古座川町で感じた“ いい予感”
「18歳で高校を卒業後、いくつかの仕事に就き、『人が幸せを築ける場所のつくり方』を探してきました。京都でのシェアハウス併設のカフェ経営では一皿の料理を通して、その後就職した会社では、ソーシャルビジネスへの起業支援を通して、やがて食・住居・仕事・教育・福祉に全体として取り組めないか。そう考える中で可能性を感じたのが、コミュニティデザインでした。1年ほどかけて、11の県を渡り歩いた後、古座川町へ来たんです」。
どうして古座川だったのか。川のきれいさ、星の美しさといった大自然はもちろんのこと。はじめて足を踏み入れたとき、川のほとりに暮らす人びとに「話を聞いてくれる」姿勢が見えた。“いい予感”がした。この人たちと、何かできるかもしれない。移住から半年後の2015年10月、コミュニティデザインを行う株式会社Kozacaraが生まれた。目指すのは、デザインを通した心地よい生活づくり。
町内初の「移住者起業補助金」申請
起業にあたっては、和歌山県の移住者起業補助金を活用。「古座川町内初の申請ということもあり、町役場の担当職員の方と共に、手探りで進めました。その分、親身になって相談に乗ってもらえたんです」。上限の100万円を活用して、パソコン、カメラなどの機材を購入。「創業間もない段階で機材を調達できたおかげで、事業へ取り組むスピードは加速しましたね」。
「総じて良し!」な古座川暮らし
暮らしについては、妻の美記さんに話をうかがった。「いなか暮らしを自分で体験し、自分の言葉で話せるようになりたかったんです」。京都駅近くから古座川へ移住して、どうですか。「いいものも、よくないものも集まっているのが都会。選べばほしいものは買えるけれど、避けたいものが向こうから来ることもあります。タバコの煙とか、電車待ちのホームのピリピリした人とか。古座川にいると、そういう心配がないかな。一方で、物理的な不便さを感じるときはあります。車で病院まで1時間かかるし、オーガニックなものを買うためには、1時間かけて隣町へ。それでも品揃えが限られるから、ネットでの買いものは以前より増えました。でも、それがイヤだなぁと思っているわけではないんです。そうしたところも含めての古座川暮らし。『総じて良し!』と思っています」。
町民と共につくる新たな場
岩倉さんは、次の一歩を歩み始めている。2016年11月には、「株式会社あがらと」を仲間たちと共に立ち上げた。パートナーは、大阪に本社を構える「ときまたぎホールディングス株式会社」、そして古座川町民たちと移住者たち。「あがら」とは、和歌山弁で「わたしたち」の意味。わたしたちと一緒に、これからの社会をつくっていこう。そんな思いがこめられている。
すでにバラのプロダクトづくり、固定種を含む野菜の産直プロジェクトがスタート。「株式会社あがらとの主役は、現場でつくる人なんです」。バラの生産者さんであり、野菜農家さんであり…、彼ら彼女たちが、心から良いと信じるものをつくり続けられる場を育むのが岩倉さんの役目。駆け抜けるような歩みのベースには、何があるのだろう。「古座川の生活には、世界へのたしかな手触りがあるんです。地区のお祭りに参加すること、庭の草を刈ること。日々のなにげない出来事に、暮らしを、仕事をしっかり握れている感じがあるのかな」。