積は90ヘクタールで、東京ドーム19個分の敷地を持つ日本トップクラスの大農家です。
▲繁忙期には50名のスタッフを雇用。ひとり1日2,000玉ものキャベツを収穫することも
同社のブランディングを手掛ける三浦さんは33歳という若さ。次期後継ぎとして経営に携わりながら、現在は営業を担当しています。アンドファームの取引はほとんどがBtoBによるもので、スーパーとの契約栽培や、キリンシティなど飲食店との提携も行っています。中でもウェブサイトを利用した情報発信やブランディングは、事業の展開以外にも役立っているのだそうです。
▲アンドファームの営業とブランディングを手掛ける三浦さん
なぜ、ブランディングするのか
アンドファームのウェブサイトや紙面の広告媒体は、どれも統一された世界観でビジュアルデザインされたものばかり。
「当初は、単純に自分たちを紹介するものがなかったのが制作のきっかけでした。ウェブサイトもパンフレットも、自分が『かっこいいもの作ってるな』と思った方に依頼して制作してもらいました。きれいな写真を使うというよりは、息づかいが伝わってくるかどうかを大切にしています」と三浦さんが話す通り、媒体には農産物や畑だけでなく、農園で働く方々の写真も多用され、いきいきとした表情が目を引きます。
「パンフレットは無言の営業マン。誰かに渡すと、それがまた人の手を渡って、勝手にひとり歩きしてくれるんです。ウェブもそうですが、媒体がしっかりしていると、目にしてくれた人にフックしやすくなりますね。」
さらに、媒体のブランディングは外への発信だけでなく、内向きにも良い効果があったそう。
「ビジュアルデザインされたものは取引先だけでなく、リクルーティングの際に役立ったり、今この農園で働いているスタッフにとってもモチベーションアップに繋がっています。」
実際に、農業従事者の若手不足が叫ばれる昨今には珍しく、アンドファームのスタッフは30代の若手が中心。盛岡など近隣地域から通っている人や、農園への就職をきっかけに岩手町にIターンした方もいます。
▲アンドファームのウェブページ。働く人の顔が見えることで安心感を生んでいる
三浦さんが地域おこし協力隊に望むことは、「目標値を設定して成長できる人に来てほしいし、3年間で実績を作ってほしい」とのこと。
「お客様、地域の人、従業員の三方よし」が経営理念だと語る三浦さん。なによりも人を第一に考える三浦さんのお話を聞き、農業の未来が楽しみになるインタビューでした。
岩手町の食と農についてもっと知りたい、さらに首都圏に広めたいという方は、下記の「岩手町地域おこし協力隊」募集要項をご覧ください。