「compi」は暮らしを彩るギフトショップ。小さなカフェスペースもあり
「compi」は「暮らしを彩るギフトショップ」として2014年9月にオープンしました。店主の米倉さんがアパレルメーカーで働いていたという経緯もあり、洋服や衣服雑貨のほか、南部鉄器、作家物の器、アロマオイルや自然派化粧品、アクセサリーなど、「もらってうれしい」と思えるセンスの良い器や雑貨、小物など、ショップの中はおもちゃ箱のような賑やかさです。
一軒家を改装したショップは、地元の大工さんとともに米倉さんも手を加えたオリジナルリノベーション。入口前のお庭には二階建てのウッドデッキやアウトドアリビングのようなくつろぎスペースもあります。
「compi」という店名は、音楽好きの米倉さんならでは。さまざまな楽曲がテーマをもって選曲された「コンピレーションアルバム」からインスピレーションを得たそう。店内にはバーカウンターのようなコーナーもあり、自家焙煎しているというコーヒーや、手作りのスコーンも販売しています。取材当日もひっきりなしに幅広い年齢層のお客さまが訪れ、米倉さん夫妻と語り合いながらコーヒーを飲んでいるシーンが印象的でした。
迷いつつはじめたお店づくり。「ギフト」というキーワードが、迷いを吹き飛ばす
「compi」がある下里周辺は、観光地ではありません。今でこそ隣の国道沿いに大きなコンビニエンスストアもあって賑やかですが、移住された当初はほとんどお店もない場所だったそうです。どうして米倉さんはこの場所で「ギフトショップ」をやろうと思ったのでしょうか?
「移住したときは迷いながらのスタートでした。アパレルメーカーに10年いたので、商品の仕入れ方法などについてはわかっていたのですが、とりあえず店のかたちをつくって、住んでみて、覚悟を決めて、お店の外側までつくってから、業者さんに『取り扱いさせてください』とお願いしに行きました。」
「都会ではない商圏人口も少ないまちで、都会的なセレクトの雑貨店をすることに対して不安はありませんでしたか?」の問いに、米倉さんは、「自分のやっていることは間違っているんじゃないか?」と大きく迷った時期もあったそう。
オープン当初、最初にやってきたのは、都会から移住したIターンUターンのお客さま。そうした方は、そもそも移住する際に不要なものを処分して来られているので、「いいね」と言ってくれるけれども、(生活必需品ではない)お店の商品は購入に至らないということが続いたのです。
そんな時に気づいたのが、地元の人たちが「ちょっとした贈り物」をいつも探しているという事実でした。
「自分のものを買うのは自分の喜びだけですが、ギフトの場合、プレゼントする人もお店の商品を買って喜んでくれて、もらう人もまた、すごく喜んでくれる。そこに気づいたら、お店の仕事にすごく誇りを持てるようになって、おもしろくなってきました。」
少しずつ拡充していったショップスペース
どんな商品が、地元の人のギフト需要に見合うだろう?そう考えはじめて行動をはじめてから、お客さまの数も売上も増えていきました。いろいろな年代のさまざまなギフト需要があることで、和のものと洋のものも分けようと家の和室部分を拡充。裏庭も広げて庭のテラス部分もつくり、どんどんお店の規模もバリエーションも増えていったのです。
一軒家を使ったショップ内部は、和室以外は土足でOK。普通の家の玄関部分からも土足で上がることができます。「え、ここ土足でいいの?」という戸惑いも、コミュニケーションのよいキッカケになると米倉さんは話します。
コーヒーの提供も同じ。コーヒー好きが高じて自家焙煎を始めたそうですが、お店の商品を買わなくても、コーヒー目当てにお客さまに来てもらえるようになったことで、さらにいろんな人との出会いが増えました。
ひとりよがりの商品セレクトではなく、常に地元で暮らす人の要望に耳を傾け、一緒にお寺でイベントをしたり、大阪時代の友人たちとコラボ企画を練ったりしているうちに、ますますネットワークは拡大。オープン3周年の記念イベント「勝手にマルシェ」では300〜400人もの方が来店し、大賑わいとなりました。
大阪市内から家族で移住。妻の実家近くの生活は昔から「憧れ」だった
米倉さんは大阪生まれ大阪育ち。飲食店で働いたり、アパレルメーカーのマーチャンダイザーとしても活躍してきました。そんな都会のど真ん中生活から一転、那智勝浦町に移住した米倉さん一家。ただ、いきなり知らない場所に飛び込んだのではなく、奥さまの綾さんが隣町出身だったこともあり、結婚前から何度もこの近辺には遊びに来ていて、なじみ深い場所でもありました。
「このあたりの暮らしは、大阪で核家族だった自分からしたらまるで異国。『ウルルン滞在記』のように思えたんです。大家族で親戚一同も集まって、夏は外の広い庭でみんなで一緒にごはんを食べるような光景がすごくよくて、いつか移住したいという気持ちはずっと持っていました。」
綾さんは以前から実家近くに戻りたいという意思がありましたが、敏郎さんは責任ある仕事に就いており、また、大阪の住まいでは近隣のコミュニケーションもうまくいっていたので、なかなか移住への一歩が踏み出せないままでした。最終的には、お子様の保育園問題、「どういう子育てをしたいか?」というところから夫婦で話しあい、移住を決意しました。
店舗兼住居の一軒家も、親族に紹介してもらうなど、地縁のつながりも活かして入手。店舗への改装は大工さんと一緒に、やれるところは自分たちでやって経費を節減し、ギフトショップオープンにこぎつけたのでした。
勝浦暮らしで気づいたシンプルライフと豊かさの関係性
勝浦に移住してきて、米倉さんの暮らしはどのように変わったのでしょうか?
「生活がとてもシンプルになりました。職住同じ場所で、子どもと一緒にあちこちでかけることも出来なくて。でも逆に生活の質は上がっている気もしていて。暮らしにおける豊かさってなんだろう?と考えるようになりました。」
お店を夫婦2人で経営していると、仕事量は多いのですが、都会の生活のように「付き合い」で夜遅くなるということもないからすごく楽、と米倉さんは話します。だから、仕事に慣れてくると、ついつい新しく楽しいことをはじめたくなる。でもそうしてしゃかりきに働いて、お金を稼ぐことだけに集中してしまうと、仕事内容の質が薄くなってしまうのでは?と考えることもあります。
「ただ、お金がなかったらお店を継続することも不可能ですし、やりたいこともやれない。一緒に関わっている人には、きちんとお金を払わないといいものもできないので、ちゃんと利益を上げていくことは、とても大切だと思っています。」
お金を稼ぐことは、自分や家族だけがお金持ちになるという意識ではなく、まわりの人たちとの幸せの共有手段のひとつ。そんな価値観で行動を決めていくと、ぶれずにものごとを判断することができるようになるのかもしれません。
和歌山の魅力は地域の人の懐の大きさ
移住から3年半を過ぎ、近隣の人には「よそものを受け入れてくれる」懐の大きさがあると米倉さんは感じています。
「新しいお店や場所ができたらみんな噂を聞いてまずは来てくれるんです。お年寄りでもどんな人でも。お店をやっている立場としては、一度ただ見に来てもらえるだけでもすごくありがたい。そこから関係性が築かれるきっかけになるわけですから。」
また、職住同じという環境を整えやすいのも、地方ならではの魅力です。
「夫婦喧嘩はもう毎日のようにします(笑)」と語る米倉さんですが、ずっと一緒にいるからこそ、家事は分担して行うなど、常に夫婦で話し合いながら建設的に暮らしている姿が目に浮かびます。
「compi」はものを通じて人と出会う装置
移住して3年半、お店のオープンから3年が経ち、地元とのコミュニティーともしっかり絆を深めてきた米倉さん一家。これからの課題や目標を最後にお聞きしました。
「ものを通して人と出会い、おつきあいする。その一連の過程を多くの人とこれからもシェアしていきたい。和歌山のものを発信する通販事業にも力を入れたいですし、たくさんチャレンジしたいことはあります。ただ、仕事が忙しくなり過ぎるのもやっぱり違う。仕事と家族との時間、そのよきバランスを見極めながら、より『豊かな暮らし』になるように心がけて、長くここで商売を続けていきたいです。」
小さなまちの人と人とをつなぐアンテナとなっているギフトショップ「compi」。紀伊半島南部に行かれた際には、気軽に訪れてみてはいかがでしょうか。